百年の子

著者 :
  • 小学館
4.23
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093866866

作品紹介・あらすじ

昭和~令和へ壮大なスケールで描く人間賛歌 人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。 舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。 世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。 なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。 子どもの人権を真剣に考える大人たちの軌跡を縦糸に、母親と子どもの絆を横糸に、物語は様々な思いを織り込んで、この先の未来への切なる願いを映し出す。 戦争、抗争、虐待……。繰り返される悪しき循環に風穴をあけるため、今、私たちになにができるのか。いまの時代にこそ読むべき、壮大な人間賛歌です。 【編集担当からのおすすめ情報】 忘れられないのは、第一稿の小説を読んだときの胸の熱さ。 原稿を読みながら、この流れてくる涙はなんだろう、と考えた。言葉にすると「すごい!」しか出てこない。あまりにも大きくて熱くて深い。 一番身近で古内一絵さんの取材、執筆を見ていて、時にはとても心配になりハラハラもした。そのくらい、古内さんのこの作品への熱量はすごかった。ご本人があまりに考えすぎて鼻血を出したり、胃炎になったり、全身全霊で取り組んでいることが痛いほど伝わってきた。 「ありがとう」と思った。この作品を読むことが出来て、幸せだと思った。涙はきっと、女性であり、かつての子どもであり、母であり、娘であり、労働者であり、担当編集者である自分の心からの涙だと思った。 どうか一人でも多くの方の心にこの小説が届きますように。心から祈っています。どうか、よろしくお願い申し上げます。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの古内一絵さんの作品を読了した。心のきびに入り込んでくるどきどきする感覚と温かいものに包まれている穏やかな感覚を味わいつつ、古内さんの丁寧な描写を読み進めた。物語は、昭和と令和を交互に進んでいく。令和の物語の中心人物は新卒入社5年目の市橋明日花。昭和の物語の中心人物は、令和の時代では94歳になるスエ。明日花の祖母にあたる。だが、2人の関係は孫と祖母という家族関係だけではないことが、徐々に明らかになっていき、その関係が明らかになっていくにつれ胸にグッときた。令和の物語はコロナ禍を描き、昭和の物語は戦中、戦後を描いている。どちらも激動の時代と言えるだろう。

    メインとなる舞台は大正レトロの雰囲気を漂わせる外観の「文林館」という大手総合出版社だった。明日花にとっては、「文林館」は念願の就職先であった。だからこそ、やってみたい仕事も明確で、やりがいをもって担当の仕事に従事していた。そんな矢先に、明日花に異動が命じられる。異動先は「文林館創業百周年記念 学年誌創刊百年企画チーム」であった。そこでの広報活動が明日花の新しい任務となった。その出版100周年の企画を請け負うことに、明日花は不満を持っていた。明日花が担当したい仕事は、出版マーケティング局のもので、児童向けの学年誌出版局のものではなかったからだ。仕事は、自分が好きな内容だけではないし、自分に任されていた任務が変わることがあるだろう。さらに異動もつきものだろうな。そのような中で、任された仕事を自分のしたい仕事へと意識を変えていくことは簡単ではないだろうな。

    物語は、スエが就職し仕事を始める昭和時代に遡る。明日花とスエが、どのようにつながっていくのだろうかと想像が広がる。令和の時代のスエは介護が必要となっている。過去に遡っていく中で、スエが激動の時代を逞しく清々しく生き抜く姿が鮮やかに描かれていた。スエが就職し働いた会社は、明日花と同じ文林館だった。スエと明日花とのつながりが明らかになっていく。スエが働いていた頃、文林館は児童誌で一躍栄えていた。しかし、戦争の影響を受け、児童誌も内容や形を変えざるを得なくなっていた。

    物語は令和へ。明日花の同期、誉田康介の所属は、学年誌「学びの一年生」の編集部。康介の仕事への姿勢や言動は、明日花の心を揺さぶり、よい刺激を与える。仕事となると、自分のしたいこととは限らないだろうな。変えることができるのは、仕事にあたる自分の考え方なのだろう。時にうまくいかず悩むこともあるだろう。そんなとき、明日花にとっての康介のような存在は、自分の考え方を見つめ直すきっかけになるのだろうな。初代社長、会田辰則が起こした学習雑誌の小さな会社「文林館」。その後、3代目社長の文則が会社の基礎を築き上げた。しかし、令和の時代では「学びの一年生」のみが刊行されていた。

    物語は昭和へ。明日花は、2歳から中学を卒業するまで、祖父母と暮らしていた。そのような中、両親は離婚する。明日花にとっては、母、待子以上にスエが一層近い存在となっていた。このことについては、後の展開で、その背景が明らかになっていく。明日花が知らなかったこと、母の待子が知らなかったこと、スエの経歴や思いも明らかになっていく。その場面では、胸にグッとくるものがあった。古内さんの伏線的な展開にも驚きと思わず唸ってしまうものがあった。母、待子は獣医師だった。このことも、後の展開に大きな影響を与える。待子と明日花の名前の由来も明らかになり、そのことも胸にグッときた。

    物語は令和へ。明日花は、「良い子のひかり」「小國民のひかり」の刊行される昭和19年の文林館の入社者の中に鮫島スエ、祖母の旧姓を見つける。文林館でのスエと明日花のつながりが明らかになり、この先の展開が気になっていく。祖母スエは認知症の症状があり、明日花は文林館にスエが勤めていたことを確かめられなかった。母の待子にそのことを尋ねると、スエに口止めされていたと告げられる。読みながら驚いたが、その理由はラストに向かって明らかになり、そのこともスエの明日花に対する温かい思いが背景となっていて、胸にぐっとくる。

    物語は昭和19年に遡る。スエの実家は房総半島の突端の花卉を育てる農家だった。スエは16歳になったときに実家を離れ上京し、洋裁店の住み込みで働いた。しかし、時代の流れの中で、店は閉店に追い込まれる。スエの状況に心を寄せながら、過酷な戦中の生活を想像した。そのような中、文林館の臨時職員募集の張り紙をスエは目にする。それがきっかけとなり、文林館を訪れるスエ。ここから、この先のスエの人生が垣間見えるだろうと想像し、どきどきしながら読み進めた。この間に、叔母が作家の家で留守番をしていたスエと同世代の白坂円との出会いがある。円も、ラストに向かって重要な登場人物となる。円は叔母と同じ小説家を目指していた。文林館の元取締役、野山彬が登場する。この野山も重要な登場人物。野山は、1960年代、学年誌黄金期入社後、30代で「学びの一年生」の編集長。円の執筆した作品を夢中に読んでいたスエ。未来を期待するスエ。

    この後、野山も円も令和の時代に明日花と出会うことになり、スエとのつながりが鮮明になっていく。と読み終えたとき、昭和と令和のそれぞれの時代背景と社会情勢を生き抜いた登場人物と共に、解き放たれた自由な感覚に包まれている感じがした。それでも、令和の時代の今、まだその途中であり、これから一層の自由が待っている期待も膨らんだ。時代を超えた人のつながりと一つのものに関わる人たちの熱量を存分に味わった。それは古内さんの本作品にかける熱量なのかもしれないな。次の古内さんの作品が楽しみになった。

  • この小説は著者の古内一絵さんの最高傑作と何かで読んだので読みました。



    昭和19年(1944年)から令和4年にまでわたるある家族と出版社の物語。

    市橋明日花は文林館という出版社に入社5年目の社員で、ファッション誌から『学びの一年生』という学年誌に異勤になります。
    文林館は創立百年の老舗出版社です。

    明日花は獣医師で父と離婚した母、待子とは別居し、祖母のスエとずっと二人で暮らしていました。

    そして、明日花は文林館の名簿に1944年に入社した鮫島スエという祖母の名前をみつけます。
    なぜ、スエは、明日花が文林館に入社したときに、そのことを黙っていたのか…?
    待子は「おばあちゃんはただのバイトだった」といいますが。
    明日花にはそうは思えない節がありました。

    『学びの一年生』という雑誌名や林有美子という作家や戸塚治虫という漫画家など、『小学一年生』、林芙美子、手塚治虫を彷彿とさせる固有名詞が中心となってストーリーが進みます。

    そこまで書くなら、実名で書いてくれれば面白いのにと思いました。

    キーパーソンは、君嶋織子という名の児童文学者と文林館の社員の野山彬。

    戦争も大きくストーリーを動かしています。

    最後はまさかの展開でした。
    あの人が祖母のスエだったとは全く気づきませんでした。
    そして最後は明日花の家族の物語としてもとてもよかったです。

  • 膨大な資料を取材して物語を夢想して作り上げるスタイルの古内一絵さんの作品はドキュメンタリーのような臨場感が伝わってきます。
    コロナ禍の令和と昭和を行きかいながら文林館の児童向け学年誌100年の歴史を探る。

    小学館や手塚治虫、林芙美子を彷彿させる内容なのに
    何故か実名表記されていないところが気になるのですが読んでいるともうほとんどそれでイメージできてうれしくなりました。毛が三本のお化けとかネコ型ロボットとかはあの人の作品ですよね。

    戦時下では、教科書に出てくるような有名な作家さんたちが国策で戦争賛辞する文章を書かされり、子供たちは思想統制されたりで思っていることを自由に発言できなかった時代。
    コロナ禍の閉塞感にも似た世相が息詰まりを覚えるのですがやがて自由に活動できる時代となって、炎上することもあったようですが現代へと引き継がれていった100年の歴史を見ることができました。
    読後感は清々しかったです。

  • ごめんなさい

    途中まで小学館お抱え作家の礼賛小説だと思って読んでました

    ぜんぜん違うわ!
    もうほんと失礼しちゃう(お前な)

    小学館とその看板雑誌『小学館一年生』の歴史とそこにまつわる人の想いを振り返ることで、子どもたちの未来について考えさせられるすんばらしい小説でした

    「小説」の役割分担っていうのかなぁ
    なんとなく「小説」が社会の中で担っているもののひとつってこういうことなんじゃなかろか?と思った小説でした

    でもってちゃんとエンターテイメントとしての面白さもしっかりあって、驚きのあるストーリーもよかった

    指導者たちは、子どもたちのために「戦争」してると言い張ってるんだろうなぁ…なんてことも思ったり
    子どもたちのためになんかなるわけないだろ!って
    「戦争」が子どもたちに「与える」ものなんかないわ!「奪って」ばかりだわ!

    • 1Q84O1さん
      おおらかの見本市みたいな人…
      ふーん、そうなんですね…
      ふーん…(ー_ー)
      おおらかの見本市みたいな人…
      ふーん、そうなんですね…
      ふーん…(ー_ー)
      2023/12/28
    • おびのりさん
      そうすか。
      そうすか。
      2023/12/28
    • ひまわりめろんさん
      そうすな
      そうすな
      2023/12/29
  • 物語は、出版社に勤務して5年目の市橋明日花が学年誌創刊百年企画チームに配属されたことから始まる。
    入社当初から関わってきた『ブリリアント』編集部のカルチャーページの仕事に忙しくも愛着を感じていたのに…と不満はあったが、同僚である康介の学習雑誌は世界中探しても日本にしかないことや初代の社長の話などを聞くことで少しずつ気持ちが変わっていく。
    そして、今は認知症の祖母が戦中に働いていたことを知り驚愕する。

    祖母の頃の話と現在を交互しながら進んでいくのだが、過去のことを知るのも興味深い。
    この作家はあの人だろうか…などと想像でき、学習雑誌の付録の苦労や児童文学など知り得なかったことも勉強になる。

    戦中から令和にかけての出版業界を知り、そして祖母から母、自分と繋がる人生が壮大な物語となって一気に動き出したとき、感動ものだった。






  • オーディオファースト作品。
    紙の本化は8月とのこと。

    親子3代、女性たちの歴史の変遷を描く。

    人間の歴史は100万年、子どもは100年。
    そして、女性の人権の歴史も驚くほど短い。

    ♪怪獣の花唄/Vaundy(2020)

  • ある出版社の学年誌における100年の歴史を描いた作品。

    NHKの朝ドラとかになりそうなお話だった。
    そう言えば"小学一年生"、私も何度か買ってもらった記憶がある。
    付録も魅力的だったし、本もすごくわくわくしながら読んだよな〜。

    会社創立百年の記念に、不本意にもファッション誌の担当から異動させられ自社の学年誌の歴史を調べる事になった明日花。
    昭和の時代に明日花と同じ出版社で働いていた事のある祖母のスエ。

    昭和から令和の現代までずっと続いてきた学年誌。
    百年といえど時代背景は今とは全く違う戦時中の日本。
    色んな人の思いや苦労の積み重ねが今もなおこうして残って続いてるんだなぁと思うと胸が熱くなる。
    そして何も知ろうともせず、不平を漏らすところ私にもあるな、と。
    置かれた場所でまずは一生懸命に向き合う事の大切さを明日花と共に思い知らされました。
    読後爽やか〜!

  • 学年誌を出版する出版社を舞台に、戦中戦後の祖母、令和の孫娘を交互に描いた物語。

    学年別の学習雑誌「小学一年生」シリーズは子供の頃よく読んだ覚えがあります。
    それが世界中探しても日本にしかないものだったとは。
    創業者や従業員たちの思い、児童文学や漫画、メディアの意義など、興味深いことが多かったです。

    やはり私は女性なので、生まれた時代によって女性の大変さが違うということが印象に残りました。
    この物語の祖母は女性に教育なんて必要ないと言われた世代。母は出産したら仕事を辞めるべきとされた世代。娘は出産しろ、仕事もしろと言われている世代。
    三世代の女性たちの働き方を含めた生き方について、深く考えさせられました。

    特に、戦中戦後の激動の時代を懸命に誠実に生き抜いてきたスエさんには感動しました。
    生活や感情の描写が臨場感たっぷりで、人々の息遣いまで伝わってきました。
    世の中が軍国主義に傾いて学年誌までもが洗脳に近い形で…というのは本当につらい気持ちになりました。

    子供と女性の人権の歴史。
    仕事、家族関係、出版、教育、戦争など、様々なことを盛り込んだ壮大な物語。
    朝ドラにでもなりそうな感じがしました。

  • 「小学一年生」にも、戦争に巻き込まれた苦難の歴史があったとは!

  • 贔屓の作家さんなのですが、戦時中から時系列を前後させる展開や構成が以前読んだ著書2作品に類似していて若干の物足りなさはありました。NHKの朝ドラになりそうな事実をヒントにしたフィクションなので初読みだったら星5だったかもしれません。

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年、『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』『鐘を鳴らす子供たち』『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』などがある。

「2021年 『山亭ミアキス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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