二つの祖国(三) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104478

感想・レビュー・書評

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  • 東京裁判のモニターとして、法廷に臨む賢治。

    裁判長、連合国側の検察官、日本人の被告、日本人の被告を弁護する弁護士。
    太平洋戦争への様々な思惑がみえてくる。

    アメリカ国籍を持ちながら、日系二世でもある自らの存在をもとに、限りなく公平にモニターとしての職務に徹しようとする賢治。

    それが賢治を悩やませ、苦しませる…

    日本兵が連合軍の捕虜や女性に行った残虐行為。アメリカが日本の敗戦がほぼ決まった中での広島、長崎での原爆投下。
    どちらも許されない。

    日本にだけ非があるとするのではなく、日本をそこまで追いやった側の非も追求する日本側弁護団の正義。

    戦争、そこに至るまでの経緯…
    一方だけに非があるわけではないのか…
    ロシアとウクライナ、どうなんだろう。

    そんな中で想い悩む賢治…

    エミーとのすれ違いの中、椰子に安らぎを求めていく…
    エミーに椰子との関係を知られることとなり、エミーの身に起こった悲劇を知った賢治。
    3人の関係はどうなるのか…

    ヤミ屋として、才覚を現す忠。
    賢治と忠、分かり合える日は来るのか…

  • 読了に大分時間がかかってしまった。
    本編の主人公の天羽賢治は極東国際軍事裁判のモニターとして、法廷に臨むが、戦勝国と敗戦国の不当な裁判に忸怩たる思いで臨む。
    物語は裁判の描写と賢治の私生活面での描写を交互に綴っていく。
    裁判描写では、読書中に眠くなった。
    賢治の新聞社勤務時代のかつての同僚の椰子は両親と共に日本に戻り、原爆の被爆者となり、奇跡的に助かったが、両親を失った。
    椰子の妹の広子はアメリカに残り、原爆の被害からは逃れた。
    妹と両親の墓参りに行った椰子は広子から、アメリカが原爆調査機関を作り、被爆者を治療するのではなく、モルモット替りに調査しているという話を聞いて、人種的偏見も甚だしいと、怒りで体が震えた。
    賢治は日本にいる間、椰子と深い仲に成っていく反面、妻のエミーとは心が離れて行く自分に煩悶する。
    戦争が終わってからも、祖国日本とアメリカの間で苦しむ日系二世の賢治の心の葛藤は続く。
    次巻の四巻目は後半の東京裁判へと続く。また、妻エミーとはどうなるのか?
    そして椰子とはどうなるのか?
    闇市で稼ぎ、成金となった賢治の弟の忠は?
    最終巻も気になる。

  • ついに始まった東京裁判。
    言語モニターとして、裁判に参加する賢治。
    父の見舞いでアメリカに一時戻った賢治は、リトルトウキョーの裏庭に埋めた日本刀を掘り返したことで、日本人としての血が騒ぎ出す。

    東京裁判をまとめた巻、読む進めるのに苦労しました。
    賢治と梛子のシーンが出てくるとホッとします。(笑)
    梛子とエミーを比べたら、やっぱり梛子よね、と思いますが、エミーはホントに性格的に損をしてるなと…。
    彼女に起こった不幸も本人が招いたことでもあり、結果賢治との仲も上手くいかなくなるなんて。
    エミーの出方次第で修復するチャンスはあったはずなのにと思います。

    いよいよ最終巻。
    ドラマで結末は知ってはいるものの、やはり先が気になります。
    このまま次巻に進みます。

  • 東京裁判は戦争犯罪を裁く場ではなく、敗戦国の指導者に責任を取らせる裁判だった。
    戦争は置かれた環境や所属によって意思とは関係なく相応の仕事を求められ巻き込まれるのだとつくづく思った。
    親ガチャが取り沙汰されているが、私は国籍ガチャもあると思う。

    ▼ヒトは区別分類することができるが、すなわち差別も生まれる。
    人種差別が無くならないように戦争も無くならないなら、
    ルールを決めた戦争を行なってもらいたいものだ。
    例えば、戦闘予定地域への民間人完全退避の徹底、
    民間人を巻き込まないプロの戦闘員による陣取り戦争。
    ルールの上で戦争して人道違反を戦勝国、敗戦国を平等に評価する体系を作っていって欲しいと願う。

  • 日系二世の主人公が日本とアメリカ、2つの祖国の間で悩みながら生きていく太平洋戦争末期〜戦後の物語。
    3巻目の本作は引き続き日本での軍事裁判が続く。
    愛する女性椰子と米国から日本にやってきたつまりエミーとの間で悩む日々も始まりいよいよ面白みが増してきた。結末が楽しみ。

  • 戦勝国側だけでなく、敗戦国の弁論も確りと描かれている。

    もどかしさとやるせなさが残る三巻目でした。

  •  やっと読み終えた3巻。東京裁判の内容はやはり難解で、登場人物も多すぎて2割程度しか理解できていないような気がします。賢治と椰子のシーンが一抹の清涼剤のようでした。
     戦争に関する裁判で裁かれるべきは一体何なのか(まず私はここが分かっていなかった)。根拠となる国際法に違反するのは、①民間人の殺傷、②民間物の攻撃・破壊、③不必要に残虐な兵器の使用、④捕虜の虐待が国際法に違反する主な行為。第二次世界大戦以前は交戦権そのものは認められていた。したがって、東条英機などの個人をA級戦犯として裁くのは通常でなく、〝日本が敗戦国だから”、このような裁判が実施されたのだと知りました。
     反対に国際法違反を問うべきなのは、前述の①~③を明らかに破り原爆を投下したアメリカやんけとツッコミたくなるが、原爆に関する議論は裁判所の権限で打ち切られ、まったく不問に付されてしまう…何やこの裁判は!戦争に負けるとはこういうことか、と忸怩たる思いでした。二世として戦勝国側に立ってモニターの職務に励みながら、原爆投下によって愛する人の家族の命が奪われた、複雑な立場に立つ賢治の絶望は計り知れません。
     一方で、東京裁判では日本の捕虜に対する虐待が激しく問われます。確かに日本が行った行為は胸糞の悪いものですが、「捕虜になれば死ね」としか教えられていなかったから捕虜の扱いには無知であったという背景も一考に値するでしょう。

     70年以上の時を経て、21世紀になってもなお侵略戦争が起きている。民間人が犠牲になり、民間物が破壊され、民間女性が兵士による性暴力によって尊厳を奪われている。この争いの行方をしっかり見届けなければと改めて心に誓いました。

  • ついに始まった、東京裁判。
    南京大虐殺や、真珠湾攻撃の真相が、徐々に明かされていく。
    日本は、被害国なのか、加害国なのか。
    だが、敗戦国なのは、間違いない。
    敗戦国が裁かれる未来とは。
    その中で、賢治も、己の未来と日本の未来に揺れ動く。

  • 東京裁判をどう評価するか? 東京裁判史観をどう捉えるか。
    日本を加害者と捉えるのか被害者と捉えるのか。

    東条英機に対しては、A級戦犯とドイツとの絡みであたかも独裁者の典型のように取り扱われている。しかし実際には彼は大日本帝国の政治システムにおいて彼の地位は機能していたわけで。

    うーん、難しいなぁ。
    歴史学の業績は日本海軍性善説を否定し、日本陸軍悪玉説についても一定の留保するにまで至るが、まだまだ日本人の意識を変えるまでにもいたらない。

    ただ歴史に対する見方で、肯定的に見る見方が少しでも出ると「右翼」否定的に見れば「売国奴」となる言説にはどうにかならんのかね。

  • 二世の人と聞けば、生まれながらに母国語が2つも出来るから羨ましいと単純に英語で苦労している私は思ってしまうのだが、その両国が戦火を交えることになったとき、どれほど苦しむだろうか。
    主人公の天羽賢治には弟が二人いて、次弟は日本の大学に学んでいる間召集にあい、日本兵として出征する。一方アメリカに生まれ育ってそこから出たことのない末弟は、合衆国に対する当然の義務として米軍の志願兵となる。アメリカ市民としての義務を果たしたいと願う一方、両親の母国であり自分も10年間育った日本に対し、限りない愛着を持つ賢治は、その狭間で苦しむ。どれほど個人の能力が優れていたとしても、一介の市民に大きな歴史は容赦なく牙をむく。
    日本が太平洋戦争でどれほど苦しんだかという話は数多いが、敵国の中で生きていかねばならなかった彼ら日系人を扱った小説はあまりないように思う。人種差別に思想の対立が折り重なった収容所で生きていた人々への鎮魂の書として、読み継がれていくべき作品だと思う。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

山崎豊子の作品

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