- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093523080
作品紹介・あらすじ
中上健次の盟友が模索し続けた文学の可能性
「それにしても、言い争いばかりしてきたような気もする。そして、私にとって、はじめて出会った時に思い決めた”中上健次”への徹底的大反論はまだ、これから先のことだったのだ。
(中略)いずれにせよ、私の”中上健次”という名の目標は、今更、なにが起ころうと変えようがない。中上さんも、それは承知のうえだ、と私は信じている」
<「“中上健次”という存在」より>
アイヌ、プルトン、マオリの言語と文学――急逝した中上健次を読み直し、新しい世紀に向けて文学の可能性を探ったエッセイ集であり、中上とデビュー以来盟友として深く関わった津島佑子の1990年代の文学的軌跡でもある。
感想・レビュー・書評
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タイトルの『アニ』とは中上健次のことで(実際に血縁関係は無い)、彼とのエピソードがメインの本なのかと思ったら、それは全体の1/4程度しか無かった。
少しがっかりしたけれど、残りのエッセイもなかなかに読み応えがあった。
最初この作家のことを知った時、太宰治の娘だということを知って、「なんだ、七光りか」と思ったのだけれど、この本を読むと、かなりしっかりした文学的な素養のある人間だとわかる。まだ実際の作品はほとんど読めていない(読んだのは恐らく当人の中でもあまり出来の良くない方の作品だと思われる)ので、他を読みたいと思う。
最後、アイヌ語をフランス語に翻訳する顛末の長めのエッセイがあるのだが、果たしてこのときと比べて現状は改善されたと言えるだろうか、と考えてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
遺作「ジャッカ・ドフニ」を読み終えたところであったため、アイヌ世界を描いた遺作の執筆動機が垣間見られる「アイヌ叙事詩翻訳事情」は、理解を深める上で重要なエッセイだと思えた。
マオリ、アイヌ、ブルターニュなど、少数民族言語の現在地点をめぐるエッセイ集ともとれる。東京で生まれ育った津島佑子にとって、周縁から中央を見る視点というものが重要な意味を持ったことが、本書を読むと理解できる。
巻頭の一章は、盟友であった中上健次を追悼する内容。中上は周知のとおり、日本を熊野という周縁から見つめた作家であるが、その中上文学への、おもねらない率直な限界の指摘もあり、興味深い内容。