人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性 (ブルーバックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065303870

作品紹介・あらすじ

皮膚はさまざまな能力を併せ持った「スーパー臓器」です。有害な化学物質や病原体の侵入を防ぐ物理的バリアであるともに、人体最大の免疫器官であり、無数のセンサーが埋め込まれた感覚器官です。
皮膚組織の分子レベルが解明が進んだことで、これまでからだを覆う「薄皮」のように思われてきた皮膚には、生命活動にかかわるさまざまな精緻なしくみが備わっていることがわかってきました。21世紀に入ってからの皮膚医学の進展は目覚ましく、毎年のように教科書を書き換えるような発見が相次いでいます。本書は、人体最強の臓器と呼ばれる皮膚の謎に、最新の科学的知見を元に迫ります。


ここまでわかった万能の臓器「皮膚」の謎
・人が温度を体感できる「からくり」がわかった
・皮膚をかくと、かゆみが静まる驚きの理由
・ヒトが「裸のサル」になった必然的理由とは?
・アトピー性皮膚炎の原因遺伝子がわかった
・いかに皮膚は老化するのか?
・喘息などのアレルギー発症も、アレルゲンの皮膚侵入が引き金になる
・AIの診断能力はすでに一流の皮膚専門医をしのぎうる

(本書の内容)
はじめに 
第1章 そもそも皮膚とはなにか?
第2章 皮膚がなければ、人は死ぬ
 ―生体防御器官としての皮膚
第3章 なぜ「かゆく」なるのか? 感覚器官としての皮膚
 ―感覚器官としての皮膚
第4章 動物の皮膚とヒトの皮膚 109
―生き物が変われば皮膚も変わる
第5章 皮膚の病気を考える
―どんな病気があるのか?
第6章 アトピー性皮膚炎の科学
―現代人を悩ます皮膚の難病
第7章 皮膚は衰える
―皮膚の老化とアンチエイジング 
第8章 未来の皮膚医療はどう変わる? 239

番外編 研究者になるための体験的・人生ガイド

感想・レビュー・書評

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    なぜ痒みを掻いたら痒みが治まるのかというのが今まで分かってなくて、最新の神経生理学でやっと分かったっていうのが衝撃受けた。

    大学名で選んで、学部も偏差値で順序だてて全学部に出願するってほんと大学の意味全く分かってないよね。まず高等課程だけ学んで皆がすぐに自分に必要な学部を選べるということ自体があり得ないことじゃん。ほんとどうにかした方がいいと思う。

    ぬえ‐てき【鵼的】
    〘形動〙 どちらともつかないあいまいな様子。正体の知れないあやしげなさま。「鵼的人物」
    ※穏健なる自由思想家(1910)〈魚住折蘆〉「思ふに今日生温(ぬる)き自由思想家の横行するは鵺(ヌエ)的革命たる明治維新の結果である」

    近年そのものに有害性のない花粉みたいなものにアレルギー症状を訴える人が増えたのは、無菌化が原因らしい。

    衛生環境がアフリカとかの発展途上国では花粉症にアレルギー症状を訴える人がいないらしい。

    大腸菌の研究をしてる医師も同じこと言ってた。無菌状態が一番免疫が身につかなくて怖いらしい。赤ちゃんがなんでも口に入れようとするのは本能的に無菌状態の反対を行こうとしてる行為らしいね。昔の子の方がアレルギーとかが無くて、強かったのは子供が多くて、なんでも口に入れる赤ちゃんをお母さんがほっといてたかららしい。

    椛島健治
    京都大学医学研究科・皮膚科教授。1970年岐阜県生まれ北九州育ち。1996年京都大学医学部卒業。医学博士。横須賀米海軍病院・京都大学・米国ワシントン大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、産業医科大学などでの勤務を経て、2015年から現職。シンガポールA*Starシニア主任研究員(兼任)。日本皮膚科学会賞、免疫学会賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰などを受賞。皮膚の臨床(アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患)・研究(皮膚免疫・アレルギー疾患の病態の解明と臨床応用)・趣味(ランニング 「2020年の別府大分マラソン 2:54:37」・ゴルフ・温泉旅行)に日夜励んでいる。

    意外に思われるかもしれませんが、皮膚は、生体における「最大の臓器」です。皮膚の総重量は体重の約16%を占め、仮に体重70㎏の成人男性であれば10㎏以上が皮膚ということになります。これは、成人男性の脳の平均重量1・3~1・5㎏、肝臓の平均重量1・5㎏をはるかに上回ります。

    私たちが日ごろ目にしているのは、皮膚のごく一部にすぎません。皮膚は外から内に向かって、表皮・真皮・皮下組織という3種類の異なる組織が積み重なっています

    「皮膚」の最も外側にあるのが表皮です。厚さは平均でわずか0・2㎜しかありません。表皮の95%は表皮角化細胞(ケラチノサイト)から構成されています。表皮角化細胞は、最初は、表皮の最も深い部分にある基底層(基底細胞)で生まれて(図1‐2)、分化・成熟するにしたがって、次第に体表面へと移行していきます。

    ところで、なぜ皮膚を構成する「角層」に「角」を使うのでしょうか。実は角層は、ケラチン(keratin)という硬い線維状のタンパク質で構成されています。ケラチンは、「角」を意味するkerasに由来し、日本語の「角」はそれを訳したものです。サイの角や鳥の嘴などにはケラチンが含まれており、私たちの爪や髪の毛もケラチンでできています。つまり、皮膚、爪、髪の毛、角、嘴は、いずれも表皮の一部となります。

    表皮角化細胞の死骸が積み重なった角層(角層細胞)は、徐々に体表に押し出されていき、最終的に、お風呂でゴシゴシ洗うと、はがれ落ちる「垢」になります。

    前述したように、角層は、生命活動に必須である核が消失することによって生まれます。この分化過程を「角化」と呼びます。角化によって、表皮角化細胞は、タンパク質の塊となります。タンパク質でできた角層は、物理化学的に強固かつ安定であるため、体外からのさまざまな有害物の侵入を阻止できます。いうなれば、表皮角化細胞は、みずから「屍」となって、皮膚を守る防御壁になるわけです。

    表皮の下には「真皮」という層があります。その名のとおり、皮膚の主たる構造をなしています。真皮の厚さは2㎜前後で、表皮の約15~40倍もあります。真皮の中には血管やリンパ管、免疫細胞などのさまざまな細胞が存在しており、多彩な役割をはたします。

    膠原線維や弾性線維、ヒアルロン酸などの間質成分を生み出すのが線維芽細胞です。線維芽細胞は、皮膚だけにある細胞ではなく、からだのいたるところに存在する細胞です。皮膚の線維芽細胞は、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥博士(京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授)が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製する際に用いたことでも知られており、どのような細胞なのかは知らなくても、その名を聞いた方も多いと思います。

    真皮にあるほかの細胞成分としては、抗ウイルス作用や抗がん作用を有するT細胞、抗体を産生するB細胞、異物を処理するマクロファージ、抗原をT細胞に提示する樹状細胞、Ⅰ型アレルギー反応などにかかわる肥満(マスト)細胞など免疫応答にかかわる細胞も多く存在しています。

    真皮のいちばん下側にあるのが「皮下組織」です。ここにはエネルギーを生み出す脂肪を蓄える貯蔵庫としての役割があります。また、外部からの物理的な衝撃を緩和する吸収材として機能しています。さらに、皮膚脂肪はからだの熱を奪われないようにする保温機能を持っています。

    皮膚からは「毛」が生えていますが、毛器官はこの「毛」とそれを取り囲む「毛包」がセットになっています。私たちはあまり意識しませんが、本来、「毛」はからだの防護機能を担っています。毛の硬さは、表皮角化細胞や角層と同じようにケラチンにより構成されています。ただし、角層を形成するケラチンとは成分が少し異なります。

    立毛筋(図1‐10)は、起毛筋ともいわれます。毛根から真皮に斜めに走行する平滑筋で、アドレナリン作動性です。寒さや恐怖、驚きなどのストレスによって収縮して、毛幹を立ち上げます。ネコが怒っているときに毛を逆立てるのと同じ現象です。立毛筋によって毛が逆立つときに、皮膚の毛孔部が隆起します。鳥の毛をむしった痕のような細かい突起が出るため、「鳥肌が立つ」とか、関西地方では「さぶいぼ」(寒くて出るイボの意味)ともいわれます。

    皮脂は汗などの水分と混じることで、表面脂肪酸を形成して皮表をコーティングします。この膜はpH4~6の弱酸性を示し、殺菌作用を有するタンパク質である「抗菌ペプチド」を含みます。こうした化学的性質により、皮脂は保湿作用を持ち、有毒物質の侵入を食い止め、ウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐことができます。 皮脂の分泌量は男性ホルモンの影響を受けるため、思春期になるころから分泌が増えます。中高年の男性の顔がテカテカしているのは、皮脂によるためです。ちなみに思春期を迎えると女性でも男性ホルモンの分泌は認められます。

    エクリン腺(図1‐14)で作られた汗は、真皮から表皮にかけて導管を通り、そして汗孔を介して外に排出されます。この際、ナトリウムイオンや塩素イオンなどの塩分は導管の管腔細胞において再吸収されます。まるで腎臓のような機能が汗腺に備わっているのです。

    ただし、激しい運動などをした際に流れ出てくる汗は、塩分が再吸収される間がないために塩分を多く含みます。それゆえ、たくさん汗をかいたあとは、水よりもスポーツ飲料のようなイオンを含む飲料水をとるほうが、血中の電解質濃度を保つうえで重要となります。興味深いことに、ふだんよりジョギングなどの運動を行って恒常的に汗をかいている人の汗は塩分が含まれにくくなるようです。ヒトの適応能力の高さには驚かされます。

    これに対して、アポクリン腺は、外耳道、わきの下、乳首、へそ、陰部などにある汗腺で、毛穴に開口しています。アポクリン腺から分泌される汗は、脂質やタンパク質が含まれるため少し白っぽく粘り気があります。もともとは無臭ですが、皮膚の表面に出ると常在細菌(主にコリネバクテリウム)によって、汗に含まれる脂質が分解されることで、酪酸などの低級脂肪酸となり臭気を帯びます。ワキガの原因としても知られますが、日本人は欧米人や黒人などにくらべて、アポクリン腺が少ないため、ワキガになる人は圧倒的に少ないことがわかっています。現在のワキガの治療は、汗の分泌を抑える制汗剤などが中心ですが、臭気を作り出す細菌を選択的に障害する薬剤が開発されればよいのではないかと個人的に思っています。また、ワキガと耳垢のタイプの相関も知られています。ABCCⅡの遺伝子がかかわるのですが、ワキガの人は耳垢が湿っていることが多いようです。

    アポクリン腺は哺乳類の芳香腺に相当するため、アポクリン腺から分泌される汗の成分には、性的な効果のあるフェロモン作用もあるとされています。女性のわきからの分泌物を別の女性にかがせると月経周期に影響を及ぼすなどの報告もありますが、ヒトのフェロモンについてはまだまだ不明なことが多いのが実情です。

    汗には、さまざまな効用がありますが、最も重要なのは体温調節です。汗腺から分泌された汗が蒸発する際に気化熱が奪われるため、体温の上昇が抑制されます。非常に合理的なしくみですが、実は、ヒトのように全身に汗をかく動物はそれほど多くなく、ヒト以外ではウマなどごく限られています。実際、汗っかきのイヌやネコをご覧になった方はいないと思います。ちなみにイヌやネコの汗腺は、手足の裏と鼻に限られています。それゆえ、イヌやネコは長距離を走れませんし、運動したあとでは舌を出してハアハアと息をすることで体温を下げようとします。 ヒトの場合、一日に出る汗は平均700~900といわれます。こうした汗を適切なタイミングで分泌・蒸発させることで急激な体温上昇を食い止めたりして、体温調節を行っています。また、体温が36・5℃前後のきわめて狭い範囲に保たれているのも、汗によるところが大きいのです。 そのほか、汗には、薬物の排泄機能といったあたかも腎臓のような役割や、IgAという抗体、細菌を殺傷する抗菌ペプチドも含まれています。さらに、汗のpHは弱酸性となっており、これは、皮膚が細菌などの外敵から身を守るうえでも重要な役割をはたします。

    爪は一日に約0・1㎜のペースで伸長し、外傷などで爪がはがれたりすると全体の再生には6~12ヵ月かかります。高齢になるにつれて代謝機能が低下するので、爪の伸びる速度は徐々に低下してきます。爪は、角層と同様に、すでに死んでしまった細胞の塊なので、当然ですが爪を切っても痛みはありません。

    また、爪を見ると、皮膚と接触している部分は薄ピンク色で、その先の皮膚と接触していない部分は白くなっています。これは、皮膚に接触している部分では、爪の下の皮膚の毛細血管が透けて見えるために薄ピンク色なのです。爪は健康状態を示すマーカーとしても使えます。爪の色、形、厚さ、表面の状態を調べれば、多くの疾患の兆候を見いだすことができます。

    ドイツの解剖学者であるグンター・フォン・ハーゲンス(Gunther von Hagens)博士は、世界のいたるところで「ボディーワールド」(Body Worlds)という一風変わった展覧会を開催しています。会場に並ぶのは、全身の皮膚をはがした人体標本です。筋肉や神経、リンパ管、血管がむき出しになった標本がさまざまなポーズをとる様子は、いささかグロテスクですが、皮膚という「外套」をはずした生身の姿のはかなさが感じられます(図2‐1)。

    実は、私たち人間は皮膚なくして生きながらえることはできません。後述するように、皮膚が失われると、たちまち私たちのからだから水分が失われて、からだを維持する生理的な機能が損なわれ、短時間で死にいたります。 これはヒトに限った話ではありません。リンゴやオレンジなどの果物を考えてみてください。皮さえついていれば、長い間みずみずしさを失いませんが、皮をむいたとたん、またたく間に干からびていきます。そればかりか、果実の表面にカビが生えたり、腐敗が進行し、細胞構造が壊れていきます。皮には、水分をとどめて乾燥を防ぐだけでなく、細菌やウイルス感染から身を守り、細胞内の環境を一定の状態に保つバリア機能があります。外界と接する皮状の組織は、生物の生存に必須で、多くの動植物に共通する普遍的なしくみであることがうかがえます。

    皮膚は、外界と常時接触している「臓器」です。外界には、ウイルス・細菌・真菌などの病原体や人体に有害な化学物質が無数に存在します。さらに、太陽からは有害な紫外線が容赦なく降り注ぎ、予期せぬトラブルで外傷などの物理的ダメージを受けることもあります。こうした外界からのダメージを一手に引き受け、「生体防御の要」としてけなげに働いているのが皮膚という臓器です。

    角層細胞は、細胞としてはすでに死んでいますが、「屍」として2週間ほど表皮にとどまり、皮膚の物理的なバリアとして働いたのち、最終的に垢となってはがれ落ちていきます。私たちは、表皮角化細胞の「屍」が積み重なった角層によって病原体や有害な化学物質などから守られているのです。角層バリアは、皮脂膜と角層によって構成されます。

    私たちのからだには、水分が大量に含まれており、成人男性の約60%が「体液」と呼ばれる水分で構成されます。生物のほとんどの生理活動には水が不可欠であり、嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(火傷)などで大量の水分が失われると、さまざまな異常がただちに現れます。 全体重のたった3%分の水分が失われるだけで、食欲不振、ぼんやりするなどの脱水症状が現れ、8~10%で身体動揺、けいれんなどの重篤な症状になり、20%以上失われると死にいたるといわれます。生物にとって水分蒸発はまさに命取りになるのです。

    角層細胞は、死細胞ではありますが、干からびたミイラのようなものではなく、水分を豊富に含んだみずみずしいものです。それを実現するのが、角層細胞の内部にある天然保湿因子(natural moisturizing factor:NMF)です(図2‐2)。

    「はじめに」でも書きましたが、実は皮膚は「人体最大の免疫器官」であり、「免疫応答」に関与するたくさんの細胞が存在します。皮膚は、ウイルスや細菌などの病原体や異物と免疫機構が激しい闘いを日々繰り広げている「主戦場」なのです。 皮膚の構造は、表皮・真皮・皮下組織からなります。表皮には、角層などの物理的な防御機構を突破した異物を捕らえて、適切な免疫応答を誘導するランゲルハンス細胞が分布しています。真皮や皮下組織には、樹状細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、肥満細胞(マスト細胞)、好酸球、好中球、血管、リンパ管など、免疫応答にかかわるおなじみの「役者」たちがズラリと揃っています(図2‐5)。まさに免疫系のオールスターチームといった壮観な「顔ぶれ」です。

    樹状細胞は、細胞の表面から木の枝のような突起が突き出している免疫細胞です。好中球、単球、マクロファージなどと同様に、病原体や異物を貪食し、抗原を提示する能力を持っています。未熟なうちは食作用は強いものの、抗原提示能は低いのですが、成熟するにつれて、食作用は弱まり、反対に抗原提示能が高まります。後述する「獲得免疫」でもきわめて重要な役割をはたしています。ちなみに樹状細胞を発見した米国のロックフェラー大学のラルフ・スタインマン博士は、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞されています。スタインマン博士は親日家で、多くの日本人研究者の育成にも貢献されました。

    たとえば、熱いものに手を触れるととっさに手をひっこめるのは、熱さや痛みなどの情報が脊髄に送られることで、反射機構が働き、危険回避のために、脊髄から筋肉へ指令が出るからです。③内部感覚……吐き気や空腹感、尿意、内臓の痛みなど、胃や心臓、膀胱など内臓が生み出す感覚です。からだの奥で生まれる感覚ですが、筋や腱、関節などに起こる「深部感覚」はこれに含まれません。

    神経の末端が枝わかれした「自由神経終末」の代表格が、毛包を取り巻く「柵状神経終末」です。毛の微細な動きを感知して、その情報を中枢に送ります。毛になにかが接触すると、毛包のまわりにある自由神経終末が刺激され、その情報が脳や脊髄に伝達されるしくみです。

    一般に有髄神経は、毎秒100mという驚異的な伝達速度であるのに対して、無髄神経は毎秒1mとじつにモッサリとしています。時速換算すると、有髄神経の伝達速度は時速360㎞でF1カーの瞬間最大速度に匹敵するのに対して、無髄神経の伝達速度は時速3・6㎞でヒトの歩く速度(時速4㎞)よりも遅いくらいです。

    たとえていうならば、川の流れが上流から下流に流れるものと下流から上流に逆流するものが併存しているような不可解な状況です。そのため、健常な人でも、皮膚が特に刺激されたわけでもないのに、無性にかゆくなることが頻繁に起こります。患者さんの中には、特に皮膚には異常がないにもかかわらず、心理的なストレスを受けると激しいかゆみを生じる方もいらっしゃいます。またマウスでもストレスや不安にさらされるとかゆみが増悪することが知られています。なぜそのようなことが起きるのか詳細はわかっていません。

    「かゆみ」とよく似ているのが「痛み」という感覚です。「かゆみ」も「痛み」もいずれも不快な感覚で、生体にとって不都合な状態や危機的状況が起きていることを脳に伝える役割を担っています。

    かきむしるという行為は、皮膚に物理的な損傷を与えるもので「痛み」を伴うものです。皮膚に痛みを加えると、痛みとは別感覚である「かゆみ」が鎮まるなんて、なんだかふしぎではありませんか? 最新の神経生理学はこの謎を解明することに成功しています。図3‐11をご覧ください。実は、「痛み」を伝達するニューロンが、かゆみを伝える神経経路の興奮を抑える「抑制系介在ニューロン」に働きかけて、かゆみを和らげていたのです。

    実は、かゆみは精神活動によっても抑制されます。夜、自宅でリラックスしていると無性にかゆくなるのに、会社で働いているときや学校で勉強しているときは、ふしぎとかゆみを感じない。そんな経験はないでしょうか。実は、これにも抑制系介在ニューロンが一役かっています。 かゆみを制御する詳しい神経回路はまだ解明されていませんが、たとえば仕事や勉強に集中しているときは、延髄や中脳にある交感神経が興奮することにより、ノルエピネフリンという神経伝達物質が分泌され、主に脊髄後角レベルでかゆみが抑制されることがわかっています。

    ヒトとはまるで共通点のないように見える植物ですが、私たちと同様に外表を薄い表皮組織で覆われています。多細胞生物である植物の表皮組織は、通常は1層です。表皮組織を構成する細胞はほぼ一定で、空気を取り入れる孔辺細胞を除くと、その表皮は細胞でビッシリと埋め尽くされています。さらに陸上植物の多くは表皮細胞をガードするクチクラ層(角皮)を持っています(図4‐1)。

    魚もヒトも、表皮と真皮の間に基底膜があり、これを介して結合されています。真皮の下には皮下組織(筋肉組織)があります。こうした基本構造に違いはありません。似ても似つかない風貌をしている魚とヒトですが、その表皮の構造はそっくりなのです。

    私たちは哺乳類に属していますが、ほかの哺乳類と比較すると、私たちヒトの皮膚はかなり特殊です。たとえば、ヒトでは全身にエクリン腺が発達していますが、このように全身で汗をかける哺乳類はヒト以外ではウマぐらいしかいません(図4‐3)。

    生存に有利な遺伝的形質が選択される「自然選択説」の観点から考えても、ヒトが「裸」になることは、生存にはあまり有利にならないように思えます。進化論を提唱したダーウィンをはじめとして多くの進化学者が、なぜ類人猿の中でヒトだけが体毛を持たなくなったのかについてさまざまな仮説を提唱していますが、いまだ定説が確立されるにいたっていません。 現時点で最も有力とされるのが、樹上生活をしていたヒトの祖先が、生活範囲をサバンナ(草原)に広げたことがきっかけで急速に無毛化が進んだとする「サバンナ説」です。 ヒトの祖先が生活したとされるアフリカ大陸のサバンナは、厳しい直射日光を遮る樹木がなく、高温で乾燥しています。こうした過酷な環境を生き抜くうえでは、体温が高温にならないように効率的にからだを冷やす必要があります。ヒトは、水分を大量に含んだ汗を分泌するエクリン腺を全身に持っており、大量の汗を放出することで皮膚から気化熱を奪うことで体温を下げています。発汗による効率的な熱放出を考えると、汗腺が長い毛で覆われているより、薄い産毛で汗腺が外気に露出しているほうが有利です。なお、「サバンナ説」では、ヒトで頭髪が残っているのは、頭を紫外線や直射日光から防ぐためだと説明しています。

    ヒトがかかる病気は多種多様ですが、「皮膚の病気」ならではの特徴があります。さて、それはなんでしょうか。 答えは、多くの皮膚疾患は目に見える症状が現れることです。たとえばアトピー性皮膚炎、じんましん、熱傷、水虫、脱毛症などには、それぞれ特有の「目に見える所見」があります。実は、皮膚疾患以外の多くの病気は、視覚的な症状だけでは診断を下すことはできません。たとえば高血圧や糖尿病などは、視診だけで診断することはまず不可能です。というかそもそも病気の症状が目で見えません。病気を頭の中でイメージすることすら難しいですよね。

    湿疹に伴うかゆみは、皮膚に到達した刺激物を取り除こうとする生体防御反応が生み出した副産物といえます。かゆみを生じさせることで、脳に患部をかく行動を促し、皮膚の上にある原因物質を物理的に取り除こうと誘導しているのです。医学の世界では、皮膚をひっかくことを「搔破行動」と呼びます。ヒトのみならず、動物全般に見られる行動で、イヌやネコが足を使って頭をかくのも、典型的な搔破行動です。力ずくで刺激物を取り除く「搔破行動」は最も原始的な生体防御・免疫応答と考えられています。搔破行動によって刺激物がきれいに取り除かれてかゆみが治まれば、一件落着となりますが(ノミやダニが皮膚についたときは搔破行動で取り除かれてしまうことがありますよね)、つねにことがうまくいくとは限りません。

    梅毒は、古くから存在する性感染症のひとつですが、近年日本でも急激に感染が広がっています。かつては性風俗で男性が感染するケースが主流でしたが、近年は一般女性にも感染の広がりが認められています。梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が粘膜や皮膚の小さな傷から体内に入り込んで発症する感染症です。 感染後3週間ぐらい経過すると、感染した粘膜や皮膚に小さなしこりができ、何日かするとしこりの中心部に潰瘍ができます。その後、リンパ節がはれたりしますが、痛むことはありません(第1期梅毒)。 さらに感染後3ヵ月ぐらい経つと、梅毒トレポネーマが血流に乗って全身に広がり、梅毒性バラ疹と呼ばれる赤い発疹が多数現れます(図5‐11)。発疹と同時に、全身のリンパ節がはれたり、頭痛、発熱、筋肉痛などの症状が出ることもあります(第2期梅毒)。多くの場合、患者さんはこの段階で異常に気づき来院するケースが多いようです。しかし、治療しなくとも、数ヵ月も経つと症状は徐々に治まってきます。しかし、治癒したわけではなく、感染は継続しています。

    帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染によって引き起こされる病気です。通常、このウイルスは子供のころに感染します。これが「水疱瘡」です。このときに、皮膚に侵入したウイルスが神経を伝わって、脊髄の後ろ側にある後根神経節という場所に潜伏感染します。ふだんはこのウイルスが悪さをすることはないのですが、ストレスや免疫機能の低下などによりウイルスが活性化して痛みを伴う発疹を起こします。つまり、水疱瘡にかかったことのある人なら、誰でも帯状疱疹になる可能性があります。 帯状疱疹が発症すると、ピリピリと刺すような痛みと、小さな赤い斑点と水ぶくれが体表に現れます。疱疹は、全身ではなく、からだの左右どちらか一方に起きて、走行する神経に沿って帯状に現れます。 治療は、抗ヘルペスウイルス薬でウイルスの増殖を抑えるのが基本です。最近開発された抗ヘルペスウイルス薬は服用が早ければ早いほど高い治療効果が得られます。痛みに対してはアセトアミノフェン(カロナール®)やプレガバリン(リリカ®)、抗うつ薬などを用いますが、痛みの程度が強い場合は、痛みを伝達する神経を遮断する局所麻酔薬を注射する「神経ブロック療法」などが行われます。 帯状疱疹は対応の遅れが、治癒後のQOLに影響することもありますので、帯状疱疹を疑う症状が出たら、できるだけ早く専門医を受診することを強くお勧めします。

    以上、さまざまな皮膚疾患を紹介してきましたが、メラノーマや梅毒などを除けば、その多くは命や後遺障害にかかわるような重大なものはあまりなく、ほとんどがかゆみや痛みをもたらすにとどまります。しかし、皮膚のかゆみや痛みは、患者さんのQOLをおおいに損ないます。たとえば、アトピー性皮膚炎のかゆみがひどければ、夜眠れなかったり、勉強に集中できなくなりますし、かゆみ止めとしてしばしば処方される抗ヒスタミン剤は眠気を誘導することも多いため、学習や職場での仕事の生産性が低下します。それゆえ、痛みやかゆみをきちんとコントロールすることはとてもたいせつなのです。

    天然痘やペスト、インフルエンザなどの感染症、「不治の病」と呼ばれるがん、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病など、私たち人類はさまざまなタイプの病気に悩まされています。そんな中で、とりわけ現代になって患者さんが急激に増えている病気があります。アレルギー(性)疾患です。 アレルギー疾患とは、特定の抗原に対して免疫反応が過剰に働くことで起きる病気です。ホコリや花粉、ネコの毛など、本来は、からだに害を及ぼさないものに対して過剰な免疫反応が起きて、鼻づまりや鼻水、くしゃみ、発疹、かゆみ、呼吸困難などの症状が起きます。アナフィラキシーショックや重症の喘息を除けば、生死にかかわるような重篤な病ではありませんが、ひとたび発症すると、QOLが著しく低下します。

    確かに、アレルギー疾患は、衛生環境が良好な先進国で発症者が急激に増えている一方で、衛生環境が十分に整っていない、いわゆる発展途上国ではそれほど増えていません。また、私たち日本人の歩みを振り返ってみても、1960年代の高度成長時代以前には、当たり前のようにあった、回虫やノミ、シラミなどの寄生虫はほとんどいなくなり、寄生虫を駆除する免疫機構があっても宝の持ち腐れの状態になっています。訓練される機会の乏しい免疫機構は、いわば実戦経験のないアマチュア戦闘員のようなもので、本来、発動する必要もない、無害な花粉や食品などのアレルゲンに向かってしまい、これまでにないアレルギー疾患が顕在化したというわけです。

    快適なエアコンにも落とし穴があります。エアコンから送り出される空気は、冷暖房を問わず、乾いているため、皮膚を乾燥させてバリア機能を低下させてしまうのです。また、エアコンが普及したことにより、子供たちの発汗量が減少しており、これがアトピー性皮膚炎を悪化させている可能性も指摘されています。アトピー性皮膚炎において、汗は症状を悪化させる因子のひとつと考えられてきましたが、実は、適度の汗は、皮膚に潤いを与えることで乾燥を防ぎ、汗に含まれている抗菌物質により、病原体の感染を食い止める作用があります。 そのため、発汗量が低下すると、皮膚の乾燥が進み、バリア機能の低下を招き、アレルゲンの侵入のリスクが高まります。実際、アトピー性皮膚炎の患者さんでは皮膚の発汗量が低下しているというデータが確認されています。滴り落ちるような大量の汗は皮膚を過剰に刺激することで、アトピー性皮膚炎を増悪させる可能性がありますが、適度の汗は皮膚のバリア機能を守っているのです。

    さらに経皮感作の重要性を知らしめたのが、2011年に日本で起きた「茶のしずく石鹼事件」です。小麦を原料に使った「茶のしずく石鹼」を使用した人が、小麦アレルギーによる重篤なアナフィラキシーショックを次々に起こしたのです。被害者はじつに2000名以上に及び、大きな社会問題となりました。 当時販売されていた「茶のしずく石鹼」には、小麦の加工物「加水分解小麦」が含まれていました(現在発売されている同名の製品には含まれていません)。皮膚のバリア機能を突破して入ってきた加水分解小麦がアレルゲンとなり獲得免疫機構が誘導されたことで、体内に入ってきた小麦に対して激しいアナフィラキシーを起こしたのです。

    前述したとおり、光老化を防ぐ方法は明快です。まずは不必要な紫外線を受けないようにすることです。かつて健康増進のために日光浴が勧められたことがありますが、最新の皮膚医学では、健康的な小麦色の肌にするためだけに公園や海岸で日光浴をすることはむしろ有害だと考えられています。散歩したり屋外スポーツをしたりすることは、健康の維持管理をするうえで有用であり、たとえ紫外線を浴びたとしてもそれを上回る効用がありますが、小麦色の肌を求めるためだけに日焼けすることは、光老化をいたずらに進めるだけでお勧めできません。

    米国で日焼けマシーンの利用とメラノーマ発症の関係を探った疫学研究によると、30歳未満の女性が日焼けマシーンで日焼けした場合、メラノーマと診断されたグループに入る確率が6倍高かったという報告もあります。こうした疫学研究は、日焼けマシーンの使用とメラノーマの発症の因果関係を直接証明したわけではありませんが、こうした日焼けマシーンによるリスクは頭に入れておいたほうがよさそうです。

    皮膚常在微生物叢とは、文字どおり、ヒトの皮膚に恒常的に棲息している微生物の集合体を意味します。「私は毎日お風呂に入り、清潔にしているので、私の皮膚には微生物なんて一匹もいない」と気色ばむ方がいらっしゃるかもしれません。残念ながら、これは完全な思い込みです。肉眼には見えませんが、ヒトの皮膚には、無数の細菌や真菌、ウイルスが棲息しています。

    「運・鈍・根」という言葉がありますが、成功の三条件として考えられている、幸運に恵まれること、才に走らず地道に努めること、および根気づよいことを意味します。私の場合はまさにそれだったかなと振り返って感じます。 このように思いがけないことで人間関係が広がり、夢が実現することができます。私のささやかな趣味はジョギングとゴルフですが、ジョギングを通じてiPS細胞を発見された山中伸弥先生とよく一緒にマラソンを走ることになりました(次写真)。趣味が高じて、UTMBという約170㎞(累積標高10000m以上)ものトレランのレースに出場したりもしました。また、ゴルフでは、本庶佑先生とラウンドする機会にも恵まれました。ノーベル賞を受賞されるような方とともに時間を過ごすことで、さらに自分の視野が広がり、自身の成長にもつながりました。

  • アトピー患者としては興味深かった

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  • 「皮膚は臓器」というところと皮膚の免疫機能というところに興味をもって読みました。なるほど、そういわれればそうだ!あまりにも馴染み深く、毎日相対しているので、重要性なんて考えなかったけど、少しやけどしたりケガして粘膜がむき出しになると、とたんに精神的にもダメージをうける。知ってはいたが、ゴシゴシこすってはいけないということも納得。今、何十年かぶりであせもに少し悩んでいる。掻いちゃダメ!!と自分に言い聞かせる

  • はじめに にあるように、私たちにとって皮膚はきわめて身近な存在。ふだんは空気のように、その存在を意識する
    ことはないが、ひとたびその機能が損なわれると、さまざまな不具合が生じる。
    程度の大小があれど、もはや多くの幼児がかかるアトピー性皮膚炎によるかゆみをはじめ、擦り傷や切り傷による痛み、水虫(白)に代表される真菌や細菌による感染症などが起きると、Q0[(生活の質)は著しく低下する。
    全身火傷によって、皮膚の30%以上が損傷すると、ヒトは生命を維持することが難しくなるように、皮膚機能の著しい喪失は生死にもかかわり、生体維持に必須の臓器なのだ。

    本書では、皮膚の構造・機能・役割から、かゆみなど皮膚の炎症や病気が起こるメカニズムとその予防法、また老化とともに起こる皮膚のたるみ・シミ・シワ等の衰え、白髪化や抜毛について、紫外線の有益面と悪影響の量側面について、未来の皮膚医療について等が説明されている。
    少し専門的すぎるところもあったが、皮膚の機能を知る上では、好奇心を満たしてくれた。

    免疫性リアクション(アレルギー)
    皮膚への病原体や異物の侵入に際しては、搔破行動とともに免疫応答も発動される。最初に働くのが自然免疫系で、病原体や異物を感知した上皮細胞は炎症を誘導するサイトカインなどを分泌して免疫細胞を活性化させる。上皮細胞によって刺激を受けたマクロファージや樹状細胞が患部に集まってきた異物を捕食して排除する。
    局所で異物排除にあたった樹状細胞はリンパ節に移動し、その異物の断片を免疫反応を制御するヘルパーT細胞やキラーT細胞に抗原提示する。これにより異物に対して抗原特異的に反応する免疫細胞が誘導され、誘導された免疫細胞は、次回同じ異物が皮膚内に侵入した際に速やかにこれを排除する。これが獲得免疫機構。
    湿疹の多くは、獲得免疫機構によって引き起こされる過剰反応、アレルギーが原因で起こる。アレルギーは、通常は無害な物質に対して免疫系が過剰な反応をすることによって生じる。
    湿疹(皮膚炎)の治療においては、まず皮膚に侵入してきた病原体・異物やバリア機能が低下した原因を突き止め、その原因を取り除くことが基本。薬物治療は、湿疹の原因を取り除くものではなく、湿疹によって生じるかゆみなどを抑える対症療法的なものが主体となる。
    そして、アレルゲンが再度体内に入ると、ヒスタミンなどの化学物質をため込んだ肥満細胞の表面にあるIgE抗体とアレルゲンが結合することで、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が大量に放出され、アレルギー症状を引き起こす。

    花粉症
    鼻や目を通じて表皮組織に侵入した花粉の成分は、樹状細胞と呼ばれる免疫細胞に取り込まれる。次に樹状細胞は、免疫系の司令塔と呼ばれる「ヘルパーT細胞」に花粉の成分情報を伝える。ヘルパーT細胞はさらに、抗体を産生する免疫細胞「B細胞」に、この情報を伝達する。すると、B細胞は花粉成分に特異的に結合する「IgE抗体」を作り、大量に放出する。更にこのIgE抗体は、「肥満細胞」の表面に取り付いて次なる花粉の侵入に備える。この一連のプロセスを感作と呼ぶ。
    免疫応答の第一段階のプロセスである感作が成立すると、それ以降は迅速な免疫応答ができるようになる。再び、花粉成分が体内に侵入すると、この成分と特異的に結合するIgE抗体を持つ肥満細胞にくっつく。すると肥満細胞にため込んでいたヒスタミンなどの化学物質が放出され、その刺激で、鼻水やせきが出たり、目がかゆくなるなどの症状が現れる。これは、体内に入り込んだ花粉成分を排出するためであり、目がかゆくなるのも、目をこすることで目についた花粉成分を手を使って物理的に取り除こうとするためで、異物を速やかに本内から取り除くためのある種の防衛機構と言える。

    常在菌
    皮膚常在菌は、1cm2あたり数十万〜数百万個棲息しているといわれている。また腸内や口腔内にも存在し、1人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個といわれ、重さにして約1〜1.5kgとされている。
    皮膚常在菌が皮膚疾患の症状悪化に深くかかわっていることは、まず間違いない。ニキビの病変部では、正常皮膚の脂漏部位に常在しているアクネ桿菌が過剰に増殖して、毛包壁の破壊や好中球浸潤、膿疱形成を促進している。一方で、アクネ桿菌は表皮角化細胞に作用し、ニキビの炎症を誘導している。このように、皮膚常在菌のほどよいバランスが崩れて多様性が失われると、炎症をはじめとするさまざまな不調が現れる。

  • 物理的バリアたるのは当然として、さらに免疫器官としての皮膚についての論考が大部分を占める。自身も携わった最新の知見も含め、皮膚科の”いま”が分かりやすく提示される良書。結構スルーされがちな、美容皮膚科方面についてもある程度言及されているのも良い。

  • コレクチムの開発者による皮膚と免疫の本

  • はじめに 
    第1章 そもそも皮膚とはなにか?
    第2章 皮膚がなければ、人は死ぬ
     -生体防御器官としての皮膚
    第3章 なぜ「かゆく」なるのか? 感覚器官としての皮膚
    第4章 動物の皮膚とヒトの皮膚
    ー生き物が変われば皮膚も変わる
    第5章 皮膚の病気を考える
    ーどんな病気があるのか?
    第6章 アトピー性皮膚炎の科学
    ー現代人を悩ます皮膚の難病
    第7章 皮膚は衰える
    ー皮膚の老化とアンチエイジング 
    第8章 未来の皮膚医療はどう変わる?

    番外編 研究者になるための体験的・人生ガイド

  • 請求記号 491.396/Ka 11/2220

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著者プロフィール

京都大学医学研究科・皮膚科教授。1970年岐阜県生まれ北九州育ち。1996年京都大学医学部卒業。医学博士。横須賀米海軍病院・京都大学・米国ワシントン大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、産業医科大学などでの勤務を経て、2015年から現職。シンガポールA*Starシニア主任研究員(兼任)。日本皮膚科学会賞、免疫学会賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰などを受賞。皮膚の臨床(アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患)・研究(皮膚免疫・アレルギー疾患の病態の解明と臨床応用)・趣味(ランニング 「2020年の別府大分マラソン 2:54:37」・ゴルフ・温泉旅行)に日夜励んでいる。

「2022年 『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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