宮尾登美子さんの本は読み進むにつれてどんどん引き込まれていくのに、この小説はなかなか読み進められませんでした。
登場人物がバラバラだし、主人公の男性の心情が共感しにくい。
結末も「あ~、そうだったんだ」というところもありましたが、結局うやむやに終わった印象です。
高知県庁の薬事課長として東京より赴任してきた主人公。
彼は赴任先へ向かうバスの中、一人の美しい女性と出会う。
さらに乗り換えた汽車で、別の女性と出会い、彼女に強引に誘われるまま料亭、そしてバーへつきあう。
後日、その女性は青酸カリで自殺をしたと新聞で知る主人公。
そして彼女が薬店を営む女性で経営に悩みをもち自殺したという記事を目にする。
彼女の薬店は高知では破格の安値で薬を取引きする店だった。
やがて、彼の前に殺された女性の妹が現れ、姉の死は自殺ではない。真相をつきとめると言う。
そしてバスで出会った美しい女性との再会。
彼は女性の素性が分からないまま彼女に惹かれていく。
その美しい女性の夫である大学教授と、その夫の同僚。
その同僚の友人で、彼女に憧れるカメラマンといった人物が見えない形で影響しあう。
こんな風にいろんな人が出てきますが、ここに書いててもどうあらすじを書いていいか分からないくらい話がバラバラでまとまってないんです。
あと主人公が教授の美しい妻を好きになった感情がちゃんと描かれてなくて唐突すぎる気がします。
「あとがき」を見ると、この作品は昭和37年に書かれたものだそうです。
宮尾登美子さんが若い頃の作品だと知って納得しました。
ただ話の筋と関係なく、とても印象に残った登場人物のセリフがあります。
「都市の形成は三十万が一つの単位だね。人間の行動や生活にはある一定の法則があって、三十万を基準にしてそれが還流状をなしているそうだ。だから地方都市では知った顔によく出会うというのも、この法則通りなんだよ。平たくいえばね。田舎が口うるさいというのも目撃される事柄と、そこから推測される行動の範囲がほぼ決まってるということなんだ。」
この小説の中でいいたいことは結局このセリフに集約されているのだと後で気付きました。
「湿地帯」のような地方都市の閉塞感や澱みを感じる小説です。