- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087467918
作品紹介・あらすじ
歴戦の同志を失いながらも、梁山泊軍は、童貫軍と全軍あげてのぶつかり合いを続けている。乱戦の中、戦場の中央に陣取る郭盛軍は少しずつ前進を始めた。童貫は『幻』の旗に向かい、岳飛は楊令軍を止めるべく疾駆する。一方、金軍は宋領深く南下し、青蓮寺は北の大商人たちの財産接収を始めていた。歴史が大きく動こうとするなか、ついに楊令と童貫が戦場で邂逅する。楊令伝、圧巻の第九巻。第65回毎日出版文化賞特別賞受賞。
感想・レビュー・書評
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楊令の正面に岳飛が出てくるのが見えた。一度だけ剣が交差した。岳飛の剣が、宙を飛ぶのが見えた。
それだけだった。楊令は岳飛軍を突き抜け、長平もそれに続いた。『幻』の旗は、揺らいでいない。『蒼』の旗もだ。
右手。童貫だった。楊令を、押し包もうとしてくる。息を呑むような、鮮やかな動きだった。しかし楊令は、それより速く反転した。(79p)
遂に楊令と童貫との決着がつく。どのように剣を交わしたのか、描写されない。我々の想像に任せる、ということなのだろう。
戦の終息。それはつまり、宋江が魯智深が思い描いていた、そして楊令が梁山泊の頭領になるに当って死ぬほど苦しんだ「国造り」の構想が明かされるということだ。
「俺は北で幻王と呼ばれ闘ってきた。その闘いには、正しいものも間違いもあった。いま思い返すと、そうだ。一つの城郭で反抗してくる者を皆殺しにしたこともある。それでも俺が見つけようとしていたものは、光だ。なんとかして、光を見つけようとした」
「わかりません、光などといわれても」
「俺も、わからなかった。闘いながら、考え、捜した。宋江様が、最後に俺に言われたのが、光、という言葉だった。『替天行道』の旗が、俺の心に光を当てるとな」
楊令が言葉を切った。
杜興は、まだ眼を閉じていた。
「民のための国。『替天行道』の旗を見つめながら、俺が見つけたのは、民のための国、という光だった。多くの男たちが、なんのために闘ってきたのかを考えても、やはり出てくるのは、民のための国だった。帝など、国には要らないのだ。苦しみや悲しみがあっても、民のための国があれば、民は救われる。それこそが光だ。俺が、宋江様に対して言える、唯一の答だ」(211p)
帝政は採らない。税金は10%、あとは交易から収益を取るのだという。徴兵制を採る。常時軍隊6万、いざというときに20万、30万人を集める力を蓄えるのだという。12世紀の中国で、いや世界で、それはやはり「革命的」な考え方だっただろう。この小説はキューバ革命の中国小説版なのだから、それは当然なのである。しかし、もしこれが総べてなどだとしたら、やはり国造りは失敗に終らざるを得ない。「of the peaple ,by the peaple ,for the peaple」に即していえば、ここで述べられているのはfor the peapleのみだ。特にby the peapleが完成しないと、国造りは失敗になると思う。それは呉用に掛かっている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
遂に、梁山泊と宋禁軍との戦いに終止符が打たれました。
戦に自分の生涯をかけた禁軍の元帥童貫が、
替天行道を掲げた梁山泊頭領の楊令によって討たれ、
梁山泊の勝利によって宋は敗れました。
元帥あっての禁軍。
禁軍あっての宋という国の存在。
ここ数年、形骸化していた宋の政治は、この敗北によって脆く崩れていきます。
宋を倒すことに力を注ぎ、新しい国を建てることを夢見て長年戦ってきた梁山泊。
いざ、勝利をおさめ、実際に国を建てることに直面した梁山泊がどのような国造りをしていくのか。
なんだか、梁山泊の勝利を応援しながら読み進めてきた分、終わってしまった虚無感がぬぐえません・・・ -
「国」とは何か。北方謙三はこれが書きたくて水滸伝からずっとこの物語を描いてきたんじゃないかと思わせる、転機の一巻。感銘を受けました。
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楊令率いる梁山泊軍と童貫率いる宋禁軍の決戦
それぞれ死力を尽くした戦いで息つく暇がなかった。
楊令が童貫を討ち決着する。
童貫の遺骸を敬意を持って宋禁軍に引き渡すなど敵でありながら礼節をわきまえた行動が潔い。
男と男の戦い
その後梁山泊のあるべき姿、理想とは夢とは志とはいろいろ考えさせられた
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4.0
童貫は自分の喜びを優先した。そして賭けた。
国同士の争いになって複雑さを増してきた。 -
童貫の死と、対宋戦終結。
梁山泊が国として動き始める。
本筋とは関係ないけれど、候真と戴宗の確執が気になる。
遊妓に惚れちゃうあたりも、好きだなあ。 -
著者:北方謙三(1947-、唐津市、小説家)
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童貫。違うベクトルで郝瑾。
そして新たに悩み進めるベクトル。
岐路に立ってると思うとどうすべきなのか…
何かに委ねたくなるけど進まなきゃ だね。