- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087714975
作品紹介・あらすじ
江戸・深川の宇右衛門店で独り暮らしをするお絹。三十六になる今は小間物の行商で身を立てているが、三年前までは蝦夷松前藩の家老の妻だった。夫は藩内の不穏分子の手にかかり、息子の勇馬は行方不明。お絹は商いを通じて、定廻り同心の持田、船宿の内儀おひろ、茶酌女お君など町の人々と親交を深める。それぞれの悩みに共感し、奔走するうちに、行方不明の息子と夫の死にまつわる噂を耳にして…。船宿の不良娘と質屋のドラ息子の逃避行、茶酌娘と元恋人の切れぬ縁、そしてお絹自身に芽生えた静かな愛情…、心に紡がれる恋の模様。
感想・レビュー・書評
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糸車
2016.08発行。大活字版。
物語の発端は、蝦夷松前藩一万石の家老・日野市次郎が、江戸藩邸で藩士・村上清蔵に斬られ、命の危険を感じた息子・日野勇馬が、藩邸を出て町中で身を潜めます。江戸からの飛脚で夫が死に、息子の消息が分からないことを知らされた母・お絹は、単身松前から江戸へ出て来ます。
お絹は、江戸深川の裏店で住み、息子を探すため小間物の行商をし、奉行所定廻り同心持田の探索を心の支えに、深川で知り合った人達との人情を大切に生きて行きます。
この物語は、お絹が江戸深川で母として息子勇馬を思い、女として町方同心の持田を想う波乱にとんだ生き方を書いたものです。
【読後】
江戸深川の裏店の生活が、よく分かるよに書かれています。お絹が、持田に勇馬のことを「母親に女の匂いを嗅ぐのがいやなんですよ」とさらりと言うくだりは、おぅーと思いました。さすがに女性の作家らしい書き方です。
【音読】
音読用に大活字版の「誰でも文庫 43 糸車」①と➁を借りて来ました。
定本は、集英社「糸車」です。登録は、集英社「糸車」で行います。
2021.02.28~03.09マデ、音読で読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
行方不明になった息子を探すため、松前藩から江戸に出てきて、小間物商いをしながら暮らすお絹。武家の母親だけれど、町人として人情を大切に暮らしていく。息子が見つかってからは、かなりつじつま合わせというか、駆け足という気がした。武士の世界はややこしい。
おいねと長吉の二人が、自分の思いをあけすけに言うところや、思いのままに行動するけれど人情があるところが武士の世界とは全く違っておもしろい。
なぜ糸車なのか、もひとつ理解できなかった。 -
「小説すばる」に掲載された6章の単行本化。
松前藩主道広が不行跡のために幕府から謹慎処分を受けたことにかかわって、藩邸内で家老が暗殺され、その息子が行方不明になった。
家老の妻の絹は江戸へ出て来て、長屋を借り小間物の行商をしながら息子の行方を探すうち、深川に暮らす様々な人々と出会い、支えられる。
息子勇馬は松前藩の探索を逃れ、蔭間(男娼)に身を落として潜んでいたが、絹に思いを寄せる町奉行所の同心持田によって救われ、かくまわれる。
松前藩の奥州梁川移封で勇馬が召し抱えられることになり、持田からの養子の誘いと求婚を断り、母子は梁川へ赴く。「糸車」は絹が養蚕の内職をして、生糸を繰るところから取っているのだろうが、人生の「糸車」が巡ることの象徴なのだろう。
ところどころ突拍子もない展開になっている感じもするが、封建道徳に縛られない強い女性の生き方を描いていていて、すがすがしい。 -
江戸の下町の情緒溢れる、特に、街並みが鮮やかに、人々の暮らしが濃やかに描かれている。
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蝦夷松前藩出身の30代後半の女性を扱った物語。
当時の情報としてはそれほど多くなかっただろうに、
現代の地方出身者の心境も織り交ぜてか
よく心の動きがえがけていると思いました。
そして、この著者ならではの、
一筋縄でいかない男女の行く末をちょっとせつなくも
あたたかく描いています。
物語なんだから、もうちょっと希望や夢みたいな
結末を期待するのですが、
でもこの時代の人もこんなに思い通りにならない人生を
生ききっていたのだと想像すると元気にもなります。 -
宇江佐先生は松前藩を書いた作品がありますね
藩の動乱に巻き込まれた一人の寡婦が必死に
活きる様が共感を覚えます