- Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101262215
作品紹介・あらすじ
小説はきっと、最後の砦かもしれない――浅田次郎、立原正秋、藤沢周平、宮尾登美子、宮部みゆき、山本周五郎、吉川英治、吉村昭。優しい涙や人のなさけの輝きがここに。当代一の本読みが選び抜いた珠玉だけのアンソロジー。
感想・レビュー・書評
-
懐かしい名前だ。著者の名である。世の人は初めてのレコード盤とかをよく話題にするが、初めての単行本はあまり話題にしない。その前にマンガ雑誌やマンガ本、文庫本があるからだろう。中学生になってやっと私は背表紙の堅い単行本を買った。「父 吉川英治」という。当時、地域図書館の吉川英治全集は八割型を読破していた。私が初めてのめり込んだ作家だった。その勢いで周辺本を探した。新刊本だったので、図書館にはまだ置いてなくて衝動買いした。あっという間に読んだ。中学生にしては高い買い物だったのだが、自分の本棚に自分で買った「大人の本」が加わった喜びの方が優った。
あれから40年近く経った。まだ御健在だとは知らなかった。
氏の選ぶ作品は浅田次郎を除いて私の好みだった。一度は読んだことはあるのだが、こういう出会いで再発見したのは、やはり宮部みゆきと藤沢周平である。
宮部みゆき「庄助の夜着」(「幻色江戸ごよみ」より)
庄助は夜着に取り憑いた女の幽霊に誘われたの如く短期間に痩せ衰えてラストで行方不明になる。しかし、さらにラストで居酒屋の親父の五郎兵衛は「もしかしたら、娘の嫁入りに関係するのでは」と気がつく。どちらであっても、悲しい話ではあるが、どちらであっても朴訥な青年の片想いの話ではある。綺麗な想いだけが残るラストは、流石と思う。
藤沢周平「吹く風は秋」(「橋ものがたり」より)
「病気で死んだとき、女房は24だった。あわれなことをしたという気持ちは、30年たったいまも、心の片隅に消えずに残っている。おさよは姿かたちが似ているわけではないが、死んだ女房と似た年頃の女が、不しあわせな毎日を過ごしていることが気になるのかもしれない、と弥平は思った」(139p)
最晩年になると、藤沢周平モチベーションの原点だった最初の妻の病死の話は作品の中には出てこない。よって、これは初期藤沢周平の、しかも割合ストレートに過去を描いた呟きである。若い頃は、同じ年頃の女がしあわせそうにしているだけで、顔が険しくなり、どこそこの若女房が病気で死んだと聞くと、人にこそ言わね、心が安らぐのを感じた、と弥平は思っていたらしい。それが60歳に近づいて、みんなのしあわせを願うようになったらしい。弥平の呟きをかりた藤沢周平の呟きに違いないと私は思う。そしてラストが、ふんわり明るいのが、私的にはとても嬉しい。
2015年1月14日読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
編者の思い入れが強すぎて・・
-
そんなことはないだろうと思いつつも読んでるうちに涙ぐむ。自分も日本人なのかと思い至る。
-
心に響く8作。4作は既読だが覚えていなかった。こういったアンソロジーは歓迎する。2015.12.23
-
裏表紙の『どこかに忘れてきた何か大切なものを探して』にひかれ購入。余韻が残る作品ばかりで満足です!
-
2015/03/14
-
P84で中断
-
吉川英明氏(=吉川英治の息子さん)が選んだ「日本人の涙と心の名作8選)である:
1.五郎治殿御始末(浅田次郎)
2.不断章(山本周五郎)
3.庄助の夜着
使用人庄助の夜着(=掻巻)にまつわる話.
4.吹く風は秋(藤沢周平)
5.べんがら炬燵(吉川英治)
赤穂浪士が討ち入りのあと預けられた大名屋敷での話.世話にあたった武士たちも何とか助命をと願うが.
6.自害(宮尾登美子)
山内容堂の分家の孫(?)の若いお殿様夫妻が,「容堂の進言を聞き入れて大政奉還したのに,逆賊として政府軍から攻められたぞ,どうしてくれる!」と江戸幕府から責められ,自害する.
7.飛行機雲(吉村昭)
日米開戦前夜,中国で日本の軍用機が墜落,それには宣戦布告の極秘文書を携えた陸軍士官が乗っていた.その文書が事前に漏れるとえらいことになるはずで,墜落現場を探したが.
8.流鏑馬(立原正秋) -
時代物は苦手であまり読まないけれど、名作8選ということもあり心に残る作品が多かった。最初の浅田次郎さんの「五郎治殿御始末」などは武士としての潔さや身分違いの商人の言葉などで号泣。
-
浅田次郎『五郎治殿御始末』
山本周五郎『不断章』
宮部みゆき『庄助の夜着』
藤沢周平『吹く風は秋』
吉川英治『べんがら炬燵』
宮尾登美子『自害』
吉村昭『飛行機雲』
立原正秋『流鏑馬』
以上、名作8篇です。