鏡の花

著者 :
  • 集英社
3.40
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715293

作品紹介・あらすじ

少年が抱える切ない空想、曼珠沙華が語る夫の過去。老夫婦に届いた絵葉書の謎、少女が見る奇妙なサソリの夢。姉弟の哀しみを知る月の兎、製鏡所の娘が願う亡き人との再会。

ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも――。
六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。

感想・レビュー・書評

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  • タイトル通り、鏡の向こうを覗き込んだかのようなパラレルワールドが展開されていく。

    二組の夫婦と二組の姉弟の物語。ある時は妻が死に、ある時は夫が死ぬ。ある時は姉が死んでいてある時は弟が死ぬ。ある時は息子が死んでいて、ある時は両親が死んでいる。

    悲しいのだけれど、共通しているのは、どの物語も亡くなった人が最後まで家族を思っていて、残された人々もその思いに気付いた上で前を向こうとしていること。
    それだけに人は亡くなってしまうと取り返しはつかない。
    今一緒にいることがどれだけ幸せなことか。

    最終話では二組の夫婦と二組の姉弟が家族揃っている設定で集結する。誰一人欠けることなく集まっているのだからさぞや幸せかと思いきや、それはそれで様々な悩みや葛藤やジレンマを抱えるものらしい。人間は贅沢だ。
    だが最後にある展開が用意される。
    そこから導かれる結末は当たり前のことかも知れない。
    それでもそれは夏に見られるオリオンのように、滅多に見られない幸運なことかも知れない。

  • この小説はどの時点でのストーリー(章)なのか時間的感覚を錯乱させる。と言うのは、身近な人が亡くなると人はその人の過去を想い幻想する事がある。本書は人の生と死に向き合う内容が多く、生きていた時の出来事、亡くなった後の出来事を回想した場面が多く、各章がその順番になっていないから理解するのも難しい。

  • 第二章にはいり、「ん?短編集だったの?」と思った。
    しかしどうもそうでもない。
    不思議な連作だった。
    亡くなっていた人が生きている。
    生きていた人が亡くなっていたりもする。
    勘違いかと思考がせわしなくかけまわったのもわずかで
    先をよんだり予想をすることに長けていないわたしにもなじめた。

    こうだったらいいなとか
    これとあれがいっしょになったらいいなとか
    ふだん本を読んだときとは違う気持ちの動き方があった。

    いろんな思いが交差する一冊。

  • 近年の道尾秀介はどうもこういう路線だ。綺麗な道尾。系統で言うならば『光媒の花』のような。初期のよりブラックで読者をあっけにとらせるような二転三転するミステリーがまた読みたいなぁ。今の道尾小説はもちろん文章もうまいけれど綺麗過ぎる。2013/409

  • ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった―。

    人生における分岐点。あの時こうしていたら…という「もしも」を考える。
    姉が弟を亡くした世界。逆に弟が姉を亡くした世界。
    似ているけど異なる、合わせ鏡のようないくつものパラレルワールド。

    自分が起こした些細な出来事が、結果的に大切な家族の命を奪うきっかけになってしまうなんて、そんな辛い事はない。
    皆それぞれに喪った悲しみと後悔を抱えて生きている。

    運命というものは変えられなくて、大切な人の死は他の誰かの死をもって代用するしかない。神なのか何なのかわからないけど、その何者かに生け贄のような形で誰かの命を差し出さなければ世界は回っていかないんじゃないかと、読んでいてそんな錯覚を起こしそうになる。

    「もしも」の世界を自分に置き換えて考えてみる。
    あの時、誰かが欠けなきゃいけない運命だったのだとしたら、それは私という事だってありえたのかもしれない。
    いくつもの分岐点。いくつもの「もしも」の上に、いま存在している自分を思う。

  • 不思議な物語です。
    そのタイトル通り、6編の短編が”鏡”に映されたがごとく、綴られています。
    でも、いまいち入り込めなかった。

  • *「大切なものが喪われた、もう一つの世界」を生きる人々。身近な誰かが欠けてしまったパラレルな六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ、今までにない物語の形。緻密な構成が輝く、著者渾身の意欲作*
    もしもあの時こうしていたら・・・と、それぞれ違う未来が平行して書かれている、不思議な物語。作者の意図を知らずに読んでしまい、前の章では亡くなっている人物が次の章では元気に暮らしていると言う展開にすっかり混乱。全体的には物悲しい印象。

  • 人物が違う設定で登場する短編集は、他の方のレビューにあるように不思議な独特の世界を作り出して面白い。「光媒の花」のような道尾ワールドがさらに研ぎすまされたような完成度です。
    救い上げられた心情の豊かさには本当に感心します。鋭い作家さんです。


    個人的感想:読んだり読めなかったりと少しずつ読んでいったので、途中人物がわからなくなってページを戻したりしてと時間のかかる読書になりました。
    忙しい時期に読むには向かない小説だと感じました。
    刺々しくなっている自分の心を鏡に映されたかのようです。
    繊細な心理描写に感じ入る一方で、どこかつき合いきれない面倒くささを感じる自分。
    自然の光景描写の美しさに惚れ惚れする一方で、恣意的なものをちらりと感じてしまう自分。
    もしもこの人が死んでいなかったらと考えさせられる部分、小説ならではのことですが、作者が生死というモチーフを駆使しているように感じられ、微かにひっかかりました。
    優れた作品に水をさすようで大変に申し訳ないですが、それもこれも読み手のコンディション、自分の読み方次第だと今回は痛感しました。もったいない読み方をしてしまった。

  • さすが、道尾さん。

    1編目から、切なくて優しい気持ちにさせてくれる。
    こういうのも、連作短編集といっていいのかな。

    前の短編と登場人物は重なるのだけど、現実が少しずつ違った
    物語が紡がれていく。
    隣りに位置するパラレルワールドみたいに。
    共通するのは、そこに、「死」があるということ。
    そして、登場人物間のつながりが少しずつ深くなるみたいな。

    6編目で、勢ぞろいの総集編とでもいう展開になっている。
    読み終えて、その余韻にため息1つ。

  • +++
    製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。
    +++

    登場人物をほぼ同じくする六つの世界。だがそれは、少しずつ様相を変えた別の世界の物語のようでもある。それが、鏡に映るパラレルワールドのようでもあって不思議な心地にさせられる。それぞれの世界では欠けている人物が変わり、それ故哀しみの形は違うのだが、どの物語も哀しみと喪失感に満たされている。どの物語でも、登場人物たちは完全に満たされることはない。それでも、どの物語にもしあわせな瞬間はあって、人が生きていくというのはこういうことかもしれないとも思わされる。合わせ鏡を恐る恐る覗くような不思議な一冊である。

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著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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