- Amazon.co.jp ・マンガ (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784098605606
作品紹介・あらすじ
心中に失敗した とある文豪、異世界へ
男はその夜、
愛する人と玉川上水へやって来た。
自らの"恥の多い生涯"を 終わらせるために。
だが そこへ例のトラックがあらわれてーー
死にたがり作家の異世界転移冒険譚、ここに開幕。
【編集担当からのおすすめ情報】
『人魚姫のごめんねごはん』で
グルメ漫画に激震を与えた野田 宏×若松卓宏が
次に選んでしまったジャンルは「異世界」!!
「やわらかスピリッツ」連載開始直後から大反響!絶賛の嵐!!
あの心中作家が、なろうな異世界を動揺させる・・・!!
シニカルでブラックユーモアに溢れた
異世界×文豪×心中×ダークファンタジー!!
感想・レビュー・書評
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無気力と退廃は最大の防御。異世界でも、流石のクズっぷり。作者の太宰治の読み込みぶりに畏敬の念さえ抱く。ラスボスには、ヴィヨンの妻の出現でも期待します。
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私も眠剤ボリボリしたい笑
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これはアイデア勝ち。そして作者がちゃんと太宰治を好きなんだってことが伝わってくる。
基本的には自殺したがりで厭世的で、絵に描いたようなザ・クズ文豪ってところは世間のイメージ通り。我が道を行く我の強さやなんだかんだ言いながら身を挺して人を守る部分は、太宰作品をいくつも読んでる人の発想だなぁ。
『人間失格』のイメージや心中のエピソードがあまりにも有名すぎて伝わりにくい部分だけど、実は太宰治は「自分を含めた人間の『愚かさ』に対してツンデレ」な人だと思うんですよね。
異世界転生もののあるあるネタを設定として上手く取り入れた世界観も面白くて魅力的。
なろうでもう一作、太宰治が異世界転生した作品を見つけた(そっちは1話読み切りのショートショート的なものだけど)
たぶん太宰自身に、なんか異世界転生ものの書き手が見ると「転生させたい!」と思うものがあるんだろうなぁ…… -
女と心中しようとした某文豪が、その死の間際に異世界転生してしまって…。という漫画。異世界転生含め最近ファンタジー小説(ラノベ)はあまり読まないんだけど、これはその設定(というか主人公のモデル)を知ってからどうにも気になって興味本位で手を出しました。Twitterプロモーションの勝利ってやつですね。
最初は本棚に並べる勇気(と本棚の空き)がなくて電子書籍で1巻お試しに買ったんですが、1巻読了後、紙で読みたいなーと思って7巻セットを大人買い。大人でよかったね。
ところどころいいことも言ってるんだけど、先生(某文豪)はしょっちゅう死にたがるし睡眠薬の瓶は手放さないし、あまつさえ睡眠薬ぼりぼり食べるし。全然冒険者ではない先生はこの世界を救うことが叶うのか! そしてさっちゃんと再会して今度こそ心中できるのか!?
世界の命運と先生の生涯はどっちに向かって走るのか…。
ちなみに私は某文豪の作品はほとんど読んだことがありません。
いやー、若い時分に読んだらよかったのになぁと思うことは齢を重ねてからいくらでもあったのですが、若い頃って、いかにもな「若者の代弁者」みたいな作品だという色眼鏡があったので、だからこそ読んでたまるか意地でも読むか! みたいのがあったのよねー、太宰治。 -
文豪、「死」のお預けを喰らい、七十二年後でもない、いつかどこか知れないところで「余禄」をもらう。
『人魚姫のごめんねごはん』で好評を博したコンビが同じく掲載WEB漫画誌「やわらかスピリッツ」にてお送りするファンタジー漫画です。
死の間際にあった「とある文豪」を主人公に据え、彼をファンタジー世界に送り込んでしまったら――つまりは昨今の異世界転移/転生ジャンルと組み合わせたらどうなってしまうか? というなかなかに挑戦的な異色作です。
こちらの主人公、おそらく大体の日本人が見た瞬間にその正体を察することが出来ると思うのですが、作中では「先生(センセー)」といった形で呼ばれるなど名前は伏せられているので言い逃れは比較的容易です。
一方で、有名な写真も日本人の脳裏には焼き付いており、ある程度「アイコン」化されているので「キャラクター」としての「太宰治」を想起するのはけして難しくないでしょう。
最後まで伏せるのか気にならないでもないですが、かの御仁、ある意味「織田信長」以上に便利な人物なのかもしれません。歴史のフリー素材というには没年が戦後まもなくと近すぎ、また名家の生まれということもあって高名な子孫の方もいらっしゃるなど、結構扱いに難儀する方ですが、魅力的であることも確かであり。
ひとりで歴史を背負ってきた大人物というより、歴史に振り回されつつ我が道も行ったなかなかの人ということ。
彼の不器用過ぎる生き様は我々小人の共感を誘いつつ、どこか受け入れられず小馬鹿にしてしまう――後ろ暗い気持ちを想起させる、単純なのか複雑なのか測りかねる人のようです。
先の例を挙げれば、織田信長は主人公の受け入れ先の「舞台」そのものに位置づけされることが多いとして、太宰治は乗り込んでいく主人公が良く似合うのかもしれません。
失礼な言い分を重ねますが、彼の人生そのものが卑近で通俗な「私小説」の体現と考えてしまえば、きっとそう。
ちなみに、類似する先行作品としては『文豪とアルケミスト』、『文豪ストレイドッグス』等に登場する太宰が思い出されるかもしれませんが、そちらは実在人物の業績や逸話から抽出した要素をもとに再構成してキャラクター化されたという風情なので、近接してもジャンルとしては重なる感はありません。
近年の作品としてはそのものズバリ太宰治が現代日本に転移してしまったという題材で書かれた佐藤友哉先生の『転生!太宰治 転生して、すみません』が存在します。
他作品を引き合いに出すのは不躾なので先に謝罪させていただきますが、本作は偉人の擬人化(キャラクター化)と、現実と地続きの偉人のその後の二次創作(アフターストリー)の二案を折衷したように思えました。
で、本作について論を移しますと。
「トラックをトリガーにした転生/転移」、「降って湧いた力に溺れて身を持ち崩す転移者」、「善良なんだけど、意外と雑な王様」など、太宰こと「先生」が足を運ぶ異世界そのものはあるあるネタの塊です。
どちらかといえば一時「小説家になろう」界隈などを席巻したものからはカウンター寄りの要素でしょうけどね。
なんにせよその辺、あえて真新しさは省いているように思えました。
どこかで見たことのあるRPG風のステータスウィンドウやシステムメッセージなどもギャグの小道具として使われており、主人公本人は非戦闘要員であることが強調されています。
ファンタジーな街並みはもちろんモンスターも、ヒロインのバトルシーンも非常に安定した絵柄で時にダイナミックに描かれているのに、印象としてはどうにもこうにも主人公周りに集約されているのがどうも腑に落ちないのはなぜなんでしょう。
それもきっと、主人公その人のキャラクターが濃すぎるからでしょうね。彼は命を拾ってしまった現況に甘んずることなく前向きに死を選ぼうとするそんな困った人な上、自分からはあまり能動的に動きません。
実像はともかく教科書にも載っているパブリックイメージ「太宰治」は伊達ではないのかもしれませんね。
有名な『走れメロス』ネタや『人間失格』ネタは元より、(歯が悪かったので好物の)豆腐を所望したり市販の毒薬をあっさり飲んでしまったりと、主人公のキャラクターについては雑に思えて史実から拾えるところは拾っているようで結構丁寧に思えました。
半端に生き残り続けてしまった逸話から(ギャグ補正込みで)悪運の高さと、常に致命性のステータス異常にかかり続けている斬新すぎる特性、それと持前のダメっぷりから放っておけない女の子が代わりに戦ってくれる。
ただし、本人は最初から死を受け入れているので後ろに引っ込んでいても、戦闘力皆無なのに前線に出ても、どっちでもツッコミは入りにくい。
結果、いつ死んでもおかしくないのになぜか生き残り続けているという絶妙な筋書きが別の意味でまかり通っています。この辺に妙があります。一発で即死が見えるのに倒れちゃいけないところで粘ってくれるのは流石ですが。
太宰が当時として長身の男性ということも踏まえてか、ヒロインと並ぶと妙な存在感を発揮し続けています。
できる女から貢ぐ女へと華麗なる転身を遂げてしまった第一ヒロインの「アネット」さんの献身にしても元気娘系で妹分的な位置を早々に確立した「タマ(仮)」にしても、いい感じにフェチズムを押さえたデザインで読者の目を惹きつけているのに、本人のリアクションが薄いのが不思議な感覚を呼び起こす気がします。
それでいて作家としての好奇心はしっかり息づいているので、異世界の風物に心動かされないこともないというバランス感覚は熟練の主人公としてのそれなのですから面白い。
また、たとえ「死」であろうがなんだろうが自らの意志で選ぶことの意義を説いてくれる辺りに、何度も生死の境を往還した男の凄味を感じてしまいます。おそらく作品のテーマ、メッセージにもかかっているのでしょう。
そして、本作は一巻でさっそく魔王打倒後の世界という王道崩しの展開をやってくれます。
この主人公のことですから、絶対に普通の王道に乗っかることはできないと思っていましたが、展開が早い。
そんなわけで二巻では「数打ちゃ当たる方式」で魔王を退治してくれる勇者候補を人格問わず呼び出している世界の問題点が浮き彫りにされます。
太宰――じゃなかった主人公の「先生」の作家として、ひとつの人生を生きた男としての本領も発揮されますよ。 -
おもしろかった。いわゆる異世界転生ものなんだけど、主人公がどう見ても心中した時の太宰治。
何のスキルも無い最弱キャラで、目を離すとすぐ死のうとするくらい生きる意志も無く冒険者の適正がゼロ。
なのにその人間味が周囲の人間を引き付け物語が動いていく、というコメディタッチの冒険譚。