- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087735178
作品紹介・あらすじ
「小泉八雲」となった男ラフカディオ・ハーンを愛した、3人の女たち
あなたを語ることは、あなたを蘇らせること――
甘い思い出と苦い記憶を語る彼女たちの「声」が、時を超えて響きわたる。
“ここではないどこか"を求めつづけ、最後には日本で「移民作家・小泉八雲」となった男ラフカディオ・ハーン。彼の人生に深く関わった3人の女性が、胸に秘めた長年の思いを語りだす。
生みの母ローザ・アントニア・カシマチは、1854年、故郷への帰路の途中アイリッシュ海を渡る船上で、あとに残してきた我が子の未来を思いながら。
最初の妻アリシア・フォーリーは、夫との別離を乗り越えたのち、1906年のシンシナティで、ジャーナリストの取材を受けながら。
2番目の妻小泉セツは、永遠の別れのあと、1909年の東京で、亡き夫に呼びかけながら。
ジョン・ドス・パソス賞受賞の注目作家が、女性たちの胸の内を繊細かつ鮮やかに描いた話題作
【著者略歴】
モニク・トゥルン
1968年南ベトナム・サイゴン(現ベトナム・ホーチミン市)生まれ。6歳のときに戦争難民としてアメリカに移住。イェール大学卒業(文学専攻)、コロンビア大学修了(法学博士)。2003年刊行のデビュー作『ブック・オブ・ソルト』がニューヨーク公共図書館若獅子賞、PEN/ロバート・W・ビンガム賞などを受賞、14ヶ国で出版される。“Bitter in the Mouth"に続く第三長編となる本書は、ジョン・ガードナー小説賞を受賞、パブリッシャーズ・ウィークリーの2019年ベストフィクションにも選ばれる。2021年ジョン・ドス・パソス賞受賞。現在ニューヨーク在住。
【訳者略歴】
吉田恭子
1969年福岡県生まれ。京都大学人間環境学研究科博士課程前期修了、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校英文科創作専攻博士課程修了。現在、立命館大学教授。著書に“Disorientalism"、共著書に「現代アメリカ文学ポップコーン大盛」、訳書に「ミルドレッド・ピアース 未必の故意」、共訳書に「生まれつき翻訳 世界文学時代の現代小説」などがある。
感想・レビュー・書評
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初めて触れるベトナム戦争難民の女性作家。優れたきらめきを持った方と感じる。
文体、構成ともに瑞々しい感性が散りばめられ、今まで読んだ事のない感触・・一気に読了・その後の余韻がアジアはもとよりギリシャ・英国そしてアメリカとフュージョントラベル
一人の男性(ラフカディオ・ハーン)にまつわる語り手として3人の女性の言葉の紬が、ひと針ひと針縫い目を進める様に広がって行く~あくまでも抑えた筆致、静かなトーンで。
①生母のカシマチ…ギリシャ圏の島で支配階級出身ながら身内の男たちに軟禁的ともいえる育ちを。逃れるべく英国出身士官と恋に落ち渡英、しかし異端視される境遇に、夫の荷物になることに気持ちを病み帰郷
②初婚相手フォーリー・・・米南部の元奴隷語り合いの関係から非対称的になって行く温度差で別離
③よく知られている日本人妻セツ・・パパさん、ママさんと呼び合う穏やかで温もりの在り生活を過ごす
④最終章は短いながらハーンの研究者であるビスランドの書簡集よりの抜粋。
ここからが最も面白さを覚えた~つまり、ビスランド自身、無意識のうちに有する「望ましい形へ持って行こうと動く」操作が為されているという事。しかも我々読み手までの間に、トゥルンの意図的戦略的チョイスが為され、2重に屈折がある。
もっとも小説はフィクションでアリ、記録ですら「勝者のソレ」とよく言われている様に、「必ずしも正しいモノ」とは言えない。
「活字化による歴史形成 特権の在り方とは」と問うている。
一回読んだだけでは分かりえない「言葉・言語の綾」の解説が興味深い~ローザが用いたベネチア語・アテネ語。息子パトリシアへ口述筆記で残したものは両者を巧みに使い分けていた」と言う。
アリシアすら純粋に英語を用いたわけではなく「南北戦争前後の黒人には言語の使い分けが死活問題であった」とある~ここにも恣意的な編集が為されている。とは言え、ちょいちょい登場する味覚と料理・・アフリカ出身の奴隷たちが持ち込んだ食材が今に繋がっていて、これまた興味深かった。
そうしてみて行くと 3人の女たちの語りには「沈黙」「嘘」などがあるのは至極当然とは言え 「弱い立場でしか生きられなかった彼女たちに残された「複雑かつ唯一の戦略」であるのが読み終えて陽炎の様に立ち上ってきた認識であった。 -
ラフカディオ・ハーンにかかわる3人の女性の物語。彼がまるで操っているかのように合間に見える。そして彼の別な一面を垣間見たと感じさせられる。この時代にこんな風に生きたことに驚いた。いつかハーンの伝記を読んでみたい。
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小泉八雲を愛した3人の女性が、彼について語るフィクション小説。
八雲についての語りであり、女性自身の境遇や内面の語りでもあり…どこか夢のような雰囲気が漂う文体。 -
小泉八雲の母ローザ・アントニア・カシマチ、最初の妻アシリア・フォーリーについてかつて読む伝記の記載は控えめで、二人の生い立ちや八雲との関わり、そして別れについて初めて知る。フィクション小説というが、小泉セツの語りを含めて八雲の伝わる生涯が正確に描写されている。よって、語り手となる女性たちの生涯も事実に近く、彼女らの心理描写が著者の創作なのだろう。百数十年前、決して恵まれた境遇に育ったとは言えず、どこかしら影がある八雲だが、男女を問わず好意を寄せられる。繊細すぎて近寄りがたくも、どこか不思議な魅力を感じる。
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そうそう、読み終えて印象に残る、ハーンの不在。
ラフカディオ・ハーンって小泉八雲だよね、日本の怪談を集めた人だよね、という程度の理解で読み出すと、いろいろ驚く。ギリシャで生まれアイルランド→アメリカ→日本へと渡ったラフカディオ・ハーンが、母、最初の妻、2番目の妻の3人の語りとジャーナリストの文章の引用を挟んで描かれる。それをベトナムで生まれアメリカに難民として移住した著者が、英語で書いている、という。。。
幾つかの国と言語、女性たちの特殊な語り口、出雲地方の方言、と翻訳もかなりの労作だったに違いない。
早くも、日本”翻訳”大賞の候補にあげたいくらい。 -
読むのにすごく時間がかかってしまった。まだ釈然としない所もあるのでもう一度読み返したい。