心の除染 原発推進派の実験都市・福島県伊達市 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087440836

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  • 黒川祥子『心の除染 原発推進派の実験都市・福島県伊達市』集英社文庫。

    まるで伊達市に住む人びとをモルモットとして扱うような行政のやり方に怒りがこみ上げてくるノンフィクション。

    東日本大震災の福島第一原発事故の核爆発により(水素爆発というが、あれは明らかに核爆発だろう)、大量の放射性物質が降り注いだ福島県伊達市。当初は『除染先進都市』として先陣を切って市内の除染に着手したが、いつの間にか行政側は放射能汚染を過小評価し、市内の7割を占める地域の全面除染を放棄する。

    明らかに放射能汚染が見られるのに、わざと放射線量を小さく見せて、住人の健康被害など無視するかのような行政に怒りを感じた。まさに今起きている新型コロナウイルスへの政府の対応にも似ている。恐らく関東にはもっと多数の感染者が居るにも関わらず、ウイルス検査を実施せずに被害を小さく見せているように感じる。安倍晋三が自分が総理大臣の間にオリンピックを誘致したいがために言い放った大嘘『アンダーコントロール』から始まった口先だけの復興五輪を何とか東京で開催させたいのが見え見えだ。国民の健康など一切考えていない。いつも割を喰うのは国民なのだ。

    2017年刊行の単行本を文庫化にあたり、改題、加筆・訂正、再編集。

    本体価格720円
    ★★★★★

  • 原発関連史上最悪最凶の「宮崎早野論文」の闇を暴く序章。全国民必読書。

  • 除染先進都市としての伊達市の真相に迫るノンフィクション。
    伊達市は独自の基準で、除染基準を作り、住民の分断をうみ、そこに住む人たちのビッグデータを無断で使用したことに衝撃をうけた。この本を読むまでこのこと知らなかったし、なによりこんな衝撃的なことを、この本以外に言及している本や情報が見当たらないことが不思議でならない。

  • 福島第一原発の事故で放出されたセシウムなどの放射性物質は、その折に吹いていた南東からの風に乗り、北西方向へ運ばれて風下の地域に降り注ぎました。
    福島県南相馬市や、飯館町などは計画的避難区域となり、自治体単位で避難を余儀なくされるケースが続出しました。ところが、その地域に隣接する伊達市では計画的避難区域は設定されず、除染によってその地での生活を継続するという判断がなされました。一見、建設的な判断を下したような印象を受けますが、その実態は本書を読むと180度覆ります。
    放射線の強度が強い場所が面的ではなく、点として偏在するからということで住民の自宅毎に放射線を測定して「特定避難勧奨地点(以後、”地点”と表記します)」という概念が設定されました。すると、お隣さん宅は地点に指定されるのに、我が家は指定から外れるという状況が発生します。しかもその測定は”わざわざ”測定値が小さくなるような場所を選んで測定されました。地点に指定されれば、各種税金や医療費などの公共サービスの支援が受けられますが、指定から外れるとそれは受けられません。たった数か所の測定地で指定となるか、外れるかで住民間に修復し難い不公平感が残りました。
    ”除染によって放射線のレベルを下げる”と謳いながら、その地域の子供たちを避難させることもなく、どんどん普通の学校生活への復帰を進める行政。「除染が必要な程の地域を子供たちに通学させ、生活させる前に、まず避難させてから除染して欲しい」という親たちの願いは聞き届けられませんでした。
    やがて、伊達市の子供たちの甲状腺異常が見つかりますが、それも「ただちに危険はない」等という決まり文句で片づけられ、それでも行政に子供たちの避難を求める親たちは「過剰に心配性の親」とレッテルを張られて地域からも孤立してゆきます。
    伊達市は全市民に個人線量測定計を配付しており、いかにも市民の健康に配慮しているという印象を与えますが、その測定結果は市民の大半の了解も得られないままに除染の基準設定をより緩い基準へと見直す際のデータとして供与されていたという事実も判明します。これらの一連の伊達市行政の暴挙ともいえる行為を、地元出身の著者が子供を持つ地元住民からの聞き取りから丹念に浮かび上がらせたノンフィクションです。
    本書の「心の除染」は子供の避難を繰り返し求める親たちに対して伊達市長の「過剰な不安感を拭い去り、”心の除染”に取り組む事で、安心して生活をしてもらうための活動を進める」との発言から採られたものです。
    原子力を取り巻く各種団体や、行政の向かう方向が一致してしまうと”結論ありき”で暴挙に走りだし、ここまで酷いことをやってのけるという恐ろしい事実を浮かびあがらせています。

  • 放射能汚染を過小評価。頼れるはずの自治体が主導で行われるまさに実験。一番守られるはずの子供たちが汚染に晒される。コミュニティまで分断される。市長達はどんな理由や考えでの行政だったのか。まだまだ明らかにして欲しい事がある。
    原発はいらない。
    自分にも起こり得る事に恐怖を感じる。

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著者プロフィール

黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家。1959年福島県生まれ。東京女子大学卒業後、弁護士秘書、ヤクルトレディ、業界紙記者などを経てフリーランスとなる。おもに事件や家族の問題を中心に執筆活動を行っている。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社文庫)で第11回開高健ノンフィクション賞受賞。その他の著書に『熟年婚 60歳からの本当の愛と幸せをつかむ方法』(河出書房新社)、『「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』(集英社インターナショナル)などがある。


「2018年 『県立! 再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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