アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 174
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087461381

作品紹介・あらすじ

ミャンマー北部、反政府ゲリラの支配区・ワ州。1995年、アヘンを持つ者が力を握る無法地帯ともいわれるその地に単身7カ月、播種から収穫までケシ栽培に従事した著者が見た麻薬生産。それは農業なのか犯罪なのか。小さな村の暖かい人間模様、経済、教育。実際のアヘン中毒とはどういうことか。「そこまでやるか」と常に読者を驚かせてきた著者の伝説のルポルタージュ、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • すごくニッチなジャンルのお話でしたが、臨場感溢れる文章。人間味溢れる行動。どれをとっても惹き付けられてしまう内容でした。自分がこれから生きていても恐らく体験出来ないであろう世界に少しでも触れることができた良い機会になりました。
    ありがとうございました!

  • 何ともすごい行動力。アヘンを栽培している村と聞くととても恐ろしい所を想像する。7ヶ月間村の人と寝食を共にし、文明度は低いが、礼節、敬虔さ、勤勉さを備えた人たちと知る。マラリアやシラミに脅かされ自らアヘン中毒にまでなりながら…。30年近くが経とうとしているけど、一緒に暮らした方々が元気にされている事を願うばかり。

  • ミャンマーのワ州における、アヘンにまつわるドキュメンタリー。いろんな国に潜入し、どっぷりその国にはまってみる…という高野秀行さんのバイタリティー、すごい!!Σ( ̄□ ̄;)

  • イラン水滸伝から高野秀行作品を読むようになって、今ではすっかり高野秀行ファンになっている。
    自分にはいろんな意味(モチベーション、勇気、体力、時間、お金)で経験できないことを、高野さんは経験し、それを本という形で表現してくれる。まさに本の醍醐味である。この作品は現実の世界での実際の体験記なのだが、今自分が生活している世界からかけ離れすぎていて非常にシュールなのである。日本人がこれまで行ったことのない、ミャンマーのワ州僻地にあるアヘンを栽培している村に長期間滞在して、自分もアヘン中毒になってしまう。現実は小説より奇なりであるが、ノンフィクションは現実より奇なりである。著者はどうなってしまうんだろうとワクワクドキドキさせるエンターテイメントであり、世界にはこんなところもあるんだとか、ミャンマーの歴史ってそうだったのかなど勉強にもなる作品である。

  • すごい本だった。
    内容もさることながら、出版された後の社会的影響も高野さんの著作の中では群を抜いている。
    日本語で出版される前に英訳版が出版され、それが回り回ってビルマ語版が出版されるまでになる。しかも、政府要人たっての要請で。
    それだけ、本書の内容がディープで希少性があったということだ。
    前半はいつもの感じで、飄々とした筆致によって現地の人々との面白おかしいやり取りが描かれる。が、後半は怒涛の展開。特に、ラスト数十頁は圧巻。体調不良から収穫したアヘンを吸引することになり、あっという間に中毒になっていく様や、平気でアヘンをリュックに入れたまま国境を越えてしまう様子に、高野さん言うところの「善悪の彼岸」へ足を踏み入れた人の頭の中を垣間見る思いだった。そして、アヘンビジネスを巡る国際的な動きの怪しさが、誇張されることなく淡々と暴き出されていく。ワ州がアヘン=ヘロイン生産のゴールデン・ランドたる背後に中国の存在があること、さらに、アヘン生産量を不自然なまでに誇張して喧伝することで麻薬取締の予算をせしめようとするアメリカの思惑。こうした諸々が、ワ州で素朴な暮らしを営む人々の姿とコントラストを成す。
    「善悪の彼岸」には、当たり前の暮らしが存在し、そこに暮らす人々は「此岸」に暮らす我々と何ら変わりのない生活感情を抱いて暮らしている。彼らを「彼岸」の人間にし、色眼鏡をかけて眺めているのは、あくまでも「此岸」の都合に過ぎない。アヘンビジネスという闇の構造は、その他に数多ある様々な差別や貧困の構造と同じだと感じる。
    これが書かれたのは90年代半ば。高野さんがミャンマーを出た後にアヘンビジネスには様々な動きがあったようだが、現在、民主化を巡るゴタゴタは悪化の一途を辿っている様子。が、それも所詮は大手メディアが伝えることに過ぎず、大手故の利害関係が背後で蠢いているはず。今、高野さんがミャンマーに入ることができたら、一体、何を見、何を描いてくれるのだろう?

  • 高野秀行(1966年~)氏は、早大第一文学部仏文科卒。早大で探検部に所属し、大学在学中に探検部での活動をまとめた『幻の怪獣・ムベンベを追え』で作家デビュー。その後も多数のノンフィクション作品を執筆し、2013年に『謎の独立国ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、2024年に植村直己冒険賞を受賞(探検家・山田高司と共同)。
    私はノンフィクション物を好み、冒険家・探検家が自らの体験を記録したノンフィクション作品もしばしば読む。具体的には、古くはスコットの南極探検を描いたガラードの『世界最悪の旅』から、植村直己、角幡雄介、石川直樹等の著書までだが、高野秀行に関しては、気にはなっていながら、著書を読んだのは今回が初めてである。
    本書は、1995~6年に7ヶ月間、世界最大のアヘン生産地と言われる、ミャンマー、タイ、ラオスに跨る「ゴールデン・トライアングル」の中でも、その中心地であるミャンマーの中国国境地帯にあるワ州に、高野氏が単身滞在した記録である。ワ州は、反政府ゲリラ・ワ州連合軍が支配し、100を超える少数民族が存在して「東南アジアのユーゴスラビア」とも呼ばれるミャンマーの中でも、ヤンゴンの中央政府の権力が全く及んでいない地域で、無法地帯とも言われているという。(近年は状況が変わっているらしい)
    本書を手に取るとき、普通の人であれば、まず、「何故、こんな場所に7ヶ月も滞在したのか(そして、それを本にしたのか)」が気になるものだが、それは、高野氏が、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」ことをポリシーとする中で、20世紀も終盤になって、それに値する“地理的な”未知の土地は地球上にほぼなくなってしまい、残るは“政治的な”或いは“精神的な”秘境しかないと考え、その象徴がゴールデン・トライアングルだったからなのだという。そういう意味で、高野氏は本書を自らの「背骨」になる仕事と言っているのだが、一方で、そのハードさのあまり、当初はなかなか評価されなかったとも語っている。(現在では高野氏の代表作の一つと認識されていると思うし、それ故に私は手に取ったのだが)
    この、高野氏のポリシーは、いわゆる「冒険ノンフィクション」を書く作家に共通するものであるが、同様に、現代においては地球上に地理的な未知の土地はなくなったという事実も共通の認識で、角幡氏なども、「冒険とは何か?」、「ノンフィクションとは何か?」と自らに問い、それに関する著書も出している(『新・冒険論』等)。そういう観点では、高野氏と角幡氏の対談集『地図のない場所で眠りたい』もぜひ読んでみたいものである。
    読後に強く印象に残ったのは、反政府ゲリラが支配する麻薬地帯という、極めて物騒なイメージとは裏腹に、ここには(にも)普通の人びとの普通の生活が存在するという、当たり前のことであった。そして、もう一つは、民族というものの考え方の難しさで、ほぼ単一民族である日本人には実感が湧きにくいが、これは、世界各地で止まらない国家・民族・宗教間の対立の最大の原因の一つである。
    また、本書のアプローチについては、高野氏は、自分の好奇心はジャーナリズム的な関心と重なるところがあり、一時期そちらに傾倒したが、多くのジャーナリズムは上空から森を眺めているのであり、自分は「一本一本の木を触って樹皮の手ざわりを感じ、花の匂いや枝葉がつくる日陰の心地よさを知りたかった」ので、結局、対象により近く、より長く接するような手法を取るようになったという。今般のワ州滞在が長期に及んだ(普通のジャーナリストならせいぜい4~5日。現地人からは、外国人が7ヶ月も滞在するのはギネス記録だと言われたそうだ)のは、そうした背景があってのことだ。私はジャーナリストが書いたものを好んで読むし、それは今後も変わらないが、高野氏のようなアプローチだからこそ書けるもの、そして、面白いものがあることを改めて感じた。
    (2024年5月了)

  • 記念すべき私の初めて読んだ高野秀行作品。浮世離れしたワ州と著者の行動力に圧倒された。これを読んで以来、著者の他作品を読むようになった。

  • 行動力ありすぎ...

  • 親から聞いた昔の沖縄とそんなに変わらないのでは?と思いながら読んだ
    村は先祖を敬う儒教のようだし、女性一人では生きるのに厳しいところとか、ケシ栽培がサトウキビ畑に変われば昔の沖縄なんだと思う
    ワ軍はアメリカ軍と考えたらさらにそうかも
    世界地図のミャンマーの場所すらちゃんと知らないのに共通点があっておもしろい

  • 旅行記としても政治学的資料としても、あるいは単におもしろい読み物としても、この本は超オススメである(デイリー・ヨミウリ紙)
    文庫版あとがきより

    ーーーーー

    本当にその通りだと思う。

    絶対に自分には真似の出来ない行動をしてくれて伝えてくれてる。
    そんな場所があって、そんな生き方をしている人たちがいるのね。知れて良かったありがとう。
    世界は広く、おもしろい。
    なんてくらいの稚拙な感想しか言えないことが口惜しい。

    高野秀行氏の著書はこれが初めてなのだけど、他もいろいろ読んでみよう。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

高野秀行の作品

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