波の上のキネマ

著者 :
  • 集英社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087754438

作品紹介・あらすじ

父から小さな映画館を継いだ俊介は、創業者の祖父の前半生を調べ始める。祖父は若い頃、脱出不可能と言われた場所で働き、その密林の中には映画館が…。驚きと感動の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 今年は映画館で350本観られそうなペースで1月から3月までやってきたのに、まさか行動範囲内の映画館がすべて休業することになるとは。打ちひしがれて、せめて映画館の物語を読む。

    舞台になっているのは尼崎の映画館。シネコンの勢いにも圧され、これ以上存続していくのは困難だと閉館を考えるオーナー。まだ検討していただけなのに、閉館の見込みと新聞に掲載されてしまったせいかおかげか、創業者である祖父の身の上を知ることに。

    映画館の物語だと思って読みはじめたら、ほぼ全編が祖父について。騙されて西表島の炭鉱に閉じ込められ、劣悪な環境の中で働かされます。そこで知る映画のこと。

    いつ何時も、つらい状況下の人々の気持ちを映画が癒す。こんなふうに映画館が人々を救ってきたはずなのに、今はその映画館に行くことができません。映画館の灯を消さぬためにも、この騒ぎが早く収まりますように。

    本作中に登場する嘉義農林学校野球部の甲子園出場については、『KANO 1931 海の向こうの甲子園』(2014)をご覧ください。そうそう、それと、塚口ルナ劇場のモデルになっている塚口サンサン劇場のトイレは本当に綺麗です。建物は古いのに、あのトイレの居心地の良さには毎回感激します。

    映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/56c020ddabb570126db85cf188f66f4a

  • 2021/8/9
    最後まで読んで良かった、ありがとうザビさん。

  • ジュリーの世界を読んで2冊目となる作家さん。

    ジュリーの世界のストーリーに猫を拾うところが描かれてるが、この本でも猫を拾うシーンがあったり、ジュリーの世界で出てきたことが出てきたりしておぉ!ってなった。

    話的には祖父の代から続く映画館の存続が危うく、閉める前にこの映画館、祖父のことをしらべてみたくなって調べてみるという話。
    結局は自分で調べるのではなく、偶然が重なって、祖父の人生を知るのだけど
    そこからが結構辛くて読んでいて暗くなる。
    でもそういう時代が確かに日本にあって。
    奴隷のように働かされ、亡くなっていく人たちがたくさんいたのが現実だった。だからこそ読んでいてとてつもなく悲しく暗くなる。

    ジュリーの世界よりそのまた少し前の話だから本格的な戦争というよりも
    人を奴隷のように扱う、日本人の惨さが描かれている。

    脱出してるときは読んでいてこちらもハラハラするし、古賀さんがまさか密告するとは思わず。。
    それでもやはり生きる運命であったと思わす結末。

    ちゃんと祖母の絵がどこで誰に描かれていたかも伏線があるし、色々繋がる部分があって面白い。
    ただここの支配していた麻沼がどうなったのか結末が知りたかった。

  • 素晴らしいストーリーだ

  • 岩崎さん演出のピッコロ劇団「波の上のキネマ」を観てから、この本を読んだので、いろんなシーンがオーバラップしている。グーグルマップで炭鉱を検索したら、その跡地を見つけた。まさにマングローブが残された煉瓦の柱を覆い尽くしていた。炭鉱村の地図の案内板もあり、「映画館」ではなく「芝居小屋」と記された場所があった。おそらく小説とはあまり変わらない牢獄のような悲惨な環境で、命を落とした方が多かったのだろうと想像する。また「街の灯」のDVDも家にあったので久しぶりに観た。演劇に映画に小説。一粒で3度美味しかった!

  • 写真でしか見たことのない叔父がフィリピン沖で戦死してる。人間らしく亡くなっただろうかと、この本を読んでると心がギューッとなってつらい

  • 良いっちゃー、良い作品なんだけどなんか足らない…


    まず作品の流れとして、主人公が映画館を閉める事を決めたものの、その映画館の歴史や創始者の想いを知って思い止まる、というストーリーは容易に想像がつくも、読み切るとそれぞれ舞台になっていた尼崎、沖縄の関連性は殆どない。だから過去編と現代編にイマイチ親和性を感じないのよね。
    尼崎の地で、あんなこんな苦労をしつつも映画館を切り盛りしてきた、っていうのなら納得もいくのだけど。。。

    (ここら辺、自分は尼崎や西宮に馴染みがあるだけに期待し過ぎた感はあるけど…)



    俊英がチルーの関係も弱く感じる。
    一瞬しか出会わなかった俊英とチルーが惹かれあう流れにもう少し厚みがあればその気持ちも分かるが、一瞬すれ違った?だけで、その後に繋げるのがなんとも…

    だから、最後にチルー婆ちゃんが台湾での苦しかった生活を振り返りつつ
    「好きな人(=俊英)と一緒だったから大丈夫!」
    と話すシーンもそれ程、感動もないのよね。。。


    後、カタルシス的には小政、麻沼辺りは最後を描いて欲しかった。
    特に最大の悪役と言っても過言のない麻沼は、呪われた館に住んでいるという良いシチュエーションがあるだけに、そこと絡ませてくれたら良かったと思う。



    全体的に見ると、映画を題材にしてるだけあってかすごく視覚化されやすい、まさに映画を観ているかのような本だと思う。それは作者の腕なのだろうけど、それだけにこれが実際そのまま映画化されても大丈夫?と思ってしまう。
    そこは多分前述した、後一歩の部分が結構あるからだと思う。


    と、まあ、悪くはないんだけど自分としては、

    惜しいなー、 

    というのが一番の感想でした。

  • 48-8-5

  • 祖父の興した映画館「波の上キネマ」が存亡の危機を迎え、安室俊介は「まだ映画館があるうちに、波の上キネマがこの世に生まれた証を残す」と、祖父が映画館を始めた理由を調べ始める……。うーん、前半の映画館の裏事情やら歴史やらは興味深く読んだが、祖父編(笑)はまるで別の話になってしまい残念だった。事実を元にしているらしい西表島の歴史は知らなかった。すべて会話で説明しようとする手法が煩わしく、そのために必要な人物が都合よく出てくる展開もなんだかなあ……。オチも思わず突っ込みたくなる安易なもので、読了後放心してしまった。わりと評価が高く期待していたが、ぼくには合わない作家だった。

  •  著者は『勇者たちへの伝言』でも史実と仮想を巧みに織り交ぜた物語を記した。そこでは史実が仮想に彩りを添え、仮想が史実に力を与えている。
     『波の上のキネマ』も同様に、沖縄・西表島の炭鉱を舞台に映画に情熱をかけた男たちの物語が描かれているのだが、多くの設定が史実そのものに基づいていることが分かる。炭鉱の苛酷な労働環境。連行される台湾人たち。沖縄に滞在していた藤田嗣治……。
     映画を題材に示される、登場人物達の人間性と、思わず引き込まれる物語に魅了された一冊だった。

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著者プロフィール

1958年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。2012年に「いつの日か来た道」で第19回松本清張賞最終候補となり、改題した『勇者たちへの伝言』で2013年にデビュー。同作は2016年に「第4回大阪ほんま本大賞」を受賞した。他の著書に『空の走者たち』(2014年)、『風よ僕らに海の歌を』(2017年)がある。

「2022年 『甘夏とオリオン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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