サマードレスの女たち (小学館文庫 シ 6-1)

  • 小学館
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094062984

作品紹介・あらすじ

無類に面白い短篇小説選集

1930年代の大不況時代、そして第二次大戦、さらには傷だらけの戦後を背景に、アーウィン・ショーは数多くの短篇小説を書いた。もっとも有名な「サマードレスの女たち」(「夏服を着た女たち」)は「ニューヨーカー」に掲載され〈都会小説〉の名作として日本でも多くの読者を得てきた。しかし、時代順に配列され、まるで長篇小説のように編集された本書を読むとまったく別の像が浮かんでくる。
三十年代のアメリカ人の群像(タクシー運転手、保安官助手、フットボール選手など中産階級以下の民衆)が生き生きと描かれ、第二次大戦下の兵士たちは困憊し、惑乱している。そして戦後――最後に収められた「いやな話」はまるで悪化した「サマードレスの女たち」のようだ。
《「時代」の歩みが、この作家の鋭敏なレンズを透過して屈折し、現実の情報よりも遥かに現実的なかたちで、あなたの胸に像を結ぶだろう》
劇的な構成力と、無類に面白い筋の展開を堪能できる傑作短篇集成、待望の文庫化!
●装丁/平野甲賀

感想・レビュー・書評

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  • 改訳が出ると聞いたとき、タイトルを聞いて、「なんで『夏服』じゃなくて『サマードレス』なんだ、責任者出てこい!」とちょっと思った。でも学生時代に読んだ表題作で描かれる、NYCのまぶしさが忘れられないこともあり手に取った。

    最初の収録作品「二番抵当権」を読んで、「えっ、こんなんだった?」と戸惑った。ネタバレになってしまうのかもしれないが、過去に常盤新平訳で『夏服を着た女たち』として知られていた短編集はあくまでも、常盤新平プレゼンツのオリジナル短編集なのであって、この短編集『緑色の裸婦』からの抜粋とはかなり趣きを異にしている。戻って、この「二番抵当権」は、不動産の抵当権設定を盾に債務の返済(もしくはたかり)を迫る初老の婦人と、それを断ろうとする家族の話。双方がギリギリの生活と怒りを振りまき、美しい都市生活者の影なんてどこにもない。ただただ理不尽とうっ屈とやるせない読後感が残るのみである。

    次に印象に残るのが、WWIIおよびその他の紛争に従軍した下っ端兵隊を描いた6編。華々しい戦果にあずかるわけでもなく、自分の立場、これから起こることに幻滅を感じるような苦い兵隊物語は、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』所収の「ポットシャック」を思い出した。中東戦争がらみ(と思われる)の数編が、日本の読者からは見えにくい背景があるものの新鮮だった。

    どの作品も背景のわりには泥臭くなく妙にくっきりと美しくて、典型的な『ニューヨーカー』掲載作品だと思ったけれど、トータルで見ると、貧しさや戦地でのやるせなさはマラマッド『魔法の樽』に似ていると思う。通読してみて、「私は長らく常盤新平に騙されておったな」という少し苦い笑いとともに、「夏服」か「サマードレス」かなんてどうでもよくなる感じで認識を改めることになったリバイバル読書だった。その中で表題作は清涼剤的になるのかなとは思うけど、今の私にはそこじゃなくて、「いやな話」が非常にいい感じにいやな感じで素晴らしかった。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      >シンさん

      私は海外文学ばかり読むわりには翻訳者のセレクトには無頓着なところがあって、「○○訳が…」という論には与せずにきたんですけど...
      >シンさん

      私は海外文学ばかり読むわりには翻訳者のセレクトには無頓着なところがあって、「○○訳が…」という論には与せずにきたんですけど、これは明らかに翻訳者の作為を意識せざるを得ませんでしたね。常盤さんのNYCを扱った作品は、訳書以外のエッセイなどの本を読んでもNYCへの愛がダダ漏れだったので、原作がそちらで塗りつぶされているのに気付かなかったということなのかと思います。演劇やバレエの「○○演出」が大きな意味を持つのにきわめて似ている、ということでしょうか。

      海外文学の文庫ラインナップを次々とエンタメ路線に切り替えていく大手出版社が多い中、小学館文庫は定期的にこういった作品を繰り出してくるので、本屋さんでもついつい小まめに本棚をのぞいてしまいます。
      2016/07/09
    • bertさん
      「私は長らく常盤新平に騙されておったな」は全く同感です。
      「私は長らく常盤新平に騙されておったな」は全く同感です。
      2019/03/05
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      bert様
      コメントありがとうございます。訳者が出版のために短篇からの選定も兼ねることは今でも多いとは思いますが、今では原著へのアクセスも...
      bert様
      コメントありがとうございます。訳者が出版のために短篇からの選定も兼ねることは今でも多いとは思いますが、今では原著へのアクセスも格段に楽になったので、訳者が作家のイメージを作り上げるケースはかなり減ったかもしれませんね。
      2019/03/05
  • 「緑色の裸婦」を読んでいたので再読です。読み直してみるとかなり昔のイメージとはかなり違っていた。第一j次大戦後の暗いイメージがこんなに強かった作品集だったのかと思うと読んだ自分の歳がかなり関係しているんでしょう

  • 都会小説と言われているようなのだけど、それがそれぞれのストーリーの舞台のことを言っているのかどうか…それとも都会小説=新しい視点的なこと?
    あとでちゃんと調べてクリアにしたいところ。

    とにかく時代を感じる(女性の扱われ方とか、本人たちの考え方も含めて)ストーリーが多かった印象。
    ただ最後の作品には、現代にも通ずる“女性像”というか、フェミニズム的な要素と、女性自身の独立性、野心的なものを、確かに感じた気がします。

    個人的には、ストロベリー・アイスクリーム・ソーダが1番好きかなぁ…ってよく考えたら、女性が唯一出てこない作品だった気がする。

  • 『サマードレスの女たち』
    アーウィン・ショー
    小笠原豊樹 訳
    小学館文庫
    
    『夏服を着た女たち』
    アーウィン・ショー
    常盤新平 訳
    講談社文庫
    
    欅坂46の『波打ち際を走らないか?』に「借りっぱなしだったアーウィン・ショー」という歌詞が出てくる。
    (秋元康はかつて菊池桃子の『卒業』にサン=テグジュペリを登場させているのでオシャレな記号みたいなもんなのだろうけど、彼女にアーウィン・ショーを読ませる男というのはちょっと引く。)
    
    アーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』は学生時代に原文で読んだことがあるんですが、村上春樹っぽいというか、村上春樹がおそらくショーの影響を受けてるんでしょう。
    
    今は『サマードレスの女たち』という邦題なのかと思って読んでみたら、昔、読んだものとだいぶ印象が違う。で、あらためて『夏服を着た女たち』を読んでみた。
    (ちなみに夏の物語ではなく11月の話だと今回初めて気がついた。)
    
    『サマードレスの女たち』が1983年単行本、2016年文庫版。カバーデザインは平野甲賀。16篇収録。
    『夏服を着た女たち』が1979年単行本、1984年文庫版、2004年新装版。10篇収録。
    
    表題作以外はひとつもかぶっておらず、正確な年代は確認できなかったものの、『夏服』の方は『ニューヨーカー』や『エスクァイア』に掲載された1930年代、1940年代の短編を中心に編まれており、男と女の些細なすれ違いやノスタルジックな後悔を描いていて、全体的に「洒脱な短編」といった印象。
    
    対する『サマードレス』は、PTSDに苦しむ復員兵やエルサレムにおけるユダヤ人の女性が登場するなど、従軍したショー自身の経験が反映されたかなりシリアスな印象が強い(ショー本人もユダヤ人)。半分くらいが戦後に書かれたもの。
    
    どちらも日本でオリジナルに編纂されたものなので、訳者の好みがセレクトに反映されているのだと思う。
    今までのイメージが『夏服』の洒脱なニューヨーカーだったので、『サマードレス』が意外に感じましたが、両方あわせてアーウィン・ショーという作家が見えてくる気がします。
    (秋元康のアーウィン・ショーはあきらかに『夏服』のほうでしょうね。)
    
    『夏服』収録の『愁いを含んで、ほのかに甘く』がまんま薬師丸ひろ子版『Wの悲劇』だったのも今回の発見でした。(ググったらわりと有名な話なんですね、これ。)
    
    「イギリス軍の中尉さんに負けないくらい美男子よ。イギリス軍は好きじゃないけど、中尉さんだけはほかのどこの軍隊よりも美男子揃い」
    「わが軍の美男子は太平洋戦線に送られたんだ」とミッチェルは言った。「ガダルカナル島にね。アメリカ女性のために保存しとくんだ」
    
    ジブラルタルや、チュニスや、キレナイカや、アレクサンドリアから来た波が、ひたひたとルースの足の指を洗った。
    
    

  • The Girls in their Summer Dresses.
    この作品だけ英語で読んだ。おそらく日本人が日本語で書いた作品だったら読んでいなかったと思う。物語はとても普遍的な男女の物語で昔から語り継がれている女性の性質と男性の性質のエッセンスを抽出して出した短編。
    だからよくまとめられているし、何より書き方が好きだ。男性のひとつひとつのセリフがわかりやすく男を説明しているし、アメリカのひとつの時代をうまく描写していて想像するのが楽しかった。本当に数ページの短い作品だけどアメリカ文学の中では結構気に入ってる。

  • 昔読んだ印象では、どちらかというと”しゃれた”印象だったのだが、こんな苦っぽい話だったっけか。。。

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著者プロフィール

1928年、東京に生まれる。明治大学文学部卒。作家、翻訳家。女子美術大学教授。はじめ批評家として文壇に登場し、演出、翻訳、小説、評伝と多彩な活動をする。代表作『ルクレツィア・ボルジア』『メディチ家の人びと』『メディチ家の滅亡』(以上、評伝)『おお季節よ城よ』(小説)など多数。今年から、選集「中田耕治コレレクション」(青弓社)が出版される。翻訳家としては、アイラ・レヴィン『死の接吻』『スライヴァー』、クライヴ・パーカー『ダムネーション・ゲーム』、アナイス・ニン『北回帰線からの手紙』(深田甫と共訳)ほか多数。

「1992年 『結婚まで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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