カンヴァスの恋人たち

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 246
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093866705

作品紹介・あらすじ

私は、幸せになるために芸術をやるんです。 碧波市の美術館に勤める学芸員の貴山史絵は、80歳の女性画家、ヨシダカヲルの展覧会を担当することになる。ヨシダは美術業界から一線を退いたあと、山奥のアトリエでひとり絵を書き続けていた。担当になった史絵は、東京で働く恋人との将来や、職場での人間関係、学芸員としてのキャリアに悩んでいた。今ではほとんど無名と言っても良いヨシダの展覧会開催に疑問を抱く史絵だったが、ヨシダとの交流を重ねるうちに、その不思議な魅力と、ひとり筆をにぎりつづける生き方に魅了され、自身も次第に変わり始める。展覧会の準備に奮闘する一方で、史絵はヨシダの過去が気掛かりだった。一時は戦後の女性画家として名を上げていたにもかかわらず、なぜ表舞台から消えてしまったのか。ふたたび絵を描き始めるまでの空白の10年間に何があったのか。ふたりが心を通わせたとき、ヨシダが語るのは、秘められた愛についてだった――。 【編集担当からのおすすめ情報】 2015年、第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビューした著者が学芸員を主人公に、現代を生きる女性たちのリアルな悩みを描いた渾身の一冊です。学芸員のお仕事や、展覧会が開催されるまでの美術館の様子にも注目です!

感想・レビュー・書評

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  • 中島みゆきさんの『糸』の歌詞を
    私はずっと間違えて覚えていました。
    『逢うべき ヒト に出逢えることを
    人は幸せと呼びます~♪』
    ヒト ではなく、イト だった!

    この作品は、逢うべき人に出会うお話。
    恋人ではなく人生の先を照らしてくれる人。

    東京から少し離れた地方都市の美術館で
    非常勤の学芸員を務める史絵、32歳。
    地元の女性画家、80歳のヨシダの展覧会を任されます。
    ヨシダは、かつては一世を風靡した女性画家。
    何らかの事情で筆を折り、10年間の空白の後
    東京から地元に移り住んで
    山奥にアトリエを建て、絵を描き続けています。
    美術館の理事の強い思いがあっての企画。
    なぜ今、ヨシダの展覧会?と不思議に思う史絵。

    史絵には東京に恋人がいます。
    都内の学芸員募集の話を持ち掛けられ
    一緒に暮らして結婚しようと、嬉しい話も。
    そんな中、史絵が子宮内膜症を患っていることが判明。
    妊娠や出産を望むなら、
    卵子凍結を視野に入れることを勧められ
    人生の岐路に立つ史絵です。
    キャリア、結婚、妊娠…どうする、史絵?

    ざっとこのような流れなのですが、
    史絵がヨシダと会話を重ねるところが読みどころ。
    人生経験を重ねてきたヨシダの言葉が素敵なのです。

    例えば、彼女の絵画のテーマ“常若(とこわか)”について。
    伊勢神宮の式年遷宮にまつわる言葉だそうですが、
    ヨシダは、“常若”の概念を水仙に例えます。
    「花をつけては枯れ、
    土に戻っては球根として力を貯めて
    また目覚めてというのを繰り返す。
    すべての生き物が“常若”です。
    死んだら無になるわけじゃなく、
    誰かの心に球根として残るかもしれない」
    ヨシダは、この言葉に出逢って、
    常若を作品にしたいと思うようになったと。

    また、人とうまく関われない青年にはこう言います。
    「シロクマは砂漠では生きられない。
    楽に生きられる場所を探したからって、
    誰もそのことを責めはしない」と。

    史絵は、ヨシダと出逢うことで
    自分の進むべき道をしっかり見据えることが
    できるようになります。
    またヨシダは、人生最後になるだろうこの展覧会で、
    彼女の大切な人と出逢いなおします。
    最初の方で謎だったことが
    後半で紐解かれていくところも
    読んでいて楽しい作品。

    一色さゆりさんの本はこれで四冊目。
    東京芸大を出られた まだ若い方で、
    私の好きな作家さんの一人です。

    • Macomi55さん
      yyさん
      こんばんは。私も「糸」の歌詞、yyさんと同じく間違って覚えていました!教えて下さってありがとうございました。これだけ言いたくてコメ...
      yyさん
      こんばんは。私も「糸」の歌詞、yyさんと同じく間違って覚えていました!教えて下さってありがとうございました。これだけ言いたくてコメントさせて頂きました^_^
      2023/12/27
    • yyさん
      Macomi55さん

      わぁ、嬉しい☆彡♪
      お仲間 発見!
      Macomi さんもきっと、耳で覚えていらしたのね?
      あの歌詞は「人」...
      Macomi55さん

      わぁ、嬉しい☆彡♪
      お仲間 発見!
      Macomi さんもきっと、耳で覚えていらしたのね?
      あの歌詞は「人」でも充分成立しますよね。

      なんか、楽しくなりました。
      コメント、ありがとうございます ♪♪♪
      2023/12/27
  • 【王様のブランチ・本】一色さゆりさん<カンヴァスの恋人たち>(2023年5月6日 ) - えとせとら本棚
    https://matome.readingkbird.com/entry/2023/05/06/145019

    「推してけ! 推してけ!」第35回 ◆『カンヴァスの恋人たち』(一色さゆり・著) | 小説丸
    https://shosetsu-maru.com/review/oshiteke/35

    カンヴァスの恋人たち | 書籍 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09386670

  • 久々のアート小説だったけれど、改めてアートっていいな、アーティストって凄いな。
    そんな風に思わせてくれた。

    働く女性の葛藤も、わかりやすく描かれていてよかった。

  • ヨシダカヲルさんのような存在の方に出会えると人生変わるなぁ。生きる力から生まれる強さと優しさ温かさのある振る舞い、考え方に惹かれる。

  • 美術の世界は詳しくないけれど、
    美術展開催までの裏側ってこうなのかな、と想像が膨んで楽しい。
    美術館に行くあのわくわく感が身に覚えのある人なら、この世界観を楽しめるはず。
    でも、ここまでハードとは…
    本の中にもある、生きた作家との準備というのが印象的だった。まさに伴走なんだろうな。

    テーマはセンシティブでもありリアルで、なかなか挑戦的にも感じる。
    働くことと私生活のせめぎ合いのような描写は特にリアルで、三十代には刺さるのでは。
    女性目線の話なので、男性側から見たらどうなんだろうか。友人との会話なんてリアルそのもの。

    ただ、最後の方、もう少し丁寧に描いてほしかったなと思う部分も正直ある。それが、余韻にわずかに苦さを残している。
    作家の過去も然り、主人公の将来への選択も然り。
    全てが解決していないことはある意味現実だけれど…
    残された目の前の問題にも、主人公が逃げずに向き合っていくんだろうなと想像できる余白はあるから、
    読み手に委ねられているのかもしれない。

  • 「自分の存在さえも忘れ、私っていうちっぽけな檻から解放されてむき出しの魂で深いところまで下りていける」絵ってどんな絵なんだろう?ぜひ鑑賞したい。言葉ばかりが踊って、ヨシダさんに共感できなかった、残念。

  • 一枚の絵画に影響を受けたという経験はまだない、これからもなさそう。

  • 後半は一気に読んだ。
    事なかれ主義で、言いたいことを言わずにいても分かってはもらえないし、自分も不満が溜まる。
    自分の意見を伝えて、自分のしたい様にする事が一番後悔しないのかな。

  • 好きなことを仕事にしても大変なことはたくさんありそう。

  • 個人的注目ポイントは
    ○ヨシダという画家の過去
    ○ヨシダにとって芸術を続ける理由
    〇タイトルの意味 恋人たちは誰と誰をあらわしているか

    この本は表現がすごく好きです。
    また読み直したいぐらい良かったです。
    ラストのあの雰囲気が好きです。


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著者プロフィール

1988年、京都府生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒。香港中文大学大学院修了。2015年、『神の値段』で第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞して作家デビューを果たす。主な著書に『ピカソになれない私たち』、『コンサバター 大英博物館の天才修復士』からつづく「コンサバター」シリーズ、『飛石を渡れば』など。近著に『カンヴァスの恋人たち』がある。

「2023年 『光をえがく人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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