世界地図の下書き (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087454529

作品紹介・あらすじ

両親を事故で亡くし、施設で暮らす小学生の太輔。施設を卒業することになった高校生の佐緒里のために、仲間たちと「蛍祭り」を復活させる作戦を立てはじめ……。坪田譲治文学賞受賞作。(解説/森詠)

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、朝井リョウさんの『何者』での直木賞受賞後第一作で、坪田譲治文学賞受賞作品です。
     偶然このを2作続けて読むことで、朝井リョウさんの新たな側面(才能)を知ることができよかったです。

     児童文学と位置付けてもいい本書は、小学生視点で描かれた、大人も子どもも読んで共有できる作品になっていると思います。文庫の表紙はスタジオジブリ・近藤勝也さん。柔らかなタッチのイラストが登場人物の生き生きとした表情を優しく描き、物語を象徴する雰囲気が出ています。近藤さんの挿絵は、YouTubeで公開されている本書の紹介動画でも使われているようです。

     物語は、児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らす5人の子どもたちを中心に進んでいきます。
     当然のことながら、それぞれ様々な事情や悩みを抱えている事実が見え隠れします。子どもの力では解決不可能な問題もあり、時に切なく現実の厳しさを感じさせます。けれども、明日への希望・温かさ・優しさが伝わる読後感です。また、浅井さんの小学生心理の描き方の匙加減が絶妙で、感心させられました。
     子どもたちが施設を出たその先の世界は、余りに大きく広い世界なはずで、逆境からの逃げ場はあるのだと想像力を働かせ、自分の生きる場所を探すことが将来の輪郭を描くことにつながり、本書のタイトルの意味になるのかなぁ‥。

     有川浩さんの『明日の子供たち』も、児童養護施設を舞台にした物語で心動かされましたが、本作も深く心に刻まれました。

  • この作者さん、かつて読んだ「桐島…」があまりピンとこず、「何者」は読んだもののそれ以来遠ざかっていたのだが、先日、螺旋プロジェクトを読んで読まず嫌いだったかと思い直し、フォローしている方のレビューに惹かれてこの本を買ってみた。

    児童養護施設で暮らす太輔と、同い年の淳也、その妹の麻利、太輔の1歳下の美保子、そして6歳上の佐緒里の五人の物語。
    両親を事故で亡くし引き取られた伯父伯母の家での虐待で心を閉ざしていた太輔が、仲間たちとの日々で次第に心を開いてゆく話は悪い話ではないと思ったが、太輔のキャラクター、とりわけもはやバレているのに『証拠もないのに、おれたちが犯人だって決めつけるのはひどいと思います』と言うようなところが好きになれず。
    最後に彼らが企てたことに対し『人からモノを盗んでまで、学校に忍び込んでまでこんなことをした。そこにはすごくすごく大きな理由があるはずなんです』で済ます展開も、自分たちの目的のために一生懸命であるならば不法行為でも許されるというようで受け容れ難かった。

    またしばらく読まず嫌いになると思う。

  • 『世界地図の下書き』朝井リョウ氏
    もらい泣き⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    社会・世相⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    児童の視点⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    【舞台】
    児童施設です。ここで生活をする高校生そして小学生が主人公です。両親が不慮の事故に会い、親戚での虐待を契機に施設にきた小学生。
    彼を中心に、施設の児童、高校生、小学生、小学生の兄妹4名が関わり、物語が進行します。
    ーーーーーーーー
    【ページを閉じてしまう場面】
    社会・世相が⭐️5個としました。理由は、施設で生活をする子供たちが、施設で暮らす事情、経緯、そして学校での生きづらさ・いじめなどの描写が存在するからです。子供の世界で「ヒエラルキー」が存在し、子どもだけでは「解消しづらい」状況が描写されています。子供たちの叫びが痛く切ないのです。
    だから、なんどか読み進めることをためらう小説でもありました。
    ーーーーーーーー
    【こんなひとにおすすめ】
    私は、通院する電車のなかで読みました。また、病院の待合室でも読みました。いつのまにか、涙を流していたのでした。
    最初は、悲しい涙、そして最後のラストでは、応援したくなる涙に変わったのでした。

    「つらい。。。でも、どうしていいかわからない、、、なんとかしたい・・・。」
    ーーーーーーーー
    児童施設でくらす子供たちの意思「世界は変わらないかもしれない。でも、信じることを止めない。」と出会えます。そのことをきっかけに、勇気の扉が少しだけ開くかもしれません。
    タイトル『世界地図の下書き』。大人の世界は、大きくそして広い世界です。その前の子供が生きる・感じる・考える世界は、その前の準備・尊い下書きなのだと思います。

  • 事故で両親を亡くした太輔は、児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らすことになる。
    施設に来た当初はうまくなじめなかった太輔だが、同じ班として生活を共にすごす佐緒里、美保子、淳也・麻利兄妹としだいになじんでいく。

    佐緒里はみんなのお姉さんのような存在だ。両親が離婚して体の弱い弟だけ親戚に引き取られ、一人で施設にやって来た。美保子は母親のネグレクトで施設に来ている。淳也と麻利のことは詳しく明かされないが、関西方面から来たらしい。

    家族のように寄り添い、支え合って暮らす5人だが、それぞれの抱える問題が少しずつ明らかになっていく。
    大学に行きたい佐緒里は、経済的な理由で進学をあきらめざるを得ない。美保子は男に依存する母親に振り回されている。淳也と麻利は学校でいじめを受けている。
    そして太輔は、両親の死後いったんは引き取られた伯父、伯母の家で暴力受けていた。

    自分たちではどうしようもない問題に直面し、ただ我慢するしかない子供たち。それでも、3年間を共に過ごした彼らは、高校卒業とともに施設を離れる佐緒里のため、自分たちでできることはないか、とそれぞれが知恵を絞り、ある計画を立てる。

    子どものころ、自分の世界は手の届く範囲だけで、どこにも逃げ場がないような気がしていた。
    大人になった今、当時の自分に言ってあげたい。「世界は自分が思っているよりずっとずっと広いんだよ。」と。

    本書で著者が言いたかったこともきっと同じなのだと思う。
    5人の子どもたちは、自分なりに決断し、道を見つけて進んでいく。違った、と思っても、また新たな道を進めばいい。そして、道の途中では、たくさんの嫌な人と同じくらい仲間にも出会える、と。

    彼らの目の前には、世界地図を描くためのまっさらな用紙がひろげられている。
    試行錯誤をくり返しながら下書きを描いていくうちに、気づけば広々とした世界が開かれているのだ。

  • 朝井リョウ、23歳の時の作品。
    坪田譲治 文学賞を取った作品で、大人も楽しめる児童文学です。
    「桐島、部活やめるってよ」の受賞はこの作品の4年前です。

    塩田武士の「罪の声」を読んで固くなった気持ちが、ふんわりほぐれました。
    子供も楽しめる作品なので、肩が凝るような箇所はありません。
    「人はけっして一人ではないし、どの道を歩いても自分を待ってくれている人が
    必ずいる」という作者からのメッセージが心を温かくしてくれます。

    最後におさめられた森詠氏の<解説>に、
    作者がこの作品を書こうと思ったきっかけが書いてありました。
    「ある高校の男子バスケ部の部長が、顧問からの体罰が原因で自殺をした、
    というニュースがきっかけで書きました。このニュースに触れた時、
    私は『逃げる』という選択肢が彼の頭の中に浮かばなかったのは
    どうしてなのだろう、と考えました。自分の生きる場所をもう一度探しに行く、
    逃げる場所がある、という想像力を失いかけている誰かに届けたいと考えました」

  • 「世界地図の下書き」相変わらずタイトルセンスがいいなと読み終えてじーんときている。
    共同生活する違う年代の子どもたちにハラハラドキドキじんわりしているうちに、「逃げたって笑われてもいい。逃げた先にも同じだけの希望があるはず。」という熱いメッセージを受け取った。
    読み手の年代を問わない、いい作品だと思う。

  • 中盤まで、登場人物である小学生たちの内面と行動を丁寧に描いているものの、最終数ページでバタバタっとそれぞれの旅立ちと、それに伴う覚悟を語るのは、ちょっと説明的すぎて興ざめしました。朝井リョウさんの小説は作品によってこのあたりの精度にブレを感じます。。

    作品紹介・あらすじ
    両親を事故で亡くし、施設で暮らす小学生の太輔。施設を卒業することになった高校生の佐緒里のために、仲間たちと「蛍祭り」を復活させる作戦を立てはじめ……。坪田譲治文学賞受賞作。(解説/森詠)

  • いろんな境遇のひとが居て、それぞれ生き辛さを感じている。逃げ場が無いと感じている。
    それは、子供たちも同じ筈。

    しかし、逃げられないことは無い。
    新しい道を作っていけるんだよ。
    それを応援してくれる人がきっと何処かに居るよ。というメッセージを込めて書かれた作品でした。

    全てを描き切らない感じが良かったな。と思いました。
    彼らが進んでいく様子を、後ろから見守っているような感覚で読み進めました。
    ハッピーエンドになりきらない、
    解決しきらない、
    成長しきらない、
    そんなご都合主義じゃないリアルな感じが、もう、、、ぐっ、、、となりますね

  • 突然の交通事故で両親を失った小学生の太輔が『青葉おひさまの家』で暮らすことになった。初めは閉じていた心が少しずつ開いていく。おひさまの家には、中3のさおりちゃん、同学年の淳也と麻利という妹、ひとつ下の美保子などがいて、それぞれの事情があり誰もが個性的。
    状況の描写の言い回しが時々凝りすぎ?と思う箇所もあるのですが、子供達ひとりひとりの年齢と背景と性格とそこから出てくる言動の描写や成長の仕方の描き方がほんとに見事で、そこがいちばん味わい深かった。
    彼らはこれからどんなふうに大人になっていくのかな。

  • 児童福祉施設で生活する小学生たち。
    それぞれに事情があり、頼るべき親がいなかったり、学校でいじめられたりして「孤独」を感じながらも、支えあいながら成長していきます。
    そんな中、仲間たちの精神的な支柱であった「佐緒里」が施設を出て親戚の家で働くことになります。
    大学に行き、東京に出て、少しでも輝くことを夢見ていましたが、その夢を失い落ち込む佐緒里を見て、密かに(周囲にはバレバレでしたが)佐緒里に好意を寄せていた主人公の太輔はとある作戦を立てます。
    それは、子どもたちだけで、ランタンを空へと上げる「蛍祭」を復活させるというものでした。
    材料の調達だけでなく、火を使い、それを空に上げるという行為には多くの困難が立ちはだかります。
    彼らの計画は果たして成功するのか。

    施設での共同生活に居心地の良さを感じていても、いずれは「別れ」に直面することになる少年少女たち。
    互いを認め合い、受け止めてくれる人との出会いがどれほど貴重であるかを改めて考えさせてくれる作品です。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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