いまひとたびの (新潮文庫 し)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 88
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345277

作品紹介・あらすじ

ドライブに連れていって。赤いスポーツカーで──。夫を失った事故ののち、車椅子の生活を送ってきた叔母は若い娘のようにそう言った。やがてわたしは、彼女が秘めていた思いに気づく(表題作)。大切な人と共にした特別な一日。その風景は死を意識したとき、さらに輝きを増してゆく。人生の光芒を切ないほど鮮やかに描きあげ、絶賛を浴びた傑作短編集に、新たに「今日の別れ」を加えた完全版。

感想・レビュー・書評

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  • いまいちど、いまいちどだけでも会っておきたかった-向う岸にいる人への血の出るような想いを綴った表題作をはじめ、「赤いバス」「忘れ水の記」など涙をさそってやまぬ短編小説9編を収録。

  • 再読。

  • 1997年に刊行された短編集に、今回新たに書き下ろした1篇「今日の別れ」を加えて再刊行された、10作からなる短編集。

    「今日の別れ」以外は、どの話も主人公は50代半ばの男。終始「わたし」という一人称で語られ、固有名詞を明らかにしないことで、それはどこにでもある50代半ばの男の物語となる。末期の病に侵されわずかな余命を知る男、大切な人を亡くした又は今まさに亡くそうとしている男、どれもが死を目の前にして自らの来し方行く末を思う静かな物語。

    男たちが振り返る30年は、さらりと淡水のように目の前を流れ、その流れをせき止めるのは過去に棄てたものや失ったものへの未練。短編であるがゆえに無駄がなく、主人公の心情さえも読み手にゆだねられる。
    同じ50代半ばを描いても、親の介護や家族の問題などとドロドロしないのが女性作家と違うところ。まさに、「男のロマン」。

    「20年前の体形をいまだに保持しているさっそうとした姿(夏の終わりに)」とか、「30年前の体形を今でも維持している(ゆうあかり)」とか、「身体のプロポーションはすこしもくずれていなかった(海の沈黙)」などと、年をとっても細身で、ついでに言うと目は黒目がちでパッチリ、口は小さめの女性が毎度登場する。作者のロマンなのか、男全般のロマンなのか・・・。
    妻にも言いたいことはいっぱいあると思いますが・・・笑

    そんな中でも、一番好きなのは標題作「いまひとたびの」。これにはグッと来た。
    主人公と叔母が赤いユーノスロードスターでドライブに行くというだけの話だけど、66歳の叔母がとてもチャーミングで、カッコいい。もう会えないと知りながら来年のドライブの約束をして、「さよなら」と微笑んで別れるシーンの辛さ。胸を締め付けられました。

    「男はみんなそうだよ。いつまでたっても十代か二十代のままさ。なくしたものは絶対に忘れやしない(ゆうあかり)」
    この言葉に尽きる短編集でした。

  • 単行本が刊行されたのが1994年。1997年に文庫化され、今回新たに書き下ろされた1篇を収録し再刊行された。収録された10篇はどれも“死”がテーマだ。志水辰夫はデビュー作からずっと読んでいたが、この頃から作風が変わり、ついていけなくなってしまった。四半世紀を経て再読すると、今のぼくにはすんなりと読めて味わい深かった。そしてやっぱりこの作家が好きだなと思った。

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著者プロフィール

1936年、高知県生まれ。雑誌のライターなどを経て、81年『飢えて狼』で小説家デビュー。86年『背いて故郷』で日本推理作家協会賞、91年『行きずりの街』で日本冒険小説協会大賞、2001年『きのうの空』で柴田錬三郎賞を受賞。2007年、初の時代小説『青に候』刊行、以降、『みのたけの春』(2008年 集英社)『つばくろ越え』(2009年 新潮社)『引かれ者でござい蓬莱屋帳外控』(2010年 新潮社)『夜去り川』(2011年 文藝春秋)『待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控』(2011年新潮社)と時代小説の刊行が続く。

「2019年 『疾れ、新蔵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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