告解 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065283219

感想・レビュー・書評

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  • 薬丸岳さんらしい罪と罰と償いを誠実に描いた物語です。
    ただ罪を糾弾するだけでない。
    恨みや怒り、悲しみや苦しみに身を任せるだけでない。

    被害者側と加害者側、それぞれの感情を真摯に描き、その先にある何かを示そうとしてくれる。その姿勢に今回も心を打たれました。

    今回の話はひき逃げ事件の被害者遺族と加害者。事件自体はあっさりと決着がつき、物語は加害者の出所後が中心となります。
    刑期を終えたものの前科が足を引っ張り、なかなか生活を固められない加害者の籬(まがき)翔太。

    そして翔太の出所を待ち続けた被害者の夫の法輪二三久。痴呆症が始まり記憶が混濁しながらも、それでも法輪は翔太に関わろうとします。この二人が物語の中心となり話は進みます。

    これまでも被害者遺族の感情を丁寧に描いてきた薬丸さんですが『Aではない君と』では、加害者少年の父親を描き切りました。
    そして今回は加害者当人。罪の意識や後悔を抱く一方で、どこかで「なぜ自分がこんな目に」「たまたま運が悪かっただけ」という思いも捨てきれない。

    反省と開き直りの振り子がゆらゆらと振れる。その微妙な感情を見事に描きます。そして加害者の出所後の人生も真摯に描きます。
    距離を取るかつての友人や家族。消えない過去の呪縛。道を踏み外させようとする悪魔の甘い誘惑。

    翔太が極悪人でないところが感情移入させる。自分の罪を後悔・反省しつつも、被害者遺族や家族とは会うべきだと思っていても会えない。その怖さというのは、自分の失敗をつい隠したくなってしまう自分たちの感情と本質的なところは似ているように思う。

    一つの偶然で人生が反転する恐怖。そしてそれから一生逃れられない苦しみ。それをリアルに想像させる。読んでいて自分も何か一つボタンを掛け違えばそうなるかもしれないと思ってしまう。そうなると翔太の心情や境遇が他人事とは捨てきれず、彼の苦しみや葛藤に共鳴していく。

    償い、罰、そして赦し……。明白な答えなんて出せるわけもないけれど、それでも懸命に著者が向き合い、導き出したわずかな光がこの作品には結実していると思います。

    どこまでも薬丸岳さんらしく、そして薬丸岳さんにしか書きえない物語。今回もしっかりと心に刻まれました。

  • 薬丸岳さん、久しぶりに読みました。やっぱり、読むべき。
    本作も、犯罪被害者と加害者、その家族や周辺の人たちを描いている。胸が苦しいけど、読んで、考えるべき作品だと思う。
    何がすごいって、加害者の青年にも、被害者の老女にも、両者の家族や恋人にも、どの立場の人にも共感できてしまうこと。そして推理小説とは違って、最初(プロローグの時点)から誰が加害者で誰が被害者かはっきりしているのに読むのがやめられなくなってしまうところ。
    加害者となってしまう青年は、育ちが良く、決して悪人ではない。テレビにも出ている著名人の父を純粋に尊敬し、自分も期待に応えようと頑張って勉強してきた大学生だが、飲酒運転の末ひき逃げ事件を起こしてしまう。轢いてしまった場面の描写は生々しく、胸が痛む。
    被害者の老女とその夫も、善良な人たち。母を亡くした息子も娘も、その後、残された父を支えようと必死に暮らしていく。ひき逃げ犯の青年を恨みもするし、裁判を傍聴して憎悪の気持ちを抱くが、復讐などは考えない。加害者の家族は、世間の批判を受け入れ、姉は縁談もダメになり、両親は離婚し、家を手放し、贖罪しながら生きていく。姉は、出所後久しぶりに顔を合わせた弟(加害者)に、私たちはあなたのせいで不幸になった、でも一番不幸になったのは私たちではない、よく考えなさい、と静かな声で告げる。立派な人たちなのだと感じるエピソードだ。当の本人は、時折自暴自棄になり、闇バイトに手を染めそうになりながらも(このあたりも読ませどころ)なんとか持ちこたえ、まっとうに生きて行こうとする。
    犯罪加害者が更生し、本当の意味で反省するために、支えてくれる人の存在がどんなに大事か、ということが伝わってくる。加害者の青年は、母、元恋人、そして会わないまま亡くなってしまった父の手紙に支えられ、出所後何年もたってやっと、本当の意味で自分の罪と向き合う…。
    ちょっと、元恋人が出来すぎかな、と思った。
    私が女なので…ここまではできない…と、100%共感できなかった…私がダメ人間なんだ…。
    加害者の青年が、実は元彼女が自分の子供を産み育てていたということを知った場面が、一番心ゆすぶられた…。

  • 久しぶりの薬丸さん、ずっしり。

    何があろうと心から笑えるようになってほしいと願う親心。
    しかし、そうなるためにはきちんと現実に身を向けて、逃げてはいけないこと。

    偽り続ける限り、心の中の亡霊に苦しめられる。
    “心の問題なんだよ”と
    妻と娘の命を奪ったのは、
    自分であると悔いる二三久先生。

    2人がそれぞれの過去を見つめ
    交差する最後の場面からは、
    久々に涙がとまらず心がぎゅうとなったな。


    また薬丸岳さんの本を読みたいと思う。

  • まさかの結末だった。
    タイトルの「告解」、そういうことかぁ...

    本当の贖罪は何なのか、それに気付けて初めて更正の第一歩を踏み出せるのだと思う。

  • タイトルの「告解」がそういう意味だったとは。

    読み終わって(読んでいて)いちばんの驚きはそこだった。

    何不自由なく暢気に過ごしている大学生が、思いがけず雨の夜の運転中にひき逃げ事件を起こす。
    被害者家族の苦しみ、加害者側の周りの人々の思い。

    刑務所に入って、罪を償っても、それで被害者家族が救われるわけでは決してないし、一方、出所後に堅実に働こうとしても、前科という壁がむしろそれを阻んでしまう。自棄になるときもある。加害者と、被害者家族がまた改めて接するときに出てくる「告解」。

    誰もが不幸にしかならない事件だけれど、それが実際の世の中ではあちこちで起きているということに怖さを感じてしまう。

  • とても考えさせられる内容だったけど、読みやすく、登場人物それぞれの立場に立った感情を自分の中に落とし込みながら一気に読めた。

    この作品が読みやすかったのは、被害者家族の復讐という恨みつらみの要素が省かれていたからだと思う。

    「罪」と「罰」だけに重点を置いてしまうと、とても救いようのない話で終わってしまうけれど、この作品には誰かしら手を差し伸べてくれる人、見守ってくれる人が描かれていて、そしてその人達の存在を素直に受け入れて加害者が更生の道を歩んでいくという救いのある内容で読了感も良かった。

  • 緊張ながら2日で読み終えた。
    この世で生活する全ての命に色が付くような気持ちになった。起承転結ではとどまることの知らない、さまざまな人の手によって緻密に練り上げられたたくさんの物語があふれかえっているんだなと思った。

  • 自分の犯した罪に苛まれ、出所後の人生をどのように生きていくのか?
    また家族にまで及んでしまう影響を受け入れなくてはならない罪の重さに気持ちが重くなりました。
    人の道に反れるとはこういうことなのだろうとも考えさせられました。

  • すごかった。大学生の翔太は、恋人から「今すぐ来てくれなければ別れる」というメールを受けて、雨の深夜、飲酒運転でひき逃げ事件を起こしてしまう。

    人を死なせてしまった翔太、そのために崩壊してしまった家族、被害者家族の苦悩、自身も責任を感じながら、密かに翔太の子を1人で育てている恋人の綾香。それぞれの立場から語られ、胸が締め付けられる。特に、翔太が自暴自棄になって犯罪集団に入りそうになったところではヒヤヒヤした。

  • 良かった。
    久しぶりに泣ける作品を読めた。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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