奇跡の教室 (小学館文庫)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087734

作品紹介・あらすじ

橋本武、現在100歳。戦後、公立校のすべり止めと見られていた灘中学で、文庫本『銀の匙』だけを3年間かけて読む授業を始める。虚弱な少年の成長物語を、横道にそれながら丁寧に追体験していく、橋本授業を受けられたのは30年間でわずか千人。そして『銀の匙』授業3巡目の昭和43年卒業組は「私立初の東大合格者日本一」に。実社会でも教科書なき道を切り拓いていく、「燃え尽きない一生学び続ける好奇心」を授けた授業を、橋本武自身と教え子たちへの1年間の及ぶ取材から解析。スロウリーディング・ブームの火付け役となった感動のノンフィクション、遂に文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 公立中学の滑り止めだった私立中学で、「1冊の文庫本を3年間かけて読む」という異例の授業を行った教師がいた。

    その教師の名前は橋本武。
    橋本は「銀の匙」という文庫本を興味がある部分で横道にそれながら、主人公の少年時代を追体験していく授業を展開する。
    駄菓子屋のシーンで実際に駄菓子を食べながら朗読、凧揚げのシーンで1から凧を作って揚げる。
    生徒たちは体験を通じてスローペースで物語に没入し、楽しみながら学んでいく。
    そんな異例の授業は、カリキュラムや効率重視の現在の国語教育へのアンチテーゼにも見えて非常に面白い。

    教え子たちは皆、学ぶ力の背骨となっているのが橋本の授業だと語る。
    様々な事象に興味を持つ。興味があることを徹底的に調べる。楽しみながら挑戦する。
    中学時代を通して読み込んだ文庫本1冊が、大人になっても人生の素地になっている。
    今の国語教育には類を見ないことで、非常に興味深い。

    「すぐ役立つことはすぐ役立たなくなる」
    文中の橋本のこの言葉が頭をよぎる。
    今はまだ学歴、偏差値主義な世の中だが、今後は様々な事象に興味を持ち、どんどんチャレンジできる人間が価値を産む。
    今こそ「横道にそれながら、ゆっくり学ぶ」教育が必要なのかもしれない。

  • 本書は、橋本武という一人の教員が、私立中高一貫校で展開した授業と、その授業を受けた子どもたちのその後の人生への影響をまとめたものである。橋本先生は、1年間を通じて中勘助著『銀の匙』を教材として活用する。和辻哲郎が「不思議なほどあざやかに子供の世界が描かれている」と述べる教材を1年間を通じて活用する授業で、子どもたちは、追体験を通じて子どもの世界と文学を学ぶ。教育のあり方、教材研究のあり方、教師のあり方等、様々な教育に求められる観点を考えさせてくれる。教育者を目指す学生には是非、読んで頂きたい良書である。

    人間科学部 F.K

    進学校として名高い灘校において教科書を一切使わずに一冊の文庫本を3年間かけて読み解くといった授業をしてきたエチ先生こと橋本武先生を取り上げた本である。このように言われれば、ああ、そんな話を聞いたことあるな、と思う方も多いのではないでしょうか。多種多用な形で橋本先生の授業方法は取り上げられており、この本もそのうちの1つと言えます。但し、エチ先生の教え子の話や、エチ先生から学んだことなども上手に織り交ぜて構成されているので、非常に読みやすくなっています。将来、教員を目指す学生さんには是非とも読んでいただきたいと思います。そして、時間がありましたら、3年間読み解かれた『銀の匙』にも手を伸ばしてみてください。

    教育学部 J.K


    越谷OPAC : http://kopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1000887380

  • 信念が無いとできない教育方法だよなあ。
    今だったらモンスターペアレントにフルボッコされそう…

    すぐに役立つことはすぐに役立たなくなる

    この言葉、橋本先生の言葉として紹介されてる感じだけど、小泉信三じゃないの?

  • 「橋本武、現在100歳。戦後、公立校のすべり止めと見られていた灘中学で、文庫本『銀の匙』だけを3年間かけて読む授業を始める。虚弱な少年の成長物語を、横道にそれながら丁寧に追体験していく、橋本授業を受けられたのは30年間でわずか千人。そして『銀の匙』授業3巡目の昭和43年卒業組は「私立初の東大合格者日本一」に。実社会でも教科書なき道を切り拓いていく、「燃え尽きない一生学び続ける好奇心」を授けた授業を、橋本武自身と教え子たちへの1年間の及ぶ取材から解析。スロウリーディング・ブームの火付け役となった感動のノンフィクション、遂に文庫化。」

  • ◆2021/08 購読
    漫画「銀の匙」を読んだ関係で、元祖『銀の匙』があるということを知りました。銀の匙という書籍をもとに国語の授業を行い、灘高を一躍、トップ高におしあげたという実話。こんな国語の授業あったら面白いだろうなーという内容でした。子供たと接する際に、少しでもエッセンスを取り入れて行きたいなーと思いました。

  •  天下の灘校。中高一貫校の中学三年間で行われていた伝説の国語の授業は、三年間で中勘助による自伝的小説「銀の匙」を読むというものだった。と知り読みました。
     橋本武先生のその授業では、教科書を使わず一冊の文庫本とプリントのみ。皆がその授業を受けるわけではなく、先生の担当が持ち上がり制なので、三年に一学年のみ。
     酒造会社が共同出資し、嘉納治五郎が創始者となった灘校。創立当時は、公立校の滑り止めだった。
     齋藤孝教授が勧める本。小学は「坊ちゃん」中高は「罪と罰」大学は「ツァラトゥストラ」社会人は「論語」
     一年で東京に転校してしまった生徒が、先生にプリントを送ってほしいと頼み、それに応えていた話が素敵です。
     行間を読むではなく、行間に書く授業。作品当時を知るために凧作りをしたり、1ページに二週間かかったり。
    横道が王道。
     ドラッガー「反対論がない場合には結論を出してはならない。」

     この授業を経験してみたい。

    文庫版のあとがきは橋本武先生自身、百歳!

  • 教科書を使って授業を進めるのが当然と思っていたけどその常識は見事に覆された。
    文庫本3冊であんなに深い授業ができるとは、教師側が学んでいないとできないことだと思う。本来教師は、自分の専門の教科を極め、それを教えるという職業なのに 日本の先生は、部活や他の業務に追われてる。教材研究に時間をかけている、かけることができている先生はどれくらいいるだろうか。
    橋本先生は
    まさに教師の鏡だ。

  • 「すぐ役立つことはすぐ役立たなくなる」

    「自分が読んだもの、調べたこと、体験したこと、つまり追体験したものは本当の力になる」


  • これ、今のところ、2020年No.1です。
    灘高の国語教師がいかにして、教材研究をして、生徒と対話をしてきたか。
    一冊の文庫本を中学校の3年かけて読みます。単語ひとつへの手間ひまのかけ方、結果が出なかった時の覚悟-。
    著者の筆力も高く、久しぶりに本でこころか震えました。

    「私立初の東大合格者日本一」を出した、
    矜持と美学。

    “なんとなくわかった”では済まさないし、勉強は受験のためのテクニック攻略じゃないし、すぐ役立つことはすぐに使えなくなるということを、多感な時期に感じてもらえる授業力が素晴らしかったです。素晴らしいという言葉じゃ、足りないくらい。

    今、テレビで頻繁にお見かけする、神奈川県知事や現在の東大総長、副総長、最高裁事務総長、弁護士連合会事務総長など、各界の頂点が“銀の匙の同級生"。

    わたし、肩書きが好きなわけじゃなくて、
    上記のお歴々は裁判員制度を始めたり、御巣鷹山の日航機墜落事故の被害者側弁護団を務めたりで、大きな分母で社会の役に立っていることがすごいのです。
    横道に逸れていくスロウリーディングがどれほど、根気や、道なき道を切り開く力を養ったかということを言及するために、並べました。

    わたしが学ばせてもらった国語の教科書って、物語の一部抜粋で、仕方ないんだろうけど、妙ちきりんでした。

  • 無理やり覚えさせられるのではなく、生徒自身の興味を引き出すことができるのは、教師やテキストではなく生徒自身が主役になれるからなんじゃないか、と思った。

    感性はもって生まれたものではなく、育てることができるものであると証明している。中~高校生の授業がテーマの話なので、感性のやわらかい子どものうちに、と書いてあったが、大人でも感性を育てることは出来ると思う。自身が興味があることを徹底して調べること、その内容を議論すること、というのは、大人になったからこそやりたいと思った。

    有識者が語り手の役割と随時の解説を担っていたが、どちらかというと解説はまた別枠でやって、地の文は語り手は出てこない方がまとまりがよかったかな、と個人的には思う。本というより、コラムをまとめた雑誌のような印象。気軽に読みやすいので、スロウリーディングの概念を広める役割になっている。

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著者プロフィール

伊藤氏貴(いとう うじたか)
1968年生まれ。文藝評論家。明治大学文学部教授。
麻布中学校・高等学校卒業後、早稲田大学第一文学部を経て、日本大学大学院藝術学研究科修了。博士(藝術学)。
2002年に「他者の在処」で群像新人文学賞(評論部門)受賞。
著書に、『告白の文学』(鳥影社)、『奇跡の教室』(小学館)、『美の日本』(明治大学出版会)、『同性愛文学の系譜』(勉誠出版)など、
訳書に、『塹壕の四週間 あるヴァイオリニストの従軍記』がある。

「2022年 『ジョージ・セル —音楽の生涯—』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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