朝鮮半島をどう見るか (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087202410

作品紹介・あらすじ

韓国での激しい街頭デモの映像や、サッカーW杯時の熱狂ぶり、そして北朝鮮に関する様々な報道。私たちの周りにある朝鮮半島についての情報はいつも刺激的だ。また、それをめぐる議論もいつも熱い。ある人は朝鮮半島の人々の言動を嫌悪を込めて批判し、またある人は、同じ朝鮮半島の人々とのバラ色の未来を熱心に語る。なぜ朝鮮半島については、ほかの国々や地域を論じるときのように、冷静に議論できないのだろうか。本書は、そんな私たちと朝鮮半島の間にあるこじれた問題の構造を一つ一つ解き明かし、問いかける。あなたは朝鮮半島をどう見るのか、と。

感想・レビュー・書評

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  • 朝鮮半島に対するステレオタイプな物の見方。もちろん自分自身それを自覚はしているし、できる限り事実を事実のまま見られるように努めたいという思いはある。しかし、溢れる朝鮮半島に関する「負」のニュースに対して自らの感情的部分を抑えて見るのは、少なくとも今の自分にとっては難しいのもまた正直なところ。

    本書ではその「ステレオタイプ的なものの見方」を見直す一つのきっかけになるだろう。第一・第二演習で朝鮮半島に対して日本人がいかにステレオタイプ的なものの見方をしているのか示した後、第三・第四演習でそのステレオタイプにメスを入れていく。前者は「朝鮮半島は小さいか」、後者は「朝鮮半島の人々は『強い民族意識』を持っているか」。なるほど、「朝鮮半島は決して小さな存在ではない」という視点を獲得するだけでもずいぶんと見方が変わってくるし、その視点を獲得すると今だに小国意識にとらわれる韓国の行動が読めてくる。そして最後は北朝鮮について。北朝鮮についてのニュースは多いが、「情報が少ないゆえにわからない」というスタンスは「北朝鮮は危ない」というありきたりな図式が前提となったいる言論が多い中でなんだか斬新だ。

    データとの向き合い方、客観的な姿勢、論理的な思考など、本書に通底するのは物事を考える際に必要とされる真摯な姿勢だ。本書は朝鮮半島に対する見方を見直すきっかけになるだけでなく、様々な偏見・ステレオタイプに気付くきっかけにもなるだろう。

  • 韓国旅行に持って行った一冊。もう少し朝鮮に焦点を当てて欲しかった。筆者が、朝鮮に対するステレオタイプを客観的に捉えたいという気持ちは分からなくないけれど、ステレオタイプとの付き合い方に少しページ数を割きすぎかな。しかし、筆者の客観的でいようとする姿勢は中立的な観点を維持する動力になっており、なるほどと思う部分も多く楽しめた。

    【第一演習:朝鮮半島をめぐる不思議な議論】
    日本人が朝鮮人に感じてきた想いは、「遅れている」と「恐ろしい」という相反する感情。これは、三一運動の際、マスメディアによって描かれた「成功している統治」に反発する朝鮮に当惑したため。1960〜80年の韓国の経済発展時に、ステレオタイプの更新をする機会があったが、否定的な見方が蔓延する日本では、そこに焦点が当たることはなかった。

    【第二演習:日本と朝鮮半島の将来は明るいか】
    肯定的なステレオタイプに対する付き合い方。「交流の活発化」では、歴史問題は乗り越えられない。「隣国として重要」という考え方はグローバリゼーションの進行により軽視されうる。専門家も「肯定的」「否定的」なステレオタイプに毒されている

    【第三演習:朝鮮半島は小さいか】
    兵隊数(2003)は、北朝鮮は4位、韓国は6位。日本では、2国を実際よりも低く見てしまう傾向がある。

    【第四演習:朝鮮半島の人々は「強い民族意識」を持っているか】
    朝鮮の民族運動は、激しいように見えるが道半ばで尽きることが多い。運動のピークには盛り上がりの大きさ故激しく見えるが、韓国には「小国」の意識が民族意識と同居しており、「無謀な戦いは民族の破滅に向かう。屈辱を忍んででも国際社会と強調を」という考え方が存在するため短くなる。民族運動の挫折によって溜まるフラストレーションは次なる民族運動へと向かうこととなり、更に大きい波となる。

    【第五演習:解決不可能な大論争?】
    同じデータを使っても、焦点が異なるため日本の植民地政策は、賛否が分かれる。日本の植民地支配のあり方は、他の列強のそれと大きく変わらない。にも関わらず議論が起きるのは、自身の基準を明確にせずに結論を急ぐから。自身の「国のあり方を判断する上での基準」を堅固にし、それを踏まえて判断することが重要。

    【第六演習:日韓関係はなぜこじれたか】
    ほとんどの欧米諸国は、植民地支配に対し、謝罪や補償をきちんと行ったというには程遠い状態にある。そのため、日本と朝鮮についても謝罪や補償が問題のコアではないと言える。問題は、朝鮮半島が朝鮮人によって解放された訳ではないことにある。国交正常化の際に、清算する機会はあったが、認識のズレを認めたまま先送りにしてしまった。北朝鮮の場合は、戦争を経験した人が減り、問題が遠く離れた存在になるため、プライドに関わるような妥協は必要ではないと考えるものも増える。共通認識を作るのは難しいだろう。

    【最終演習:北朝鮮について考える】
    北朝鮮は「破綻寸前の国家」というより「ありふれた最貧国」である。近隣国であるため、特別視しているが、こうした国は、世界でも長いこと存続している。北朝鮮が目指すものは「体制の保障」であり、経済援助は二の次。韓国は、ドイツを例に南北の統一を目指すが、朝鮮の貧困を飲み込むのは現在の韓国のレベルでは苦しい。私たちが今日抱く北朝鮮に対する異質性は、北朝鮮が作り出したのではなく、スターリン時代のソ連から受け継いだものが変わらずに残っているもの。

  •  04年の出版後ほどなくの一読から、10年以上ぶりに再読した。日本では、朝鮮半島について知っているつもりになっていること、「肯定的な見方」と「否定的な見方」いずれかのステレオタイプに漬かっていることに警鐘を鳴らしている。一般人のみならず専門家の間でもそんな状況のようで、いずれの見方にも与しない筆者は、両者から「旗幟を明らかにするよう」迫られ罵倒されたとのことである。
     韓流ブームが一段落して嫌韓本が増え、また北朝鮮が挑発行為を繰り返す現在は、一般では当時よりも「否定的な見方」が優勢になっているかもしれない。ただそのバネとして「日韓友好」を謳う声もある。朝鮮半島を見る時に何か特別にフィルターをかけてしまう感覚は依然存在するようでもあり、筆者の指摘は十分今でも通用するのではないか。他方、専門家の間では筆者をはじめイデオロギーを離れて朝鮮半島をとらえる若手~中堅の研究者も増えてきているようにも思う。
     筆者が言う「朝鮮半島の人々の中には、民族意識と『小国』意識が同居している」こと、「和解の儀式」が欠けていたこと、等は今後も朝鮮半島を見る上で重要な視点だろう。

  • わたしたちは、隣国を何か特別なもので捉えていないだろうか?

    これが著者の問いかけである。

    韓国も北朝鮮も数ある世界の国々の一つに過ぎない。

    ということ。

    本著はそれをデータ等も参考にしながら明らかにしていく。

  • 著者は、日本と朝鮮半島との関係については、他国との関係よりもステレオタイプにとらわれ、特定の思い込みに陥りやすい状況にあるという。そう主張するあまり、終わりのあたりで「『正しい見方』はない」と力説してしまうのは、気持ちはわかるが、相対主義にすぎるような気もする。第六演習の歴史問題に関する日韓和解の問題に関する論には説得力がある。

  • この本は朝鮮半島への向き合い方に留まらず、歴史や国の枠をも超えて他者とどう関わるかいい気づきを与えてくれます

  • 朝鮮半島を題材に、学問的なものごとの見方・考え方をたどった本という印象。コンセプトは良いと思う。ただ、「日本人には朝鮮半島の歴史について知らないことは許されないという風潮がある」といった筆者の考える前提条件にはちょっと首をかしげてしまうところがあった。

  • 担当教授の推薦で読んでみました。朝鮮半島だけでなく、一国家を分析するにあたって注意すべきことが細かく指摘されています。ステレオタイプな考え方は世間一般に認知されているため、結論としては落ち着きやすいですが、多くの人がそこに行き着くため一定の潮流が生まれてしまいます。そういったものに囚われず、1から建設的に論を立てていきたい!!という場合に必読の書となると思われます!どのように研究を進めればいいのか、基礎に返って指導してくれます。

  • 「朝鮮半島の人は自分たちの国を小国と考えている」「日本と朝鮮半島の間では『和解の儀式』が行われなかった」という指摘がなるほど、というかんじ。そして過去の問題を解決したり、「和解の儀式」を行ったりするには、「『過去』が『現在』の問題と直結する」という感覚が不可欠であると認識した。とかく抽象的、精神的な議論に陥りがちなことであるので。
    「わからない」ことを「わかった」ように語らないこと。わからないまま向き合うことを避けないように。金正日が亡くなった今、特に肝に銘じておきたいことだ。

  • 何かにつけてきな臭い話が多い両国の関係を、いちどフラットなところから再度考える入門書として最適だと思いました。著者の方はすごく良識人というかんじでじゃああなたはどうなの?とは思いましたけれども。

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著者プロフィール

神戸大学大学院国際協力研究科教授

「2022年 『誤解しないための日韓関係講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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