雪男は向こうからやって来た

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087814767

作品紹介・あらすじ

いったいソイツは何なのだ?なんでそんなに探すのだ?二〇〇八年十月二二日、われとわが目を疑った人は、日本中に大勢いたに違いない。「ヒマラヤに雪男?捜索隊が足跡撮影、隊長は"確信"」の見出しとともに、雪男のものとされる足跡の写真が新聞を飾った。まさに、それを撮った捜索隊に加わり、かつて雪男を目撃したという人々を丹念に取材した著者が、厳しい現場に再び独りで臨んでえぐり取った、雪男探しをめぐる一点の鋭い真実とは?-。

感想・レビュー・書評

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  • 「空白の五マイル」ツァンポー渓谷の壮絶な冒険行より前に行われていた、雪男探索の記録。先にツァンポー行の方が書かれたというのはよくわかる気がする。「雪男」だものね。はっきり言って眉唾もの。「ムー」をおもしろがるような感覚で、ま、あんまり真面目に考えるようなものじゃないと多くの人が思うのでは。

    著者は「空白の~」を読んだらすぐわかるが、いたって硬派の冒険家だ(同じワセダの探検部出身でも高野秀行さんとはずいぶん趣が違う)。「雪男」については偶然にその探索に関わるようになるのだが、ネタとしておもしろがる、というようなスタンスでは全くなくて、いたって真剣にその真実を追い求めていこうとする。当初はその存在についてほぼ懐疑的だったのが、雪男の発見に人生や命まで捧げる人たちとの出会いによってどんどんのめり込んでいく過程が、説得力を持ってぐいぐいと描かれていく。

    その顛末は読んでのお楽しみ、臨場感たっぷりの語り口で一気に読まされた。文章もタイトルも実にうまい。

    しかし、「山」ってそんなにすごいものなのか。大学時代の山岳部の友人をはじめ山男を少しは知っているが、何故そこまで…とつい思ってしまう。ヒロイズムとかマッチョとか斬って捨てるのはたやすいけれど、そうはできない何かを感じてたじろぐ。寝ころんで本を読むのを無上の喜びとするわが日常とは百万光年遠い。でも惹きつけられてやまない魅力がある。

  • 雪男発見に人生をかける男たちの話と、ある劇的な遭遇体験のせいで“そちら側”の男になった/ならなかった男たちの話。著者である角幡が偶然雪男探索隊に加わるところから話は始まり、過去の雪男目撃談や参加した隊員たちの雪男遭遇エピソードなどが描かれていく。
    特に濃厚に描かれていたのは、残留兵・小野田さんを発見した探検家・鈴木紀夫が雪男捜索に人生をかけるに至った経緯。鈴木は、いつまでも「小野田さんを発見した鈴木君」という肩書で語られるのが(おそらく)嫌で、それを払拭するために雪男捜索に出かけた。そして、半ばふざけ半分だったその旅で偶然雪男をその目で目撃してしまっため、そしてそれを上手く写真に残せず激しく後悔したため、以後鈴木は雪男に魅力に囚われ、結果的に6度の捜索を行った後、探検中に遭った雪崩に巻き込まれ命を落としてしまう。(この他、それぞれの隊員たちの“雪男に囚われたエピソード”も語られていた)
    そして、この“雪男に囚われる”ほどの劇的な体験をしたかどうかで、その後の人生は大きく乱れてしまうということが、冷静な観察者であった著者から語られる。
    著者自身は単独捜索をしたももの、そのような体験ができず、雪男の業に取り憑かれることはなかったが、同時に探索に出ていたカメラマンの男は、自身が見つけた足跡と思しきものが、後々見たゴリラの足跡とそっくりだったため、そのような業に絡め取られていく様子がエピローグで語られている。
    結局、雪男という魔術的な魅力に囚わる者とそうでない者の分岐点、そしてその後をこの本では書いているのではないか。

    このような眉唾ものの本なのに、ノンフィクションとして成立していて、現実の話として面白く興味深く読めるのは、著者の立ち位置の良さによるものだと思った。というのも、最初は一般人と同じ懐疑派でありながら、探検家でないと判別不可能な(一般人ではそれが信頼に足るのか判別不可能な)山登りの権威からの目撃談を見つけ出すことで、一般人にも「もしかして」と思わせることにも成功している。そして、最終的には自身がどっぷりハマってしまうことで、実際に単独捜索という形で雪男捜索に乗り出しているので、一般人が雪男を信じてしまう道筋を、著者自身の体験で描き出すことに成功している。
    また、エピローグで一般人がそういうニュースに触れるマスメディアの報道や2ちゃんねるの談話に対して言及してくれているので、読者からすればより説得力のある話題にしてくれている。ところどころ出る冷静なツッコミもGood。
    (一般的な思考回路を持ちながら、探検という不可思議な領域に足を伸ばしているので、読者である一般人と探検という非日時との間に見事橋を架けることに成功している。そのため、一般人でも面白い“ノンフィクション読み物”になっている。常識的な冒険家)

    雪男に興味が無いのに雪男捜索に加わることになり、初めての雪男捜索でありながら最後には単独捜索をするほど熱を上げてしまい、それでいて帰国後には雪男はいないと考えるようになる、その“流されやすさ”“熱しやすく冷めやすい性格”が、著者を常識的な冒険家たらしめ、一流のノンフィクション作家たらしめているのかもしれない。

    ※※※ネタバレ※※※
    雪男はやってこなかった

  • 角幡さんの文章は分かりやすく、ユーモアがある。
    命を危険にさらす場所ですら、角幡さんにかかれば、普通の人でも行けてしまいそうなほどに。
    冷静に考えれば、現地の人の目撃証言はないのである。
    にもかかわらず、「いるに決まっている、自分なら見つけられるのでは」と思ってしまうのは、証言者の魅力に惹きつけられてしまうからでは。ありきたりな言葉で言えば、ロマンを持ち続けて生きることへの羨望。

    現地の人にとっては、話題になるほど登山客が押し寄せ、現金収入に繫がる。そういう場所だからこそ雪男伝説は今だに残るとも言える。

  • 『空白の5マイル』『極夜行』の角幡さんの、これは実質的なデビュー作。

    時代や現場が作中で行ったり来たりする構成は、彼の探検と他人のものがごっちゃになりややわかりづらくなっていて、裏目に出ている感じがする。

    雪男にとりつかれた人たちの生き様は読ませたけれど、それを現地で擬似体験した角幡さんパートはパッとせず、(山男探しといっても実際にはこんなもんなのだ、という現実を見せる効果を狙ってたなら成功してるかもだけど)読み物としてはワクワクせず、ひたすらページ繰るのがしんどかった…。

  • 題名の意味が最後にわかる。

    この意味は、ここまでの取材と現地調査など本人だけがわかる境地なのだと思う。

    新田次郎の小説のモデルになった登山家や他の著名な登山家が、雪男を見たと言う。

    それらの人々に取材を重ね、現地に調査隊の一人として向かい、更に解散後も単独で再調査したからこそ、行き着いた境地(雪男がいたか、いないかではない。)なのだと思う。

  • チベットの雪男探しに人生をかけた日本の男たち。「出会ったこと」で取り憑かれてしまった。

  • 雪男はやって来なかったし、空白の5マイルの方が面白かった。

  • 雪男は向こうからやってきた!
    雪男がいるかどうかは、極論すれば重要ではない、と筆者はいう。
    ふとしたきっかけで、人生がガラリと変わる、そんな事態を、雪男を追う人々をつうじて描き出そうとする本書。
    自分の人生をかえるようなきっかけは、これから訪れるのだろうか?

  • 2014.11/14 角幡さん、タイトル狡いよ(;^_^) 「空白の5マイル」が非常に面白かったんで、こちらも...と思ったらこちらの方が出版先だったんですね〜。元記者らしく、ひたすらウラを取っていく、実際に会う、実際に見ることへのエネルギーがもの凄い。そこから紡がれる言葉はストレートに響く。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    いったいソイツは何なのだ?なんでそんなに探すのだ?二〇〇八年十月二二日、われとわが目を疑った人は、日本中に大勢いたに違いない。「ヒマラヤに雪男?捜索隊が足跡撮影、隊長は“確信”」の見出しとともに、雪男のものとされる足跡の写真が新聞を飾った。まさに、それを撮った捜索隊に加わり、かつて雪男を目撃したという人々を丹念に取材した著者が、厳しい現場に再び独りで臨んでえぐり取った、雪男探しをめぐる一点の鋭い真実とは?―。

    雪男、イエティー、ヒバゴン、ビッグフット・・・。これらは所謂UMAと言われる未確認生物の一種で、二足歩行の類人猿と思われるものです。誰でも聞いた事が有る名前ばかりです。
    この中でヒバゴンだけは日本なんで、まあまず無いよなあと思いますが、世界に目を向けるとまだまだ広い・・・・・・。と思いますが、こういう未確認生物が密かに見つからずに居られるほど地球はもう広くないって気もします。アマゾンの密林の中とかであれば可能性感じますが。
    この本は陽気に探検して捜索している話では無くて、たまたま現地でその痕跡に触れてしまって、雪男の魔力に取りつかれ人生の方向が変わってしまった人々の悲哀溢れるドキュメントとなっております。なんでそんなに存在を確信してのめり込んでしまうのかと思いますが、そののめり込みこそが、雪男が存在する可能性の一番大きな根拠なのかもしれません。
    何しろ見ている本人が身を持ち崩すくらいなのですから。
    この本を読んで思ったのは、もし居たとしても見つからずに密かに平和に居て欲しいなと思いました。もし存在が確実になったら大捜索隊が結成されて生け捕りにしてセンセーショナルなお祭り騒ぎになって、生体実験とかされて展示されてになるのでしょうから、そんな悲しいことも無いよなあと思います。

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著者プロフィール

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
 1976(昭和51)年北海道生まれ。早稲田大学卒業。同大探検部OB。新聞記者を経て探検家・作家に。
 チベット奥地にあるツアンポー峡谷を探検した記録『空白の五マイル』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞。その後、北極で全滅した英国フランクリン探検隊の足跡を追った『アグルーカの行方』や、行方不明になった沖縄のマグロ漁船を追った『漂流』など、自身の冒険旅行と取材調査を融合した作品を発表する。2018年には、太陽が昇らない北極の極夜を探検した『極夜行』でYahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞を受賞し話題となった。翌年、『極夜行』の準備活動をつづった『極夜行前』を刊行。2019年1月からグリーンランド最北の村シオラパルクで犬橇を開始し、毎年二カ月近くの長期旅行を継続している。

「2021年 『狩りの思考法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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