新古事記

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065326831

作品紹介・あらすじ

第二次大戦日米開戦後のアメリカ。咸臨丸の船員だった日本人の血を受け継ぐアデラは、日系移民に対する排斥が厳しさを増すカリフォルニアから逃れるように、若き物理学研究者で恋人のベンジャミンとニューメキシコ行きの列車に飛び乗った。行き先はアメリカ軍機密の場所「Y地」。敷地に併設するように建てられた動物病院で働きながら、やがて原爆開発を成功させることになるロスアラモス研究所でベンジャミンと暮らすようになる。

感想・レビュー・書評

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  • 忘れられない一冊。

    パッと見、このタイトルからこの物語を誰が想像できるだろう。

    舞台は1943年、アメリカ軍機密基地「Y地」。

    妊娠、出産、淡々と営まれる女たちの日常。

    そのすぐ隣で淡々とすすめられる男たちの原爆開発研究。

    男は仕事について何も語らず、女はなんとなく察しつつも決して尋ねない。

    この対比はもちろん、暗黙の了解で成り立つ世界に終始薄ら寒さが続いた。

    一瞬の閃光、人の手によって生み出されていく地獄が忘れられない。"火"、この漢字が意味するもが忘れられない。

    人間による天地創造が今なお続いていることを感じる良書。

  • 九州からアジア眺め 「境界」描く意欲作続く 村田喜代子さん(作家):東京新聞 TOKYO Web(2019年6月8日)
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/3282

    村田喜代子「語る」:/上 戦争の記憶の継承 「何も知らない」痛感 /福岡 | 毎日新聞(2019/8/16 有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20190816/ddl/k40/040/331000c

    仕事の現場:作家 村田喜代子さん 世界や人間の根源へ | 毎日新聞(2020/1/12 有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20200112/ddv/010/040/001000c

    森鷗外 没後100年「いまこそ読みたい鷗外(2) 村田喜代子さん」 | NHK(2022年7月15日)
    https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220715c.html

    新古事記 村田 喜代子(著・文・その他) - 講談社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065326831

  • あるアメリカ人女性(フィリス・K・フィッシャー)の『ロスアラモスからヒロシマへ 米原爆開発科学者の妻の手記』を村田喜代子氏が小説にされた作品。

    読み始めから「文明の行く末」に嫌な気持ちの不安を感じながら進みます。
    語り手若い女性の語り口が明るい(作者の手腕)のがちょっと救いだが、日系であることを秘めていることにされたのが、またぞろ不安を増しながらの読書...。

    場所はニューメキシコ、アルバカーキやサンタ・フェ近郊のロス・アラモス。ちゃんと地図にありました。それがまた恐ろしい。いえ、もう起こったことです。

    科学者の若い妻も知らされていなかったでしょうが、わたしたち幼児だった日本人も知らなかった事実。
    しかし、しかし、小学生のころ、日本人漁業者が被ばくしてしまう、ビキニ環礁での水爆実験はものすごく印象が強い。冷戦...その後も実験を続けていって...。

    そしていまは核弾頭を多く持っている国が連なっている。
    ロシア、アメリカ、フランス、イギリス、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮......。

  • いやいや、原爆開発現場のすぐ隣で続く出産と犬病院の日常。失礼ながら、喜寿を超えての旺盛な創作意欲にただただ脱帽。タイトルも意味深。「勇者って人殺しと泥棒に長けた男たちのこと」「多くの物を持つより何も持たない方が厄介事は起こらないものだ」神と悪魔が肩を並べて一人の人間の中で共存できてしまう⁈昨日から再びイスラエルが戦争状態に突入。人は何も学べないのか…

  • 淡々と進む不思議な魅力の小説。原爆開発の機密都市での研究者の妻たちのドラマを描く。

    「ロスアラモスからヒロシマへ」という一科学者の妻の手記が原案の小説。ニューメキシコの荒涼とした土地に隔離された研究者とその家族だけが暮らす町での出来事が淡々と描かれる。

    題名に古事記を入れたところは、天地創造と圧倒的に破壊力を手にした人類との対比か。

    「われは死なり世界の破壊者となれり」オッペンハイマー博士が語ったヒンズー聖典の一行が印象に残る。

  • 今年の目標は読んだ本はすぐに評価する!これをしないと読み終えた感動や憤りが忘れられて文章化できなくなるw
    さて
    古事記を読んだことがない。というか、昔の表記が苦手でこの本は現代語訳化されたほんとばかしに勘違いして読んだのである。で、なんだこれは?オッペンハイマーが出てきた瞬間から全然思っていたのと違うとばかりに頭が拒絶反応を起こし、冒頭はまったく内容が頭に入らず後悔しかなかったが、読み進めていくうちに(決して途中放棄しないのがモットー)、Y地で原子力爆弾の開発チームが活動しており、その研究者の恋人が診療所に預けられる犬の世話をする隠れみの日系三世の女性の物語という筋書きに納得し、もう”古事記”というつながりは捨てて、その女性の物語として読むとまぁ、悪くない(笑
    シリアスなんだか日和見なんだかよくわからない雰囲気の中、研究者の恋人が開発が完成に向かうにつれて塞ぎ込み、Y地全体が異様なムードに圧され、そして実弾実験での脅威、日本への投下と戦争小説とはまた違った視点での物語はそれなりに読めた、が、現実味もなく切迫した感もなく、気の抜けたサイダーを飲み続けたような読書感で終わった

  • 新古事記と名付けた作者の思いをいろいろ考えています。

  • 知っている史実と全然知らなかった史実から出来た奥深い物語でした。歴史小説とは違う語り方で物理、哲学、宗教、国の成り立ち、人種…そしてあの原子力爆弾が描かれている。良い時間が過ごせたと思う。

  •  予備知識なしで手に取り、読み始めて驚いた。
    「古事記」の現代版だと思っていたからだ。
     翻訳小説のような文体からか、少し引いた感覚で物語を捉えてしまった。
    しかし、ひとりの女性の隔離された暮らしの記録、と読むとその淡々とした日常の裏に、恐ろしいことが計画実行されている現実があり、知らされない怖さを教えてくれる。
     その、よくわからない、ぼんやりした違和感を覚えつつ、淡々と暮らしていくことは、現代の私たちにも繋がっているのかもしれない。

  • 村上喜代子小説の中でも、好きなタイプ!
    読み始めてすぐに、そう感じる。
    読み終えて今、この静かな何かが心の中に広がっている。

    村上・新刊と言うことで何の情報も無いまま読んだので、
    てっきり日本を舞台にした、ファンタジーめいた小説家と思っていた。

    どっこい!

    太平洋戦争下のアメリカ。
    それも舞台はロスアラモスだ。(当初は明かされない)
    日系3世の主人公アデラは婚約者ベンジャミンと共に
    極秘の旅に出る。
    折しも日系人は収容所へ入ることになるかもしれないという。
    そんな中、二人が着いたは秘密の研究所だったわけ。

    オッペンハイマー、ファインマンらビッグネームが続々と現われるので
    歴史を知る読者には、ベンジャミンが何の研究をしているのか、が
    わかる。

    秘密の土地はもともと先住民の世界。
    基地のすぐ外の動物病院の受付係として雇われたアデラは
    先住民の手伝いの女性とも親しくなる。
    同僚はイタリア系、仲良くなった奥さんはユダヤ系・・・
    アメリカはいろいろな祖先をもつ人の集まりなのだ。

    村上氏は、淡々とした筆致でアデラの目線で
    原子爆弾の研究に携わる国、男達について問いかける。
    それは現代の私達が感じる疑問。

    でも・・・

    ヒトラーより早く原子爆弾を開発しなければ・・・と
    言う気持ちは当時の本音だったのだろう。
    そこはアデラも同じ。
    彼女mアメリカ人なのだから。

    それでも原子爆弾の実験に成功したそのときは?
    研究者は、その余りの威力に驚き、使用に当たって申し入れをするも後の祭り。

    このあたり、小説の元になったのはフィッシャーの妻による日記だという。
    (この翻訳にまつわる巻末のエピソードも興味深い)

    ・・・「新古事記」の意味は、思った通り。
    それを期待以上に、淡々と知的に描くのが、村田喜代子流。

    何度も繰り返し読んでいきたい小説。


    余談だが、今、サティの「ジムノペティ1」を弾き聴いている。
    タイトルの意味は古代ギリシアで詩人が戦死者を悼む祭だそうだ。
    なるほどよく聴くと恋の歌ではない。
    たゆとうような調べは村田喜代子「姉の島」のイメージだなぁと感じる。

    「新古事記」の荒涼たる景色も、どこか通じる気がした。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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