花終る闇 (新潮文庫 か 5-24)

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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128245

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  • 「闇三部作」、遂に完結!

    二作目『夏の闇』に続いて無気力な生活を送る著者。今度はドイツから日本国内に舞台を移し、更に別の女性2名(!)が登場する。
    いつものようにまた付き合わされるのかとげんなりしていたが、ここで『夏の闇』で抱いた疑問の一つが明らかになった。一作目の『輝ける闇』で奇襲に遭った著者は、命からがら抜け出して別の部隊と合流出来たという。(あと数センチずれていたら命はなかった等とにかく生々しかった。日当たりの良い自室から硝煙でむせそうなジャングルに身を置いている気になる。冗談抜きで)
    二作目で何の言及もされていなかったから、余程語りたくなかったのかと思ったよ。

    自身が抱いた疑問にはなかったが、著者が何故わざわざ「いたるところが最前線」なベトナムに赴いたのか、その理由も明白になる。

    「おれは生活を変えてみたくなったんだ。このままじゃ、立ったまま腐っていくような気がする。(中略)賭けをやってみたくなったのだ」

    もしかしたらその衝動は、彼の中学時代の経験から来ているのかもと思わせるエピソードが。中学の中頃には勤労動員に駆り出され、卒業式や卒業証書の授与すらないままパン屋の見習工として就職。がむしゃらに働くことで脅威だった飢えも忘れられたし、家族を養うことも出来た。途中バッタリ会った同級生やないけど、何もせずにいるのは癪に触るんだろうね。

    そのせいかベトナム最前線からの帰還後は、倦怠感に見舞われ一年も執筆に勤しまれることが出来ずにいた。著者はそれを「平和のせい」だと力なく笑う。だがここで自分は彼の言う平和、はたまた戦争とは何なのかが分からなくなった。

    現地においてもそう。どちら側が攻撃してやられたのか境界線が曖昧になっていたし、攻撃がないからと言って日常生活も平和とは言い切れずにいた。顔なじみの記者がロケット砲で落命した時には、ただ「驚きが容赦ない強引さで駆け抜け、ただ谺(こだま)として淡漠がある」と綴られていた。受け入れる隙すら与えられない。悲しみや怒りといった感情をも削ぎ取られ、日々を漂泊する著者が目に浮かぶ。

    「闇三部作」の各闇が何を示しているのかは結局掴めず。漂泊して流れ着く先は闇なのか?自室に居ては、その程度の憶測しか立てられなかった。

  • 漂えど、沈まず。闇3部作の最後。結局、途中で開高健が死んでしまって未完の作品。本作品では主人公が日本に戻ってきていて、小説が書けなくなって鬱的に引きこもったり外に出たり、特に何が起こるというわけでもなく、性懲りも無くまた何人かの女性達と交渉を重ねたりしています。第1作で外の闇、第2作で内の闇、第3作ではどうするかという悩みもあったような未完作品であり、前2作の繰り返しも多く、作品としては評価しづらいが、筆力は相変わらず。

  • ゆらゆら揺れて、最後のほうは慌てて通り過ぎようとし、寸断された印象。

  • 文庫本と単行本がある。

  • 2006/10/31購入

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年大阪に生まれる。大阪市立大を卒業後、洋酒会社宣伝部で時代の動向を的確にとらえた数々のコピーをつくる。かたわら創作を始め、「パニック」で注目を浴び、「裸の王様」で芥川賞受賞。ほかに「日本三文オペラ」「ロビンソンの末裔」など。ベトナムの戦場や、中国、東欧を精力的にルポ、行動する作家として知られた。1989年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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