- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087441680
作品紹介・あらすじ
面白い本を読んだら誰かと語り合いたい──辺境作家と歴史学者による読書会。古今の名著・怪書をめぐる知的興奮に満ちた対談集。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
歴史や文化などに関する書物について語り合う対談本。別の知識を持つ二人だから、話がどんどん広がっていくのが面白かった。
私はここに出てくる8冊(文庫特典を含めると9冊)のどれも読んだことがない。でも取り上げられる本の内容というより、それを受けての感想から意見が発展していく対談なので、読んでいなくても受け身で充分楽しめた。
そんな素人だから、終始へえーそうなの、なるほど、と好奇心を刺激されまくりだ。
読んでみたいと思ったのは、イブン・バットゥータの『大旅行記』。
対談で触れられている部分だけで、もう未知の世界で興味津々。
印象に残っているのは『ピダハン』。
少数民族ピダハンには呪術や儀式がないというのに少し驚いた。なんとなく、そういうものはたとえ形式だけになっていったとしても、どこにでもあると思い込んでいたから。
そういう彼らへの布教に苦労した著者の、信仰が揺らいでいく様を読んでみたいと思った。
そして何より「おわりに」がとてもよかった。
教養について語る高野秀行さんの、「個人や集団や国家が何かを決断するとき、自分たちの現在位置を知らずしてどうやって方向性を見定めることができるだろう」という言葉。
とても腑に落ちたし、求め続けたいし、そうしなきゃいけないなと思う。 -
おもに辺境をテーマに活動するノンフィクション作家の高野秀行と、日本中世史を専門とする歴史家の清水克行による、九冊(文庫版追加の一冊を含む)分の読書会を収録しています。両氏はこれ以前に、異分野で活躍する二人による異種格闘技的な対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』を刊行しており、両氏共同の仕事としては本書が第二弾にあたります。
課題図書は基本的に両氏いずれかの提案で決定されているようですが、本文の発言から高野氏推薦の図書が若干多いようです。内容としては、世界中を訪れた経験とそれに対する調査・考察から独自の見解をもつ高野氏と、日本中世史を中心とした清水氏の幅広い教養と知見が噛み合い、対象は変っても結果として対談本の正しい続編になっていると感じます。そして、前書きと後書きにもあるように、フィールドは違っていても「今、生きている世界がすべてではない」「ここではない何処かへ」を著作・研究の基本的な姿勢として共有する両氏の対話を通して、未知の人間の可能性を感じるとともに、その不在が現状と自身の立ち位置を照らしてくれます。わたしにとっては理想の読書会です。余談ですが、ところどころにある、大学教授で正規の研究者である清水氏が、高野氏に突っ込まれるシーンが可笑しかったです。
以降は対象の図書の一覧に、簡単な感想などを添えたものです。
----------
①『ゾミア 脱国家の世界史』ジェームズ・C・スコット
東南アジア大陸部からインド北東部の丘陵地帯である辺境地域に暮らす山地民を、「未開で遅れた人びと」ではなく、「定住型国家から逃走し「戦略的な原始性」を作りだした」とする仮説。米が統制に適した食糧であること、あえてリーダー(窓口)を作らないことや、関連して南米奥地に住むヤノマミ、ミャンマーのワ人、倭寇の話題など興味深い話題が続出した。一冊目だが、振り返ってもっとも魅力を感じた。『遊動論』も連想した。
②『世界史のなかの戦国日本』村井章介
「蝦夷、琉球、対馬は日本の辺境だが、東アジアの国際社会から見ると、むしろ中心に近い」ため、かつては交易で栄えていたとする見方が興味深い。「国家」を相対化する視点を与えてくれる。秀吉の朝鮮出兵、バックパッカー・ザビエル、アフリカの難民などに関する話題も。
③『大旅行記』イブン・バットゥータ
もっとも対話の盛り上がりを感じる回。どこまでも「イスラムづたい」で行ける当時のイスラム圏の広大さと影響力も窺える。バットゥータの冒険はときには映画さながら。マルコ・ポーロと比較しても著者の教養と記述の詳細さは圧倒的らしい。抄訳版『三大陸周遊記』などではなく、本書で取り上げた全訳版が推されているが、全八巻はハードルが高い。後書きによると、清水氏はこの読書のために夏休みを棒に振ったとか。
④『将門記』作者不明
「平将門の乱」の経緯と有様を記した軍記物語。ドキュメンタリータッチで中立的な書き方が特徴。「乱そのものより、将門が自分は天皇であると名乗ったことのほうが世の中に決定的なインパクトを与えた」に納得。両氏の反応が薄い回。
⑤『ギケイキ』町田康
「ピカレスクロマン(悪漢小説)」として源義経の生涯が語られる娯楽小説。町田氏の中世に対する解釈と読みの鋭さが賞賛される。対話では『サムライとヤクザ』、『頼朝の武士団将軍・御家人たちと本拠地・鎌倉』などの著書にも触れ、武士についての見解も語られる。面白そう。未完で、2021年完結予定らしい。町田氏の他作品にも興味が湧く。
⑥『ピダハン』ダニエル・L・エヴェレット
アマゾン奥地に暮らす少数民族ピダハンを宣教師で言語学者の著者が訪ねたルポ。数の概念、左右の概念、非日常、神、神話、年齢、兄と弟の概念が無く「一般的なもの」が存在しない、彼らの特異さ。おまけに文明には頻繁に接触して外界の文化を受け入れているにも関わらず、自分たちのほうが優れているという意識で、世界観の「文明化」は起こらないという。小川さやか氏の『「その日暮らし」の人類学』でも取り上げられていたこともあって、個人的な注目度がさらに増した。
⑦『列島創世期』松木武彦
最初に見つかった焼き物は人形で、人類の道具は必ずしも実用性ありきではない視点が特徴。また、奴隷は身分に先立つ存在であったという説も。
⑧『日本語スタンダードの歴史』野村剛士
「江戸・山の手言葉」が現代標準語となったという通説を覆し、標準語が「江戸・山の手」に定着したとする説が目を引く。日本語以外の言語も比較対象として話題にのぼる。高野氏は漫画『へうげもの』がお気に入りらしい。
⑨『姦通裁判』秋山晋吾(※文庫化記念対談)
1764年頃に現在のルーマニアで起きた姦通裁判の記録をベースに、近世東欧の暮らしや価値観、事件の深層に迫る書籍。ヨーロッパ東西の違いだけでなく、日本の東西文化の違いも話題にのぼる。 -
辺境作家×歴史家の読書対談。まさに合戦。学術書から新書・小説まで、ディープな本ばかりだが、注釈が多くて大変に助かる。自分では入手しづらく読む気力も出そうにない本の内容を、実際に読んだ上でしっかりと語り合う著者二人のおかげで、無知な私でも存分に楽しむことができた。さすがだと思う。とくに『大旅行記』全八巻。イブン・バットゥータ。その名をあまりにも連呼するので、すっかり覚えてしまった。
-
いやー面白かった。これぞ教養である。
空間的な辺境の探検者と時間的な辺境の研究者、二人の軸を異にする辺境のプロフェッショナルが織りなす対談の第二弾。
第一弾に負けず劣らずの面白さであった。紹介されていた本、気軽に手に取れるものばかりではないけれど、読んでみたいと気になるものも多々あった。
人文科学的知的好奇心の結晶。 -
面白い本が紹介されていないかと読んでみました
紹介されている中に1冊も読んだ本がないのにびっくり
かといって読んでみたいと強く思った本もなし…本はたくさんあるけれど読みたい本を見つけるのは大変と思いました -
高野秀行氏と清水克行氏のお薦め本をお互いに読んでの対談。こだわりの8冊で読みたい本もとても読めそうにない本も、お二人の絶妙なトークで面白く読んだ。
なるほどと歴史の奥に潜む、書かれていない真実に思いを馳せた。
イブンバットゥータの「大旅行記」読むことは無いでしょうが二人の会話でそのエッセンスに触れられて良かった。また「ゾミア」や「ピダハン」にはびっくりしました。 -
大人の読書会。それも実地体験からと専門学問からの交雑がシンクロしていく。読んでみたいけど忍耐が必要な課題図書。