- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087462302
感想・レビュー・書評
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やはり面白かった。まるで毒を飲まされたような読書体験。
星の子学園関係者の視点から物語は始まる。かつて関わりのあった、アイ子という女が自分を焼き殺しに来る。末恐ろしい物語のスタート。
それから物語の軸はアイ子に移っていく。「経営巫女」の世界を挟みつつ、「ヌカルミハウス」に物語は収斂していく。
アイ子の過去が次第にクリアになっていき、最後には母親の正体が明かされる。まさしく I'm sorry, mama. という終わり方。
さながらアイ子の人生を追体験するようだった。彼女は孤独なのだけど、そもそもにして愛を知らないので悲壮感はない。深く考えることはなく、ただただ殺し、奪い、ゆらゆらと生きる。孤独の放埒と言った感じ。
だけど、芯の部分で母親の正体を知りたいという、強く共感できる部分がある。その1点にどこか惹きつけられた。
たった250ページなのに非常に色濃く、没入させる手腕は見事。
自分の知らない世界。社会標準から逸脱した人々。それらをエンタメ小説として、匂い立つようなリアルさで描いてみせる。桐野夏生らしさが光った1冊。
(書評ブログの方も宜しくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%B3%A5%E8%87%AD%E3%81%84%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E6%94%BE%E5%9F%92%E5%B0%8F%E8%AA%AC_Im_sorry_mama_%E6%A1%90%E9%87%8E%E5%A4%8F%E7%94%9F詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ある女性の姿をうつす。
犯罪に明け暮れる主人公の根本には何があったのかを中心に進んでいく。
ただ、中途半端な終わり方が少し残念でした。
平然と人を殺す、悪魔のような女
児童保育施設の保育士だった女性が、25歳年下の夫と焼死した。事件の裏に、ある女の影が浮かぶ。盗み、殺人、逃亡を繰り返して生きて来た女の行き着く先は…。悪の本質を問う長編。(解説/島田雅彦) -
桐野先生の作品の中でも群を抜いた悪女の一生。楽しかった。
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超ド級の不幸な女の「ママ探し」の人生。娼館に生まれて親を知らずに育ち、養護院を出てからは自分の身体一つで浮き草のようにフラフラと生きる先で、憎しみの矛先を周囲の人間に向けていく。トンズラした先ではまた盗みと人殺し。でも、別に人殺しの物語ではない。
とばっちりを受けるのは彼女と交差した人たち。でも、交差した後はアイ子の過去は、いつだって真っさら。足がつきそうになったら足跡を消して歩いてるだけで、人は消すのが一番手っ取り早い。
考えないで、欲望のままに行動する。動物的な第6感だけはふつう以上に発達してる。
アイ子にとっては、とくにそれが刹那的な生き方っていうわけでもなく、意識的に自堕落っていうわけでもなく、そうやってなんとなく生き延びてきた人生。こんな感じの女なので、笑っちゃうくらい悲壮感がない。
アイ子は悪意で破裂しそうなくらいだけど、女がしぶとく生きる道は、大股開きで何でも来やがれ、と周囲をにらみ返していくことなんだろう。まあ、もちろん現実の世界ではこう簡単にはいかないけれど、それしかなかったら私だってそうするかもしれない。いや、しないかもしれない。
悪のヒロイン、アイ子に対する嫌悪感と女としてすぅっとする感じ。戦う女を描かせたら超一級の桐野夏生らしい物語。 -
主人公アイ子のモンスターぶりが怖かった。
関わった人や過去の不都合をアイ子自身が消しゴムで消してしまっているせいで、自分のアイデンティティが皆無。善も悪も考えない。
ただ、誰よりも自分が何者なのか知りたかったのだろうし、タイトルの意味を考えると悲しい話だと思った。
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あまり長くないので、滝みたいな勢いでいっきに駆け抜けるように読み終わる。善かれ悪しかれ、立ち止まって停滞する瞬間がない。
その分、著者に特有の人の悪意や嫌な部分についてのねっとりとした描写も抑えられている。そこまで深入りせずに、とにかく前に前に進んでしまう感じ。
著者の人間観は、内面や心理描写ではなくて他者との関係の中に人間の嫌な部分を見出してゆくというものだと思う。本作は、ものを考えないという主人公を造形したことによって、そのような人間観がより徹底している。ぐじぐじ悩まずに乾いた行動規範にもとづきただただ動き回って人を殺したり誘拐したりしてゆく主人公は正義や美しさに背を向けた負のハードボイルド。犯罪にも逃亡にも美学が一切ないのがすごい。 -
桐野夏生の描こうとした悪をどのような型で捉えるかで物議を醸すだけでは、この作品の価値を味わうには足らないと思われる。この作品にはある種の究極的な技巧さがあると感じる。要は上手い、という話だ。人物にせよ、情景にせよ、文字を頭に入れると立ち所に映画のワンシーンのような映像が思い浮かぶ。アイ子のような空恐ろしい人間に会ったことがあるわけでもないのに想像ができる。そのような文章を書ける作家が一体どれくらいいることか。各シーンごとのグロテスクさが文学作品的なリアリティを醸し出していて、味わい深い。
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何にも恵まれなかった1人の女性のお話。女の嫉妬・渇望が描かれ、人間の黒々しい部分が細かに描かれている。さすが桐野夏生さんという感じの作品