未完の天才 南方熊楠 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065326367

作品紹介・あらすじ

なぜ熊楠は完成を嫌ったのか?
驚くべき才能を多方面に発揮しながら、
その仕事のほとんどが未完に終わった南方熊楠。
最新の研究成果や新発見資料をとりあげながら、
熊楠の生涯を辿り、
その「天才性」と「未完性」の謎に迫る!

<熊楠をめぐる13の謎>
・十数年前にとったノートの内容をそらで思い出せる記憶力
・51篇も論考を発表していた「ネイチャー」への投稿を中止
・渡英後、熱中していた植物学の研究を停止
・大英博物館に迎えられてから、何をしていたのか
・語学の天才・熊楠の勉強法とは?
・「エコロジーの先駆者」だが、数年でフェードアウト
・なぜ「希少な生物」だけでなく「ありふれた植物」も守ろうとしたのか
・「人類史上、もっとも文字を書いた男」と呼ばれる理由
・どうして一度も定職に就かなかったのか
・ともに民俗学の礎を築いた柳田国男と喧嘩別れ
・変形菌(粘菌)の新種は発表したが、キノコの新種は未発表
・なぜ夢の研究を長年続けたのか
・集大成となるような本を、どうして出版しなかったのか

感想・レビュー・書評

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  • 志村 真幸『南方熊楠のロンドン ― 国際学術雑誌と近代科学の進歩』 受賞者一覧・選評 サントリー学芸賞 サントリー文化財団(2020年)
    https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/202006.html

    未完の天才 南方熊楠 | 現代新書 | 講談社
    https://gendai.media/list/books/gendai-shinsho/9784065326367

    『未完の天才 南方熊楠』(志村 真幸):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000379390

  • 学問それ自体が楽しいから学問する。
    これはいつの時代でもあるべき本来の姿だ。
    しかしこれを徹底するには別途、生活の糧がなくてはならない。
    実家が太いとか、財産や田畑があるとか。
    ダーウィンもそれゆえ在野の研究者でいられたし、Gマルセルも文筆で稼ぎつつ在野の研究者を貫いた。メディチ家に干されたあとのマキャベリも、キャンティを産出するブドウ畑付きの山荘を受け継いでいたから、質素ではあるが安定した暮らしの中で不朽の論評を書きえたといえる。
    「生活のため」がないからこそ時間をかけて、本当に好きなテーマに取り組める。
    (政治家にもそういう側面があって、だから二世、三世が必ずしも悪いこととは思わない)
    いいなあ。うらやましいな。
    でも、そこまで自分を律するのもハードルが高いにちがいない。 
    常人にとって義務は重荷だが、全くないのも自由の海に溺れてしまう。
    現実には、アカデミックポストの獲得、生活、名誉、公的利益のための仕事と、自分の好きなことを織り混ぜながら、うまいことやっていくしかない。
    凡人にすぎない私はそう思うのであった。

  • 本書を読めば、熊楠に魅かれていた理由が、彼の思想にあるのか、それとも彼自身にあるのか、きっと自問するはず。
    彼は最後まで「仕事を完成させなかった」と言われる。
    長年の研究を一つの著作や論考に結実させる事はなかった、と。
    一方で、卓越した記憶力、無数の言語を操り、多方面に渡って活躍した天賦の才人と評せられる人物像も、近年の研究でいくつかの伝説が否定されてきている。
    本書では、そうした虚像を剥いだ等身大の姿が示される。
    人付き合いが苦手で引きこもりだが、天才ぶりのアピールには余念がない男。
    ロンドン帰りを鼻にかけ、日本の研究者と同列に扱われることを嫌うプライドの高さ。
    インプットとアウトプットが極端にバランスを欠いているのは、一生を在野のアマチュア研究者として通したため、アウトプットする必要がなかったのだ。
    収集家だが、網羅しコンプリートをめざすコレクターではない。
    変性菌だけでなくキノコも熱中して集めたが、すべてを集め尽くし、その道の泰斗は決して目指さない。

    牧野が熊楠を同じ植物学者だと認めなかった理由は、ロンドンでの転向に帰因する。
    熊楠がロンドンで植物採集をやめてしまったのは、新たな森に出会ったため。
    雑誌『ネイチャー』で、東洋の紹介者として、東洋の科学史や比較文化を執筆する機会を得たこと。
    そして、大英博物館のリーディングルームという本の森に出会ったことも大きい。
    ここで彼は好きな本を心ゆくまで読み、筆写する喜びを知る。
    ここは晩年になっても戻りたい場所として記憶され、ここでの時間が生涯にわたる財産となった。

    彼は最も文字を書いた人間と評されるが、彼ほど「書いて覚える」を徹底した人はいない。
    書写の効能と快感は凄まじく、ひたすら書き写すことで、百科事典から多言語まで記憶していったのだ。

    植物採集し新種の変形菌を発見した神社がなくなったことへの怒りから関わり始めた神社合祀反対運動だが、この背景がとにかく面白い。
    和歌山のみかんや梅がこれほど神社合祀と関係していたとは思わなかった。
    和歌山で神社合祀が極端なまで先鋭化していった理由はこれまで、明治維新によって大量の木材需要が生まれ、紀州の木々の利用価値が高まったことが背景だと考えていた。
    実は、上からの強制や有力者の私利私欲ばかりではなかったのだ。
    紀州における作物転換、すなわち水田からみかん畑や梅林への切り替えが進んだことが原因だったのだ。
    村一番の祭りは稲の収穫を感謝する秋に行われるが、みかんは12月から3月、梅なら6月に収穫される。
    つまり、収穫祭と連動していた祭りの意義が、収穫時期のズレによって薄れてしまうと、村の生活サイクルが崩れ、神への感謝の気持ちにも影響したのだ。

    また、南方熊楠は現在「エコロジーの先駆者」と語られることが多いが、彼の神社合祀反対運動は非常に新しかった。
    信仰の拠り所を失う危機感からではなく、鎮守の森という生態系の機能が失われることへの恐れに端を発していたからだ。
    希少なモノだけの保護を訴えたのではない。
    ありふれたモノも含めて全体を保護すべしと考えたのだ。
    何かが欠けたら、たちまち全体が崩れ、けっして復元しえないのだから、と。
    「世界にまるで不要なものなし」なのだ。

    エコロジーだ、社会運動だといっても シュプレヒコールを挙げたり横断幕を掲げて練り歩くのではなかった。
    出不精なので、現地にも出向かない。
    ただ助けてくれという村人の訴えを聞いて、伐採承認の印を求めてきた役人を接待し酒を飲ませて、期限切れまで粘れとアドバイスを送るのだ。

  • 著者のこれまでの著作では、熊楠の行っていた学問に対し著者が抱く不満や、自らが日々取り組んでいる学問との差異が強調されることが多かった。このたびの著書でもその差異が扱われているが、しかしそれが熊楠への不満としてではなく、なぜそのような姿勢で熊楠が学問し続けたのかを解き明かす方向へと向いている。同時代の牧野富太郎や柳田國男と熊楠のすれ違いにも触れつつ、熊楠が扱った数々のテーマはどれも方法論が当時未確立であったことや、網羅・コンプリートしづらいものであったこと、それゆえ、いつまでも結論が出せず、答えが出ない研究であったこと、熊楠にとって学問とは結論を出すためのものではなく、書き(描き)写すことによって自身の中に巨大なデータベースを作り上げることであり、それ自体を楽しんでいたのではないか、と、熊楠の胸の内を押し量っている。

  • 日本の天才の代名詞とも呼ぶべき南方熊楠が、実際のところどのような功績を残したと考えるべきなのか。

    その生い立ちから遡り、当時の時代性の制限の下、何をどのように研究し続けたのかは今持ってなお研究が進められていることに関心を抱く。天才と称される諸人物の中でも熊楠独自の特性が垣間見られ、彼への「未完」という形容に納得しながらも、伝記として描き下ろされた際の興趣に心惹かれる。

    「縛られた巨人」という平成初期の伝記らしきものは、章立てからすると本著との差異がありそうにも思うが、時代間の南方熊楠像の変遷を辿る試みに繋がりそうではある。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/802258

  • 京都府立大学附属図書館OPAC↓
    https://opacs.pref.kyoto.lg.jp/opac/volume/1272522?locate=ja&target=l

  • 289-S
    閲覧新書

  • 東2法経図・6F開架:B1/2/2710/K

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著者プロフィール

1977年、神奈川県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。南方熊楠顕彰会理事、慶應義塾大学非常勤講師。専攻は、比較文化研究。
著書に、『熊楠と幽霊』(集英社インターナショナル、2021)、『南方熊楠のロンドン』(慶應義塾大学出版会、2020)など。

「2021年 『日本の体罰 学校とスポーツの人類学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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