E・A・ポー ポケットマスターピース 09 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 集英社 (2016年6月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (832ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087610420
作品紹介・あらすじ
ミステリ、ゴシック、冒険小説……全ての原点にポーがある。『アッシャー家の崩壊』『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』等の代表作に、桜庭一樹の翻案2作も加えた、唯一のポー作品集。(解説/鴻巣友季子)
感想・レビュー・書評
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まるでレンガのような分厚い本。そこには「モルグ街の殺人」や「アッシャー家の崩壊」、「ウィリアム・ウィルソン」といったポーの楽しい短編16作にくわえ、有名な「大鴉(大がらす)」や「アナベルリィ」の詩篇もある(ただ詩集ではないので、本格的に読みたい方には岩波他の対訳本をお薦め)。
そんな宝箱のような中から、今回私のねらう獲物、もとい、注目する作品はポーの長編、
『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』
(『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket 1838年)
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ピムは海洋冒険にあこがれ、親友のオーガスタスとともに彼の父親が船長をしている捕鯨船グランパス号に潜入する。船倉の暗闇に身をひそめ、うまうまと海洋に繰りだしたピムだが、船上では一部の乗組員が暴動を起こして船は乗っ取られた。ひそかに船倉から浮上したピムは、オーガスタスとともに過酷なサバイバルに挑む。
ポーはシェイクスピアのような格調高い、怒涛の筆致で作品を生みだす作家で、どれもわくわくさせるおもしろさ。ただその作品のほとんどが短編なので往生している。どうやら私の頭は短編向きではないらしく、読んだはしから忘れてしまい、むなしい喪失感に悲しくなる。これが中編になると活気を取り戻し、長編ともなれば喜び勇んで続けざま2度、3度と読むこともあるのだが……。
嬉しいことに、本作はポーの唯一の長編ともいわれる300頁ほどのもの。私の敬愛するイタロ・カルヴィーノやウンベルト・エーコ、ボルヘスやポール・オースターといった面々が、口をそろえて話題にするだけのことはあって、次々に頁を繰って読ませる力強さと躍動感に感激するのだ。
ピムの冒険は二部構成のようになっていて、前半は既知のものの残虐性と恐怖、後半は未知のものの憧憬と畏怖、それらが息もつかせぬ迫力で進む。
ふとポーをながめるたびに不思議なのは、なぜ詩人の彼がこれほど魅力的な散文をものすのか? 人間の内奥にある混沌には、抗えない野生、不安、素朴な祈りを孕んでいて、ポーはあやまたずこれらをとらえ、ある種の求道性を醸すのだろうな~。その筆致はリアリズムに貫かれていて、決してぼやけたファンタジーや幻想譚にはならない。
本作の「白」の描写、「白」に対する畏怖の念を隠さないツァラル島民の描写には目をみはる。たしかに美しく高貴なイメージがありながら、ときに超自然的な姿をみせる。それがうす気味悪く、一抹の不安をかきたてるのだ。白のもつ両義性や相反する心象をうまくとらえている。
……そう、雪山の銀世界をスキーで滑走するのは、この世のものとは思えない美しい体験なのだが、ひょんなことからホワイトアウトになれば、まわりは真っ白、白、白……右も左も空間も、地表もその起伏も、しまいには天地さえわからなくなってしまい、あっというまに宮沢賢治の受難のわらべのようになって、その恐怖たるや筆舌に尽くせない。
そうだ! ポーの話だった。
もちろん「白」には、当時の陰惨な歴史的背景や白人至上主義的な意味合いなども取り沙汰されているようだが、それは読み手それぞれのうけとりとしても、考えてみればポーに影響された作家は、ジャンルを問わず世界中にごまんといることに驚く。本作をながめれば、誰もがハーマン・メルヴィルの海洋小説『白鯨』との繋がりを感じるのではなかろうか?
「Nevermore」
「はいはい、でも本と本が繋がっていけば、きっといつかこの世界を理解できるのでは?」
「Nevermore」
「それは困ったな、こうして遊んでいる自分をほとほともてあますね~これ以上続ける意味ある?」
「Nevermore Nevermore」
「……」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
NHKで紹介された「アーサー・ゴードン・ピムの冒険」を読んでみたかったんですが、そこに行くまでが長い。分厚すぎる。
そして肝心のアーサー・・・の物語は残酷描写が多くて流し読み。ゴシックホラーというのでしょうか、わりとグロい描写もあり、わたしには合わなかったかなぁ。「黒猫」のお話は、猫を虐待する話で、ホント読んでて気分が悪かったです。
残念。 -
デーレンバック『鏡の物語』読後、禁断症状につきアッシャー家再訪。血が濃すぎるんだよ君たち。
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↓貸出状況確認はこちら↓
https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00256039 -
800ページもあるアンソロジー
以下の作品を読んだ。
モルグ街の殺人
マリーロジェの謎
盗まれた手紙
黄金虫
お前が犯人だ
メルツェルさんのチェス人形
黒猫
ほかに、あと10編あるが、もういいかという気がする。
当時は画期的だったのだろうが、今となっては古びた印象は否めない。 -
ツタヤ代官山でのトークショー&サイン会と同時購入
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詩と長/短篇、全20編を収録。「アーサー・ゴードン・ピムの冒険」など未読作品だけ読もうと手に取ったが、“やはり「アッシャー家」を素通りするわけにいかないし「黒猫」も「モルグ街」も…”となって、結局全部読むことに。巻頭の「大鴉」は中里友香氏による新訳で、素晴らしく雰囲気がある。充実した解説や内外の主要文献リストも嬉しい。そしてさらに読書の深みにはまるための、メルヴィル、エーコ、ミルハウザー、キング等計38作家を挙げた「Further Reading~ポーを愛する読者へのブックリスト」もついてくるなど大変お得
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2016-7-18
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「モルグ街の殺人」を再読するつもりで借りたが他の作品も面白かった。
推理小説の原点というのは知っていたがホラーやSFの元祖だったとは初めて知った。
「モルグ街の殺人」や「マリー・ロジェの謎」の推理や「黄金虫」の暗号解読は見事に論理的なステップを踏んで展開されており、「メルツェルさんのチェス人形」の指摘事項もオカルト物への見事な反証になっている。ロジカルシンキング研修の教科書にすると面白いと思う。
ホラーとしては「早まった埋葬」で語られている「生き埋め」に対する恐怖が、他の作品でしばしば登場しているのが興味深かった。
長編「アーサー・ゴードン・ピムの冒険」で原住民の叫び声として出てきた「テケリ・リ!」...どこかで見た覚えがあると思ったらクトゥルフで使われていたとは...ポーおそるべし。