プリズムの夏 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.15
  • (32)
  • (102)
  • (270)
  • (63)
  • (16)
本棚登録 : 1203
感想 : 141
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478396

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • そういえば高校時代とかって、一度考え始めたら頭の中が全てその事で埋め尽くされるなんてこと、あったように思う。
    二人を見てると、そんなにムキになっちゃぅて…もっとやらなければならない事があるのに…と思うのは少しずつ色んな物を失ってきた大人になったから結果だろうか?

    ラストはお互いを丸ごと認めあって、ほのぼのとした素敵なシーンだった。

  • 心に訴えかけてくる本です!

    映画観賞が好きな2人の少年、植野と今井。
    少年2人が行きつけの映画館の受け付けには無愛想ながら魅力的な女性、松下さんがいた。
    ひょんなことから少年2人は松下さんに好意を!しかし仲良くなるのは難しく…
    そんな時少年達はネットの匿名日記「やめていく日記」を読み始める。その主人公はうつ病で今までやっていたことをやめていくことを書いている日記。
    読み進めるにつれて、日記の主人公は松下さんなのではと認めたくないけれど疑い始める…
    命を絶とうとしている松下さんを少年達は止めたいけど、どうすれば助けられるか分からなくて…

    やはりうつ病など書かれているので気持ちが暗くなって読む気が失せると思ったのですが、それとは裏腹に続きが気になりすぎて後半はスピードアップで読み終わりました。
    考え深い本でよかったです!

  • YAは時代を切り取ったものである。それは現実的な話に限らず、ファンタジー色の強いものでもそう思います。
    読者対象が狭いため、あっという間に世代交代されていくのですね。10代の頃の1年はとても長く、ちょっと前の世相がとても古く感じてしまいます。
    だから昔のYAを今の10代が読むとどう感じるのかは気になります。

    今作は2003年に発表されたもの。実にその時代が鮮やかに切り取られています。今からもう16年も前になるのですね。ああ、確かにそうだった。この時代はこんな感じだった。そんな懐かしさがひしひしと迫ってきます。
    そこに生きる高3の少年ふたり。将来の夢、別れたばかりの彼女、父親のリストラと精神状態、映画館窓口の年上の女性への憧憬と恋心、個人サイトの日記、夢を諦めること、がむしゃらになること。その時代ならではのものもあります。でもその状況に対してどう感じるのかどう行動するのかは普遍的なものもあるでしょう。

    今の若者は無気力だ。全てを諦めて達観したような顔をしている。ここ20年以上ずっと言われ続けている気がします。そう言われていた若者が、次世代の若者に対しても同じように言っている。それが時代を超えた若者らしさであるかのように。
    しかしここに出てくるふたりは、達観しているようなそぶりでいながら、がむしゃらになっています。虚無の世界でしかないようなネットに書かれていることを真っ直ぐに受け取り、そこにぶつかっていきます。よく知らない相手に恋心を抱き、よく知らないまま突き進んで行きます。
    そんながむしゃらさもまた、時代を超えて存在する若者らしさなのかも知れません。

  • 松下さんとアンアンが同一人物かの謎解きミステリーとして楽しんだ。解説の人間の性格を形成する5つの要素は興味深く為になった。

  • とにかく、ANANさんが無事で良かった。高校3年生の恋模様が描かれていて、なんだが青春時代に戻った気持ちになった。
    菜那さんが映画館で過呼吸になった場面があった。袋に自分の息を出し、それを吸うことで落ち着くみたいだ。覚えておこうと思った。
    今井くんの趣味は琴を弾くこと。13本の弦でてきているなど、箏のことが知れて面白かった。

  • あの人のために、何ができるだろうか。ひたむきな少年の想い。

    現実感があるような、ないような、ハッピーエンドでよかったです。なんとなく、すべてがうまくいきそうな終わりで、そこが甘っちょろい気もするけど、夏らしくていい。冬だったら、こんな幸せには終われないだろう。

  • お兄ちゃんから、4月に貸してもらった本。
    今さら読んだ。。

    手にとったのが偶然この7月だったんだけど、今の季節に読んで正解だったかも。

    22歳の女の人が出てきて驚いた。いろんな22歳の女の人が居るな。
    私はどんな22歳の人かなあ。

    そして、少年の心って、こんなにも真っ直ぐなものなのかい(!)

  • -自分を傷つけるものを遠ざけたい気持ちはぼくにもよくわかった。そして自分を傷つけるものこそ、いちばんいとしかったものであることも。-
    この一節が凄く印象的だった。
    人でも、物でも、大切なものは何かしらそういう要素を含めていて
    それでも求めてしまうものだと思う。
    そういうモノを持ちながら少しずつ歩き始める姿がよかった、温度の低い話です。

  • 2008年05月21日 17:39
    ネットなんかで調べて他の人の書評を読んでみると、あまり良い事は書いていないようだが、僕は良いと思う。
    青臭くて甘酸っぱくて。
    パソコン、ホームページ、レンタル日記などが全面に出てきたのは今の時代、当たり前と言えば当たり前だが新鮮味があって良かった。
    ただ、パソコンをやらない人は何のことかさっぱりという語句も出てきたと思う。BBSとか。
    ほとんど、ぼくと今井のやりとりで繰り広げられているため、
    もう一つ何か書いてほしいとすれば、ぼく(植野)の家族について。
    登場するシーンがあまりなかったように思う。
    お互いの家に行っても、一人で住んでいるような静かな感じがあった。
    あと、この小説は偶然が多すぎる。
    二つや三つならともかく、ほとんど偶然によって話が進められている。
    何かひどいことばっか書いてきたけど、、、星4つだし、いいですよ。

  • 今日の本は、タイトルが夏っぽいし、表紙の自転車をこぐ少年のパステル調の絵が爽やかで、夏気分だな~と、あまり深く考えずに手に取った本。


    『プリズムの夏』 関口尚 (集英社文庫)


    が、しかし!
    重かった!

    「ぼく」こと植野と同級生の今井は高校三年生。
    二人は映画館のチケット売り場で働く松下さんという年上の女性に淡い恋心を抱くのだが、彼女が実はウェブ上で鬱病の日記を公開していることを知る。

    「やめていく日記」と題されたそれは、いろいろなことを一つずつやめていって、最後は自分をやめる、という内容だった。
    松下さんを救いたい。
    けどどうすれば救えるのかがわからない。

    自殺をほのめかす最後の日記を読んだ二人は松下さんのもとへ駆けつける。
    薬の袋が散乱した部屋で、焦点の合わない目をし、彼女はナイフを握っていた。
    壮絶な光景なので、ここから先はちょっと書けない…。

    結果的に松下さんは、この二人の少年に助けられる。
    彼女がナイフを取り落として叫ぶ新生児の産声に似た「ごええ」という声。
    この「ごええ」がいつまでも頭に残って暗い気持ちになった。
    ショックだった。
    人が壊れていくさまを見るのは悲しい。

    この物語のテーマは少年たちの心の成長である。
    松下さんの鬱病はそのための小道具のひとつだ。
    なのにこんなに鬱病自体が突出して重く感じられるのは、きっとこれが「日記」という形態で書かれているせいだと思う。

    普通ならば、語り手である植野くんの視点から見た「鬱病」が客観的に描かれるわけで、推測を含む描写になり、ワンクッション置いた感じになる。
    “辛そう”に“見える”でとどまるので、あまりショッキングではない。
    だがこの小説の鬱病の主は、ネット上の公開日記で自分
    の言葉で告白しているのである。
    「自分は鬱病」だと断言し、薬に頼っていること、自傷癖があること、自殺をしたいと思っていること、自分を取りまく環境、今の自分の気持ち。
    本人がそう書いているのだから、そこに他人の希望的観測をさしはさむ余地はない。
    「鬱病」に必要以上にスポットライトが当たってしまっている理由はそこにある。
    作者がそれを意図していたのかどうかはわからないけれど。

    “雨上がりの空”と形容してもいいかもしれない。

    事件後の松下さんは、まだ通院は続いているものの、薬の過剰服用をやめた。
    「松下さんの心がもう少し晴れてきたら海へ行こう」と植野くんは思う。

    でもなぁ…と私は思う。
    松下さんは本当に回復へと向かう旅のスタートを切ったのだろうか。
    そんなに簡単なものなのだろうか。
    「自分のことを考えてくれている人がいる」というだけの理由で…。

    ネットの中で、もう一人の松下さんが独りぼっちで泣いていなければいいがなぁと思う。

    雨上がりの青空。…なんだけれど、どこか少し悲しい。

全141件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1972年栃木県生まれ。茨城大学大学院人文科学研究科修了。映画館の映写室でアルバイトをしながら小説を執筆し、2002年『プリズムの夏』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。07年には『空をつかむまで』で坪田譲治文学賞を受賞。他の著書に『ブックのいた街』、『はとの神様』、『ナツイロ』、『シグナル』、『潮風に流れる歌』などがある。

「2018年 『サニー・シックスティーン・ルール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

関口尚の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×