疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065343852

作品紹介・あらすじ

疲労することが恥とされてきた欧米では、疲労の研究はタブーとされ、結果として、日本が世界の疲労研究をリードしてきた。しかしいま、うつ病や新型コロナ後遺症によって、疲労は世界共通の大問題となってきた! どうすれば科学的なアプローチができるのかもわからなかった疲労研究において、疲労の度合いを正確に測定する方法などを開発して世界のトップランナーとなっている著者が、そもそも疲労とはなにか、ヒトはなぜ疲労するのか、疲労を起こすメカニズムはどのようなものかを説く、かつてなかった疲労を科学する本!

感想・レビュー・書評

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  • 疲労って、身体や精神に負荷を与えると感じるもので、それは人の感受性でレベルは変わるし、例えばきつい仕事でも、自分のためになると言うポジティブな気持ちでいたら、疲労なんて感じないでしょ、と思っていたが、どうやらそんな単純なものではないようだ。
    疲労には、①生理的疲労 ②病的疲労 があり、生理的疲労の疲労感は、末梢組織の炎症性サイトカインが脳に入ることで生じるとのこと。
    「疲労は精神の持ちよう」と言う考えは「疲労感がマスクされる」と言い、これも心身疲労を気付かずに無理をし、心筋梗塞や脳卒中等で急死する原因となるようだ。

    専門的な単語が多く、説明もついていけないところは多かったが、それは著者がSITH-6と言う疲労やうつ病の原因となる遺伝子を発見したと言うことで、それなりの説明を要したのだろう。
    一般の人は、あまり専門的なことより、題名「疲労とはなにか」にある通り、そのメカニズムがイメージ出来るだけで充分。なので、詳しく述べているところは飛びし読み。

    学べたこと
    うつ病の定義で、次のどちらかがあることは必須。
    ・殆ど一日中、抑うつ気分を感じる
    ・殆ど一日中、すべての活動に興味や喜びを感じない

    うつ病は病的疲労であり、主な症状の一つは疲労感。それは脳内炎症によって生じる。
    そしてS1TH-1と言う遺伝子は、うつ病を引き起こす原因とみられる。

    うつ病になりやすい性格の特徴は、真面目、仕事熱心、秩序やルールに忠実、献身的、責任感が強い、頼まれると嫌とは言えない、といったものが挙げられ、ストレス耐性が低い性格ともいえるが、ストレス耐性の高い人の性格を見ると、対人関係に極めて鈍感で戦力にならないという結果が出るようだ。

    脳の抗炎症機構が正常に働いていれば、労働や運動による疲労で炎症性サイトカインが大量に産生されても、脳内炎症は起こらず、病的疲労にまでは至らない。

    疲労感は組織に危機が近づいていることを知らせる「生体アラーム」なので、疲労感を弱めてしまってはいけない一方、身の危険から逃げる時は疲労感による行動抑制は、死に直結する。そこで役に立つのが、ストレス応答によって疲労感を抑制するシステム。
    しかしこの状態は、副腎皮質ホルモンとアドレナリンやノルアドレナリンによって「疲労感」が抑制されているだけなので、「疲労」即ちeIF2αのリン酸化による細胞の障害は、どんどん蓄積され過労死に至る。

    怖いエナジードリンク
    酸化ストレスは、生理的疲労の原因であるeIF2αのリン酸化を誘導する因子の一つ。
    エナジードリンクに入っている抗酸化成分は、このeIF2αリン酸化を抑制する可能性がある。ところが実験の結果、疲労感のもととなる炎症性サイトカインが最も強く起こる肝臓ではeIF2αリン酸化は抑制されたが、他の組織では全く抑制されていなかった。
    恐ろしいのは、抗酸化剤によって疲労感のもとになる肝臓で産生される炎症性サイトカインが減少するため、脳は「疲れていない」と解釈し、体を休ませるシグナルを出さないことだ。このため、他の組織を使って過剰なeIF2αリン酸化を生じさせてしまい、組織の障害や、ひいては突然死を招いてしまう可能性があるのだ。

  • 疲労と、ヘルペスウイルスの再活性化と、コロナ後遺症と、うつ病と。
    これらの病態やメカニズムが繋がった!という話。疾患概念の歴史的背景や、著者の発見に至るまでの道筋も含めて、とても面白く読んだ。
    ここに書かれていることの真価や妥当性は、周辺知識を勉強したり歴史の評価を待ったりする必要があるとは思うので、うつ病やコロナ後遺症の原因が分かった!とまで言っていいかは割り引いて捉える必要があるとは思う。とはいえ、この発見にまつわるストーリーには興奮させられた。コラム的な脱線話を適度に織り交ぜつつも、全体的に非常にコンパクトにまとめられており、サクッと読めてしまうのも良かった。
    図解も含みながらとてもわかりやすく書かれているので、基礎知識ゼロでも十分楽しめると思う。分子生物学的な知識(遺伝子の転写とか翻訳とか)があると、よりスムーズに理解できそう。

    疲労に関する科学・医学があまり進んでいないというのは、意外な感じもしつつ、なんとなく納得もした。疲労と疲労感は別物だという話もあったが、私たちが日常で疲労と呼んでいるものにも、実際はいろんな種類があるのだと思う。疲労の科学が進んで、より色々なことが統合的に理解されると良いと思う。

  • 疲労と疲労感の違いさえ、よく分かっていなかったのでとても勉強になった。
    コロナの後遺症やウツなど、身近な例が挙げられていて分かりやすかった。疲労とは脳の炎症だった。
    真面目な部分も良かったけれど、SF的な見解と前置きして語られていた箇所が特に面白かった。ロマンがあふれていた。この部分だけで本を出して欲しいと思った。

  • 疲労と疲労感の違い、疲労にも生理的疲労と病的疲労がある。
    ストレス応答で疲労感は抑制されるというのは意外だが、読んでてなるほどと思えた。
    病的疲労の一つ、うつ病は脳内炎症で、SITH-1遺伝子が原因。
    新型コロナ後遺症は慢性疲労症候群に似ているため、その治療薬は抗うつ薬となる可能性がある。
    ウィスル増殖や脳外から加わる炎症性サイトカインは炎症を増加させるアクセルではなくブレーキの故障。
    疲労は脳の炎症でなくすことはできず、うつをなくすことも得策ではない。
    で?となったが、万能薬はないので日々体調を確認しながら共存していくしかないのね。
    33冊目読了。

  • 難しくて面白くないと感じたが、「疲労とは何か」を解明しようとする試みには腑に落ちた。疲労のメカニズムに光を当て、日々の生活での戦いに勇気を与える内容だった。

  • ■どんな本か
    疲労には短期間で回復する「生理的疲労」と長期間継続する「病的疲労」がある。病的疲労には、慢性疲労症候群(ME/CSF)、うつ病、新型コロナ後遺症、などが挙げられるが、いずれも脳の炎症が原因とされる。本書では、脳の炎症がどのようにして起きるのか、なぜ長期化するのか、そのメカニズムについて、著者の発見が紹介されている。
    ■疑問点
    ・うつ病患者の79.8%がSITH-1抗体を持っているのに対し、健常者では24.4%だった(オッズ比: 12.2倍)。このような結果が出ているのに、なぜGWASではSITH-1は発見されなかったのか?GWASで調べられる遺伝子とSITH-1は別物なのか?
    ・そもそも「脳内に炎症」とはどういう状態なのか?
    ■感想
    ・GWASやウイルスについても学んでみたいというモチベーションが湧いた。
    ・新型コロナ後遺症に対するドネペジルの第Ⅱ層臨床試験に注目したい。
    ・話がいったりきたりするためややわかりづらさを感じた。
    ・第6章において、ホモサピエンスがネアンデルタール人に勝ったのは、HHV-6Bへの感染によって、不安、恐怖、怒りといった感情を獲得したからではないかという仮説を、聖書の話と照らし合わせながら展開しているのが面白い。

  • 生理的疲労 疲労により細胞に負荷をかけるとIRSが反応細胞の動きを止めm炎症性サイトカインを産生、脳に伝わり疲労感をもたらす。

    疲労感:ISRにより生産された炎症性サイトカインが脳に伝わり生じる感覚
    疲労:ISRを引き起こすeIF2aのリン酸化による細胞の停止や細胞死
    ISRによる炎症性サイトカインの発生量は疲労により量が変わる。疲労が強いといときは生産を減少させ、過剰な炎症や自己免疫性疾患に進展させないよう生成を抑える。

    略語 
    HHV-6 ヒトヘルペスウイルス6
    統合的ストレス応答 ISR 酸化ストレス、小胞体ストレス、アミノ酸不足、ウイルス感染などの様々なストレスに対応し、mRNAでのたんぱく質合成をする際にeIF2aをリン酸化するこれによりたんぱく質合成ができなくなっている。強く反応した時はアポトーシスを引き起こすことも。先の合成できなくなったたんぱく質と葉別の、ストレスに応答するためのたんぱく質も作られる。これによりHHV-6 の遺伝子に働きかけ再活性化を引き起こす。
    HPA軸と疲労感 ノルアドレナリン、アドレナリンは興奮すると疲労感を抑制する。副腎皮質ホルモン(一尾庵的にステロイドホルモン)は炎症性サイトカインを抑制するこれにより疲労感を弱める。ストレス反応は「闘争・逃避反応」とも言われ、いざというときに疲労感で動けなくなるのを防ぐため、疲労感が少なくされると考えられている。疲労感をあまり感じていなくても、HPA軸によるeIF2aのリン酸化による細胞の障害は蓄積されて行っている。この蓄積が過労死(心不全などの臓器障害)につながっていると考えられている。

    ストレス応答は疲憊期(ヒハイキ)ももたらす。HPA軸の細胞が疲れ切り、」副腎皮質ホルモンが出なくなる。炎症性サイトカインを抑制できなくなり濃度上昇。疲労感も一気に高まり、疲労困憊状態になる。

    エナジードリンクによる疲労軽減 ドリンクに入っている抗酸化成分はリン酸化を抑え疲労もよくせいできる。心臓、脳、きんにくなど体の組織では抑制されないことが分かってきている。
    抗酸化剤により肝臓で生成される疲労感の元、炎症性サイトカインは抑制され、脳は疲れていないと判断し、体を休ませるシグナルを出せなくなる。→体の組織を使い過剰なリン酸化を引き起こす。
    →組織の障害・・・過労死へと続く。

    生理的疲労から回復するには、リン酸化eIF2a脱リン酸化酵素の生成を促せばよい。→軽い運動で促せる。
    ビタミンB1は不足すると疲労回復力が大きく低下する。
    下記栄養成分は、リン酸化eIF2a脱リン酸化酵素を増加作用、疲労回復指数をぞうかさせる作用がある(=生理的疲労を回復させる)また心臓での炎症性サイトカインの抑制もしている。かんぞうにおける炎症性サイトカインの抑制は抗酸化性物質よりもつよくはない。(摂取しても疲労感の低減、疲れが取れたとは感じにくい。
    ・ガンマ・オリザノール 米糖に含ませる成分
    ・ケルセチン 卵やリンゴに多く含まれる
    ・アンセリン イミダゾールペプチドの一種。持久力のある肉類に多く含まれる(マス・カツオ・鶏むねにくなどあ9
    ・ベータ・アラニン 哺乳類の筋肉に含まれるカルノシンの分解によって生じる。

    慢性疲労症候群
    その原因はほとんど不明


    うつ病の診断 喜びの消失、抑うつ気分 疲労感
    原因として最も重要視されているのは、脳の炎症(脳内の炎症性サイトカイン)
    この炎症の原因は何か=うつ病の原因は何か と考えられている。うつ秒は遺伝性があり、30から50パーセントとされる。これは高血圧の遺伝率とほぼ同じ。腸内マイクロバイオームが関係しているのではともされていたが影響されるのはアレルギーと脂質異常症=肥満とわかり、腸内の炎症が脳の炎症を亢進するのではないかとの仮説の段階になっている。以前の研究ででた腸内細菌とうつ病に関係があるのでないかは、無菌マウスを利用した実験で、腸内細菌を0にするとうつ病になるとい現象を観察したに過ぎなかった。
    筆者はうつ病を引き起こす原因とされる、「SITH-1」を発見。これはHHV-6が宿主のアストロサイトに潜伏感染しているときに発言する。環境因はストレスと疲労。SITH-1を発現させたマウスは小さなストレスでもHPA軸が過剰に反応し打つ症状を引き起こした。が脳内炎症は見られなかった。うつ病が遺伝するように見られるのは、HHV-6が親から子へ感染するためとみられている。

    SITH-1はアセチルコリンを不足を引き起こすことが分かっている。

    新型コロナ後遺症は脳の炎症が原因と考えられている。通常の抗炎症薬では改善されず、認知症治療薬の「アリセプト」が使用されている。この薬は脳内のアセチルコリン生成を促す作用がある。脳内の
    アセチルコリン減少は脳ない炎症を引きおこしていた。

    うつ病患者 脳内炎症はSITH-1+炎症性サイトカインの火種、疲労が引き起こされる。

    新型コロナ後遺症の長期化のメカニズムは不明
    新型コロナ後遺症で検出される自己抗体は慢性疲労症候群で検出される自己抗体も多く含まれている。が自己免疫がどのように誘導されいるかそしてドノヨウニ疾患を引き起こすかはよくわかっていない。多く含まれているのは観察できるがこの自己抗体が何をしているのかまではわかっていない。


    生理的疲労と病的疲労の差は脳内に炎症があるか。
    生理的疲労が病的疲労に変わるときの流れ
    運動による生理的疲労はeIF2aのリン酸化を亢進、HHV-6 を活性化→SITH-1が発現。脳のコリン作動性抗炎症(アセチルコリンの抑制)がおこり、ここに生理的疲労からくる炎症性サイトカインがプラスされて行的疲労となる。
    病的疲労と生理的疲労を見分ける方法 唾液中のHHV-6 の量を調べる。病的疲労ではこの量が減少しているのが分かっている。疲れているときはHHV=6 を調べるといいが検査している病院は少なく、検査料も高額となっている。

    第6章は著者の空想が多く、ここには残さない。



    プレパルス・インひびしょん 双極性障害の検査でも行わせるおとの敏感性の
    を調べるテスト


    ストレス 強い刺激を受けたときに、対抗するために体に備わった抵抗反応。
    ストレッサー ストレスの強い刺激ののこと
    ストレス応答 抵抗反応

    HPA軸 ストレス反応一種 視床下部→脳下垂体→副腎が関係するストレス反応。いわゆる仕事のストレスを言われるものだと考えられている。
    CSH 副腎皮質刺激ホルモン 
    ACTH 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン 
    副腎皮質ホルモン:コルチゾールなど
    PEM 労作後倦怠感 軽い労作やストレスのあと数時間から24時間後に急激に強い倦怠感(だるさ)が出てしまう症状

  • 「パンツを捨てるサル」に対する二十一世紀からの、答えになる。

    著者曰くのSF的な私論と断ってはいるが、ウイルス進化論と考えていい。人類の原罪も、ここに起因すると言われれば尚更だ。

    余談だけど、少しスーパーサイヤ人っぽいかな。上手くすれば、核戦争も回避可能かもね。それにしてもの超微細目からの変化率の波及反応、効果は、想像以上なのね。ほんと人類ってなんなんかな。

    ああ、余談の余談、ほんの1時間の流し読みだけどね。

  • うつ病など病的疲労は脳の炎症によって引き起こされ、その原因は人体に潜伏しているウイルスの持つ遺伝子SITH-1にあるようだ。疲労にしてもうつ症状にしても、ややもすれば個人の気質や自己管理の問題に還元されてしまう現象の原因が、ウイルスや遺伝子という個人の力では統御できないものに由来するものだと判明することは、非常に望ましいことだ。

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著者プロフィール

近藤 一博(東京慈恵会医科大学教授)
1958年三重県生まれ。愛知県と大阪府で育つ。
大阪大学医学部卒業後、大阪大学附属病院研修医、
大阪大学微生物病研究所助手、
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー、
大阪大学医学部微生物学講座准教授を経て、
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授。
同・疲労医科学研究センター センター長を兼任。
日本ウイルス学会評議員、日本疲労学会理事。
著書に『疲労ちゃんとストレスさん』
『うつ病は心の弱さが原因ではない』(河出書房新社)がある。

「2021年 『うつ病の原因はウイルスだった! 心の病の最新知見Q&A』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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