- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101006017
感想・レビュー・書評
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27歳の頃に刊行された作品集。小説の限界に挑むような勢いがあり、自殺未遂や薬物中毒に苦しんでいた頃に書かれたとは思えない。
他の作品もそうだが、暴力や性描写、安易な物語に走らず、弱みをもつ人物の内面を描き切るところに魅力を感じる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
太宰ビギナーの私にはけっこう読むのがしんどい作品集だった。太宰治のデビュー作品集。「道化の華」と「彼は昔の彼ならず」が印象的だった。道化の華は人間失格の主人公でもある大庭葉蔵が登場。最初の自殺未遂の入院がモチーフとなっている。語り手の「僕」と視点が切り替わるというかなり前衛的な作風だ。「葉」も散文詩のような作品だが割と好きだ。二十代のデビュー作にして「晩年」と名付けた太宰の覚悟が伝わってくる。意欲作「逆行」も現代なら芥川賞ものだと思うが昭和文壇は厳しかったんですね…選考委員すごいメンバーだものなあ。
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発表時太宰は27歳。彼の苦悩が切々と伝わってくる作である。太宰の作品にいつも描かれる絶望、死への憧れ、息するように嘘をつき道化を演じる虚しさ。虚しさ。
死のうと思っていた。
という言葉で始まる『葉』、お年玉に夏の着物をもらって夏まで生きていようと思った。
この気持ちは昔感じたことがある。希望じゃない、諦めじゃない、躊躇いみたいなものかなぁ
シンクロしすぎて読んでて途中やばいかなと思った。 -
処女作とはいえ、言いたい放題、気の向くまま文章になっている。
今でいうと、ブログやfacebook的内容。
案外気軽に読める。 -
太宰治の第一創作集です。
『葉』
最初一つの物語として読もうとして意味がわかりませんでした。でも一つ一つわけて読んでいくとどれも素敵な文章で、好きな作品になりました。
『思い出』
太宰が少年だった頃の話です。大地主の子として生まれたため生活の質は高かったのかもしれませんが、裕福な家庭だったからこそ他の兄弟と比べられた辛さは大きかったのではないかと思いました。
女中のみよに心惹かれている太宰は純真で可愛らしく、微笑ましいです。「ふだんから女の悪口ばかり言って来ている手前もあったし、みよに就いて譬えほのかにでも心を乱したのが腹立しく思われるときさえあった(p68)」、「女を思うなど、誰にでもできることである。しかし、私のはちがう、ひとくちには言えぬがちがう。(中略)私の場合には思想がある!(p78)」など、惹かれているのに素直になれないところが少年らしくもあり好きです。
『魚服記』
馬禿山の裏にある滝の下に住んでいる少女スワの幻想的な哀しい物語でした。
『列車』
貧しい育ちのテツさんは恋人を追って上京したものの、別れることになり国元へ送り返されてしまいます。
見送りには様々な物語があり、すべてが美しい物語というわけではなく思い通りにいかない物語があるのも現実です。けれどそういう物語も含めて、見送りという場面は魅力があると思います。
『地球図』
法を説きに来たシロオテは獄舎につながれ、やがていじめられて牢死してしまいます。けれど風流な奉行が彼のしかばねのところに植えた榎は根を張り枝をひろげて大木になり、ヨワン榎とうたわれています。不思議です。
『猿ヶ島』
動物園に連れてこられた猿の話でした。かわいそうにも思いますが、彼らはめしの心配がいらない"いいところ"の誘惑から自ら逃げる勇気をもっていました。
『雀こ』
津軽の言葉で書かれていて独特の雰囲気を持つ作品です。わらわの遊びごとでいつでも一ばん先に欲しがられるタキと、のこされるマロサマ。
『道化の華』
主人公大庭葉蔵は心中をしますが、自分だけ助かり女のひとは死んでしまいます。そんな状況なのに悲しくも道化を演じてしまう男たちの物語でした。
時々出てくる作者僕も、その男の一人に感じました。
『猿面冠者』
"どんな小説を読ませても、はじめの二三行をはしり読みしたばかりで、もうその小説の楽屋裏を見抜いてしまったかのように、鼻で笑って巻を閉じる傲岸不遜の男"が小説を書いたとしたなら、という話です。読み手と書き手は違うと思い知らされることになります。恥ずかしくなります。
『逆行』
4つの短編は、すべてつながっているのでしょうか。時代を逆行しているのでしょうか。
最初の『蝶蝶』では、二十五歳を越しただけなのにふつうの人の一年一年を三倍三倍にして暮した老人は、死ぬ間際まで嘘を吐いていました。
最後の『くろんぼ』でも、少年は自分は他の人とは違うという気持ちを持っているのですが、読んでいてなぜか微笑ましくなりました。
『彼は昔の彼ならず』
"ふつうの凡夫を、なにかと意味づけて夢にかたどり眺めて暮して来ただけ(p310)"の物語でした。しかし結局は、"みんなみんな昔ながらの彼であって、その日その日の風の工合いで少しばかり色あいが変って見えるだけのこと(p311)"でした。
『ロマネスク』
なまけものと呼ばれていたが、面白くないという呪文をくりかえしとなえ無我の境地にはいりこむ仙術の奥義をもつ仙術太郎。喧嘩の上手になってやろうと決心して修行をしたものの、そのものごしのため喧嘩の機会がなかった喧嘩次郎兵衛。父黄村の吝嗇(りんしょく)のため嘘の花が芽生え、その後嘘が真実と化していた嘘の三郎。その3人のお話でした。
特に喧嘩次郎兵衛の話がクスッと笑える面白さで好きでした。嘘の三郎では嘘のない生活、その言葉が嘘でしたが、嘘をつかない人なんていないだろうと嘘について考えさせられます。
『玩具』
書き出しは好きです。書き手の「私」が顔を出してきてからは、不思議な感じでした。誰にも知られずに狂い、やがて誰にも知られずに直っていた私の、赤児のときの思い出が書かれていました。
『陰火』
4つの掌編からなる作品です。
全体的に妻に裏切られ嘘をつかれていた男の気持ちが描かれていたと思います。『誕生』ではあえて娘の生れて百二十日目に大がかりな誕生祝いをしたり、『紙の鶴』では頭脳がからっぽにならないように警戒したりしています。
『水車』は、憎くてたまらぬ異性にでなければ関心を持てない一群の不仕合せな男女の話でした。『尼』は如来様が出てきて、4つの中でも幻想的な雰囲気の作品でした。
『めくら草紙』
隣人から夾竹桃をゆずっていただいた私が、その隣人の娘マツ子について書いています。作品の最初の部分は、マツ子に書かせていたことになっており、物語の中に物語がありました。
"お隣りのマツ子は、この小説を読み、もはや私の家へ来ないだろう。私はマツ子に傷をつけたのだから。(p396)"とは、どういうことなのか、不思議に思いました。 -
暗すぎる。気が滅入る。自殺ほう助 容認に問われそう 太宰治作品中最悪
文学的価値は判らぬが小説は面白くなくては駄目 -
散文的な小説「晩年」は大好きな作品。この本は全体としてもどこか太宰の思い出をつなぎ合わせた「散文的」なイメージがある。収録されている「道化の華」は強烈。話自体はとても暗いけれど、ときおり書き手の太宰が顔を出して作品について語るという斬新な構成。「笑い」という点では究極だと思う。声をあげて笑ってしまった。
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太宰治が満二十七歳の時に書いた処女創作集。自殺を前提にして、遺書のつもりで書いた短編集だから、晩年というタイトルなのだそう。私と同い年なのに、なんて暗いんだ。短編自体は暗いものだけじゃなくて滑稽なものもあり読みやすかった。
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2015/12/26 読了