異常の構造 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065289457

作品紹介・あらすじ

臨床の場に身を置きつづけながら、綺羅星のような著作および翻訳を遺した稀代の精神病理学者木村敏(1931-2001年)。その創造性は世界的に見ても人後に落ちない。
著者の名を世に広く知らしめるとともに、社会精神医学的な雰囲気を濃く帯びていることで、数ある著作のなかでもひときわ異彩を放つ名著に、畏友・渡辺哲夫による渾身の解説を収録。
「異常」が集団のなかでいかに生み出され、また「異常」とされた人々のうちでなにが生じているのか、社会および個人がはらむ「異常の構造」が克明に描かれる。私たちはなぜ「異常」、とりわけ「精神の異常」に対して深い関心と不安を持たざるを得ないのか。「自然は合理的である」という虚構に支配された近代社会が、多数者からの逸脱をいかに異常として感知し排除するのか。同時に患者のうちで「常識の枠組み」はどのように解体され、またそのことがなぜ「正常人」の常識的日常性を脅かさずにはおかないのか――。
「あとがき」に刻印された「正常人」でしかありえない精神科医としての著者の葛藤は、社会における「異常」の意味を、そして人間が生きることの意味を今なお私たちに問いかけ続けている。(原本:講談社現代新書、1973年)

【本書の内容】
1 現代と異常
2 異常の意味
3 常識の意味
4 常識の病理としての精神分裂病
5 ブランケンブルクの症例アンネ
6 妄想における常識の解体
7 常識的日常世界の「世界公式」
8 精神分裂病者の論理構造
9 合理性の根拠
10 異常の根源
あとがき
解 説(渡辺哲夫)

感想・レビュー・書評

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  • 本屋で初めて知り一目惚れして購入した本。
    哲学に近いのかと思いきや精神医学に傾いた内容でした。

    まず、人間が作った合理性・常識を疑ってみようではないか、という問いから始まります。
    いったいわれわれの「常識」とは何なのか?
    「異常」の中でも特に我々が恐れ関心を持つのは「精神の異常」である。
    「精神の異常」として統合失調症の症例を挙げ、「異常」の構造を解き明かす。

    《しかし、いま私たちが一歩常識の立場から足を踏み出して、個物がそれ自身の個別性と同一性をもたず、あるものはそれ自身でありながら別のものであり、「である」と「でない」とが同じことであり、世界が単一ではなくて正反両世界の重複であるような、そういった分裂病的世界の立場に身をおいてみることができさえするならば、この問答において間が抜けていてトンチンカンなのは、実は患者の返答ではなくて私の質問のほうだということになるだろう。》…p.135

    常識の基盤である1=1の世界公式(これは「生への意志」をあらわすものでもある)、そして「正常」は「異常」があるからこそ成り立っているという考えは私にとって衝撃でした。

    私たちが「異常」を受け入れるためには、どうしたらいいのか。それは簡単なことではない。

    《「異常者」を真の意味で私たちの仲間として受け入れようとするためには、私たちはみずからが日常なんの疑問もなく自明のこととして受け入れている自己の生存という現実を、あるいはそもそも「生きている」ということの意味を、もう一度あらためて問いなおしてみるだけの勇気を持たなくてはならない。生の現実を盲目的に、無反省に肯定する立場からは、「異常」の差別に対する反省は不可能なのである。》p.155

    以前統合失調症患者の方ともよく話したことがあるので身近な内容でした。あの時、紙に書きながら一生懸命自分の想いを吐露してくれた女性の気持ちが、私にはわからなかった。言葉は途切れ途切れで支離滅裂だったから。けれども彼女は自分の世界を持っていた。私とは全く違う常識で生きていた。そのことに気づきませんでした。
    今までこの病気のことが私にとって謎に包まれていました。原因もわからない。患者が何を考えているのか、辛さもわからない。この本を読んでそれが少し見えてきた気がします。

  • 素晴らしいの一言。
    遅読気味な自分が一気に読み終わってしまった。
    古い印象を受ける部分が少なからずあるが、それを補って余りある内容でした。

    常識とは何なのか。
    異常か正常かは何で決まるのか。
    正常者の思う世界だけが本当の世界であるとは限らない。

    著者があとがきに書いている内容は精神科のお医者さんとしての誠意を込めた素直な考えなのだと思う。

    木村さんの精神病理学の世界観に触れたい方は是非読んでみて下さい。
    常識を解きほぐして見たい方にもオススメ。

  • 「常識」はセンスであって、そこには感情的側面がある。常識に反した他人の行動を目撃したときに感じるぞわぞわとした恐怖は、それが「異常」であることを伝えている。このような「常識」や「異常」は、人間の遺伝的な精神の働きを通して決まっていると考えられ、統計学的な逸脱によって定義されるものとは違う。

  • 異常とは何か。
    社会が異常を作り出す。

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著者プロフィール

1931年生まれ。京都大学名誉教授。著書に『木村敏著作集』全8巻(弘文堂)、『臨床哲学講義』(創元社)、共訳書にヴァイツゼカー『ゲシュタルトクライス』(みすず書房)ほか。

「2020年 『自然と精神/出会いと決断』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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