- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087743319
感想・レビュー・書評
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父の実家へ里子に出された私を魅了した暗い象徴詩の世界。眼前に広がるのはこの世、あの世、それとも幻の世界-。表題作ほか8編を収録する作品集。妖しさの中に紡ぎ出される華麗な皆川ワールド。(アマゾン紹介文)
文月の使者
影つづれ
桔梗闇
花溶け
玉虫抄
胡蝶塚
青火童女
ゆめこ縮緬
死んでいるか壊れているかループするか。
結末はほぼアンハッピーですが、主人公たちにはそうでない場合もあり。
文月の使者、ゆめこ縮緬が好みでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「ゆめこ縮麺」幼い頃、蛇屋に預けられていた。子供にはわからない、と大人たちが話す噂を聞く。どこまでが夢で、どこからが現実か。「青火童女」画家を目指す青年と、夫を殺そうとした若い夫人の話。人形に見つめられている。「文月の使者」恋をすると髪が伸びるという。「影つづれ」玉藻の前の伝説。「桔梗闇」桔梗は、幼い頃に見た芸者であった。「玉村抄」小指は玉虫になる。「花溶け」ロマンチック。「胡蝶塚」私は1回死んでいるのだ。
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どこまでも哀しくて、妖しい。
夢と現は紙一重。
人はいつでも、狂喜と狂気の断崖に立っている。 -
まさに皆川博子さんの世界。そこにしか咲かない美しい花々を見ている感じ。でも、なにこの装丁。図書館で借りづらかったじゃないですか。
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生と死の境界も曖昧な、灰色の世界のおぞましくも美しい幻想的な短篇集。
時代背景や登場人物のステータスは地に足がついていて、その人物たちが繰り広げる物語は生々しすぎるほどなのに、物語の展開と登場人物たちから感じる生への執着心の無さというような一種の諦めからか、読み終えると幻想的な感覚になる。
皆川博子の作品にはいつも灰色のイメージを持つのだけれど、今作は灰色のなかに花の色を強く感じた。『青火童女』の落ち椿の海が特に印象的で、色の少ない世界にどろどろの血のような赤が咲いていて、それがまた恐ろしくもあり、幻想的だった。
それと、登場人物の着ている服についての記述も目についた。布目が弱っていたり糊がききすぎていたり皺のままだったり、木綿だったりフランネルだったり麻だったり。
表題作でありこの短篇集の中枢となる話でもある『ゆめこ縮緬』で出てくる「白い縮緬の小さい着物」から、この短篇全体には中洲以外にも服に重きを置いていたのでは……なんて、読み終えてから推測した。
一度で物語のすべてを知れるとは到底思えないので、再読するとまた違う発見がでてきそうな作品。 -
文章が恐ろしいほど美しい。
綺羅を尽くした表現、まさに芸術だと思う。
幻想の世界に囚われてしまう。 -
冒頭の「文月の使者」から一気に異界に惹き込まれる。闇から生まれ、終わりの来ないような冥く、妖しい幻想的な物語の数々。最後の頁で瞬く間にそれらを灰にしてしまう潔さ。皆川さんの美学に惚れ惚れする。
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物語の世界に入り込むのが、文章表現が独特なことからも難しいのですが、慣れてくると、その魅惑的な世界の虜になります。自分も再読してみて、良さがわかりました。
表紙はたぶん吉田良の球体間接人形だと思いますが、作品の禁断的な退廃美の世界をよく表しています。
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何回も読み返してしまう作品の一つ。 物語を耳元で囁かれているような、そんな気分になる。 『玉虫抄』の桃と少女の描写が特に好き。
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過去と現在、そしてゆがんだ生と死が交錯する中洲を舞台に語られる物語は、まるで泥の上を裸足でひたひたと歩いていくような感触だった。遠目に見れば闇の中、淡いはずの桜の花びらが真っ赤に染まり、甘美なうずきを伴いながらはらはらと散っていく……読み進めるうち、そんな幻想をいだいた。