- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087901498
作品紹介・あらすじ
ついに18年ぶりの優勝を果たし、沸き立つ阪神タイガース。そのタイガースの歴史上、「最大のミステリー」とされる人物がいる。第8代監督・岸一郎。1955(昭和30)年シーズン、プロ野球経験ゼロの還暦を過ぎたおじいさんが、突然、タイガースの一軍監督に大抜擢されてしまったのだ。「なんでやねん?」 「じいさん、あんた誰やねん?」困惑するファンを尻目に、ニコニコ顔で就任会見に臨んだ岸一郎。一説には、「私をタイガースの監督に使ってみませんか」と、手紙で独自のチーム改革案をオーナーに売り込んだともいわれる。そんな老人監督を待ち構えていたのは、迷走しがちなフロント陣と、ミスタータイガース・藤村富美男に代表される歴戦の猛虎たち。メンツを潰された球団のレジェンド、前監督の松木謙治郎も怒りを隠さない。不穏な空気がチームに充満するなかで始まったペナントレース。素人のふるう采配と身勝手に振る舞う選手たちは互いに相容れず、開幕後、あっという間にタイガースは大混乱に陥っていく……。ファンでも知る人は少なく、球史でも触れられることのないこの出来事が単なる“昭和の珍事”では終わらず、タイガースの悪しき伝統である“お家騒動体質”が始まったきっかけとされるのは、なぜなのか?そもそも岸一郎とは何者で、どこから現れ、どこへ消えていったのか?大阪─満洲─敦賀。ゆかりの地に残された、わずかな痕跡。吉田義男、小山正明、広岡達朗ら当時を知る野球人たちの貴重な証言。没年すら不詳という老人監督のルーツを辿り、行方を追うことで、日本野球の近代史と愛憎渦巻く阪神タイガースの特異な本質に迫る!(著者について)村瀬秀信 (むらせ ひでのぶ)1975年生まれ。ノンフィクション作家。神奈川県茅ケ崎市出身。県立茅ヶ崎西浜高校を卒業後、全国各地を放浪。2000年よりライターとしてスポーツ、カルチャー、食などをテーマに雑誌、ウェブで幅広く執筆。2017年から文春オンライン上で「文春野球コラムペナントレース」を主宰するほか、プロ野球関連イベントの司会・パネリストとしても出演多数。著書に『4522敗の記憶』(双葉社)、『止めたバットでツーベース』(双葉社)、『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』シリーズ(講談社)などがある。
感想・レビュー・書評
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阪神-巨人戦には『伝統の一戦』という冠がつくが、対戦戦績を見れば 阪神の791勝1031敗73分、巨人へ240もの勝利を献上。歴代監督数を見ると、岡田彰布は35代目、巨人は阿部慎之助が20代目。創設年数は88年の阪神に対し、巨人は89年とほぼ同じ歩みながら、生え抜き主義の巨人に対し、阪神は監督の首のすげ替えはなはだしく、『歴史はあっても伝統はない』と言われても仕方ないほど、監督数と同等の『内紛』を引き起こしてきたのが阪神。
■本書は…
阪神のお家芸と言われる監督交代時のゴタゴタ。お家騒動が常態化するキッカケになったのでは?と言われる第8代監督『岸一郎』をめぐる不可解人事。その奇怪な真相に迫るノンフィクション。
■内容は…
今から70年前の1955年、阪神球団は岸一郎というアマチュア野球界では実績を残すも、プロ野球の選手経験はなく、また30年もの間ボールに触ることもなく、故郷の敦賀で百姓をやっていたという得体の知れぬ老人を監督に据えるという仰天人事を行う。
招聘の経緯は、岸一郎が自発的に球団オーナーに向け、『チーム改革案』を献上。そこには〈投手を中心にした守りの野球〉の必要性が説かれ、内容に感心した野田オーナーは独断で監督に据える。
この人事に納得のいかないのが初代 Mr.タイガース藤村富美男。選手の前で『年寄り!』『こら、オイボレ!』と悪しざまに罵るなど、主力選手たちからも総スカンを喰らい、わずか1ヶ月半で解任。
かくして、その藤村は翌年第9代監督に就任。プレイングマネージャーとしてチームを牽引するも優勝目前にして失速し2位。戦績を見れば及第点も、問題は藤村の性格。手柄は全て自分にあり、自分に代わるスター誕生を望まぬ性格は人心を遠ざけ、やがて藤村排斥事件へと発展。
その背景には球団のシブチンにあり、主力選手たちはあまりの低評価に対し不満を爆発させ、今風に言えば『労働争議』が起こり、その矛先が球団には従順な藤村へと向かい排斥事件へと雪崩打つ。
また、この一件には副産物を生んだ。『阪神のお家騒動は売れる!』とスポーツ紙の知るところになり、毎シーズン終了後に季節の便りよろしく醜聞が生まれ、阪神は球界のスキャンダルメーカーとしての地位を確実なものにし、その悪しき伝統だけは忠実に受け継がれていく。
著者は招聘〜監督辞任までの流れを辿りながら、本社・球団・選手の誰しも阪神への愛があるがゆえに疑心暗鬼となり、同床異夢の現実を知り、失望と自滅の様子を炙り出していく。
それを押さえた上で、著者の筆は岸一郎の『得体探し』へと向かう。殆ど記録も残っていない謎の老人の郷里の敦賀に赴き、丹念に洗い出していく。やがて若きの日の岸一郎が早大・満鉄でプレイヤーとして無双な存在であったことを知る。
■改めて阪神の悪しき伝統とは…
火の気のない場所でも火を起こし、火があるところは大火に至る。昨年2月のキャンプの初日、岡田監督は報道陣から『球団への愛はあるか?』と問われ、『球団には愛はない。阪神という名前には愛はあるけどな…』と発言。
虎の申し子である岡田は、仰天監督人事から70年経過し、阪神阪急グループになろうが『阪神という球団は伏魔殿である』と見ているのではないか。
僕の目下の関心はアレンパより、本社-球団-選手が三位一体になろうとしているところに、また変な病気が宿らないか…そっちの不安の方が募るばかり。
はたして『虎の血』って、拭っても拭っても付着し続ける清濁の『濁の高濃度』を肯定することなのか… -
面白いのは面白いけど、帯に「エンタメ・ノンフィクション」と銘打ってあることから明らかなように、スポーツ新聞の記事が本1冊分になったくらいの感じ。おもしろいけど。
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阪神ファンではないが、阪神への強い愛を感じさせてくれる1冊。ただ、やや表現が大げさなところがあり、読んでいて疲れを感じたことは確か。
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かなり面白かった。阪神タイガース(大阪タイガース)第8代監督岸一郎を巡る、タイガースという球団の「うちがわ」と「外野」、そして岸一郎という人物の半生。生憎、岸一郎の資料のうち処分されたものも多く、深層にある「真相」が何か、そもそもそれ自体あるのかないのかも不明瞭だが、それでも充分に読み応えがあった。何より、複雑かつ登場人物が多い昭和前期〜戦後期にいたるドキュメンタリーを優れた構成でまとめあげているため、阪神タイガースに詳しくなくても引っかかりは少なく読み進められる快適さが大変よかった。昭和の日本や、職業野球(プロ野球)に関心がある人なら、前提知識がなくてもきっと楽しめる。岸一郎氏がこうして蘇ることに、胸が熱くなった。
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1955年33試合だけ阪神の監督だった岸一郎。プロ野球経験のない60歳。なぜ彼が監督になったのか、謎に迫るドキュメント。
面白かった。岸前後の阪神の歴史や当時の混乱ぶりがよく分かる。 -
なるほどなあと、この人物を掘りおこしてきたことには感心した。
ただ、一冊の本にするには、ちょっと材料が足りない思いもあった。
梅本さんが登場したのは、とても嬉しかったが。
<書評>虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督:北海道新聞デジタル
https://ww...
<書評>虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督:北海道新聞デジタル
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1000327/