阿片王―満州の夜と霧 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (579ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101316383

作品紹介・あらすじ

アヘンを制するものは支那を制す。中国人民の尊厳と国力を奪うアヘン密売の総元締めとして、満州における莫大な闇利権を一手に差配し、関東軍から国民党までの信を得た怪傑・里見甫。時代の狂気そのままの暴走を重ね、「阿片王」の名をほしいままにしたその生涯を克明に掘り起こし、「王道楽土」の最深部にうごめく闇紳士たちの欲望劇のなかに描き出す構想十年、著者の最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和7年3月、東アジアに忽然と出現し、昭和20年5月に跡形もなく消え去った人造国家、満州。国土面積は日本列島の3.4倍にものぼる。
    昭和初期の大不況によって、「娘売ります」の看板を出さなければならないほど経済的に追い詰められた東北の農民たちにとって、五族共和、王道楽土を標榜した満州は、貧しさを脱するきっかけとなるかもしれない新天地だった。

    阿片密売の総元締めとして、満州における莫大な闇利権を一手に差配し、関東軍から国民党までの信を得た里見甫。阿片王の名を欲しいままにしたその生涯を掘り起こす一冊。

    極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判では民間人第一号のA級戦犯容疑者として法廷に立つ。

    戦前、戦中とフィクサーとして暗躍した里見は、偏狭なナショナリズムとも、狂気に通じるパセティックな情熱とも、不毛なイデオロギーとも一切無縁に過ごしてきた男だったらしい。
    阿片王と呼ばれながらも、私欲に頓着しない人間だからこそ、軍部にも重宝されたのか。

    たった数年しか存在しなかった国家の満州だが、知れば知るほど面白いな。日本の高度経済成長を生むきっかけですらと思えてくる。

    しかし、著者の取材力にはたまげるな。構想10年というのも頷ける。
    ブックオフで100円で買ってごめんなさい。

  • 2020年 52冊目

    満洲が気になります。
    映画ラストエンペラーを観てからその時代の事に興味を惹かれていた。だから、その時代の本をみつけるとついつい手にとってしまいます。

    真実はわからないけれど、やっぱり世の中は知らない事だらけだと改めて。

  • 戦後日本は驚くべき復興を遂げた。その著しい成長の背後には戦前の「満州」があるのではないか。作者はたしかそのような動機を表していたように思う。その着眼にはこちらもピンとくるものがあった。完全に叩きのめされたはずの帝国が案外地下水脈として現在につながっているとしたら…。

    わかりやすい謀略史観に陥りたくはないが、戦争に負けたくらいで一国の歴史の流れが突然かわるわけではないのは確かだろう。むしろバブルがはじけて、失われた10年20年の今日にいたるまで、この国のリーダーは情けないやつばかりなのは昔からの伝統のような気がする。われわれ(日本人)はこの戦前の満州で何が起こったのか未だに知らない。それは一つにはこの恥ずべき歴史を意図的に消そうと画策した人々が多くいたからなのだろう。この本のテーマ「阿片王」の過去を掘り起こしその人となりを浮かび上がらせようという作者の意図は全く果たされなかったと見るべきだ。それでもこの本が面白いのは、簡単には全貌を表さない主人公の神秘性と、彼に迫るための手当たり次第の捜索活動の過程が終止緊張感をもってつながっているからだろう。

    里見甫がどういう人物だったのかはもはやどうでもいいと思った。それより誰もが口をつぐむ満州体験、満州建国とは何だったをこそ、これから時間をかけてでも我々は知らなければならない。現状のへたれたこの国に活を入れるためにも。

  • 満州国建国に関わった里見甫という人物について綴った一冊。

    阿片による裏金作りと諜報活動に奔走してたみたいで、歴史の表舞台にはあまり出てこない彼について知ることができた。

    また、今でこそ中国では偽満州国と言われ、侵略戦争の象徴みたいな見方をされてるけど、少なくともその当時は真剣に夢を追って活動してたのがよくわかった。

  • 文中に他人の著書を「~のヨイショ本」と表現する部分が出てくるが、そのひそみに倣うなら本書は「里見甫のヨイショ本」に他ならない。
    「いやいや、佐野と里見は無関係、ヨイショする必然がどこにある?」と反論されるだろうが、本書自体がその答えだ。つまりノンフィクション界の重鎮である著者が、長い年月を掛けて取材し、資料を蒐集・分析して執筆した対象が実は大したこともないアヘンブローカー、あるいは陸軍のパシリだった、というオチは何が何でも避けなければならない。
    それは少々言いすぎかもしれないが、少なくとも、本書の中には里見をかばうため、あるいは大物感を演出するために強引な解釈を読者に押し付けたと思われる箇所がいたるところにある。
    最終盤では、東京裁判での里見の司法取引を仄めかした元秘書をこれでもかとばかりに貶め、その情報の信憑性をムキになって否定する、名誉毀損スレスレの文章も登場する。ある意味で要注目だ。
    五月雨式に登場する人名や関連資料等に惑乱されずに精読すれば誰でもわかることだが、本書のノンフィクションとしての完成度はそれほど高くはない。 いや、かなり低い。

  • 満州の阿片王と呼ばれた里見甫の謎に包まれた生涯を解き明かそうとした取材レポ。

    歴史の教科書の一文でしかその存在を知らなかった満州という人造国家。人造であるが故に様々な思惑が蠢く国家。昭和史も中々興味深いと思った。

    昭和史の予備知識が皆無だったので、歴史上有名人と思われる人々の解説を一々丁寧に述べられた箇所が多く付いていけなかった。取材レポ風なところも、物語を期待していたので、しんどかった。

  • 知人が登場するので読み始めたのだが、最初はかなり読みづらかった。そもそも里見甫を知らなかったし、中国の地名や人名が難しいし、時代もあちこちするし、登場人物はやたらと多いのに、里見本人の実像がなかなか見えて来ないし…。児玉誉士夫や笹川良一など名前は知ってるが具体的なことは知らない世代なので、ピントが会わないせいもあったかと思う。主人に聞いたり、ググったり色んな人を調べたりしたので時間がかかった。でも、でも、面白かった!まさに知られざる暗黒史。個人的に一番腹がたったのは、要人たちが敗戦後すぐに飛行機で帰国したこと。満州から苦労して引き上げてきた祖父の話を聞いてたから、こんなに簡単に帰れた人がいたんだと思うと残留孤児の人達が可哀想だと思った。それにしても、作者の根気強さには脱帽である。自らの足で関係者一人一人を訪ねて証言を取る手法で、時代から忘れ去られようとしている歴史の暗部をあぶり出している貴重な作品である。(もちろん作者の主観も多いに入っているので検証は必要だとは思うが。)2012.3
    この作者が明治の人だったら子母沢寛に代わって新選組に関する証言を取材してほしかったな~なんて…。

  • 里見甫と阿片取引に関する人物がかなりの数登場し(有名な人もそうでない人も)、しかも時代も頻繁にいったりきたりするので、かなり読みづらかった。が、歴史に埋もれた事実がこれでもかというくらいに書かれているので、その衝撃がおもしろく、読むのに時間はかかったが、読んでよかったと思った。非常に勉強になった。特に、日本軍の慢性的な資金不足を阿片密売で補っていたというのは全く知らなかったことで、本当に極悪というか、日本人がここまで非人間的に振る舞えたのかと思うと本当に悲しくなった。

  • 里見甫は阿片王と呼ばれてたらしい。知らなかった。
    策謀渦巻く満州帝国を、闇で牛耳った一人の男がいた。最も危険な阿片密売を平然と仕切り、巨額の資金を生み出した怪傑・里見甫。その謎に満ちた破天荒な人生を克明に掘り起こし、麻薬と金に群がった軍人、政治家、女たちの欲望劇を活写する。誰も解明できなかった王道楽土の最深部に迫り、戦後日本を浮き彫りにする著者の最高傑作。

    佐野真一が書く「阿片王」里見甫の物語。
    満州帝国を裏から支えた人物を追った力作ですが、この主人公にそれほど興味が湧かなかったので、出版社が言うように最高傑作と呼べるのかどうかは判らない。内容もやや尻すぼみの印象で、あまり記憶に残らなかったのが残念。

  • 大正から昭和にかけ中国大陸で活動し、満州立国、日中戦争、その後の敗戦の時代に暗躍し阿片王の名で歴史の暗部に名を残した”里見甫”に関してのルポルタージュ。
    里見個人と里見を取り巻く魑魅魍魎の面々そして関東軍を中心とした時代背景を筆者が丹念に資料を調べ、関係者にインタビューを行った事実を纏め上げた文章は、じっくり読まないと頭に入ってこないので時間をかけて読破。
    ”里見甫”ジャーナリストとして大陸に渡り中国人との強力なコネクションと優れた統治管理能力で阿片売買組織”里見機関”で関東軍に協力し満州で絶大な力を持っていた怪物。
    私の浅薄な知識では満州の闇の帝王といえば”甘粕正彦”しか知らなかったので書店で本書を手に取った際は「へ~そんな人がいたのね」的興味を持って読み始めましたが、いやはやなかなかいろんな意味で凄い人物です。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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