紋切型社会 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101216614

作品紹介・あらすじ

何気なく耳にするフレーズには、実は社会の欺瞞が潜んでいる。「うちの会社としては」の“うち”とは一体誰なのか。「育ててくれてありがとう」が貧相にする家族観。「国益を損なうことになる」は個を消し去る。「会うといい人だよ」が生む閉鎖性。「なるほど。わかりやすいです。」という心地よい承認の罠。現代の紋切型を解体し、凝り固まった世間を震撼させる、スリルと衝撃のデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • わかりやすさの罪を読んでとても面白かったので、著者の代表作と言われる本著を読んでみたけれども、処女作というだけあって、わかりやすさの罪で書かれていた主張の萌芽を感じます。
    多分8割くらい内容理解できていないと思うけれども(笑)、大きい言葉、お決まりの紋切型の言葉で、想像力を断ち、違和感やモヤモヤを放置させようとする圧力に敏感でありたいし、都度立ち止まって自分の態度を振り返りたい。
    ある事象をカテゴリー化して、なんとなくの違和感で断罪するのは暴力的だ。そのカテゴリーが正義っぽいもの(フェミニズムや人権主義)に対する理解のない主張だったとしても、何に違和感を感じ、何に異論を唱えるのか、考えることをやめては差別主義者と同じになってしまう。自戒をこめて。
    都度立ち止まって考え、そこで語る自分の言葉に責任を持つ。自身が身を置く構造に冷静でありたい。自分が紡ぐ言葉(思考)をもう一度疑いの目を持って眺めたい。目の前の仕事に忙殺され、ポジショントークに慣れてしまうと、その大切さが見えなくなってくる。この自覚を忘れずにいたいものです。
    それにしても辛辣で痛快すぎる武田さん、、何度も電車の中でニヤニヤしてしまいました、、(笑)

  • 巷間に溢れている「紋切型」の言葉が世の様々な出来事や社会そのものを規定している様をつぶさに見据え、「紋切型」で規定された物事をばっさりと斬り、そこに新たな見方を、光を、時には紋切型がもたらす以上のアイロニーを、武田砂鉄という人は本書で示して見せた。文庫版で追加された章を含め、全部で21章。本書で斬られてゆく紋切型の中には、自分でも思わず使っていて、はっと思わされる言葉もある。紋切型の社会を形成する片棒を、自分も担いでいたのかと、少しばかりの恥ずかしさを覚える。

    武田砂鉄という人は、Web上のコラムなどで、胸のすく言葉で物事を斜めに見ることのできる人、という印象を持っていた。だから本書を手にした。あらためて一冊の本になった武田氏の文章を読み、さらに胸に風穴が開いた気持ちになった。とにかく面白い。快刀乱麻を断つごとく、「紋切型」に溢れた社会を、その「何」が紋切型なのかを明らかにすることで結果として本質をむき出しにして見せてくれる。

    言葉の力を信じて、武田氏はとにかく容赦なくバッサリ斬って、斬って、斬りまくる。本書は「新潮文庫」から刊行されているが、文庫版刊行の際に追加された最終章で、氏は『新潮45』に寄稿された記事を斬ってみせた。少々頭の悪い政治家が(余談だが、最近の国政周辺の連中の顔を見ていると、むしろ「頭の悪さ」が政治家になるための、あるいは閣僚になるための必須要件ではないかと思えてくる)、LGBTを「生産性のない奴ら」と差別的発言で揶揄した「あの記事」である。文庫版で追加された章で、このテーマをあえて冒頭に『新潮45』の名前を出してから論じるところに、著者のアイロニー性を感じる。そして、氏の持つ批判的精神が羨ましくなるのである。

    気をつけよう。みんなが使っていて、耳ざわりが良くて、何となくかっこよさそうで、そして空虚な、巧みに自分の責任をかわすような言葉ばかりを使って生きることのないように。そうでなければ、いつしか紋切型の日本という国に、それを牛耳る馬鹿者どもに切り捨てられても、そのことにすら気づかないまま過ごしてしまいそうだから。

  • 明らかに不可解な出来事に対して物分かりの良すぎる人が多くないか?と思っていた。
    その手の人に不愉快ではないのかと聞いたところ、声を挙げたところで何も変わらない、従順なふりをして貰えるものをもらった方が賢い、とのこと。でもそれじゃ、「嫌だ」という気持ちはどこへ持っていったらいいんだろう。
    本書は色々な違和感とがっつり戦っていた。きちんと理論武装をして。
    違和感の正体を突き止めるためにも、知性がなくては覚束ない。「だって嫌だもん」って感情論だけでは戦えないんだな。
    違和感に蓋をせず、掘り下げていく。確かに紋切型に乗っかって何も感じない方が簡単だ。やれやれ、正気を保つのも楽じゃない。

  • 背が高いおかげか、とても視点が高い。疑いから始める知性。

  • 自分でも意識せずに使ってたかもしれない言葉、フレーズについて、揚げ足取りと皮肉によってそのモヤモヤした部分がどのように紋切型の働きをしているかを明らかにしていく。
    至極まっとうなのに、とっ散らかった文章ですごく面白い。
    新潮文庫で新潮45問題を批判しているのも見どころ。

  • もんきり‐がた【紋切形】物事のやり方が一定の型にはまっていること。 きまりきった型―。本書が初の著作とあってか、肩に力の入った印象を受けるが,社会に渦巻くテンプレート化された言い回しの言葉尻を捉えて(勿論称賛の意)鋭く切り込む語り口はパンチが効いている。モヤモヤする表現に直面した際、そのモヤモヤの正体を言語化することが、自分の言葉で意見を形作る為の訓練になるのではないだろうか。政治家が問題発言の度に口にする『誤解を招いたならばお詫びする』という言い回しが当然のようにまかり通る社会はやはり健全とは言い難い。

  • 違和感を言語化してくれてると感じた。「言葉は今現在を躍動させるためにある。」「言葉は信頼よりも打破のために使われるべき。」今まで考えもしなかったが確かにそうだなと思う。

  • 出版されてから8年経っていて、内容が何となく古く感じたのと、書かれている内容に興味がわかなかった。途中で読むのをやめた。

  • 武田さんの文章の特徴の一つは、ある言葉への皮肉。それはブラックユーモアが含まれているので、処女作からして、その「解きほぐす」手練に面白さと痛快さを感じるけど、寄りすぎてもいけないかな、と。自分は本当はそう感じてはいないけれど、なにか"代わりに"発散してくれているから、とかになると、それこそ、紋切型になってしまいかねない。
    皮肉は時として"揚げ足取り"と受け取られかねない。揚げ足取りはさらに、揚げ足取りを呼び込み…というように、「誤解を招いたら、お詫びします」"論"のようになっていってしまう。"本当の主役は、あなたです"も連発すると、紋切型に加担してしまう。
    とはいえ、武田さんなら、"ちゃんとした言葉"で自分を批判してくる人間を"歓迎"するだろう(と、防御の言葉を張ってみる)。
    自分としては、書評としても読めた。「ピダハン」は特に興味深い。

  • コンセプトはよいと思ったけれど、文章がいまいちだと思った。ややこしい。これが十年前ならまだ読めたかもしれない。受け手としての自分が変わったと思う。すぐにわかりたいと思ってしまう。言葉が溢れすぎている世の中だから、さっさとわかるものしか受け取れなくなっている。そう感じた。この本にそういうことを考えさせられた。

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著者プロフィール

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年ではラジオパーソナリティーも務める。
『紋切型社会――言葉で固まる現代社会を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞などを受賞。他の著書に『日本の気配』(晶文社、のちにちくま文庫)、『マチズモを削り取れ』(集英社)などがある。

「2022年 『べつに怒ってない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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