- Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093891264
作品紹介・あらすじ
父はなぜ別人になって生きようとしたのか? 1994年5月、大阪市東淀川区に住む大屋隆司の父親・横山道雄が突然、失踪した。この失踪騒ぎの後、みるみる衰弱していく父を看病する中で、隆司はこれまで知らなかった父の過去を知る。父の戸籍上の名前は「大田正一」といい、死亡により除籍されていた。大田正一といえば太平洋戦争末期に「人間爆弾」と呼ばれた特攻兵器「桜花」を発案したとされる人物である。大田は終戦の三日後に遺書を残し、茨城県神之池基地を零戦で飛び立ち、そのまま帰ってこなかった。ところが、大田は生きていた。「茨城で牧場をやっている」「新橋の闇市に連れて行った」「青森で会った」「密輸物資をソ連に運んでいる」……断片的な目撃談や噂はあったものの、その足取りは判然としなかった。1950年、大阪に「横山道雄」となって現れた大田は、結婚した女性との間に三人の子供をつくり、幸せな家庭を築き、94年にその生涯を終えた。それから20年後の2014年、大田の遺族を名乗る女性からの電話に興味を持った著者は、大田の謎多き人生について調査を始める。それは隆司ら家族にとっても父を知るための貴重な時間となっていく。「本当の父親」を探す旅の結末は――。
感想・レビュー・書評
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この前に読んだ「知覧からの手紙」と逆の立場で「特攻兵器」を扱ったものを読んでみたくて、この本を手にした。
これは、特攻兵器である「桜花」のアイディアを海軍に提唱し、以降「桜花をつくった男」として戸籍を失い、自分の名前を変えてまでも生きた男の話である。
実に奇遇なことに、カミカゼ特攻で亡くなった多くの若い兵士達と、特攻兵器をこの世に産み出した開発者達の間には共通点がある。「知覧からの手紙」の中で、最も心に深く刻まれた事実は、「代々よい家柄の人や、金持ちはうまく特攻から回避し、特攻に赴くのは若い志の高い人達」ということである。
本書のドキュメンタリーの対象である大田正一も決して裕福でもない、どちらかと言えば叩き上げの一兵士である。確かに、彼が「桜花」を上官に提案したことは事実であるが、結局設計したり、テストをしたり、パイロットを集めたりしたのは、当時の軍の上層部である。彼ら上層部の人間は特攻にはパイロットとして参加していない。そして、彼らは終戦後も生き残り、あろうことか参議院議員になったり、ハリウッド映画に協力したり執筆活動したりして、余生を満足している。彼らは「桜花」の開発した側の人間として罰せられるどころか、誰からの非難を浴びることなく、幸福に生き、死んでいった。
これは、単に、「上官から特攻兵器に乗れと言われても誰も乗ろうとはしないが、最前線で戦っている兵隊からその様な声が上がれば、皆進んで人間爆弾に乗るのではないか」という考えから、その代表的な存在であったであろう大田正一に白羽の矢が建ったものと思われる。
ここでも、結局、家柄と、金持ちは特攻させられないばかりか、殺人の片棒を担いだ罪からもうまく逃げおおせている。
そして、別の人間がその罪を被せられ、一生その罪を背負い苦しみながら死んでいる。
なんと、理不尽ではないか!?
でも、これは現代の日本でもあまり変わらないのではないだろうか?普通の人達は日々の暮らしもまはまならないが、世襲している政治家は悪事のし放題を繰り返し、高価な食事を毎日堪能し、楽な人生を歩んでいるではないか?
大田正一は戦後直後に、神ノ池基地から単身戦闘機に登場して自殺をはかっている。しかし、彼は死ぬことを許されず、墜落した海で漁師に救われている。
これも不思議なものだ。彼が提唱した「桜花」は搭乗したら絶対生還出来ない人間爆弾であり、それが故に多くの人間の命をいとも簡単に奪った。
だが、死にたかったであろう、大田正一は、無論乗った機体は違えども、そう簡単に死ぬことは出来なかったのだ。
これは。一体何を意味するのだろうか? -
2日間でさらさら読めました。
聞き取りや事実に基づいての内容が多いため、納得できる部分が多かったです。こういった本に、筆者の妄想は不要なので。
なにより筆者の取材力と、交友関係の広さには感服です。関わった方々の証言をこうして残して下さる事に感謝。
個人的には源田さん関連の話が、尾を引きました。この方に、三四三空関連の書籍を出して欲しいなぁ、と個人的には思います。 -
太平洋戦争末期に桜花という特攻専用ロケット兵器を作ったとされる大田正一の人生に迫った一冊。読んだ後に眠れなくなった。今年のベストワンになる一冊かもしれない。
何年か前に観た、大田正一の生涯を追ったEテレの番組が鮮烈だったのでずっと頭に残っていた。その書籍版とも言える。テレビよりも細部が描かれているが、それでもその生涯には多くの謎が残る。テレビ版との大きな違いは、桜花が世に出ることになった経緯、高野山のお坊さんとの出会いの裏側、テレビ放送後のことが描かれた点だろう。
偶然とはいえ、大田が自殺を試みる直前に出会った高野山のお坊さんが、マニアと言えるほど太平洋戦争に詳しかったことに驚かされた。陳腐な言い方だが、何たる運命の引き合わせか。そして、テレビ番組とこの本が書かれるきっかけとなった美代子さんの後日談にはショックを受けた。美代子さんは、彷徨った果てに辿り着いた場所で自分を偽り続けた義父に、どこか自分を重ねていたのではないか。
桜花が大田の名のもとで世に出た経緯についての記述は、著者の主観が少し入っているように感じる。ただ、著者の解釈が正しい可能性は大いにあると思う。いかに当時の軍部といえども、あからさまな特攻兵器開発を主導することは難しかったかもしれない。この点については、日本の意思決定構造は中空構造である、と論じた河合隼雄の本を読んだばかりなので、そのことを考えずにいられない。大田正一は不幸にもその中心に据えられてしまったのではないか。それゆえ、大田は空洞を抱えたまま生きる他なかったのではないか。 -
戦史中の謎の一つ、特攻兵器桜花の発案者大田正一が実は生きていた。特攻隊の歴史を追い続ける筆者が知った真実。
太平洋戦史に詳しい人なら知っているだろう大田正一。戦後まもなく消息を断ち生存説もあった人物。
戸籍のないまま生きながらえた大田正一の生涯を探る作品。
本当に事実なら戦後第一級のスクープだろう。 -
「桜花」を発案した人、となっているが、それを最終的に承認した人たちのずるさをひたすら感じた本でした。会社でも自己保身のために、同様の事を行っている上司を見るにつけ、本書と併せて、反面教師とするものであります。
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東2法経図・6F開架:289.1A/O81k//K