詩人になりたいわたしX

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  • Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092905887

作品紹介・あらすじ

詩で描く家族と恋と友情の心揺さぶる物語

主人公のシオマラは、神さまのことなんか、ぜんぜん信じてない。
「女の子は、いけません。いけません。いけません」
信仰心厚い母親に、こう言われるたびに、
「自分はなんてちっぽけなんだろう」って感じるんだ。

ハーレムに暮らす少女シオマラは、厳格な母親に猛反発しながらも、「言葉」の持つ世界に惹かれていく。
高校のポエトリースラム部で詩のパフォーマンスというものを知り、自己表現の世界にどんどんのめり込んでいく。
「言葉は、ありのままの自分を解き放つ手段」、そのことに気がついたシオマラは、いろいろなことから自由になれた。



【編集担当からのおすすめ情報】
本書は、作者にとっての2作品目となります。
全米図書賞、ボストングローブ・ホーンブック賞、マイケル・L・プリンツ賞、カーネギー賞と、大きな児童書の賞を総なめにした話題作品です。
読者が選ぶ賞も数々受賞していることからも、いかに読者から支持されているかがわかります。
全編、詩で描かれているために、心に直接響くのかもしれません。YA世代から、大人まで、勇気づけられる物語です。

感想・レビュー・書評

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  • ニューヨークのハーレムにドミニカから移住した両親と双子の兄ツイン(本名はエグゼイヴア)と暮らす高校2年生の少女シオマラ。
    家では、厳格なキリスト教徒の母が、女の子の自分だけに厳しいこと、信仰を共用することに不満を持っていたが、強い母には逆らえなかった。
    外に出れば、豊満な体つきからからかわれたり、言い寄られたり、悪く言われたり、触られたりと傷つくことも多かった。異性に関心もあったが、ツインからも、親友のカリダーからも共感は得られなかった。
    高校は、ツインの通う天才学校と違い、底辺校。
    だがそこで、シオマラは生物の実験パートナーとなったアマーンと、英語の教師ガリアーノ先生と出会う。
    アマーンはシオマラの詩と音楽の世界を共有し、異性への関心を掻き立てたので、シオマラは母からきつく禁じられている男の子との交際を始めてしまう。
    ガリアーノ先生は、シオマラの書く文章が詩的なことに気づき、始めたばかりの「スポークンワードポエトリー部」に勧誘する。シオマラは、彼女に見せられた詩のパフォーマンスビデオに心を奪われ興味を持ったが、その活動日は、母に強要されている教会の堅信クラスのある日だった。

    厳格な母への怖れと反抗心を持つ少女が、傷つきながらも自身の関心を追求し、自分の心に気付き、周りを動かしていく過程を、シオマラの散文日記形式で描いた物語。




    ******* ここからはネタバレ *******

    修道女になりたかったのに、ドミニカからアメリカ在住権を得るためにパピ(シオマラの父親)と結婚したという母は、自分の叶えられなかった夢のために、娘に厳格なキリスト教徒であることを強要します。そしてそれは、勉強と聖書が大好きな双子の兄ツインには自ずと優しいものになるのです。
    母が欲しかったのは、ツインのような、おとなしくて神様が大好きな女の子だったから。グラマラスで、外に出れば男の人から色目で見られたりからかわれたりする少女、こぶしを使って戦う少女ではなかったのです。
    そんなマミも、ドミニカでは、こぶしに消えない傷あとをつけられて「信仰心」を教わったのです。

    兄のツインは天才少年で、飛び級をしているのでシオマラは小さいころから同じ学年になったことがない。双子なのにあまりに違いすぎるので、痛みの共有ができないし、天才にありがちな過集中のために、同じ空間にいてもシオマラは疎外感を持つことがあるのです。
    それでもシオマラはツインが大好きなのでした。
    そして、シオマラは、ツインには白人のボーイフレンドがいることを知ります。シオマラは、マミ(母親)自慢の息子のツインが、罪の子になってしまった、でも、マミから守ることは不可能と悩みます。そんなときは、アマーンからのメッセージを見ても気が晴れなかったのです。シオマラの心に占めるツインの大きさがわかるエピソードですね。
    でも、アメリカのキリスト教も、ゲイは禁止なんですか?

    アマーンは、トリニダードトバゴ出身の男の子。学校で絡まれているシオマラを守ってあげなかったエピソードは、状況がよくわからなかったのだけど、シオマラをがっかりさせたことは間違いないのでしょう。傷ついていたシオマラはアマーンさえも排除してしまいました。
    でも、家出したときに連絡をとったのもアマーンで、シオマラが2ヶ月も無視していたのにちゃんと会いに来てくれたんですね。それに、彼女が行為を途中でやめようとしたときにも、思いやりのある行動をとっています。
    高校生の男の子としては、考えられないぐらい紳士ですよね。いやぉ、女の子読者の皆さま、現実はこんなことばっかりじゃないことをお知りおきくださいね。

    アマーンと別れたあと、詩のクラブに入って、自分の言葉に耳を傾けてもらったシオマラは、もうアマーンは必要ないと思いますが、それだけ自分の気持ちに耳を傾けてもらいたいと思っていたということですよね。母親は、問い詰めはしても、その答えを聞いてはくれていなかったから。

    ガリアーノ先生が大きな救いです。シオマラの詩の才能に気付いて伸ばそうとしてるし、彼女の状態が悪そうだと感じると手を差し伸べています。そして、母親との諍いから家出したことを知ると、「でも、必ずお母さんとは話さないとね。ちゃんと話すの。それから、どうにかして見つけなさい。お母さんの生き方とうまく手を結ぶ方法をね。」

    教会のショーン神父が謎の人です。けっこう物分り良さそうに見えるのですが、シオマラが天地創造についてした質問には答えていない。でも最後には、おかあさんとの仲立ちになってくれるんですよね。きっともっと早くシオマラ親子の問題に気づいていたのでしょうから、母親に、厳格すぎる子育てについて話してくれたら良かったのに、とも思ってしまいます。だって、母親が耳を傾ける唯一の存在だったでしょうから。

    教会に疑問を持つシオマラの言葉に共感します。
    「神に対して負い目を感じていなければ、私はもっと楽に生きられるのに」

    宗教は、きっとよりよく生きるために生まれたものだと思うのですが、いつの間にか人を縛る道具にとして利用されるようになってしまったように思います。

    母親もきっと昔は信仰を強制されていて、それを受け入れたので(受け入れた自分を否定したくないので)、シオマラたち子どもにもそれを受け継がせようとしたのでしょう。
    信仰が次代に受け継がれる「負」の負債になってしまっていいのか?と思いますが、きっと世界的に見るとこういう考え方は少数派なのでしょう。

    シオマラが宿題の下書きにした詩が、彼女をとっても表していると感じました。
    「そう、これがシオマラ。
    むきだしのこぶしをにぎりしめ、
    自分の名前を正しく読まれるように、
    聖人になることを期待されないように、
    大人の女性として(いいことなさそうだけど)尊重されるように、
    世間と戦う。」


    物語全体の重さ、大きさに比べて、ラストの収まり具合が軽すぎてアンバランスな感じを受けました。ここまで重厚な作品だったのでさっさと全てがうまく行き過ぎたことに違和感を感じます。
    これなら、オープンエンディングでも良かったのではないでしょうか?

    でも、この残念なラストがあっても、心理描写が深くて読み応えも十分。読後感の良い作品でした。

    ただ、娘を持つ母としては赤裸々な性的関心や描写が気にかかります。
    共感を持つにはいいと思うのですが、引くときにちゃんと引いてくれるアマーンのような男の子ばかりではありません。
    どんなに読解力があっても、小学生には薦められません。やっぱり”しっかりした”高校生以上、むしろ思春期を理解したい、思い出したいオトナのためののための作品だと思います。

  • 全編が詩で構成されていることは、ほとんど気にならず、寧ろ、詩の多様な自由さを実感できたし、主人公「シオマラ」の今の心境をダイレクト、かつ、繊細に表現してくれるものに感じられました。

    シオマラにとって、言葉とは

    「ありのままの自分を解き放つもの」

    であることを実感させられ、女性であることの固定観念や、神への疑問も思ったままに綴ることで、少しずつ自分の世界が変わっていく様には、読んでる私も思わず嬉しくなったし、それに周りの人たちの存在も関わっていることが、また重要だと思いました。

    また、乱暴者に思われているシオマラだが、どんなことでも常に言葉にしていることが、時に、シオマラ自身の心に待ったをかけられる理性ある行動を取ることができたり(私だったら怒りが強すぎて無理かも)、両親や兄のことも本当は愛していることが垣間見えたりと、実は繊細でやさしい女の子であることがまた、人間の複雑で素晴らしいところを示していて、内面をこれだけ細やかに綴る物語(詩)には、きっと様々な共感を得るのではと思います。

    児童書も、こういった自由な作品が出され、数々の賞を得るのですから、良い時代になったと思うのと共に、心の内ではそれだけ求めていた人も多かったのだろうなと思うと、また嬉しいですね。

  • 2019年 カーネギー賞ノミネート作品発表 その1 | Librarian Nightbird
    https://ameblo.jp/librarian-nightbird/entry-12417199455.html

    Elizabeth Acevedo
    http://www.acevedowrites.com/

    詩人になりたいわたしX | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09290588

  • わーーーーん!
    終盤はボロ泣きだった…。
    良い本を読みました…。
    厳格な母の元、ノートにこっそり言葉を綴る高校生シオマラ。
    家庭環境、宗教、男に消費されたくないけれど憧れや欲望もある揺れ。
    様々な悩みを詩に書くことで時に耐え、時に戦う彼女の姿に心が揺さぶられた。
    ポエトリークラブに入ってからの彼女の眩いスパーク、聖書を語る母との対決、恋の行方…。
    一つ一つが愛おしくて胸がギュッとなる。
    十代に入ったら、娘にも渡したいな。

  • ニューヨーク、ハーレムのハイスクールに通う女の子シオラマ。あるいはX。
    それが重要なことかは分からないけれど、ドミニカからの移民二世。
    彼女の書き綴ったものが、ポエット、詩になって花開いていくところを、彼女の全てとともに見守った感じ。

    熱心なキリスト教徒の母親のしばりのせいで、信仰や教会に疑問を持ち始めてしまったシオラマ。
    双子の兄、友人、恋?
    シオラマを理解しようとしてくれる英語の教師、神父様。
    そして、ポエトリー部の存在!
    彼女の物語の全てが詩のカタチで書かれている。

    自分の15歳を思い出して、Xと一緒になってマミ(母親)に対して熱くなってしまった。

    ダメ、ダメと言われ続けてきたXに、英語教師のガリシア先生が言ってくれたひと言が、本当に素敵で、Xもマミも教会も、全てを救ってくれた感じがした。

    幼い頃は自然に受け入れていたはずの信仰心との葛藤は、日本人でもわかるようにかかれているんじゃないかな、恋する想いと共に。

    マイノリティ、信仰心、恋、母親との葛藤、詩の競技会(スラム)へ向かって着地していく所が、とってもかっこよかった。

    泣きそう!

  • 全編が詩ってどんな感じだろう?と思ったら、こんな感じかあ…!日記と詩って相性がいいんだろうな。そう言えば、最近観た『エイス・グレード』という映画にも「真実か挑戦か」っていうゲームが出て来て、ヒロインの年齢も近いけど、私はこっちのほうが好き。15歳の女の子シオマラといっしょになってきゅんきゅんしたり、苦しくなったり、怒ったり、すごくひきこまれました。個人的には、ちょっと前に読んだ本で、NYの黒人の女子高生たちがカフェで詩のイベントをするっていうエピソードが出て来たこともあり、また、アマンダ・ゴーマンさんのスピーチが世間的にも話題になったばかりのこのタイミングで、スポークンワードポエトリーについていろいろ知れたのも良かった。ここでの詩とはガチガチの韻文とかではなく、素直な心情を吐露する感じの、内容重視のもの中心で、だからこそ、終盤のシオマラのヴァースとお母さんの「天使祝詞」のバトルや「アマーンの腕のなか」という繰り返しを生かした詩が、クライマックスとして効果的にキマってたと思う。ハイクも面白そうでもっと読んでみたくなる。それにしても、ドミニカ系って勝手におおらかなイメージを抱いていたけど、コミュニティの窮屈さに驚いたし、お母さん厳しすぎるでしょ?双子の描き方でいうと、ツインをきょうだいながら異性として意識してしまう感じとか、なるほど、そういうものなのかもなー。優れたYAを読むと必ず思うことだけど、これは私のような大人をきゅんきゅんさせるために書かれたわけではないのだから、ちゃんと日本の中高生に届きますように!
    田中亜希子さんの翻訳は『目覚めの森の美女』も素敵だったけど、すぐそばでシオマラの呼吸が感じられそうなフレッシュさがありつつ細部の言葉遣いまで行き届いた訳で、これはほんとに惚れてしまう。

  • 4/89
    『詩で描く家族と恋と友情の心揺さぶる物語
    主人公のシオマラは、神さまのことなんか、ぜんぜん信じてない。
    「女の子は、いけません。いけません。いけません」
    信仰心厚い母親に、こう言われるたびに、
    「自分はなんてちっぽけなんだろう」って感じるんだ。

    ハーレムに暮らす少女シオマラは、厳格な母親に猛反発しながらも、「言葉」の持つ世界に惹かれていく。
    高校のポエトリースラム部で詩のパフォーマンスというものを知り、自己表現の世界にどんどんのめり込んでいく。
    「言葉は、ありのままの自分を解き放つ手段」、そのことに気がついたシオマラは、いろいろなことから自由になれた。』(「小学館」サイトより▽)
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09290588

    冒頭
    『夏はアパートの前の段々にだらだら座りたくなる。
    学校がスタートするまであと一週間。
    ニューヨークのハーレムは九月に目をむけはじめる。
    わたしは地元と呼んでる街角を、段々からながめている。
    教会通いのおばさんたちだ。用心しておこう。
    サンダルでぺたぺた歩くおばさんたちが、ペチャクチャ話すのは、
    ふるさとの島のスペイン語。あの人がいうにはね、とうわさに花をさかせている。』


    原書名:『The Poet X』
    著者:エリザベス・アセヴェド (Elizabeth Acevedo)
    訳者:田中 亜希子
    出版社 ‏: ‎小学館
    単行本 ‏: ‎423ページ
    受賞:全米図書賞、ボストングローブ・ホーンブック賞、マイケル・L・プリンツ賞、カーネギー賞

  • 宗教上の理由から異性交遊を母親から制限されている主人公が、自分の心を詩としてノートに書きためている。やがてクラスメイトに恋した主人公は……思春期ならではの悩みが書かれており、日本の青少年にも共感できるところは大いにあるのではないかな。

  • 全編主人公シオマラの詩<言葉>で描かれた物語。
    信仰心熱く厳格な母、宗教、学校、心を許す親友やツイン、好意を寄せる異性、それぞれへの想い。言葉にすることで解放されるシオマラの心。
    言葉の持つ力に打ちのめされます。

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