アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体
- 集英社 (2017年8月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087860900
作品紹介・あらすじ
トランプ政権誕生の原動力となった白人の労働者層の怒りと絶望、エリートへの恨み。アメリカ社会に限らず、現在、世界に広がるポピュリズムと深刻化する格差問題の根本に切り込む。
感想・レビュー・書評
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どうしてバイデン大統領が比較的所得が高い層にまで給付しようとするのかというのが、ここに書かれている。
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ピンクカラー ···カウンセラー、作業療法助手、看護師
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大変に面白かった。色々な観点で自分の考えを訂正してくれた。
①まずは目を向けること
・読むまでは、というより読んでいる途中も、トランプ支持者とはどういう社会的な階層か、という説明は粗くカテゴライズしすぎて逆に分断を煽るように思っていた。
・しかし、読み終えてみてこうしたカテゴリ分けも今の社会段階では必要なのだなと思った。他の国では当たり前にされている階級や社会集団の分析が殆どされておらず、粗くともまずは認知することが必要。年収2万ドルから20万ドルの人まで皆が中流だと思っている、階級の話は皆ないもののように扱う、という冒頭の記載が端的にホワイトワーキングクラスに目を向けない背景を示している。アメリカといえば自由と成功の国で、それは東西海岸で財を成す人たちのイメージが強く、中部の白人は努力不足で遅れた価値観と思われて無視されてきたのだと感じた。
②結果の平等だけでなく機会の平等を
・資本主義が行き過ぎて調整が必要なフェーズに入っているように感じていて、BIや社会保障の強化が必要なのではと思ったが、それも違っていて、彼らが必要なのは保障ではなく仕事なのだと気づかされた。公共の観点からは全員に平等にセーフティネットを適用しがちだが、仕事を提供することで勤労意思を発揮できる機会も提供しなければ階級間対立を強めてしまうのだろう。
③民主党に何ができるか
民主党が知識人エリート、マイノリティと環境に傾斜してホワイトワーキングクラスを省みてこなかったところを共和党が取り込んだ、小さな政府を志向して貧困層への補助を減らし、仕事を提供してくれる資本家への優遇があるから支持、という説明に納得。マイノリティは全員マイノリティ向けの政策を支持するものではと思っていたが、確かに貧困層だったり自分以外の集団にしか資源が行かず自分は税金を取られるだけなら、支持する理由にはならない。リベラルの崇高な理念には共感したとしても自分に不利益しかもたらさないなら支持はしない。
・この文脈では、バイデンがトランプ的なバイアメリカン政策を採って雇用を作るのはよい方向性だと感じる。進歩派の左ではなく中道で広く支持を獲得し得る作戦だと思うが、果たして。また、ヒラリーの選挙戦の反省を活かして彼らに歩み寄ろうとする姿勢を見せるのも民主党毛嫌いを緩和する為にも必要なのだろう。ただ中道の悩みなのだろうがそれをやりすぎると色が薄くなって支持が減る(アピールの弱いバイデンは特に)点をどう克服するか。VPがそれを補えるか。
④インクルージョンの必要性
・筆者は倫理的な観点、民主主義の瓦解を防ぐ目的からホワイトワーキングクラスに目を向けるべきとしているが、資源は有限で、他の注目されている集団への支援が減ることは避けられない。黒人がこれを白人の問題と切り捨てるのも肯ける。ただこの資源の奪い合いが過激化して見捨てられた集団がトランプ当選のような過剰反応で現れてしまうこと、各集団が注目されるために主張が過激化して支持を失いがちなことを考えると、やはり全てを包摂した枠組みを提示しなければ社会は成り立たないと感じる。
・本筋とは逸れるが、人権という概念を持ち出して自集団の権利を主張するのは、複数の集団が共存する社会でほどほどの関係を維持するためには強すぎる不適な概念だというのは面白かった。
今後も完璧を求めずに粗くてもいいから徐々に把握したい。民主党の態度は大統領選に最も表れるはずなので、そこはつぶさに見ておきたい。
また一方で民主党だけでなく、共和党の中も調べたい。
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著者はUC Hastings法学教授であり、元ワーキングクラス出身の夫を持つ。ホワイト・ワーキング・クラスについて、アメリカ人がアメリカ人のために書いたものであり、非常に示唆に富んでいる。アメリカ社会、そして世界の分断を知る入口となる貴重な一冊。
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良書
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東経201709掲載
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東2法経図・開架 361.85A/W74a//K