芥川症 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101203423

作品紹介・あらすじ

父の死因とは一体何だったのか? 食い違う医師・看護師の証言。真相を求め、息子はさまよう(「病院の中」)。多額の募金を得て渡米、心臓移植を受けた怠け癖の男と支援者たちが巻き起こす悲喜劇(「他生門」)。芸術を深く愛するクリニック院長と偏屈なアーティストが出会ったとき(「極楽変」)。芥川龍之介の名短篇に触発された、前代未聞の医療エンタテインメント。黒いユーモアに河童も嗤う全七編。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞〟ならぬ『芥川症』は医師免許をもつ作家が、芥川龍之介の名短編に触発され著わした、ブラックユ-モア溢れる医療エンタティメントの全7編。 専門用語を並べる病院の医師や看護師の説明に振り回される『病院の中』(藪の中)、心臓移植手術を受けた男の運命『羅生門』(他生門)、美容整形と美意識を問う『耳』(鼻)、殺生を嫌う女性看護師『クモの意図』(蜘蛛の糸)、開業医vs.新鋭芸術家の『極楽変』(地獄変)、過剰な善意が困惑を招くケアマネ『バナナ粥』(芋粥)、本編の白眉『或利口の一生』(或阿呆の一生)と怪作揃い!

  • 芥川龍之介の作品題名を捻って、医療ミステリーに仕上げた現役医師ならではの、ブラックユーモア的な医療ミステリー。
    『藪の中』をもじった『病院の中』は、医療現場で如何にもありそうな・・・
    『芋粥』をもじった『バナナ粥』は、切実な介護問題を描きながら、最後は落語的なオチが。
    『地獄変』をもじった『極楽変』は、シュール気味で、ちょっと敬遠。
    その他4編も、それなりに楽しめた。

  • 芥川龍之介の書いたものを医療という形で色々と料理した一冊です。
    耳、他生門、クモの意図など、グロテスクなものから温かいものまでありますが、一気読みでした。
    芥川龍之介は実はパクリだらけという内容には芥川龍之介好きの私には成程と思いました。
    それ言ったら元も子ない。
    だって大概の文学は何かからパクッているぞと。
    面白い目線だと思いました。
    どの話も身近で飛躍も多少ありますが、病院って、医者ってこんな風なのかな?と思わせる一冊です。

  • 【医療小説の短編集】
    謎解きとか仕掛けより、心理描写が秀逸な著者。
    ニヤリとさせられる話から、ドロドロした話まで盛りだくさん。
    医療現場をちょっとだけ知ることができそうなのも良し。

  •  芥川龍之介の短編をモチーフとして医療系の短編で「芥川症」とはうまいアイディアですね。著者が医師だからこそのアイディア。
    『極楽変』は、売れない芸術家と医師のパトロンの物語。
     無産階級の読者としては、普通は売れない芸術家の視点で読んでしまうのですが、主人公は意外にもパトロンの医師の方。
     一般的な作家は芸術家の視点で書くのではないかと思われますが、これもやはり著者が医師だからこその発想・展開でしょう。
    『病院の中』も医療現場を知る著者ならではの展開。
    『クモの意図』の主人公の看護師の名前が「神田多恵」とは面白い。
     冒頭、ご隠居さんがヌケサクの喜六に『蜘蛛の糸』を語って聞かせる落語がありますが、これが面白い。日常生活でもこんな風に発想したり会話できたら面白いだろうなと思いました。
    『バナナ粥』は介護問題をテーマにしたシリアスな展開。バナナが食べたいという吾一郎さんのためにケアマネージャーの阪本さんがバナナ粥を作ってあげます。
     こんなお粥、できるのでしょうか。食べてみたい。
    『或利口の一生』は、これだけのページに一人の人間の一生が描かれていて呆然。死について考えさせられます。所詮ヒトの一生とはこんなものかもしれません。
      http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20180423/p1

  • 医学が進歩しているという幻影
    癌との向き合い方
    医者のストレスなど、あるであろうなぁと思わされる短編集!

    【病院の中】からは最後の最後のドンデン返しは作者の技術を感じる。

    【他生門】からは心臓移植を受けた主人公の周りの期待と自分の駄目さの中で悩んでしまう葛藤。人の力を借りて生き延びることの辛さを少しだけ感じました。

    【耳】と【極楽変】は芥川龍之介というよりは江戸川乱歩作品のような不気味さを感じさせられます。

    【蜘蛛の意図】は唯一コミカルな話で、落語のようなテンポの良さとキッチリ決めるオチが良い!

    【バナナ粥】は老人介護の現実を目の当たりにされ自分の将来の暗雲を具現化された気がします。

    【或利口の一生】からは崇高なる人間の希望と現実、医者も人間という事を思い知らされる。


    医療の話が中心に据えられ色んなテイストの話があり、読みやすい文体で送られる短編集!


    芥川龍之介の作品を読んでからの方が倍楽しめるのではないでしょうか?

  • 著者のデビュー作『廃用身』に度肝を抜かれ、その後のいずれの作品にも衝撃を受けました。いちばん最近読んだ『嗤う名医』で初めて短編を読み、その腕にも唸りました。本作はそんな著者による芥川龍之介作品のパロディ。登場順に(括弧内が芥川の元ネタ)、『病院の中』(『藪の中』)、『他生門』(『羅生門』)、『耳』(『鼻』)、『クモの意図』(『蜘蛛の糸』)、『極楽変』(『地獄変』)、『バナナ粥』(『芋粥』)、『或利口の一生』(『或阿呆の一生』)。最終話の『或利口の一生』に「パクリ」という項があり、そこに著者の本音がそのまま記されているようです。「小説というものは自分で筋を考えなければならないものだと思っていたのに、芥川の短編に『今昔物語集』に想を得たものが多いと知り、ならば芥川が『今昔物語集』からパクッた小説から、さらに自分がパクッて書いてやろうと思ったのだ」と。パクるといえば聞こえが悪いけれど、想を得たのだといえばいいんでしょと。その言葉からもわかるように、かなり人を喰ったような話で、かつグロテスク。この著者のことですから、相変わらず上手いし飽きずに最後まで読ませることは確かですが、どれもこれもバッドエンドで、パロディのわりに読後感が重い。しかも医者としての知識を存分に使っているからグロいのなんのって。同じ重さならばいつもの医療系の小説を読みたいなぁ。

  • どれも怖い。短編のそれぞれの題名は芥川龍之介の作品のもじりであるが 社会的な問題など皮肉に描かれているところも。

  • 久坂部さんの作品は、フィクションと現実が交錯するすれすれの線が描かれているようで、読後毎回しばらく言葉を失います。生死や医療への医師としての見方が作品に込められているのを感じます。自分も老いや死を意識する年代に入って、残りの人生をどう生きるか、そして大事な人たちと自分の死に向き合うか、その選択の時期が確実に近づいていることを意識せざるを得ない毎日です。私自身は過剰で無益な医療はいらないと思っているが、家族だったら、最後の最後まで治してほしいから、それが過剰でも医療を求めてしまうな・・・。矛盾。

  • 芥川の原作(地獄変やクモの糸など)のパロディーです。
    あと、医療・介護現場を扱っているのでその辺の知識があったほうがいいなあ。

    ブラックユーモア満載ですね。かなり黒い。スパイスもだいぶ効いています。
    極楽変はこわかったな~。
    20170131

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著者プロフィール

医師・作家・大阪人間科学大学教授

「2016年 『とまどう男たち―死に方編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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