地政学と冷戦で読み解く戦後世界史

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065312247

作品紹介・あらすじ

今日のウクライナ紛争も、アフガニスタンの混迷も、中東諸国の対立も、すべては戦前の地政学上のグレートゲーム(ハートランドを巡る闘い)および戦後冷戦の時代にその原因がつくられたものだ。
欧米の歴史書、研究書から資料にいたるまで渉猟した翻訳家が平易な言葉で解説する「冷戦の世界戦後史」。

感想・レビュー・書評

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  • 品川駅構内にあるお気に入りの本屋さんで見つけた本です、地政学と戦後世界史という私の金銭に触れるキーワードが2つもタイトルにあり、思わず手にしていました。

    日本は太平洋戦争が終わってから戦争に参加していないので、平和ボケしている感がありますが、世界ではそれ以降も絶えず戦争が行われてきています。それも殆どがアメリカとロシアの対決のようです。この本は著者である玉置氏の40年にわたる研究の集大成です。彼の膨大な調査にかけた時間と、それらをまとめ上げた内容をこの本を買うことで触れることができるのは幸せだと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・明治維新以来、日本は150年に渡って西洋文化に親しんできた、特に第二次世界大戦後は民主主義が定着し、生活様式も社会構造も欧米型に近くなった。だが日本人が持つ「家」の意識や縦社会的な傾向などはユーラシアのイスラム諸国に見られる氏族社会によく似ており、昔の武士道の精神やロシアの伝統的な軍人精神と共通点がある。また日本人はインドに生まれた仏教の教えや古代中国の需要の考えに大きく影響されてきたし、神道はシベリアに古くから伝わるシャーニズムによく似ている。このように現代の日本は世界でも稀なハイブリッド文化の国である。日本はユーラシア大陸の外縁部から少しだけ離れた位置にあるので、内部と外部の要素を両方持っているのである(p7)

    ・戦後になって急に米英とソ連が敵対し始めたのには、資本主義と共産主義の対立以外にもう一つ大きな理由があった、共産主義が生まれる前から続いていた、大英帝国とロシア帝国の根深い対立である(p18)

    ・第二次世界大戦において、米英両国は自分たちの犠牲を最小限にしてドイツを破るためにソ連と同盟を組んだ(p23)

    ・アメリカ建国以来の歴史において、ノルマンディー上陸作戦では合計2万9204人が戦死している、これは一つの作戦で出した最大の戦死者数である、イギリスも1万人以上の戦死者を出している。上陸した米英軍は弱体化したドイツ軍にさえも手こずり、東進が億米ドルれたためフランスの解放もなかなか進まず、ドイツ東部をソ連軍に占領された(p24)


    ・米露両国は1907年にペルシャ、チベット、中央アジアにおける闘いをやめることに合意した、これによりロシアはパミール高原を確保、西トルキスタン(現在の中央アジア5カ国を占める地域)の支配を確立した、イギリスは東トルキスタン(新疆ウィグル)を得たが、管理する余裕がなかったので中国に譲った。英露のグレートゲームのおかげで中国は新疆ウィグルとチベットを棚ぼた状態で手に入れたことになった(p32)

    ・アメリカがレンドリース法によりイギリスやソ連に与えた軍事物質は、タダではなかった。後に負債額は大幅に減額されたものの、イギリスは1950年代初めから返済を続けた。ソ連崩壊後はロシアが返済を引き継ぎ、イギリスは終戦から61年後の2006年、ロシアも2000年代に返済を終えたと言われる(p38)

    ・イスタンブールは、アジアや中近東と欧州を結ぶ陸路の中継地点であるとともに、黒海と地中海を結ぶ水路に跨っている街でもある。これがトルコの重要性であり、その重要性は昔も今も変わらない(p47)

    ・1946年10月には、イスタンブールの海峡をめぐる睨み合いが米ソで続いたが、10月末にはソ連は艦船を引き上げた、その理由は、戦争末期の1944年10月に、チャーチルとスターリンの密約により、ドイツ降伏後は、ソ連がルーマニアの支配権の90%、イギリスがギリシアの支配圏の90%をとることが合意されていた。スターリンがギリシア共産党を支援せず、イギリスに妥協するように助言したのはそのためであった(p49)

    ・ギリシア左派への支援をイギリスから引き継いだ1ヶ月後の1947年3月にアメリカのトルーマン大統領はソ連による共産主義の拡散と闘うことを議会で宣言、これを持って共産主義との戦いが正式にアメリカの根本政策(トルーマンドクトリン)となった、ドクトリンとは外交の正式な根本政策を指す。アメリカはギリシアとトルコをソ連の脅威から守るために無償の経済・軍事援助を行うことを決定した(p52)トルコはかつて、東南ヨーロッパからアラビア、北アフリカに至る領域を数百年にわたって支配したオスマン帝国である(p58)

    ・アメリカ政府は第二次世界大戦後に原爆を米軍の管理から外して原子力委員会の管理下に置いていたが、朝鮮戦争の時の対応によって再び米軍の手に委ねられることになった。だが、統合参謀本部と原子力委員会はマッカーサーが不用意に原爆を使わないように、指揮権の及ばない戦略空軍の管理下においた(p118)

    ・朝鮮戦争は南北朝鮮の兵士、中国義勇軍に合計100万人以上の犠牲者を出したが、米軍も大きな被害を被った、戦場での死者は合計3万人を超えている。にもかかわらず朝鮮戦争はアメリカ政府はもちろん、帰還兵・国民もその実態を語ることが殆どなかった戦争であった(p124)

    ・アメリカの戦略核戦力は、ICBM(地上サイロから発射)、SLBM(潜水から発射)の2つに、B52戦略爆撃機を加えた3つの柱で成り立つようになった(p152)

    ・ベトナム戦争が始まった遠因は、朝鮮戦争と同様に、日本が太平洋戦争に敗れたことにあった(p202)日本の敗戦が濃厚になった1945年3月、ベトナム駐留日本軍はフランス軍を攻撃して、ベトナムに200年前から続く王家の王を皇帝にして、ベトナム帝国の独立を宣言した。駐留フランス軍は日本軍に降伏した、アメリカは支援しなかった(p203)

    ・北爆(1965年3月開始)は、それまで南ベトナムで行われていた空爆とは意味が違っていた、南ベトナムにおける戦いは内戦だが、北ベトナム爆撃とは、アメリカが北ベトナムをいう主権国家を宣戦布告もなしに、大規模・長期的・継続的に爆撃し始めたということ(p213)さらに、アメリカを含む世界のメディアが現地な悲惨な状況をニュースで伝えたことが特筆すべき点である(p215)

    ・1969年1月に大統領に就任したニクソンの課題はアメリカの立て直しでそれまでの根本政策を転換する4つの決定をした、1)ベトナムから撤退、2)中国封じ込めをやめ国交開く、3)ソ連を緊張緩和、4)ドル金の交換を停止(p239)さらに徴兵制度も廃止した、富裕層の子弟が徴兵される心配をなくした、低所得層の若者はたくさんいて兵士の募集には困らない(p240)

    ・世界が落ち着き始めた1948年くらいからドルとの交換比率が固定された国々の間え貿易は増え始めた、ドルはポンドから国際通貨の座を奪い、1968年頃までは安定した黄金時代を送った。(p254)ドル流出の最大の原因は、外国製品の輸入による赤字でなく、世界中に展開する米軍とベトナム戦争であった(p255)朝鮮戦争、ベトナム戦争という膨大な戦費を欠けた大きな戦争で、賠償金を取れず、戦費をまかなうために国債を発行した(p256)

    ・1960年代も半ばを過ぎると、世界市場で金が1オンス40ドルにもなったので、所有するドルをアメリカで金と交換すれば大儲けできることになった。アメリカ政府は35ドルで交換しなければならないから。西欧諸国は自国が保有するドルを菌と交換してほしいと迫った、ドルを守るために「ドルと金の交換停止」を行った(p257)

    ・キッシンジャーが考え出したオイルダラーのシステムとは、1)各国はサウジアラビア原油をドルで買う、2)サウジアラビアは原油の輸出で得たドルを西側の銀行に預ける、その交換条件として、1)米軍がサウジアラビアとその油田を守る、2)アメリカはサウジアラビアに兵器を売り、軍隊を訓練する(p260)それらの銀行が米国債を買うように義務付けた(p262)

    ・自国通貨を為替市場でドルに替えて支払いをしているだけでは手数料も巨大になり国富が出ていくばかり、それ以外にドルを手にする方法は、アメリカに自国のモノを輸出すること。オイルダラーシステムに移行してからは、ますます対米輸出を拡大した(p261)ソ連はその直後から経済発展競争で大きく遅れをとった(p262)

    ・2020年5月にトランプ大統領はサウジアラビアに配備している防空ミサイルを引き上げるとした、これはオイルダラーシステムをやめることを意味する、バイデン大統領も2021年9月に防空ミサイルの撤収を発表した(p263)

    ・1991年12月8日、ロシアエリツィンは、ロシア・ベラルーシ・ウクライナの3共和国がそれから数日のうちに条約を批准してソ連から正式に脱退、21日にはカザフスタンで開かれた会議で、アルメニア・アゼルバイジャン・モルドバ・中央アジア5カ国も離脱して新しい共同体加入した、グルジアは1993年に加入、バルト3国は独立・離脱のみで、未加入であった(p359)

    ・1998年までにロシアの農業の80%が破産、分離後の数年間でGDPが50%低下し、通貨は紙切れ同然になった(p363)

    2023年3月12日読了
    2023年3月12日作成

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著者プロフィール

1949年、東京生まれ。翻訳家・ノンフィクション作家。航空機開発エンジニアを志し、1968年、東京都立大学工学部に進学。当時のベトナム戦争や70年安保騒動に関心を深め、沖縄に駐留する米兵たちと交流。最新の科学技術がベトナムで殺戮に使われる現実に幻滅し、エンジニアの道を断念。1978年に渡米後、ビジネス技術翻訳・リサーチを手掛ける。仕事を通じて、ベトナム戦争や湾岸戦争の帰還兵、軍需産業関係者ほか多彩な人脈を築くとともに、多数の英文書籍や文献を研究し、国際政治や地政学に関する理解を深め、翻訳を通じて出版の世界にも活動範囲を広げる。これまでの主な翻訳書としては、ベストセラーになった『毒になる親』(毎日新聞社/講談社+α文庫)がつとに知られているが、近年では国際関係に関する知識を活かした『「三つの帝国」の時代』『インテリジェンス 闇の戦争』(ともに講談社)、『トップシークレット・アメリカ 最高機密に覆われる国家』『ロッキード・マーティン 巨大軍需企業の内幕』『中国の産業スパイ網』(いずれも草思社)など。本書は、渡米以来40年余におよぶ著者の国際政治・地政に関する独自の研究の成果が集約されている

「2023年 『地政学と冷戦で読み解く戦後世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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