南方熊楠を妻、松枝の目を通して描いた作品で、既知のエピソードであっても、女性ならではの視点で読み解いている点が特に良かった。
また、男性作者が描くと「夫を支えた賢妻」のように扱われがちな著名人の妻の、ごく普通の女性、妻、母である姿が垣間見られる点も良かった。
南方熊楠の学者、研究者、活動家という側面だけでなく、家族からみたその人となりや、意外と気弱であったり、のせられやすかったりという普段の姿が見え隠れするのも興味深かった。
時代が時代とはいえ、熊楠の妻という立場は本当に大変だったと思う。それなのに、息子さんが悲しいことになってしまい、報われないというか何というか。
読み終えた時、見知らぬ人である松枝さんに向かって「お疲れさまでした」と言いたくなった。