11時間 -お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか-

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093965040

作品紹介・あらすじ

妊娠8カ月の妻とともに交通事故被害に遭った夫。帝王切開で産まれた長女は、11時間後に逝った。「娘は、殺された」。怒りと悲しみで臨んだ刑事裁判で、夫婦は大きな衝撃を受ける。「胎児は人にあらず」。厳然とした刑法の理念にがく然とし、胎児の人権を訴える夫。しかし胎児を「人」と認めると、今度は別の大きな問題にぶちあたる。人工妊娠中絶は「人殺し」か-誰もが語ることすら避けてきた問題に鋭く切り込む、渾身のレポート。第13回、小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 最近のニュースといえばウクライナ侵攻ばかり。胎児が人なのかについて考えたりすると、妊婦さんもたくさん逃げているわけで。そういうことを考えると、なんとも。。。

    以下抜粋

    胎児は「人」なのか この問題を多くの人が議論し考えてくれれば、きっと自分の命だけではなく、人の命の全てが尊いものだと思い、犯罪も少ない住みやすい世の中になる。

    私たちにできることは、想像することから始まり、それが人と社会への思いやりにもつながる。そして、それは決して無力ではなく、大きな力になる。

    絶対的正義を求めるのではなく、あるいは借り物の正義に溺れるのではなく、合意を探ろうとする努力をはかり、なおかつ合意の困難さの源を探り、合意の根ざすところを探ろうとすることが、まさに文化の構築というものではないでしょうか。

  •  民法第三条1項:私権の享有は出生に始まる、「お腹のなかにいる時に事故に遭った場合、刑事裁判では胎児は“人”と見なされず、致死罪にならない」。
     堕胎の是非について、民法第三条1項がよく引用されることは知っていたが、後者のことは初耳で、大変衝撃的だった。
     他の家庭のように、普通に子どもが生まれ、幸せに過ごしていけるはずが、不慮の事故で身体だけでなく夫婦関係も傷つけた。それだけでなく、「我が子が“人”として認められない」という、辛い事実を投げかけるという事も、やりきれない気持ちにさせる。
     「23週以降でも、きちんとした周産期管理体制におかれれば60%は助かる」にも関わらず、出生については、専門家の間でも「陣痛説」「一部露出説」「全部露出説」「独立呼吸説」という4つの考えに分かれており、今日では「一部露出説」が通説となっている、そして「堕胎罪は空文に近い」という、司法関係者の意見・・・。
     日本産婦人科学会ですら、「人の生命がいつ始まるかは議論のあるところではあるが、人が個体として発育する時期は個体形成に与る臓器の分化の時期を持って、その始まりとする」と、曖昧な見解を示している。

     本書では中絶についても触れている。2005年の厚生労働省の調査では、全国で28万9127件の中絶が行われたという。「健康上、経済的な理由」でやむを得ず行った、あるいは幼い頃に虐待を受け、負の連鎖を起こしてしまうと恐れたと、いった数も勿論含まれている。
     だが、「母子保健の主なる統計」では、10代の中絶が年間3〜4万件以上あり、その中には「今回で三回目なんだ」とあっけらかんに話す中学生や、終えた後に「今終わった。超楽だった」と笑う、命に対してゲーム感覚で接する子も増えたという(ちなみにコメントした医師は、以前は中絶後に強い痛み止めの注射を使用していたが、現在は「この痛みによって今後は気をつけてもらいたい」という思いで使用を止めているという)。
     さらに、2006年の厚生労働省研究班と日本家族計画協会の共同調査「第三回男女の生活と意識に関する調査」によると、16歳から49歳の女性のうち、7人1人が中絶を経験したという、驚くべき数値が明らかになっている。その内訳にはレイプによるものも少なくない。
     もっとも手術を受ける側だけでなく、行う側の病院の倫理観にも問題があることが明らかになっており、胎児をどう考えるかは大きな課題となっている。
     「胎児にも人権・生命権がある」という主張と、「母親の産むか産まないかを決める、自己決定権による中絶」という主張の、いわば「胎児は母親の所有物か」がしばしば議論を呼ぶことになっている。

     「産む・産まないはセックスの数だけ結論がある。レイプだけではなく、経済的な理由やさまざまな理由であっても、産むことだけが全てではなく、中絶することを否定出来ない」という、レイプによって身ごもり、堕胎を経験した女性の主張と、「どこから“人”になるのかと、ものすごく考えました。私は、産もうとすれば、それは“人”になるんじゃないかと思うんです」という、お腹にいた赤ちゃんを交通事故で失ったという、母親の意見を、あなたはどう考えるだろうか。
     筆者の言うように、「胎児の人権を議論することを通じて、人の生死、人の命を尊ぶことの真の意味を理解出来る」事を信じて、話しあっていかなければならない。

    自分用キーワード
    胎児ジストレス 重症仮死状態 妊婦のシートベルト着用を推進する会 胚保護法(ドイツ) 罪刑法定主義 八掛け判決 熊本水俣病刑事事件有罪判決(この判例により「同人の身体の一部である胎児」という表現がなされるようになり、同時に「出生により“人”になる」という倫理が明らかにされた) 民法第721条 民法第783条 民法第886条 日本国憲法第11条 水子供養 雑阿含経第10巻「寿命、体温、意識の三つが結合した状態を「生」と考える」 パーフェクトベビー(デザインベビー) ホストマザー・サロゲートマザー 1.57ショック 優生保護法(現・母体保護法) プロ・チョイス派 プロ・ライフ派 嬰児殺し(間引き) フランシスコ・ザビエル(キリスト教文化を受けた彼には「日本は堕胎、殺児の国」と見えたそうだ) 伊勢佐木クリニック(中絶胎児を一般ゴミとして廃棄) 緊急避妊ピル 中絶後遺症候群 円ブリオ基金センター カトリック(中絶を否定している) 児童の権利に関する条約 1999年富山県無保険車傷害事件 杉山真寿美・晴久夫妻(業務上過失致死罪が認められた事例) 細野雅宏・美香夫妻 昭和54年3月29日秋田地方裁判判決(胎児は人ではない、という見解を示した) 訴因制度(土本武司氏は、検察官の訴因構成の違いが杉山夫妻と細野夫妻の判決を分けたと述べている) 死体解剖保存法 胎児と子供の命を守る会   

  • 978-4-09-396504-0 246p 2007・7・3 初版1刷

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