虎のたましい人魚の涙

  • 講談社
4.09
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065290927

作品紹介・あらすじ

『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』に続く、最新エッセイ集。

時が過ぎ、変わっていくもの、変わらないもの。
さりげない日常の場面や心情を切り取る言葉が、読む人の心に響く23のエッセイ。

「いまのわたしが、いまのわたしで、いまを書く。いまはこれから。」(本書より)

文芸誌「群像」好評連載「日日是目分量」に、書下ろし1篇を加えて書籍化。

感想・レビュー・書評

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  •  くどうれいんさんの作品は、小説『氷柱の声』以来で、エッセイは初読でした。
     小説、随筆、俳句、短歌、童話、絵本等、様々な分野で活躍中の20代作家です。
     本書は、文芸誌「群像」の連載「日日是目分量」に、書き下ろし1編を加え、23編を書籍化したものです。
     特に統一したテーマはなく、何気ない日常の些細なことにスポットを当て、瑞々しい文章で綴られています。読み進めるほどに、ドキュメンタリーの側面をもっているような気になるのですが、なぜでしょう?
     自分の醜い〝素〟の部分を晒し、「えっ、そこまで書いていいの?」と思うくらい、著者の飾らない等身大の姿が見られ、人物像がリアルに立ち上がるからかもしれません。
     例えば、他人の気持ちを推し量ることが苦手だったり、屈折し人を妬んだり羨んだりしていた時期だったり、おかしくも哀しい目分量の日々が記されているのです。
     ただし、そこにあまり暗さは感じません。ままならない自分と向き合い、もがき苦しんだりしながら、書くことで自分に折り合いをつけているのかな、とも思えます。
     盛岡で暮らす日常が、ユーモアを交えながら、軽やかで伸びやかに表現されている一冊です。

  • 俳人、歌人、どちらにしても言葉選びの素敵なくどうれいんさん。

    エッセイは、学生時代から仕事、恋愛、友人、と日頃の生活を歌人特有のこだわりで追いかける。そして、二足のわらじで過ごしてきた仕事と作家をついにフィニシュ。「仕事を辞める」ところで終わっている。

    わたしの尊敬するうどん屋が「うどん」だけを名乗ってつべこべ言わず淡々とうまいうどんを出す。
    差し込んでくる木漏れ日を浴びながら窓を閉める。
    梨はよく冷えていて、口いっぱいに頬張ると果汁があふれ、溺れているようだった。
    雪が降り出しそうな国道四号線の、二十一時。
    名刺がなければもう二度と会えないかもしれない人たちがたくさんいる。

    やはり、歌人の言い回し、素敵です・・・。

  • 初読みの著者さんです。
    感情や場面の表現、言い回しや比喩がうまく、頭の中でありありと映像になる文章が好印象でした。
    最近は著者で本を選び偏りがちになってたのでこれは新鮮だった。改めて幅広く本を手にとらなきゃと思いなおした一冊になった。
    これは関係ないですが、著者がちょっと危なっかしく感じるところがあり大丈夫かなと不安に思ってしまいました…。

  • 文章のなかに私との重なりを探して、だいたい私だ、と思おうとする自分に気がつく。単位展でありボロディンで、花の好きなところと、お風呂のせいで反抗期に引き戻される自分。

    じゃがりこの席だ、と思いながらバスの1番後ろに座って、主人公の気分を味わう。
    本屋が開いている時間に仕事から帰れる人たちを、少々呪う。

    日常に隠れる隙間の感情を言語化してくれる、くどうさんと話してみたい。

  • とっても楽しみにしていた新刊、さっそく受け取って、発売日のうちに読み終えてしまいました。

    「うたうおばけ」も大好きだけれど、「虎のたましい人魚の涙」は、著者が会社勤めと作家を兼業していた期間ということもあって、お仕事のお話も楽しい。作家の仕事がどんどん増えてきて、常人には想像できないハードな生活をしていたようだけれど、それでも、文筆のクオリティが冴えているのがすごい。幼少期のことや、大学生のときの恋愛の話、銀座のご婦人の話などなど、いろんなエピソードを「よく覚えているなぁ」と感心すると同時に、まとめきっていて無駄がない。朗らかに、時には、やりばのない怒りをまといながら歌い続ける文章。本当に好きです。
    書くのが楽しくて楽しくて仕方ないんだろうなぁと思います。次作も絶対買います。

  • 日常の切れ端を、過去の自分の経験や家族や友人とのやりとりをまじえて書かれていておもしろい。ひとの人生を垣間見てる、見させてもらってる感じ。
    嬉しいことだけじゃなくて、悲しさややるせなさや怒りみたいな負の感情も包み隠さず書かれていて、さらけだしたような、等身大な、くどうさんを見ているようで、会ったこともないけどきっといい人なんだろうなと好感が持てます。
    本のタイトルにもなっているおはなしが特に好きでした。
    やっぱりくどうれいんさんの感性は肌に合うなぁと思うし、好きだなとしみじみ思えた一冊でした。

  • 記憶の片隅に、まるで時間が経ってないみたいに、琥珀の中にいるみたいな、思い出を取り出して見せてくれた

    小さい時の記憶は、あとから母の話から埋め合わせたこととか、写真で見て、なんとなく記憶してることとか、ならある。

    子供の時、社宅に住んでいた。207号室。隣は桑畑で、桑の実、通称「どどめ」を取っては食べて、口の周りを真っ黒にしてた。たかおに、という遊びは、地面から少しでも高いところにいれば、鬼に捕まらないという地味な遊びだった。社宅の階段の途中から、外側へ乗り出して、ガスボンベがたくさん置いてあるところを渡って、1階に降りる遊びもしてた。

    この本を読みながら、そんなことを思い出した。

    子供の時のことばかりじゃなくて、学生時代や大人になってからの話もたくさんあるんだけど、でもくどうれいんさんが、子供の時に小さな世界で、きれいな石を拾って、ずっとポケットにいれていたり、お祖父さんの薪のことを思い出したり。そんな思い出を、今、思い出して、それを原動力にする。あの時の自分は、今の自分のためにあったんだ。って、気がしてるんじゃないか。

    恥ずかしかった頃の記憶は、黒歴史なんがじゃなくて。ちょっと笑っちゃえるところまで、あと少し。

    こんな風に、昔の自分を認めてあげることができれば、もっと自分のことが、好きになれるだろうな。

  • くどうさんのエッセイを読むのは、リトルプレスを含めて3冊目。相変わらず鮮やかでユーモラスで柔らかで(でも時々妙に歯応えがあって)、彼女を取り巻く人々とのエピソードも楽しい。物書きとしての仕事も幅広くなり、会社員として働きながらの日々は、充実している分苦悩も深くなっているなと随所に感じた。それでも、彼女に感じる「負けてたまるか」感に惹かれるんだよな。
    どの章も面白く読めるが、とりわけ「うどんオーケストラ」とか「るん♪」とか、タイトルだけでは何のことだかわからない章に、やられる。とりとめのない、一見繋がりのない事柄をうまくまとめ、思いがけない方向へ感情が誘導される。
    そして、ドリアが無性に食べたくなり、お風呂がだいきらいの理由に共感し、飼われる蝿に和み、盛岡の冬の空気の冷たさを思い出す。
    単行本のタイトル「虎のたましい人魚の涙」、一体どういう意味よと思ってたら……
    私、それのペンダント持ってました。安いのだけど、くどうさんが買った店と同じところの。そういう別名があったなんて知らなかったよ!大事にします。
    2人の大好きな朝ドラ女優さんの推薦文も最高に素敵だし、unpisさんのカバーイラストもシンプルで可愛い。隅々まで好きだなぁと感じる、一冊。

  • 氷柱の声が良かったのでエッセイはどうかと読みました。一番最初の話がすごく好きでした。全体的に流石の力量で文体に品を感じさせる。が、あまり好みではなかった

  • とても好きでした。同い年で共感できること多々あり、それに加えて言葉にするのが難しい瞬間や気持ちをうまく表して更に本にしているから、とても素敵だと思いました。

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著者プロフィール

歌人・作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に、第165回芥川賞候補作となった小説『氷柱の声』、エッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『虎のたましい人魚の涙』『桃を煮るひと』、歌集『水中で口笛』、第72回小学館児童出版文化賞候補作となった絵本『あんまりすてきだったから』などがある。

「2023年 『水歌通信』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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