- Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101209913
作品紹介・あらすじ
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞田の指の骨を形見に預かる。そのうち攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、私も病院からの退避を余儀なくされる。「野火」から六十余年、忘れられた戦場の狂気と哀しみを再び呼びさます衝撃作。
感想・レビュー・書評
-
戦争があり、戦いがあり、病があり、生と死が背中合わせにあった。
情景が淡々と浮かんでは消え、また現れ、消え、の繰り返し。なにかが特別な訳でもない文章が、なぜに心に残るのか。
無声映画をみているような感覚。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
南島の戦場を描いた本書は、戦争文学と分類して間違いない。しかし、戦線の最前であろうと、緊張状態が延々と続くわけではなく、弛緩した空白の時も存在する。食べなければ生きていけない。人と交わらなければ生きていけない。人が人らしく生きるための世界を、暴力的な方法で裏側から描き出している。
-
これを戦争を経験していない人が書いたなんて信じられない。まるで自分も一緒に熱帯の戦場を彷徨っている気分になる。人を喰らいそうになるシーンがエグい。この主人公はきっと日本には帰れなかったのだろうなあ。戦友の指の骨と共にこの熱帯で朽ちていくイメージがありありと浮かぶ。
-
内容についてはケチのつけようがない、慄然とするほどに惹きつけられる。恐くなって読みたくないような気さえするが読むことをやめられない、臨場感が凄まじいからか。実体験なしにこれを書けたことは超人的だ。
そして何よりそのシリアスな内容を支える文体、文章力、豊富な語彙、身体感覚や精神の動きを書く表現力、風景、情景を浮かび上がらせる描写力、これが何よりも素晴らしいし、凄い。この作者はこれからも読んでいこうと思えた。 -
ニューギニアの野戦病院、行軍の風景。飢餓と病。実体験をもとにした「野火」とはどこか異質の空気を感じる。衝撃的ではあるがどこかオカルトっぽい。2020.11.13
-
太平洋戦争中、南方の島で傷兵になった
一等兵のお話し。物語は主人公の語りで進む。
その日の暮し、仲間の話し、
時おり負傷した戦闘の話し。たんたんと描写されているようで、文章がとても力強い。
リアルな戦闘のシーンも無く、家族との別れのような描写も無い
それなのにとても深く悲しいし、恐ろしい。 -
大岡昇平や水木しげるの著した記録と似通うところは、後方での活動や逃避行の描写が圧倒的に多いところである。事実、戦争体験において戦闘行為は一瞬であり、時の多くを後方で過ごしているのだから。
一方で大岡らの著したものと大きく異なるところは、主人公が生還しえないところである。生還したものの手記は、事実として生還したことを前提として、また意識的にか無意識的にか戦後の生活を価値判断として織り込んでいる。そこを出来うる限り排除した場合の思考実験として本書はあるように思う。
戦場体験者の記録を、想像としての死で還元したときに見える感覚。この追求こそが作品全体を通してリアル感を出している。
それと、死者に哀悼を捧げるかのような文庫の表紙が素敵。 -
2019年6月14日読了。
●著者、34歳の時のデビュー作。
●「第46回新潮新人賞」受賞作。
戦地ラバウルでのある日本兵のお話。
日々死にゆく仲間との緊張感溢れる日常や
原住民との触れ合いなどなど。
何故著者がこれを題材に選び、書こうと思ったのか
そして、書くことが出来たのか知りたくなった。 -
2019/05/25-6/1
戦争文学というジャンルの存在を気づかせてくれた。生死の分かれ目を幾度も体験していく。どんな時でもヒトは夢を見る。 -
怖い、辛い、悲しい、それしか出てこない。