逆ソクラテス (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
4.05
  • (558)
  • (742)
  • (354)
  • (51)
  • (8)
本棚登録 : 9617
感想 : 587
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087445329

作品紹介・あらすじ

【2021年本屋大賞ノミネート作】
【第33回柴田錬三郎賞受賞作】

敵は、先入観。
世界をひっくり返せ!

伊坂幸太郎史上、最高の読後感。
デビュー20年目の真っ向勝負!

逆転劇なるか!? カンニングから始まったその作戦は、クラスメイトを巻き込み、思いもよらぬ結末を迎える――「逆ソクラテス」
足の速さだけが正義……ではない? 運動音痴の少年は、運動会のリレー選手にくじ引きで選ばれてしまうが――「スロウではない」
最後のミニバス大会。五人は、あと一歩のところで、“敵”に負けてしまった。アンハッピー。でも、戦いはまだ続いているかも――「アンスポーツマンライク」
ほか、「非オプティマス」「逆ワシントン」――書き下ろしを含む、無上の短編全5編を収録。

【著者略歴】
伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞(短編部門)、08年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞・第21回山本周五郎賞を受賞。他の著書に『重力ピエロ』『終末のフール』『残り全部バケーション』『クジラアタマの王様』『ペッパーズ・ゴースト』、阿部和重氏との合作『キャプテンサンダーボルト』などがある。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【読もうと思った理由】
    ブクログの他の書籍の感想欄に何度か書いたが、20代の頃にもっともハマって読んだ作家が伊坂幸太郎氏だ。それこそ、デビュー作の「オーデュボンの祈り」から「死神の浮力」ぐらいまでは、文庫化作品はすべて読んだはずだ。ただ、そこからは新作が出ても、必ず読む作家ではなくなり、少しずつ伊坂作品から遠ざかっていた。オブラートに包まない言い方をすると、伊坂作品に飽きてしまったのだ。それは、決して伊坂氏の力量が落ちたとかそんな事ではなく、たしか著名な作家も言っていたと思うが、1人の作家が生涯で本当に面白い作品を書けるのは、よく書けて6作品ぐらいだという。

    伊坂作品はトータル20作品近く読んでいるので、どうしても物語の構成なども含め、ある程度は展開が読めてしまう。じゃあなぜ今回読もうと思ったのか?と言うと、「金閣寺」の雑感にも書いたが、一つは、タイトルに惹かれたからと言うことと、実はもう一つ理由がある。確か今年だったと思うが、雑誌で辻村深月氏の特集をしていて、そこで伊坂氏と対談をしていた。そのとき伊坂氏が辻村氏に自分の代表作を上げるとすると?的な質問をされての回答が「逆ソクラテス」だったはずだ。(その雑誌は立ち読みしただけなので、正確な質問の内容は思い出せないが、逆ソクラテスに対する思い入れは、かなり大きかった印象はある。)そのときにこの作品は読まないとなと思った。

    確か僕の記憶が正しければ、ファンの人たちは代表作を聞かれると、初期の頃の作品(アヒルと鴨とか、重力ピエロ、ゴールデンスランバーなど)を上げるであろうが、僕は逆ソクラテスが、かなり良い出来だと思っている的な回答だったと思う。40作品ほど書いた作者が、代表作を聞かれて答えた作品は、読むべき作品だと思った。僕が本の感想の最初の項目にこの【読もう思った理由】をあげているのは、ただの慣習ではなく、プロフィールにも書いているが、本が売れなくなった現在でも、年間で約7万冊の新刊が発売されているという。何万冊の中から、次に読む本を決めるのは、皆さんもそれなりに悩んで決めているはずだ。実は僕も、それなりに考えてから決めている。僕が感想欄で重要度が高いと思っているので、【読もうと思った理由】を最初に書いています。

    【伊坂幸太郎氏ってどんな作者?】
    (1971年5月25日 - )
    千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。この時期の東北大学には、薬学研究科に瀬名秀明、文学研究科に佐藤賢一、理学部に松崎有理と円城塔など、現在小説家として活躍している人物が在学していた。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。数年後に作家専業となった。宮城県仙台市在住。

    2002年の『ラッシュライフ』で評論家に注目され始め、2003年の『重力ピエロ』で一般読者に広く認知されるようになった。それに続く『アヒルと鴨のコインロッカー』が第25回吉川英治文学新人賞を受賞。本屋大賞においては第1回から第4回まで連続ノミネートされた後、2008年の第5回に『ゴールデンスランバー』で受賞。同作品で第21回山本周五郎賞も受賞。なお直木賞については、2003年『重力ピエロ』、2004年『チルドレン』『グラスホッパー』、2005年『死神の精度』、2006年『砂漠』で候補となったが、2008年、同賞の影響力の高さゆえに環境が変化する可能性を憂慮し、選考対象となることを辞退している。2020年に『逆ソクラテス』で第33回柴田錬三郎賞を受賞。2020年より山本周五郎賞の選考委員を務める。

    著作の多くは中国語訳、韓国語訳が出版されており、タイ、インドネシア、フランス、ドイツ、イタリア、ロシアなどでも刊行されている。英語圏では、2011年にアメリカで『ゴールデンスランバー』(英題『''Remote Control''』)、2021年にはイギリスとアメリカで『マリアビートル』(英題『''Bullet Train''』)、2022年にはイギリスとアメリカで『グラスホッパー』(英題『''Three Assassins''』)が刊行。『マリアビートル』(英題『''Bullet Train''』)は、英国推理作家協会が主催する、2022年度ダガー賞(通称:CWA賞)の翻訳小説部門(旧名称:インターナショナル・ダガー賞)にノミネートされた(日本人作家のノミネートは、横山秀夫、東野圭吾に続いて3人目)。

    【あらすじ】
    「敵は、先入観だよ」学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。カンニングから始まったその計画は、クラスメイトや担当の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。はたして逆転劇なるか?表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。

    【感想】
    「デビューしてから二十年、この仕事を続けてきた一つの成果」

    上記は、あとがきのインタビューの受け答えの一部抜粋だ。皆さんは伊坂幸太郎氏の印象とか作風は?と聞かれればなんと答えるだろう?例えば、まったく別の複数の物語が終盤近くになって伏線回収されていく爽快感だけでなく、別々の物語が繋がっていく構築力が好きとか。辛いストーリーでも何故か爽やかさがあるのが好きとか。はたまた、意外に座右の銘的な名言が好きとか。色々な意見があるだろう。僕はこの作品を読んで、上記に上げた全てがバランスよく詰まった作品だと感じた。そりゃ、デビューして20年以上も経つのに、日本の作家陣のトップに君臨し続けるのも、“ごもっとも“と言わざるを得ないと感じた。改めて感じたのは、伊坂氏は他の作家が羨むほどに、売れ続ける要素を、掃いて捨てるほど持っているなぁと感じた。

    伊坂氏といえば、ラストに向かっての伏線回収は言うに及ばず、僕が意外に好きなのは、色々な作品で印象に残る名言が多い。
    ベタではあるが、「ゴールデンスランバー」の「信頼と習慣」は、今でも僕の座右の銘の一つになっている。実は今作でも名言がある。

    「僕はそうは思わない」

    この言葉って、相手との関係性によって、言えるかどうかのハードルが全く違ってくる。例えば自分の部下であれば何の問題なく言えるが、クライアントや、二つ以上階層が上の上司には、途端にハードルがめちゃくちゃ上がる。そう、日本人であれば嫌でも空気を読むとか、相手の顔色を伺うなど、頼まれてもいないのに、良くも悪くもしてしまう。だけど本当は相手が誰であれ、言わないといけない時は、堂々と言わないといけないよなぁと、今作を読んで改めて思った。

    今作は伊坂氏も言っているが、小学生にこそ読んで欲しい作品と言っているが、大人が読んでも、読み方と思考の深さによっては、十分楽しめる作品だなと感じた。

    作品自体は300ページほどだし、とても読みやすい。特に意識して読まなければ、数時間ですぐに読めてしまうだろう。ただ伊坂氏が、20年作家を続けてきた、一つの成果と言い切っている作品なのだから、哲学書や思想書を読むときのように、深く思考しながら読み直すのもアリだなと思った。

    【雑感】
    次は予定通り、「人間の建設」を読みます。というか、もう3回ぐらい読了しているのだが、自分の中で、感想がなかなか纏まらない。それほどに読み応えがあり、気づきが多い本だ。ここで「次に感想をアップします」と、宣言でもしない限り、いつまで経っても自分で考えが整理できそうにもないので、考えを纏めてから感想をアップします。

  • 小中学生を主人公にした短編集です。ぼくは、「逆ソクラテス」だけはもう読んでいました。11年前、集英社文庫のナツイチ企画「あの日、君とBoys」の目玉作品として載っていたのです。このアンソロジー短編集の中で、伊坂さんのが1番輝いていたことを思い出しました。この11年間、何かあるごとにぼくは呪文のように心の中で呟いていたんです。「僕はそうは思わない」

    後書きで伊坂さんは「デビューしてから20年、この仕事を続けてきた一つの成果のように感じています」と書いています。ぼくが「逆ソクラテス」で出逢った「呪文」が、更に発展して、いくつかのシン「呪文」が出てきたように感じました。

    「文庫化記念インタビュー」って形を取ったロングインタビューを巻末に載せています。実はこれはインタビューという形をとった比較的長い自己解説だと思うのです(だってインタビュアーの名前がない)。そこで「そもそも決め付ける人が苦手なんです」と書いていて、決め付けるのは憚れるのですが、この短編集は伊坂さんには珍しいドストライクな「メッセージ小説」だと思うのです。勿論、伊坂さんからは「そうは思わないけどね」と言われそうです。

    そう言えば、1年半以上伊坂さんのレビューを書けていませんでした。積読本が3冊以上ホコリをかぶっています。やろうと思えば思うほど出来なくなる厄介な病気(たち)なんだけど、何だか見えないクサリがぱちんと外れたような気がします。ありがたい本です。

    最後に出てくる電気量販店の号泣する店員さんて、やはりあの男なんだろうか?
    「バスケの最後の1分が永遠なんだから、俺たちの人生の残りは、あんたのだって、余裕で、永遠だよ」
    「だから、おしまいとかじゃ全然ない」

    • mario13さん
      私もあの男がリスタートしていたらいいな、と思いました。
      犯罪は許されないことだけれど、犯罪や恨みから抜け出し、社会で生きれる人が一人でも多い...
      私もあの男がリスタートしていたらいいな、と思いました。
      犯罪は許されないことだけれど、犯罪や恨みから抜け出し、社会で生きれる人が一人でも多いといいな、と。
      2023/08/22
    • kuma0504さん
      mrio13さん、こんばんは。
      前回、あの男にはアンスポーツマンライクファウルをかけられているわけだから、小説的には「リスタート」するのは理...
      mrio13さん、こんばんは。
      前回、あの男にはアンスポーツマンライクファウルをかけられているわけだから、小説的には「リスタート」するのは理の当然なわけです。
      伊坂幸太郎さん、優しいですね。
      2023/08/22
  • 私の本棚の中でひときわ存在感を放つこの作者さん。今回もやっぱり面白かった。
    5つの話のすべての主人公が「小学生の僕」という短編集。

    ■逆ソクラテス
    先入観vs.無限の可能性 または 決めつけvs.『僕はそうは思わない』
    同調圧力や忖度が罷り通る世の中に、一石を、作者らしいユーモアをまぶして、投じたお話。
    『僕はそうは思わない』と言えたらいいな。だけど、なかなか難しい。言いたいけど言えなくても、口に出して言わなくても、「僕はそうは思わないよ」と心の中で思うのだって結構大事なことなんだな。
    優等生の位置づけにあるのに、「それは違うでしょ」っていつか言ってやりたかったの、と手を貸してくれる佐久間さんが可愛い。同じクラスにいたら絶対好きになっちゃうな。

    ■スロウではない
    クラスの女王様vs.教室の隅っこで生きている面々。
    その隅っこの面々がくじびきでリレーのメンバーになってしまったところから展開するお話。
    「ゴッドファーザー」風の会話が楽しく、リレーでの高城さんの姿が爽快。
    ラストで写真に見入る僕の姿にこちらもジンとする。

    ■非オプティマス
    新任のうらなり先生vs.先生や同級生を舐めきった悪童たち。
    久保先生、いい話したな(フレーズに登録)。
    最後の逆転劇が痛快。フクオ、一発かましてやんな。

    ■アンスポーツマンライク
    残り1分vs.大事な一歩が踏み出せるように。
    小学校で一緒にミニバスをやっていた5人が高校生の時や大学卒業後に遭遇した出来事。
    第2話にも登場した磯憲先生が、ちょっとしか出てこないがここでもいい味。
    最後の駿介の言葉が効いている。

    ■逆ワシントン
    何か特別なものvs.特別じゃない僕たち。
    『最終的には、真面目で約束を守る人間が勝つんだよ』といいながら、『まあ、でも損することも多いかあ』という僕の母親がいいなあ。
    確かにそうなんだけどさ、でも特別なものを持たない普通の人は、それで勝負するしかないよね。
    第4話のラストとつながる最後の場面も印象深い。

    どの話も少年の頃の純粋な心や、友人や大人に対する心の機微が細やかに描かれていて、とても良かった。

  • 5つの話 どこかで繋がってるのかなと思いながら完 巻末あとがきも文庫化記念インタビューも良かった 伊坂先生の作品は久しぶりだったけど「らしさ」はしっかり思い出せた 安斎くん ミニバスケの5人 謙介のお母さん

    最初の逆ソクラテスと最後の逆ワシントンが気に入った

  • 面白かった!
    読みやすくてあっという間に読了。

    小学生の子を持つ親として、これは知っておいてほしいなと思う事がたくさんあった。
    絶対読んでもらいたいな。
    どう勧めたら読んでくるれかな?
    登場人物たちに聞いたらどんなアイデア出してくれるかな?

    読後も爽やかで楽しい気持ちにさせてくれる一冊。

  • 懐かしい。子供の正義って大人の正義ですよね。調和をとることって悪いことではなく調和をとってる面持ちが大切ですよね。

  • 子どもの頃って、学校の自分のクラスや所属するクラブが世界のすべて。そこでの友人関係や担任の先生の言動、日々起こる出来事によって、喜んだり悩んだり小さな身体で毎日を生きている。そんな胸の痛みをすくい取ったような作品ばかりでした。
    「逆ソクラテス」の安斎君、「スロウではない」の高城さん、「非オプティマス」の福生君。小学生にしては色々な経験をして大人びた所もある転校生の彼らが、現状を壊して風を吹き込み、他の子ども達や周りの大人に変化を起こす〜
    どれも読み応えある短編でした!

  • 伊坂幸太郎としては星3だと思うが、全体的にみたらの評価で星4。意図的なのかもしれないが、各章の導入が揃えすぎていて、パターン化していた。答えも直接的な言葉が多く、重松清の作品と比較してしまった。ただ、好きな作家なので楽しめたのは確か。それぞれに大切な教訓が含まれていて、良い本だと思う。

  • うーむちょっと私には高尚すぎて合わなかった
    積読にして時間を空けるようにします
    伊坂幸太郎の新境地らしいがまだまだ経験値不足で良さが見いだせず‥

  • はぁ面白かった〜
    子どもがメインの短編集です

    子どもならではの考えの浅さや
    先入観で決めつける大人の理不尽さ
    そんなものがありつつも
    懐深く子どもたちを思いやったり
    客観的に公平に友人を評価できていたり

    やっぱり表題作が一番良かった
    巻末の文庫化記念インタビューで著者の伊坂さんが話すように、「自分がどう思うかについては奪われない」ことを、この本を読む子どもたちに伝わって欲しいなと思いました

全587件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

伊坂幸太郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
夕木 春央
凪良 ゆう
知念 実希人
米澤 穂信
凪良 ゆう
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×