友情 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101057019

感想・レビュー・書評

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  • ・人間臭さがあって登場人物のことがみんな好きだ。杉子の溌溂とした恋する気持ちの発露はすごくいい。大宮の悩む姿もいい。野島の思い込みが激しく、その癖うじうじするところもいい。

    ・「僕は時々淋しいかも知れない。しかし死んでも君たちには同情してもらいたくない。…その淋しさから何かを生む。見よ、僕も男だ。参り切りにはならない」というセリフがすごくよかった。現代では恋人のいない者は異常者のようだという論調が見られるが、恋愛は人生の一部でしかなく、本人の向かうべき方向に進んでいるかどうかということの方が重要である。

    ・二七章手前、卓球に誘われて閉口してしまう野島。そういうとこだよ!と思った。プライドを捨てて馬鹿になれるか。難しいが。

  • 若い時に読んでいたが再読。なんという残酷な友情だろう。かけがえのない友情をコントラストにすることで、それでも抑えきれない恋の瑞々しさや眩しさが際立つ

  • 若い時に読んでいたが再読。なんという残酷な友情だろう。かけがえのない友情をコントラストにすることで、それでも抑えきれない恋の瑞々しさや眩しさが際立つ

  • 1947年、約80年前。
    古めかしい言葉遣いが時代を感じさせるが、中身は哀れな恋愛小説でいつの時代でも人間は人間だなーと少し安心した記憶。

  • とても読みやすくて、面白かった。ぐいぐい読み進めた。
    最後の手紙の部分がとても衝撃的だった。こうなることは薄々気づいてはいたけれど、心にはフィットしない終わり方だった。

    登場人物はどれもあまり好きじゃない、、、特に大宮は、手紙の部分を読んだ時にそう感じた。

  • 【あらすじ】
    若い脚本家の野島が、知り合いの妹、杉子を好きになったことから始まる。
    新進気鋭の作家として世間から一目置かれ始めた、年上で親友の大宮に、野島は恋した事を打ち明ける。野島に対して大宮が親身になって相談や恋の後押しをしてくれるが、杉子を狙う相手も多く、中々踏み切れないでいた。
    大宮の親戚である、武子は杉子の親友で、武子との繋がりもあって距離は少しずつ縮まっていく。
    しかし、野島は杉子が他の男や大宮の事を好きにならないかという心配が尽きる事は無く、その度に大宮に励まされ続けていた。
    やがて大宮は西洋で絵画や音楽、彫刻といった芸術に触れる為、数年の渡航を決意する。
    その後、野島は杉子へ求婚を行うが、断られてしまう。
    野島の仕事は徐々に認められていくが、それでも一人きりという淋しさは付きまとい続けていた。
    そんなある日、大宮から謝罪の葉書が届き、大宮を尊敬している人たちが出版した同人雑誌を見てくれと書かれていた。
    その同人雑誌には、杉子から大宮にすがりつくような愛の告白から始まる、杉子と大宮との葉書による一連のやり取りが収められていた。
    当初は野島を勧めていた大宮は、野島との友情への後ろめたさに苦悩しながらも杉子への愛を吐露し始める。
    誰よりも欲していた杉子の恋が成就した様を見せつけられ、野島はかつてないほどに苦しむ。
    友人の真摯な態度に感謝や怒りや落胆といった多くの感情を抱きつつ、大宮に宛てた手紙を書き、これからも続く淋しさを憂いて日記を書く所で物語が終わる。

    【感想】
    最初は恋愛小説を装ってはいるが、どうせ手のひら返しが来ると思っていた。
    けれど、このまま野島と杉子がうまくいくかもしれないと思ったりもした。
    野島と大宮は互いに心から尊敬しあっているのが所々感じられ、それだけに最後の手紙は本当に効いた。
    野島の理想を杉子に押し付けすぎているのは作中の序盤でも語られており、杉子もそれを感じ取っていたから、振られたのはやむなしだと思った。
    しかし、きっかけや動機がなんであろうと、杉子への想いの大きさが凄かっただけに、杉子からの駄目だしと、大宮を大いに苦悩させたことに対する、野島のショックは計り知れない。
    ここの所は野島が気の毒で、読んでいて辛かった。
    どうしようもない出来事というのは世の中いくらでもあるけれど、それが人の気持ちだと立ち直るのに時間がかかるよなぁ、と思った。
    野島は一時的には辛いが、まだ決して不幸になったとは、俺には思えなかった。
    野島を含めた主要人物全員、この一連のやり取りで傷付きながらも成長するキッカケになっていると思うし、大宮や野島本人が述べている通り、この経験をバネにして大成してもおかしくはないだろうと思う。
    最後の野島は相当打ちのめされているが、大宮への手紙の中でいつかは立ち上がって大宮に負けないような事を成さんとする意志が見て取れたのが心に響いた。
    この手紙には虚勢や意気込み、大宮と杉子への怒りと赦し、優しさ、恥じらいといったありとあらゆるものが詰まっているように感じる。
    読む人によって最後の解釈は別れるだろうけれど、野島にいつかは再度立ち上がって欲しい、と願わずにはいられない素晴らしい作品だった。

    【好きな所】
    野島はこの小説を読んで、泣いた、感謝した、起こった、わめいた、そしてやっとよみあげた。立ち上がって室の中を歩きまわった。そして自分の机の上の鴨居にかけてある大宮から送ってくれたベートオフェンのマスクに気がつくと彼はいきなりそれをつかんで力まかせに引っぱって、釣ってある糸を切ってしまった。そしてそれを庭石の上にたたきつけた。石膏のマスクは粉微塵にとびちった。彼はいきなり机に向かって、大宮に手紙をかいた。
    「君よ。君の小説は君の予期通り僕に最後の打撃を与えた。殊に杉子さんの最後の手紙は立派に自分の額に傷を与えてくれた。これは僕にとってよかった。僕はもう処女ではない。獅子だ。傷ついた、孤独な獅々だ。そして吠える。君よ、仕事の上で決闘しよう。君の惨酷な荒療治は僕の決心をかためてくれた。今後も僕は時々寂しいかも知れない。しかし死んでも君達には同情してもらいたくない。僕は一人で耐える。そしてその淋しさから何かを生む。見よ、僕も男だ。参り切りにはならない。君からもらったベートオフェンのマスクは石にたたきつけた。いつか山の上で君達と握手する時があるかもしれない。しかしそれまでは君よ、二人は別々の道を歩こう。君よ、僕のことは心配しないでくれ、傷ついても僕は僕だ。いつかは更に力強く起き上がるだろう。これが神から与えられた杯ならばともかく自分はそれをのみほさなければならない」

  • 幻に恋しちゃダメでしょう、野島様よ。そして野島様と同じように大宮様も苦しんだことでしょう。ふたりの友情の厚さと、まっすぐ過ぎる恋心の葛藤が、風化することなく綴られてる。

  • 恋愛、友情、葛藤、恋する若者の心の機微が瑞々しく描かれる。掛け値なしの名作。

  • 同級生の死を知った翌日から読み始め、6日で読了。薄いペラペラの文庫本の奥付を見ると、第140刷とあった。
    明治時代に書かれたこの青春小説、巻末の解説になるほどと思う側面(当時の文壇の自然主義に対するアンチテーゼとしての、徹底した自己中心主義)もありつつ、これは単純な好みの問題で、私にはやや軽過ぎた。
    明るくて、生き生きとし、若者達が前向きにもほどがある。今の時代なら、ラノベになりそうなアオハル感だ。
    そこを面白がりながら読んだ、という点ではスルスルと読めて楽しかった。でも、引っかかるものが見出せなかった。これを読んで、友情や恋愛について思いを馳せることができる頃は、もう過ぎたのか。それとも。

    これは、亡くなった友人が読んでいた本で、高校生のとき、同じ図書部の活動中に彼女が手にしていた記憶がある。
    勧められたかもしれないし、ただお互いに黙って読んでいたなかの一冊だったかもしれない。
    私はこの世代の作家だと芥川龍之介、少し後になると太宰治、最も読んでいたのは筒井康隆で、彼女と本の趣味が合ったことはほぼ無かった。そもそも他人が読んでいる本を気にしたことが無かった。
    それでもこの本が、友人の死を目の当たりにした時に思い出されたのは、何か興味深いことだと思う。

  • 三角関係。
    杉子の手紙が野島嫌いが露骨すぎて、野島が不憫でならない。
    野島が女に好かれない要素が上手く書かれている。

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著者プロフィール

東京・麹町生れ。子爵家の末子。1910(明治43)年、志賀直哉らと「白樺」を創刊、「文壇の天窓」を開け放ったと称された。1918(大正7)年、宮崎県で「新しき村」のユートピア運動を実践、『幸福者』『友情』『人間万歳』等を著す。昭和初期には『井原西鶴』はじめ伝記を多作、欧米歴遊を機に美術論を執筆、自らも画を描きはじめる。戦後、一時公職追放となるが、『真理先生』で復帰後は、悠々たる脱俗の境地を貫いた。1951(昭和26)年、文化勲章受章。

「2023年 『馬鹿一』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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