名画の中で働く人々 ───「仕事」で学ぶ西洋史

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087817263

作品紹介・あらすじ

【描かれた「仕事」で絵画を読み解けば、西洋史の驚きのストーリーが見えてくる!】

「看護師」はひと昔前なら「看護婦」。神話の時代からある仕事とは? 「リケ女」の走りは命がけ! 知っているようで知らない、仕事のルーツや歴史を、『怖い絵』シリーズの中野京子が解説。今まで見えてこなかった、もうひとつの西洋史がそこにある。
収録された絵画、全50点。中世から現代アメリカ絵画まで、幅広いラインナップと驚きのストーリーが「見る」西洋史の世界へ誘います。

闘牛士 ― 動物虐待か、スポーツか、はたまた神事か
侍女 ― 宮廷の奥深くに入り込む「侍女は見た」!?
香具師 ― 今も昔も変わらぬ騙す騙されの世界
宮廷音楽家 ― ライブが全てだった時代特有の苦労
羊飼い ― 社会のアウトサイダーにならざるを得なかった
女性科学者 ― 「リケ女」のはしりは命がけだった
道化 ― 舞台でおどけて、楽屋で泣いて
警官 ― 絵画の主役にはなりにくい役回り
思想家 ― 簡単なことを難しく考えるのが仕事?
ファッション・デザイナー ― 衣装を見ればどんな時代かわかる
大工 ― イエスと結びつき、神聖化された職業
看護婦 ― プロフェッショナルと認められるまでの長い道のり
政治家 ― ヘンリー八世に仕え、明暗をわけた政治家たち
修道女 ― 神に捧げる一生ですら時代に翻弄されて
船頭 ― 神話世界から続く職業も今や先細り
異端審問官 ― 泣く子も黙らせ、良い子も騙すテクニック
傭兵 ― 世界最古の男の仕事。舞台は戦場。
女優 ― 女はもともと演技上手。その最高峰が……
子どもも働く ― 厳しい環境を逞しく生き抜く
天使も働く ― 人間のためではなく神のために働くのは当然

◆中野京子(なかの きょうこ)
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに絵画を読み解くエッセイや歴史書を多く執筆。『怖い絵』シリーズは好評を博し、2017年には「怖い絵展」、続く2022年には鈴木おさむによる脚本・演出で舞台化もされた。他の人気シリーズに『美貌の人』、『名画で読み解く12の物語』、『名画の謎』、『運命の絵』など。近著に『中野京子と読み解くフェルメールとオランダ黄金時代』がある。

感想・レビュー・書評

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  • まずはこの言葉を引用したい。
    「人間は自分に与えられた職業を通じて世の中のために少しでも尽くさなければならない。それが人間の義務である。」三船敏郎  小林 淳 著「三船敏郎の映画史」

    様々な職業を描いた絵画を通じて、その時代背景を解説していく。
    描かれている職業は

    闘牛士
    侍女
    香具師
    宮廷音楽家
    羊飼い
    女性科学者
    道化
    警官
    思想家
    ファッション・デザイナー
    大工
    看護婦
    政治家
    修道女
    船頭
    異端審問官
    傭兵
    女優
    子どもも働く
    天使も働く

    となっている。

    雑多な感想
    アリーナは砂という意味。闘技場の血を吸うために敷いた砂からきたという。

    ヴィンターハルター「女官たちに囲まれたウージェニー皇后」このドレス、肩ずり落ちないのか。この人、エリザベート描いた画家だよな。
    ユーディドって「ユダヤの女」という意味なのか。個人名だと思っていた。いや、個人名なのか?中野さん、アルテミジア・ジェレンティスキのユーディドが好きだよなあ。それともジェレンティスキが好きなのか。

    バッハ次男、転職おめでとう。いや、そりゃ、フルート奏者とクラヴィーア奏者でそんなに給料に差をつけられたら、誰でも嫌気がさすよ。

    ヒュパティアという女性科学者が古代にいたことを私は知らなかった。調べてみようと思う。マリー・キュリーがガヴァネスをして姉に仕送りをしていたのは有名だが、そこの家の男性と恋愛関係になり失恋した、ということは知らなかった。それも切っ掛けの一つとして、マリーがフランスに旅立ったのだから、人類には良かった、というのは言い得て妙。マリーがパリに出て、たった12年後にノーベル賞を受賞する。ガヴァネスとして雇っていた家はどう思ったか、12年だったら、覚えているのではないだろうか。高校の時にマリーの結婚生活の文を英語のリーディング課題で読んだことがある。女性の英語教師がピエール・キュリーを散々罵っていた。その英文には子育てで大変なマリーにピエールが「夫の世話はしないのか!」みたいなことを言っていたからだ。マリーはうまく宥めていたけど、やはりマリー超人だと思ったことを思い出す。

    道化が職業になるのは今と意味合いが全く違うように思う。この書では触れられていないが、私の大好きで強烈な印象を持っている絵にベラスケス「宮廷道化師セバスティアン・デ・モーラ」がある。見世物小屋がかつて日本にもあったことから人を嗤うのは、もう人間の本能なのかもしれない。映画のジョーカーのような化粧がいつからなのか、考えてしまう。

    ラ・トゥールと言えば、「いかさま師」と思っていたので、「大工ヨセフ」がラ・トゥールの作とは思えなくて、びっくり。ろうそくの光の描写が見事である。

    表紙にも使われている「じゃあ君が最後にお父さんを見たのはいつだったの」。
    物語の一場面のような絵。少年の純粋さと狡猾な笑みを浮かべた男性の対比が凄い。慈悲深いと言われる神に仕えるのに、異端者には残酷になることが出来る。宗教に疑問を感じる多くの人が不思議に思うことの一つではないだろうか。

    世界最古の職業は男は傭兵、女は娼婦。その傭兵で有名だと言われた「スイス人傭兵」。大変派手である。ハイジのおじいさんが元傭兵、というのは「トリビアの泉」で知っていたけれど、スイスが傭兵供給国から金融国になっていくのは面白い。

  • このシリーズ読むと、もっと世界史を勉強したくなる

  • 表紙の絵、こんなエピソードがあったのか⁉︎
    最後のロレンツォ・ロット「受胎告知」笑っちゃった。アリア様、こっち見ながら微笑んでるじゃん。動きもよくわからなすぎる。

  • 名画に描かれた職業や働く人々をピックアップして紹介した本です。思ったより多様な職業が描かれていて意外に思いつつも楽しめました。

  • こんなジョークがある。
    精神科医の所に暗い顔をした貧相な男が来て、眠れない・死にたい・薬をくれという。精神科医は励ましてこう言った。町に今サーカスが来てます。あの陽気なピエロを見てくれば元気が出ますよ。男が答えた。そのピエロが私です。

    スイス葉柄が様々な国の貨幣で報酬を持ち帰り、両替商に自国で変えてもらった事からスイスで銀行業が盛んになった。極貧国⇒傭兵⇒各国貨幣⇒銀行⇒先進国化⇒永世中立国という流れである。スイスが豊かになる過程で傭兵志望者は減り、19世紀後半に国としての傭兵輸出は憲法で禁止され、20世紀前半には外国軍への参加も禁止となり今に至る。唯一生き残っているのは、ヴァチカンのスイス衛兵。戦闘ではなく教皇警備の役目として特別に認められている。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1423650

  • 中野京子さんの本が好きで数冊読んでいるが、本書は絵画に描かれた時代の文化について新たに知ることもできて、上位に食い込む面白さだった。
    表紙の絵、中身を知ってから見るとつくづく怖い絵だ。

  • 芸術の秋 開幕直前スペシャル!みたいな選書になった笑(どゆこと?)
    あらゆる時代の西洋絵画が対象で、そこに描かれた人物の職業や社会的地位について分析。あと人物以外にも、最終項では天使という人外も名を連ねている。(「職業に貴賎なし」と言うけれど、天使はフェアじゃないのでは?笑)

    『怖い絵』シリーズの著者だったのか…
    極めつきのビビリなのでシリーズには手をつけてこなかったが、本書もところどころがダークだった。目次の職業リストも、ザッと眺めただけでは怖いかどうかが予想できない。しかし紐を解けば、著者のユーモア、というかダークユーモアが込められた解説とコメントが飛び込んでくる。
    「著者は猟奇的な絵画がお好き?」と疑われてもおかしくないチョイスでゾッとしたが、不思議と歩みが止まらなかった笑 いわゆる怖いもの見たさか?これじゃ芸術の秋どころかまだまだ夏の怪談である。

    猟奇的で言えば、例えば「侍女」の項に掲載されているビゴーの絵画。(敢えてタイトルは伏せておく…)
    占領軍大将の暗殺を企てる女性の図で、彼女の傍らには灯りを手に共助する侍女の姿。人物の表情が鮮明なせいで、映像のように動いて見える。
    女主人の身の回りの世話に限らず命令とあらばどんなことでもやってのけたと言いたかったんだろうけど、「他にもっと大人しい(?)侍女絵はなかったのか!」とこちらはツッコみたくなる。

    全体を通してハッピーな絵は少なかったかも。
    心にガツンとくる方が記憶に焼き付きやすいからこんなコレクションになったのかな。「怖い絵」も然りだけど、個人的には「悲しい絵」が一番焼き付いたと思う。
    「道化」の項がそれだ。まず意外だったのが、彼らが政治に関わっていたこと。
    『リア王』の王に好き放題意見する道化師のように、民草の不満を伝えるのも彼らの大切な役目だったという。笑いを取るのと同様、王の許容範囲を超えないよう計算しながら物申さなくてはいけない。時に「国の良心」にもなりうる道化には、一人では到底抱えきれない憂慮があったんだろうな。
    民草の間にいる道化達の絵もハッピーとは言い難い。ホアキン・フェニックス主演の映画『ジョーカー』を想起させた。

    名画としてだけでなく、中の名もなき人々の働きぶりがこうして後世に伝わっている…。思えばそれは、伝える側(=絵を描く側)の尽力あってこそだったのではないだろうか。
    ナイチンゲールのクリミア戦争従軍の模様は、同行していたタイムズ記者による大々的な報道の賜物だった。絵画の方も、本当に伝えるべきことを多少誇張してまで伝えたから、労働者たちの存在は忘れ去られなかった。伝え方って肝なんだなー…と。

    画家が残した誇張だって、当時の人間が感じたことや何を求めていたのかが反映されているってこと。このまま西洋美術展に行っていたら、何一つキャッチできぬまま館を後にしていたかもしれない。

  • 描かれた人々の仕事に光を当て、解説をした本。
    絵に描かれた時代のその職業や立場、描かれた人物の歴史等々をいつもの分かりやすい口調で説明されていました。

    印象に残るものは表紙にもなっている『じゃあ君が最後にお父さんを見たのはいつだったの』でしょうか。何も知らない子供の愛らしさ、対する審問者の笑顔の裏の狡猾さ、後ろで見守る家族の姿がそれぞれに描かれていました。あの子供は大人になり状況を理解した時にどんなに絶望してしまうのだろうか…と心が痛くなりました。

  • 「名画の中で働く人々 仕事で学ぶ西洋史」って着眼点がいいですよね。期待した分、想定内ではありました。あと作者の今までの作品の紹介というか宣伝が結構あるのも、興ざめだった。

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中野京子の作品

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