その姿の消し方 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294773

作品紹介・あらすじ

引き揚げられた木箱の夢 想は千尋の底海の底蒼と 闇の交わる蔀。……留学生時代、手に入れた古い絵はがき。消印は1938年、差出人の名はアンドレ・L。古ぼけた建物と四輪馬車を写す奇妙な写真の裏には、矩形に置かれた流麗な詩が書かれていた。いくつもの想像を掻き立てられ、私は再び彼地を訪れるが……。記憶と偶然が描き出す「詩人」の肖像。野間文芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで、全部ではないけど10作ほど堀江氏の著作を読んだ中で・・・いちばん好きかも。「なずな」も好きだけど。話の骨格がはっきりしていて読みやすいというのもある。
    一枚の絵葉書から、過去を探る旅と、現存するゆかりの物を探す旅が始まる。けして急がず、なんなら見つからなくても仕方がないというくらいの、ゆるやかな旅だ。
    しかし巡り合った人々に少しずつ声をかけ、出向く労も惜しまずに「私」が行動することで、矩形の詩を書いたアンドレ・Lなる人物に一歩一歩、近づいていく。歩を進めるごとに立ち現れてくる過去を、一緒になって知りたいと思いつい前のめりになる。
    現実にはなかなか起こりそうにないこんな展開が魅力的なのはやはり文体、選ばれた言葉の響きによるものだろうか。あと、フランスという知らない土地であること。異国での旅というだけで、物語感を楽しめる。 シンプルな表紙もすてき。

  • 古物市で手にした古い絵葉書の中に差出人によると思われる詩。どのような人物がどのような人物に宛てた詩なのか、書かれたフランス西南部で私は人々の記憶を辿り古い時間を紡ぎ始める…

    息の長い丁寧な文章に、読み手の僕も一緒に思索に耽る時間を過ごせた。

  • 良かった。文章を何度も、年月かけて味わうことの楽しみと豊かさを知ってる人に勧めたい。「じわじわ文章のいろんな意味がわかって自分の内面が変わっていく感じ」のゾクゾク感が言語化されてるって感じ…あと文章がめちゃ端正。

  • とても美しい小説です。時が流れていくなかで、ひとりひとりが生きてそこに在る(在った)という事実が、ゆるやかに続く著者の旅路のうえで輻輳していく。不在を象る言葉たちの、なんと自由なことか。

  • 面白語った。
    この繊細な文章に対して
    面白いという言葉は違和感かもしれないけれど
    前半と後半の違いや
    (後半では何度も笑顔になりました)
    ストーリー中心から離れた人々の心の内が
    息遣いまで聞こえてきそうなほどの距離で描かれていて
    一気に読み終わりました。
    是非に、他の作品も読んでみたいと思います。

  •  フランスで偶然手に入れた絵はがきに書かれた、ぴったり十行に収められた矩形の詩篇の作者を辿る話。連作短編。
     謎の詩人を突き止めようとする当の「私」自身の素性もほとんど明らかにされない。少しずつ浮き彫りになる詩人に纏わる情報と、それに踊らされるように、あるいは踊るように、奇妙で難解な詩の解釈を多様に展開する「私」の夢想。そして、決して急ぐことのない気の長い探索は、取り留めのないエピソードの断片と共に、詩人探索の中で関わってきた「私」を取り巻く人々にとっての時の流れを提示してくる。
     過去を探る物語であることもあり、懐古する場面が多く散りばめられている。誰かの姿が消えようとも、「欠落した部分は永遠に欠けたままではなく、継続的に感じ取れる他の人々の気配によって補完できる」。不在であること自体が、他者の想いによって存在が鮮明になることもあるということが主題にあるのかもしれない。

  • 店頭で文庫本の装丁に惹かれ、初の堀江敏幸体験。現代日本の小説家で、ここまで静謐な佇まいの、完全に律された内省を丁寧に練られた言葉で綴ってゆく、繊細なのにどっしりとした作風のひとがいるとは、恥ずかしながら知らなかった。
    「私」が留学先のフランスで偶然見つけた古い絵葉書、そこに書かれた詩に惹かれ、姿の見えない作者を探す物語……と書くとドラマチックな、あるいはミステリアスな雰囲気だが、実際には全く違う。詩人を探す、と言っても、何年かに一度かの地を訪れた際に手がかりを探す程度で、その途中で様々な出会いはあるものの、何か大きな事件や出来事で締めくくられるわけでもない。あるのは、静かに降り積もってゆく時間のはかない重さと、何度も読まれ、じっと見つめられる言葉がもたらす乱反射。言葉という船が運ぶ荷を、どう受け止めれば良いのか。知っている言葉で構成されている文章なのに、人によって、あるいは同じ人でも環境や年齢や気分によって、読み取り方は様々で。だけど、だから、繰り返し、人は「読む」のだと思う。それは姿の見えない作者との会話とも言えるし、内なる自分との対話とも言えるだろう。
    そういう意味で、この作品は、何度でも「読む」ことのできる作品だ。実際、一度読了したのち、さして厚くもないのに長い旅をさせてくれた気持ちになるこの本を、私はそのまま閉じることができなくて、もう一度読み直した。旅程を知っている二度目の旅は、一歩一歩をゆっくり楽しめる旅となり、とても味わい深かった。

  • ここにいるわたし、そこにいるあなた、彼の地にいる彼とそこにいた彼。
    時間と空白の波の揺らぎの気持ちのよいこと。

  • 例えば、P.21の最後の2行のような表現に感服して最後まで楽しめました。
    久しぶりの堀江敏幸作品、衝動買いして良かった。

  • 出逢いは、不思議でいとおしい。幾千の波に洗われた硝子の欠片の滑らかな表面を、唇でなぞるような旅。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堀江敏幸の作品

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