るん(笑)

著者 :
  • 集英社
3.17
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本棚登録 : 727
感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717303

作品紹介・あらすじ

スピリチュアルと科学が逆転した、
心の絆が生み出すユートピア・ニッポン!
平熱は38度で、病気の原因はクスリを飲むこと。
お祈りですべての病気を治す世界で繰り広げられる、
誰もが幸せなディストピア。
『皆勤の徒』『宿借りの星』で日本SF大賞を2度受賞した
期待の星による、連作小説集。

結婚式場に勤める土屋は、38度の熱が続いていた。
解熱剤を飲もうとすると妻の真弓に「免疫力の気持ち、なぜ考えてあげない」と責められる。
……「三十八度通り」

真弓の母は、全身が末期の蟠りで病院のベッドに横になっていた。
すぐに退院させられ、今後はそれを「るん(笑)」と呼ぶ治療法を始めることになる。
……「千羽びらき」

真弓の甥の真は、近くの山が昔の地図にはないと知り、登りはじめた。
山頂付近で、かわいい新生物を発見する。それは、いまは存在しないネコかもしれなかった。
……「猫の舌と宇宙耳」

【著者略歴】
酉島伝法(とりしま・でんぽう)
1970年、大阪府生まれ。作家、イラストレーター。
2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞し、
13年刊行の作品集『皆勤の徒』で第34回日本SF大賞を受賞。
19年刊行の第一長編『宿借りの星』で第40回日本SF大賞を受賞。
他の著書に『オクトローグ 酉島伝法作品集成』がある。

感想・レビュー・書評

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  • スピリチュアル・似非科学・ホメオパシー的なものが”常識”となっている日本が舞台。病院での医療や科学は本来人がもつ生きる力を奪い、携帯やPCは電磁波が出て脳をやられる。
    登場人物が共通する短編3話構成で、私は特に2話目の「千羽びらき」がこたえた。

    ネガティブな言葉を使うと気が悪くなるので言い換えがすすんでいる。タイトルの「るん(笑)」は癌の言い換えで、口に出すときは笑みを浮かべての意。
    内容に合わないPOPな水玉表紙や、章タイトルの丸ゴシック体も、すべてをポジティブにしようとするこの世界を体現してるのだろう。すごいね。

    物語が進むと、単語のやまいだれ→疒をとった言い換えが進む反面、ねこなど本来ネガティブでない単語の漢字に疒がつくようになってくる。
    登場人物やこの世界の狂気の進行と連鎖しているようで怖い。

    誰も悪人でなく、基本的に善意の一般市民が、正しいと信じているものに従っていくうちに泥の中に沈んでいく。現実でも程度は違えど同じかもしれない。
    読んでいて息苦しくなるような本だった。

  • 連作短編集で、こんな世界になって欲しくない、これに尽きる。
    不思議を通り越してもはやよくわからない。でも、普段の生活でも実は似たようなことがあるのかもしれないと思う。
    いちいち疑いながら行動するのは大変そう。

  • 水にありがとうみたいなスピリチュアルが常識となっている社会を描くSF。現実でもありそう(笑) 序盤から意味不明なのだが、だんだん彼らが何を言っているのかわかってくる。龍ってそれ!?って確定したとき、それまで読んだ話のヤバさが後追いで!

  • 科学とスピリチュアルの立場が逆転した世界、気持ち悪すぎる……。
    視点になる登場人物たちがみんな多少疑問を抱きつつも基本的には世界観を疑ってない側の人間で、感情移入しながら読むとこっちまで頭おかしくなりそう。こわい。
    縁遠い陰謀論者じゃなくて、あくまで身近にいそうな「迷信信じがちな人」のグレードアップ版みたいな感じなのもまた、気持ち悪さに拍車をかけてる。
    現実と地続きのディストピア、面白くも気持ち悪い読書体験でした。

  • オカルト好きな私ですら、やりすぎちゃう?と感じるほどの世界観。

    ただ、今の物質主義から、精神主義に置き換わったらこんな感じなんだろうなと妙に納得する部分も。

    本当に「良い」ものでも、行き過ぎた主観のせいで使いこなせないのが人間なんだろうな

    るん(笑)の世界でも、価値観の押し付け合いは健在。途中から現代の日常をただ目の当たりにしてるような錯覚に陥りました

  •  読んでいるとこちらまで微熱が出るような、変な熱に浮かされるそんな作品。三編からなる短編集だが、全てスピリチュアルと科学が逆転した世界を描いている。

     体温は高い方が良い、薬に頼るのは良くない、乳児は母乳で育てた方が良い、AB型は二重人格云々、信憑性の高さに濃淡はあれど、どれも何となく聞いたことのある内容であるが、それらが完全なる「正義」であり「善」である世界に放り込まれた時に、正常を保っていられるだろうか。よく分からないがその世界では当たり前となっているらしい単語(「丙」(「病」の意。「やまいだれ」は不謹慎なので使わない)など)が何の説明もなく連発されどんどんと進行していくので、読んで違和感を覚えている自分が異端であるかのような錯覚に陥る。

     しかしこのような世界観も、実はすぐそばに存在しているのかもしれない。それはスピリチュアルだけでなくて、例えば実しやかに陰謀論が囁かれたりコロナには花崗岩が効くという噂が流れたりするように、社会情勢の不安定さと人心とが噛み合わさってしまった時に眉唾物の話がいとも簡単にたくさんの人に信じられるという現象は実際にある。人は実は簡単に「るん(笑)」の世界観に生きることができるのだろうなと思う。

    「三十八度通り」★★
    「千羽びらき」
    「猫の舌と宇宙耳」

  • すごい…すごい世界観
    ちょっと体力ある時に読まないとしんどめ

  • ネコチャンはいてほしい。

  • 色々よくわからない世界観。狂ってるのに、それが普通という感じで進む。
    ただただ、本当よくわからないけどそれが面白い。

  • 『三十八度通り』では三十八度超えの微熱(?)に苦しむ男性が主人公。
    熱に苦しんでいるもののクスリや病院は頼ることができず、
    妻や周りの人のアドバイスを聞くしかない。
    そのアドバイスは、血液型、星座、エレメント、などなど今の自分の世界から見ればトンデモなものがどんどん出てくる。
    しかし、この作品はおかしいなで終わらずその後に、でも今後ありえる、、と思わされてしまう。
    この世界観を紹介しつつ、周りの人の優しさ(ただしスピリチュアル)に翻弄されていく男性のおはなし。

    『千羽びらき』では今この世界で「癌」と呼ばれる病気にかかってしまった女性のお話。
    最初は病院に入院していたものの、家族に退院させられて自宅に戻ることになる。
    そこで様々な治療を受けることになり、その一つが癌を「るん(笑)」と呼ぶという治療だ。
    この話では特に[[酉島伝法]]先生の言葉遊びが面白く、うまっと何回も思わされてしまった。
    ただし言葉遊びだけでなくお話もとてもよい。闘病中ながら母としての役目も果たす主人公と、その家族の行動がなんとも切なく、感動してしまう。

    『猫の舌と宇宙耳』では小学生の男が主人公である。
    おかしな世界を小学生の目線から見るとどうなるのか、というのが示されているような作品であった。
    不思議だと思いつつもそんなことより友だちと遊びたいという小学生の気持ちは物語内の世界も、この現実世界も変わらないのかなあと感じた。
    ちょっとズレている世界の小学生たちによる冒険はワクワク楽しめた。

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